【胸部】症例24
【症例】80歳代女性
【主訴】意識障害
【現病歴】本日自転車に乗っていて急に倒れたところを通行人に目撃され、救急搬送。
【既往歴】高血圧、高脂血症、高尿酸血症、狭心症
【内服薬】レザルタス、ザイロリック、アトルバスタチン、アイトロール、セルベックス、ミニトロテープ
【身体所見】JCS 200、BP 97/57mmHg 、SpO2 95%(リザーバーマスク10L)、HR 120bpm、RR 18/min、努力性呼吸あり、四肢冷感あり。
【データ】WBC 8000、CRP 0.04、BNP 40.1、D-dimer 22.0
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まず胸部レントゲンから見ていきましょう。
縦隔陰影および心陰影の拡大を認めています。
特に上縦隔陰影の拡大が目立ちます。
また気管支内には挿管チューブがあります。
次に胸部CTを見てみましょう。
大動脈弓部に最大短径6.7cm(>6cm)大の大動脈瘤を認めています。
前回の症例で見たように手術適応のサイズであることがわかります。
単純CTで瘤内には低吸収と高吸収の層構造を認めていることがわかります。
次に心臓を見てみると、明らかに高吸収な血性心嚢水を認めており、心タンポナーデの状態です。
またその外側にはやや低吸収な液貯留を認めており、層構造を形成しています。
元々あった心嚢水の内側に血性心嚢水を生じた事が推測されます。
では、なぜ血性心嚢水を認めているのでしょうか?
大動脈内をよく見ると、上行大動脈に不明瞭ではありますが、扁平な真腔を疑う構造を認めており、解離が疑われます。
また大動脈基部と肺動脈との間は境界が不明瞭で、基部に及んだ大動脈解離の破裂による血腫による影響が疑われる。
※解離腔がどこまで及んでいるかは不明瞭ですが、弓部には少なくとも及んでいる事が推測されます。
診断:(大動脈基部に及ぶ)大動脈解離破裂による心タンポナーデ疑い
※その後の経過です。
CT撮影後より徐脈化、自発呼吸が消失し、心停止(初期波形PEA)となり、速やかに胸骨圧迫を始め蘇生を開始。
その後、循環器内科コンサルトにて、心エコーでわずかに壁肥厚を認めるも、心嚢水はCTで確認するほどの貯留を認めず、CT撮影以後に破裂し胸腔内に穿破している可能性が疑われた。心嚢穿刺を検討できそうだが、上行大動脈解離のため心嚢穿刺をすることで出血を助長・悪化させる可能性が高いと判断され、心嚢穿刺は施行せず。
ACLSで胸骨圧迫・アドレナリン投与を繰り返したが、一貫して心電図波形はPEAのまま。自己心拍再開の可能性は極めて低いと判断。家族もこれ以上の蘇生を希望されず、蘇生を中断。
関連:大動脈解離まとめ!症状・治療・CT画像所見のポイントは?
【胸部】症例24の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
見た瞬間に派手な所見で、見落としはしないでしょうが、どうしたらいいのか分からなくなりそうです。
今回のようなタイプは救命もなかなか難しいですよね。
アウトプットありがとうございます。
>どうしたらいいのか分からなくなりそうです。
ですね。循環器にコンサルトできない環境だったら、テンパりますね。
このケースですとACLSをするしかないですね。
これまでの問題の解説や動画のおかげで
この症例での所見をだいだい表現できて、
画像から、起こっている事を推測して、
なんとか正解にたどり付くことができました。
関連した症例を出して頂けるのがすごくありがたいです。
復習+新しい知識の習得にもなりますし…
今日もありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>画像から、起こっている事を推測して、なんとか正解にたどり付くことができました。
それはよかったです。
経験も大事ですが、想像力も大事な症例でしたね。
以前、この症例と同様に、大動脈瘤+大動脈解離という症例を経験したことがあります。
今回、大動脈瘤内部がもやもやして不均一な所見を呈していることより、大動脈瘤が破裂して→解離が起こり→解離が穿破した、と経緯があっても良い気がします。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。単回の画像しかありませんのでそのような経緯もあり得ますね。
心嚢に溜まり過ぎると破裂することもあるんですね。しかし素人目線だと、心タンポナーデの状態よりも、破裂して胸腔内に流れ出る方がもしかしていいのかも?と思ったりしました。
アウトプットありがとうございます。
>心嚢に溜まり過ぎると破裂することもあるんですね。
ではなくて、破裂しやすい心基部に解離が及んだ→心嚢に破裂したという流れです。
今日もありがとうございます。
SMA周囲の脂肪織濃度上昇がありそうですがこれは心タンポによる循環血流量の減少を反映したものなのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>SMA周囲の脂肪織濃度上昇がありそう
これは今回認めていないように思います。
仮に循環血漿量が減ったところでこのような所見が見られる理由はないと思います。
あるとするとNOMIのような狭窄が起こることはあるかもしれませんね。
いつもありがとうございます。
大動脈弓部の動脈瘤は解離によってできたものなのでしょうか?
