心大血管の勉強をしていると、大動脈解離や、大動脈瘤などの頁に、
- PAU
- ULP
という言葉が出てきます。
両方とも壁が欠損しているように見え、一見似ていますが、実は全く異なるものです。
そこで今回は、PAUとULPの違いについてわかりやすくまとめてみました。
先に結論:PAUとULPの違い
| PAU(穿通性動脈硬化性潰瘍) | ULP(ulcer-like projection) | |
|---|---|---|
| もとになる病気 | 動脈硬化のプラークにできた潰瘍が中膜まで食い込んだもの | 偽腔閉塞型の大動脈解離(壁内血腫)の中に、血流が突き出して見えるもの |
| 概念 | 本来は病理の言葉 | 画像(CT)の言葉 |
| 多い場所・背景 | 高齢者の下行大動脈、動脈硬化が強い人 | 解離の血栓化した偽腔の中 |
医療・画像診断でいうULPはulcer-like projection(潰瘍様突出像)の略で、大動脈解離(偽腔閉塞型)のCT所見の名前です。PAUはpenetrating atherosclerotic ulcer(穿通性動脈硬化性潰瘍)の略です。
CTではどちらも大動脈の壁から外へ突き出す造影剤のくぼみとして見え、区別が難しいこともあります。どちらも拡大や破裂・解離の進行に注意が必要で、急性大動脈症候群としてまとめて扱われることもあります。
PAUとは?
PAUについて説明すると・・・
まず、高血圧や脂質異常症などが原因となり、動脈硬化が起こります。
動脈硬化が起こると、動脈の壁内に粥腫(アテローマ)と呼ばれるプラークが形成されます。

プラークが破綻した場合、潰瘍が形成されていき、潰瘍が中膜以下に達したものをPAU(penetrating atherosclerotic ulcer)と呼びます。(Ann VascSurg 1:15-23,1986.)
PAUの読み方はそのまま「ピーエーユー」です。
プラークに潰瘍が形成されることはしばしばありますが、中膜を破ることはまれとされます。
つまり、
- PAUは動脈硬化がベースにある。
ということがわかります。
そして、このPAUというのは、顕微鏡で診断する病理組織学的概念なのです。
一方で、このあと説明する、ULPというのは主にCT検査における画像所見上の概念です。
つまり、これらの用語は使われる土俵がそもそも違うということです。
PAUの特徴は?
PAUの特徴は以下の通りです。
- 高齢者に多い。
- 心疾患、脳血管疾患などの合併が多い。
- 部位は、胸部下行大動脈〜腹部大動脈に好発し、しばしば多発する。
- 治療は、手術療法、保存療法、ステント療法。破裂などの重篤な合併症はまれとされますが、発症後とくに最初の1か月は経過観察が必要で、壁内血腫の拡大、切迫破裂の徴候、コントロールできない疼痛などがあれば手術を考慮します。
PAUと大動脈解離の関係は?

PAUは古典的な大動脈解離とは別の病態とされていますが、中膜内の血腫(壁内血腫)を伴うことが多く(Radiographics 2000)、経過中に大動脈解離や瘤、破裂へ進むこともあります(J Vasc Bras 2019)。
PAUと大動脈解離との関係には、まだ不明な点が多いとされています。
IMH(壁内血腫)とは?
PAUと関係の深い用語にIMH(壁内血腫)があります。
IMHは、
大動脈の壁の中に出血(血腫)があり、通常の画像検査では内膜のフラップや亀裂が見えない状態とされます(Rev Port Cir Cardiotorac Vasc 2017)。壁内血腫(IMH:intramural hematoma)あるいは壁内出血(intramural hemorrhage)とも呼ばれます。
欧米ではIMHを急性大動脈症候群の一つとして扱うのに対し、日本では偽腔閉塞型大動脈解離として解離の分類に含めて扱ってきました。用語の扱いはガイドラインの改訂版を確認してください。

IMHは偽腔閉塞型の大動脈解離との鑑別が困難なことが多く、自然に消退することもある一方で、解離や瘤、破裂へ進展することもあります(J Vasc Bras 2019)。
実際の胸部CT(正常例)で、正常な大動脈の位置を確かめておきましょう。PAUもULPも、こうした大動脈の壁に見つかるくぼみです。

