【胸部】症例22
【症例】50歳代女性
【主訴】心窩部痛、背部痛
【現病歴】胃ポリープにて当院消化器内科かかりつけ。本日昼頃、鼻閉・咽頭痛で近医受診。感冒の診断で帰宅しようとした際、突然の背部痛、心窩部痛出現し、当院紹介となる。
【内服薬】なし
【身体所見】BP 右 138/71mmHg、左 142/70mmHg、BT 36.3℃、P 83bpm、SpO2 100%(RA)
【データ】WBC 6400、CRP 0.15、D-dimer 25.0、心電図:虚血性変化認めず。
画像はこちら
まずはレントゲンから見ていきましょう。
心陰影の拡大を認めています。
また左中下肺野に心陰影にシルエットサイン陽性(心陰影のラインが追えない)を示す索状影を認めています。
この部分のシルエットが陽性になるということは、心臓に接して左S5に陰影があるということでした。
CTの肺野条件をチェックすると心臓に接して左S5に炎症性瘢痕を疑う陰影を認めています。(こちらは各自でご確認ください。)
次にCTの縦隔条件を見てみましょう。
今回も単純+造影CTを提示していますが、単純CTのみでも指摘できるようにしましょう。
そうしますと、胸部下行大動脈内に高吸収の楕円形の線状構造が見えてきます。
大動脈弓部レベルでも指摘可能ですが、下行大動脈レベルが今回最も指摘しやすいですね。
大動脈解離を疑う所見です。症例21で見たような偽腔の高吸収(hyperdense crescent sign)ははっきりしません。
次に造影CTを見てみましょう。
まず解離腔にも造影効果を認めていることがわかります。偽腔開存型大動脈解離です。
また、解離腔は下行大動脈だけでなく上行大動脈、さらには大動脈の基部にも認めていることがわかります。
ですので、Stanford A型の大動脈解離であることがわかります。
矢状断像を見てみましょう。
矢状断像では解離腔の全体像がよくわかります。
上行大動脈にも解離腔を認めていることが確認できます。
大動脈基部あたりにentryがありそうです。
次に、解離腔は上下どこまで及んでいるでしょうか?
解離腔は
- 上は右総頚動脈
- 下は右総腸骨動脈
まで及んでいることが分かります。
右総頚動脈では一部血栓閉鎖している部位も見え、脳虚血のリスクがあります。
診断:偽腔開存型大動脈解離 Stanford A型
※心臓血管外科のある他院に転送となりました。他院で加療後、今回の発症から3ヶ月後には当院の消化器内科で内視鏡検査を受けていますので、手術はうまくいったのでしょう。
関連:大動脈解離まとめ!症状・治療・CT画像所見のポイントは?
【胸部】症例22の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
復習として教えて頂いた「大動脈解離のCT所見の評価項目」に沿って所見を記載してみました。アダムキュービッツ動脈の評価は難しいですね…。(身体所見的には脊髄梗塞はなさそうです)
単純CTで大動脈を評価する際には、thin sliceだけでなく、S/Nが高い5mm以上の比較的厚いsliceでも確認するようにしています。
アウトプットありがとうございます。
>アダムキュービッツ動脈の評価は難しいですね…。
これはほんと難しいと思います。
症状がない場合や、インターベンションをするなどでない限りはあまり意識しなくてもいいかもしれません。
椎体からのアーチファクトもあり、偽腔開存型の解離は単純CTで見逃してしまいそうになります。
ごろー先生の体感だと、「単純CTのみで指摘するのは厳しい」と感じる症例は何割くらいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
何割かはわかりませんが、壁の石灰化がないと単純CTでは指摘困難なこともしばしばありますね。
偽腔開存型は偽腔内に普通の血液があるので濃度変化はおきにくいのでしょうからわかりにくくていやです。
自分が撮影したらと顧みると、単純で仮に乖離(スタンフォードA)を疑えていたらもっと頭側から撮影することも考慮できたでしょうから(総頸Aの範囲評価)、少なくとも平衡相では撮影したいです(きづけたらですが 汗)。
なお、総頸などの解離の範囲評価は臨床的に有用なんでしょうか?腕頭におよんでいるかいないかだけで評価として良いのかわからなく迷います
アウトプットありがとうございます。
>偽腔開存型は偽腔内に普通の血液があるので濃度変化はおきにくいのでしょうからわかりにくくていやです。
平衡相では同じような濃度になることが多いですが、今回の様に早期相では真腔との濃度差があることが多いですね。
>総頸などの解離の範囲評価は臨床的に有用なんでしょうか?
