心大血管の勉強をしていると、大動脈解離や、大動脈瘤などの頁に、

  • PAU
  • ULP

という言葉が出てきます。

両方とも壁が欠損しているように見え、一見似ていますが、実は全く異なるものです。

そこで今回は、PAUとULPの違いについてわかりやすくまとめてみました。

PAUとは?

PAUについて説明すると・・・

まず、高血圧や脂質異常症などが原因となり、動脈硬化が起こります。

動脈硬化が起こると、動脈の壁内に粥腫(アテローマ)と呼ばれるプラークが形成されます。

プラークが破綻した場合、潰瘍が形成されていき、潰瘍が中膜以下に達したものをPAU(penetrating atherosclerosing ulcer)と呼びます。(Ann VascSurg 1:15-23,1986.)

PAUの読み方はそのまま「ピーエーユー」です。

プラークに潰瘍が形成されることはしばしばありますが、中膜を破ることはまれとされます。

 

つまり、

  • PAUは動脈硬化がベースにある。

ということがわかります。

そして、このPAUというのは、顕微鏡で診断する病理組織学的概念なのです。

一方で、このあと説明する、ULPというのは主にCT検査における画像所見上の概念です。

つまり、これらの用語は使われる土俵がそもそも違うということです。

PAUの特徴は?

PAUの特徴は以下の通りです。

  • 発症年齢は70歳以上。
  • 心疾患、脳血管疾患などの合併が多い。
  • 部位は、大動脈球部から下行大動脈に好発し、しばしば多発する。
  • 致死率は5-25%。
  • 治療は、手術療法、保存療法、ステント療法。
PAUと大動脈解離の関係は?

大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2010年改訂版)において、

  • PAUが大動脈解離に進展する可能性がある。
  • PAUが中膜を超えて外膜へと進展する場合が多いので、大動脈解離になるのは稀。

と記載されており、PAUと大動脈解離との関係は不明な点が多いとされています。

IMH(壁内血腫)とは?

PAUと同様に、顕微鏡で診断する病理組織学的概念である用語にIMH(壁内血腫)があります。

大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2010年改訂版)において、

「大動脈中膜が血腫により剥離しているものの内膜亀裂が見出せない病態を壁内血腫(IMH:intramural hematoma)あるいは壁内出血(intramural hemorrhage)という。」

と定義されています。

同様のガイドラインにおいて、このIMHは、病理学的な診断に基づくものであり、この用語を臨床では用いるべきではないとしています。

ただし、IMHは、偽腔閉鎖型の大動脈解離との鑑別は困難なことが多く、自然消退することもある一方で、解離に進展することもあるため、「偽腔閉塞型大動脈解離として解離の分類に入れる。」とされています。

 

ULPとは?

ではULPとはどのようなものなのか、以下で説明します。

高血圧が主な原因で、大動脈壁の中膜が破綻することにより大動脈解離が起こります。

大動脈解離には、

  • 解離腔が血栓で閉鎖される偽腔閉鎖型大動脈解離
  • 解離腔に血流が残る偽腔開存型大動脈解離

に分けることができますが、この偽腔閉鎖型大動脈解離の血栓のある腔に、血流のある真腔から突出するような構造が見えることがあります。

これをULP(ulcer-like projection)と言います。

大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2010年改訂版)において、ULP型と分類されるようになりました。

このULPとは大動脈解離があることが前提となります。

PAUが起こる動脈硬化の有無は問題にならないのです。

そして上に述べたように、ULPとは、主にCT検査における画像所見上の概念です。

ですので、CT検査の所見に、「ULPを疑う所見が認められる。」という記述は正しいです。

しかし、CT検査の所見「PAUを疑う所見が認められる。」という記述は、誤りではありませんが、厳密には、PAUとは病理組織学的概念ですので、ちょっと違うということになります。

最後に

共に中膜というキーワードは同じですが、

  • PAU動脈硬化をベースにできたプラークにできた潰瘍性病変であり、組織病理学的概念
  • ULPは偽腔閉鎖型大動脈解離に起こる病態であり、画像診断上の概念

という点で異なります。

ただし、これらが区別しにくい場合もありますし、PAUから大動脈解離に進展することも報告されており、厳密には分けることができないこともあり、注意が必要です。

これらを一括して急性大動脈症候群(acute aortic syndrome)として取り扱うこともあるほどです(Circulation 108: 628- 635,2003)。

参考)

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