ULPとは?
ではULPとはどのようなものなのか、以下で説明します。
高血圧が主な原因で、大動脈壁の中膜が破綻することにより大動脈解離が起こります。

大動脈解離には、
- 解離腔が血栓で閉鎖される偽腔閉塞型大動脈解離
- 解離腔に血流が残る偽腔開存型大動脈解離
に分けることができますが、この偽腔閉塞型大動脈解離の血栓のある腔に、血流のある真腔から突出するような構造が見えることがあります。
これをULP(ulcer-like projection)と言います。なお、偽腔閉塞型解離(壁内血腫)の中には、肋間動脈や腰動脈とつながる小さな造影剤のたまり(intramural blood pool:IBP)が見られることがあります。壁内血腫65例のCT検討では28%の患者にみられ、半数以上(57%)は経過でなくなり、予後不良とは関連しなかったため、ULPとは区別すべきとされています。

ULPを伴う偽腔閉塞型解離の扱い(分類や経過観察の方針)は、日本の大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインの改訂版を確認してください。
このULPとは大動脈解離があることが前提となります。
PAUが起こる動脈硬化の有無は問題にならないのです。
そして上に述べたように、ULPとは、主にCT検査における画像所見上の概念です。
ですので、CT検査の所見に、「ULPを疑う所見が認められる。」という記述は正しいです。
しかし、CT検査の所見「PAUを疑う所見が認められる。」という記述は、誤りではありませんが、厳密には、PAUとは病理組織学的概念ですので、ちょっと違うということになります。
CTでPAUとULPを見分けるポイント
| PAU | ULP | |
|---|---|---|
| 周りの大動脈 | 動脈硬化が強く、石灰化やプラークが多い | 動脈硬化は目立たないこともある |
| 突き出し方 | プラークのある所から壁の外へ | 真腔から血栓化した偽腔(壁内血腫)の中へ |
| 周りの壁 | くぼみの周りに限局した壁内血腫を伴うことが多い | 長い範囲に三日月状の壁の肥厚(血栓化した偽腔)がある |
| 経過で見ること | くぼみの幅・深さ、大動脈の太さ | ULPの出現・拡大、瘤や解離への進行 |
ULPがあると何が起こる?(ULP型の大動脈解離)
- 壁内血腫32例を追った検討では、血腫自体はすべて縮小しましたが、ULPは初回6例・経過中14例にみられ、12例でULPが嚢状の瘤に進みました(平均47.0日)(Sueyoshi 1997)。
- B型の急性大動脈症候群54例の検討では、壁内血腫でULPがあることが治療介入の必要性と関連し、PAUでは幅20mm超・深さ15mm超などが介入と関連しました。発症後1か月は合併症が多い時期とされています(Piazza 2024)。
PAU・ULPでよくある疑問(Q&A)
Q. ULP型大動脈解離とは?
A. 偽腔が血栓で閉じた大動脈解離(壁内血腫)のうち、CTでULPを伴うものを指す呼び方です。ULPがないものより瘤や解離への進行に注意が必要で、ULPの大きさや増え方をCTで追います。
Q. PAUやULPが見つかったら手術が必要ですか?
A. すぐに手術になるとは限りません。痛み・血圧のコントロール、くぼみや血腫の拡大、破裂の兆候などをみて、外科手術やステントグラフト治療を考えます(Hayashi 2000)。胸や背中の強い痛みが急に出たときはすぐに救急を受診してください。
大動脈の用語整理:真性・仮性・解離性の違い
PAUやULPを調べていると、「真性」「仮性」「解離性」という言葉も一緒に出てきます。いずれも大動脈の壁の3層(内膜・中膜・外膜)がどうなっているかで整理できます。
| 呼び方 | 壁の状態 | CTでのイメージ |
|---|---|---|
| 真性大動脈瘤 | 3層の構造を保ったまま、壁全体が風船のようにふくらむ | 大動脈の太さが全周性、または一部が袋状に広がる |
| 仮性大動脈瘤 | 壁が破れて血液が外に漏れ、周囲の組織や血栓に包まれて瘤の形をとる(瘤の壁は大動脈本来の3層ではない) | 大動脈の壁の途切れ目から、造影剤が壁の外へ袋状に広がる |
| 大動脈解離(解離性) | 中膜が縦に裂け、血液の通る偽腔ができる | 内膜フラップを境に真腔と偽腔の2つの腔が見える(偽腔が血栓で閉じるとIMHやULPの話になる) |
PAUはプラークの潰瘍が壁の内側から外側へ食い込んだ病変で、進むと壁の外へ血液が漏れて仮性瘤に近い形をとることがあります。一方、ULPは解離(壁内血腫)の中のくぼみで、ここから袋状の瘤ができることがあります(Sueyoshi 1997)。いずれも「壁が破れる・裂ける」ことで説明でき、名前の違いは、壁のどの層が主役か、どの検査の言葉かの違いです。
大動脈の壁そのものに炎症が起こる病気(血管炎)
大動脈の壁がくぼむ・厚くなる原因には、動脈硬化や解離のほかに大型血管炎があります。血管炎の分類(Chapel Hill分類)では、高安動脈炎は大動脈とその主な枝を、巨細胞性動脈炎は大型から中型の動脈を主な標的とする病気とされています(Romero-Sanchez 2024)。画像だけでなく、症状や血液検査と合わせて判断します。
Q. 真性瘤と仮性瘤はCTで見分けられますか?
A. 見分けのポイントは、瘤の壁が大動脈の連続した壁か、壁の途切れ目から漏れた血液を周囲の組織が包んだものかです。壁の途切れ目(くびれた入口)がはっきりしていれば仮性瘤を考えますが、迷うときは再構成画像で入口を探します。
Q. 「大動脈解離」と「壁内血腫」「PAU」はまとめて呼べますか?
A. 胸や背中の急な痛みで発症する点が共通なので、急性大動脈症候群としてまとめて扱うことがあります(Nienaber 2003)。診断がつくまでは同じ緊急度で対応します。
最後に