もちろん重要です。解離が及ぶと脳虚血や脳梗塞になることがあります。
解離がどこからどこまで及んでいるかは常に重要です。
偽腔開存型は単純CTでは指摘が難しいと感じました。心嚢液貯留はありませんが、みたらゾッとしますね。
アウトプットありがとうございます。
>偽腔開存型は単純CTでは指摘が難しいと感じました。
ですね。症状などから解離があるのでは?という目で見ないときついですね。
単になんとなくの「スクリーニング」で撮影した場合見落としそうです。
今日もありがとうございます。
hyperdense crescent signがないことは偽腔開存を示唆する所見になるのでしょうか(血栓になってない、のような)。
たとえそうでも特に臨床的に意味はなさそうですが思ったので。
アウトプットありがとうございます。
>hyperdense crescent signがないことは偽腔開存を示唆する所見になるのでしょうか(血栓になってない、のような)。
そうですね。
・解離がある & 単純CTでhyperdense crescent signがある →偽腔閉鎖型
・解離がある & 単純CTでhyperdense crescent signがない →偽腔開存型
だろうと推測することができます。その上で造影CTですね。
大動脈解離、実習でも何件か画像を見させていただいたのですが、あまり理解できなかったので勉強できて嬉しいです。ありがとうございます。
レントゲンにおいて、気管支のすぐ左側に上下に長い低吸収域があったので、”もしや、解離によるもの??”かと思いましたが、”食道”ですね。よくよく考えたら濃度的におかしいですね。。
質問なのですが、臓器の虚血評価をする際には、解離が及んでいる範囲で確認すればいいですか?
アウトプットありがとうございます。
>レントゲンにおいて、気管支のすぐ左側に上下に長い低吸収域があったので、”もしや、解離によるもの??”かと思いましたが、”食道”ですね。よくよく考えたら濃度的におかしいですね。。
そうですね。解離しても内部にairは含まないためレントゲンで低濃度には見えません。
>質問なのですが、臓器の虚血評価をする際には、解離が及んでいる範囲で確認すればいいですか?
解離が及んでいる範囲から分枝する血管の支配域となりますが、基本的にはそうでない範囲も全体的に評価します。
今回も大変勉強になりました。いつもありがとうございます。
造影CT axialの140~157で左側小腸の造影が目立つように見えて、他が虚血に陥っているのではないかと思ってしまいました。
(小腸壁の浮腫や腹水がないということで、虚血を積極的に疑うような状況でもないとも思ったのですが)
このくらいの造影効果の差は正常の範囲内として考えて良いでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>このくらいの造影効果の差は正常の範囲内として考えて良いでしょうか?
そうですね。小腸のこれくらいの造影効果はしばしば見られます。
S状結腸や直腸も同じような造影効果を示しています。
こちらSMA塞栓の症例ですが、造影不良とはこんな感じです。
https://imaging-diagnosis.com/view/im5C6Fft
上行結腸や小腸の一部に造影不良を認めています。
放射線技師です。
今回のように造影CT撮影した際に、解離の範囲が広く、スキャン範囲外に及んでいるときは、咄嗟に判断して造影剤が抜けないうちにすぐに頭頸部の撮影をした方がいいでしょうか?
右総腸骨動脈の解離の範囲が同定困難でしたが、その部分だけでもthin sliceを作成した方がいいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>今回のように造影CT撮影した際に、解離の範囲が広く、スキャン範囲外に及んでいるときは、咄嗟に判断して造影剤が抜けないうちにすぐに頭頸部の撮影をした方がいいでしょうか?
そうですね。それがありがたいです。
ですが、この4月からオーダーされていない部位は撮影してはいけないことに確かなったんですよね。
仮にその場で口頭で医師がお願いしても追加でオーダーしないと撮影できないことになったと思います。
>右総腸骨動脈の解離の範囲が同定困難でしたが、その部分だけでもthin sliceを作成した方がいいでしょうか?