共に中膜というキーワードは同じですが、
- PAUは動脈硬化をベースにできたプラークにできた潰瘍性病変であり、組織病理学的概念。
- ULPは偽腔閉塞型大動脈解離に起こる病態であり、画像診断上の概念。
という点で異なります。
ただし、これらが区別しにくい場合もありますし、PAUから大動脈解離に進展することも報告されており、厳密には分けることができないこともあり、注意が必要です。
これらを一括して急性大動脈症候群(acute aortic syndrome)として取り扱うこともあるほどです(Circulation 108: 628- 635,2003)。
参考)
- 臨床画像 vol.29,No4増刊号、2013 P193
- 画像診断 vol.20 No.8 2000 P853-854
- 画像診断 vol.30 No.1 2010 P58-59
- 画像診断 vol.31 No.13 2011 P1234-1246
参考文献
- Stanson AW, Kazmier FJ, Hollier LH, et al. Penetrating atherosclerotic ulcers of the thoracic aorta: natural history and clinicopathologic correlations. Ann Vasc Surg. 1986;1(1):15-23. PubMed
- Hayashi H, Matsuoka Y, Sakamoto I, et al. Penetrating atherosclerotic ulcer of the aorta: imaging features and disease concept. Radiographics. 2000;20(4):995-1005. PubMed
- Nienaber CA, Eagle KA. Aortic dissection: new frontiers in diagnosis and management: Part I: from etiology to diagnostic strategies. Circulation. 2003;108(5):628-35. PubMed
- Ogino H, Iida O, Akutsu K, et al. JCS/JSCVS/JATS/JSVS 2020 Guideline on Diagnosis and Treatment of Aortic Aneurysm and Aortic Dissection. Circ J. 2023;87(10):1410-1621. PubMed
- Wu MT, Wang YC, Huang YL, et al. Intramural blood pools accompanying aortic intramural hematoma: CT appearance and natural course. Radiology. 2011;258(3):705-13. PubMed
- Isselbacher EM, Preventza O, Hamilton Black J, et al. 2022 ACC/AHA Guideline for the Diagnosis and Management of Aortic Disease: A Report of the American Heart Association/American College of Cardiology Joint Committee on Clinical Practice Guidelines. Circulation. 2022;146(24):e334-e482. PubMed
- Pereira AH. Intramural hematoma and penetrating atherosclerotic ulcers of the aorta: uncertainties and controversies. J Vasc Bras. 2019;18:e20180119. PubMed
- Sueyoshi E, Matsuoka Y, Sakamoto I, et al. Fate of intramural hematoma of the aorta: CT evaluation. J Comput Assist Tomogr. 1997;21(6):931-8. PubMed
- Piazza M, Squizzato F, Porcellato L, et al. Predictors of Intervention in Acute Type B Aortic Penetrating Ulcer and Intramural Hematoma. Semin Thorac Cardiovasc Surg. 2024;36(1):1-10. PubMed
- Matos E, Vieites Branco I, Coelho P, et al. Acute aortic syndrome: Spectrum of imaging appearances. Rev Port Cir Cardiotorac Vasc. 2017;24(1-2):33-39. PubMed
- Romero-Sanchez G, Dabiri M, Mossa-Basha M. Primary Large Vessel Vasculitis: Takayasu Arteritis and Giant Cell Arteritis. Neuroimaging Clin N Am. 2024;34(1):53-65. PubMed
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図もあり、よくわかりました。有難うございます。