そうですね。微妙なところなどはthin sliceを作成していただくとありがたいです。
ごろ〜先生
初歩的な質問で恐縮ですが、動画中に2つ目の相でおっしゃっていた早期相とは造影剤注入後何秒くらいのところを指すのでしょうか?
http://www.kyushu-ct.jp/wp-content/uploads/2009/10/yoshikawa.pdf
の24ページでは、20秒で早期動脈相、35秒で後期動脈相、70秒で門脈相、180秒で平衡相とありました。先生は早期動脈相の事を指して早期相とおっしゃったのでしょうか?
また、一般的に後期動脈相を後期相、平衡相を遅延相とも言うのでしょうか?
動画の趣旨から外れてしまい大変恐縮ですが、宜しくお願い申し上げます。
アウトプットありがとうございます。
ダイナミックCTの場合、何の臓器を観察するためのダイナミック撮影なのかで撮像タイミングは異なります。
pdfの24ページは肝ダイナミック撮影です。
pdfの18ページに各臓器の撮像タイミングが記載されています。
今回は大動脈を主に見る目的で撮影されていますので、pdfの11ページが参考になります。
大動脈が最もよく造影される30秒で1相目(早期)、2相目は110秒後に撮影されています。
>一般的に後期動脈相を後期相、平衡相を遅延相とも言うのでしょうか?
後期動脈相を後期相ということもあるかもしれませんが、平衡相のことを後期相ということもあるかと思います。
平衡相と遅延相は通常別で、遅延相は平衡相よりもさらに後で撮影されますが、同じ意味で使われていることもありますね(^_^;)
つまり、ダイナミックで2相撮影された場合に早期相と遅延相と使われることがあります。
医学生です。いつも勉強させて頂いています。
昨日の評価項目の通りentryを探してみようと思ったのですがここだ!という場所が見つけられませんでした。
entryの見つけ方のコツがあれば教えていただきたいです。 また、entryがどこかというのは実臨床上どのような意味があるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>entryの見つけ方のコツがあれば教えていただきたいです。
実際は難しいことも多いですが、thin sliceを作ってもらったり、vascular lumen viewといった特殊な再構成画像を作ってもらうとわかりやすくなることがあります。
>また、entryがどこかというのは実臨床上どのような意味があるのでしょうか?
entryの場所を加味した分類が、DeBakey分類で、DeBakey先生は心臓血管外科医です。
外科の手術に即した分類となっているようです。
いつもお世話になっております。
動画の趣旨とは異なりますが、先生が胸部レントゲンを評価するうえでのルーティーンのポイントを教えてください。
アウトプットありがとうございます。
>動画の趣旨とは異なりますが、先生が胸部レントゲンを評価するうえでのルーティーンのポイントを教えてください。
実際にできているかは怪しいところもありますが、レントゲンの読影は、小三J読影法で学びました。
最近の書籍ですと、「レジテントのためのやさしイイ胸部画像教室」がオススメです。
医学6年生です。気づいたら回答忘れてしまった症例もありますが(悔しいです)、なんとか食らいついています。
鑑別とその画像所見を考えながら画像を見るようになってきたら、ちょっとわかるようになってきたと思っています。
本当に勉強になっており、契約してよかったと感じる日々です。
臓器虚血の評価について質問です。
造影CTにて左腎は丸い造影効果の低い小さな結節影、右腎に小さな楔状の造影効果不領域があるように考えたのですが、有意ではないのでしょうか。はっきりした楔状の造影不良なら梗塞と判断できるのかなぁ、と思っているのですが、いかがでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>気づいたら回答忘れてしまった症例もありますが(悔しいです)、なんとか食らいついています。
忘れた分は10症例ごとに配布しておりますpdfで消化していただけると幸いです。
>造影CTにて左腎は丸い造影効果の低い小さな結節影、右腎に小さな楔状の造影効果不領域があるように考えたのですが、有意ではないのでしょうか。
左腎の低吸収域は腎嚢胞ですね。
腎梗塞の場合は、もっと明瞭な楔状の低吸収域となります。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/5686
早期相で偽腔が真腔より造影されておらず低吸収だったので偽腔閉塞なのかなと思ってしまいました・・・。同程度に染まるフェーズがあれば偽腔開存と考えるのですね。。
アウトプットありがとうございます。
偽腔閉鎖ならば血栓で詰まっているということですので、もっと低吸収になります。
今回の早期相は真腔よりは造影されていませんが、造影されていると考えます。
逆に単純CTでは真腔よりもやや高吸収になるのが偽腔閉鎖型です。