解離に気づかず動脈瘤の破裂としてしまいました(血性心のう水がおかしいですね)。
アウトプットありがとうございます。
おそらく解離によってもサイズは増大したと考えられますが、急にこのサイズになるとは考えにくいのでもともと瘤もあったのかもしれません。
動脈瘤の破裂でも血性心嚢水を生じることはあると思います。どこで破裂するかですね。
追加ですみません。
大動脈瘤が単純CTで低吸収と高吸収の層構造になっているのには何か理由があるのでしょうか。
もともと動脈硬化性変化があって、そこに解離を合併したためと考えられます。
石灰化した右冠動脈は偽腔からでいるのでしょうか?心筋梗塞の合併はないのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるとおりですね。心筋梗塞の合併もありそうですね。
本日もありがとうございました。
大動脈解離気付けなかったのが悔しいですね。。いつも大動脈の濃度変化には敏感にならないといけないなと感じました。
心嚢水と血性心嚢水は混ざらずに層を作っているのが印象的です。
アウトプットありがとうございます。
>大動脈解離気付けなかったのが悔しいですね。。いつも大動脈の濃度変化には敏感にならないといけないなと感じました。
今回造影がないのですが、単純でいかに解離を疑えるかと言う点が解離の診断では重要ですね。
大動脈の内腔もさらっと見る習慣をつけましょう。
D-dimer高いのに造影CTが無いので、肺塞栓の可能性は残っちゃいますね。現場はそれどころでは無いでしょうけど・・・
アウトプットありがとうございます。
そうですね。その目で見ると肺動脈がやや高吸収にも見えますが・・・。
CTを撮ったときはまだ気管内挿管されていませんが、重篤感があって、恐らく造影CTを撮る猶予がなかったものと思われます。
大動脈瘤と大動脈解離は重複症例はよくあるのでしょうか。
今回の症例の大動脈瘤はStanford B型でいいですか。この部が破裂しても心タンポナーデにはならないですね。
胸部大動脈瘤部の壁のトゲトゲ(90-92/198)は何でしょうか。切迫破裂とは関係ないのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>CTを撮ったときはまだ気管内挿管されていませんが、重篤感があって、恐らく造影CTを撮る猶予がなかったものと思われます。
そうですね。この後も画像は撮影されていません。
>大動脈瘤と大動脈解離は重複症例はよくあるのでしょうか。
通常は別物ですので、よくあるとは言えないと思います。
ちなみに解離を起こして瘤状の形態になったものは解離性大動脈瘤といいますが、通常の大動脈瘤とは別です。
>今回の症例の大動脈瘤はStanford B型でいいですか。この部が破裂しても心タンポナーデにはならないですね。
いえいえ、A型です。上行大動脈および基部に解離が及んでいると考えられます。
>胸部大動脈瘤部の壁のトゲトゲ(90-92/198)は何でしょうか。切迫破裂とは関係ないのでしょうか。
トゲトゲが石灰化を示唆しているならば、動脈硬化ですね。
大動脈弓外側辺縁を示唆しているならば、受動性無気肺を見ていると考えられます。
胸部大動脈瘤と動脈解離を混同していました。大動脈瘤の部位にStanfordは関係ないのに、お恥ずかしい限りです。ボーとしていて、すみません。
そういうことですね。大動脈瘤は大動脈のどこに存在するか、上行大動脈なのか、弓部なのか、下行大動脈なのか、腹部大動脈なのかに分けるくらいで知る限り○○分類みたいなのはないですね。
いつも勉強させていただいてます。ありがとうございます。
初歩的な質問で申し訳ないのですが、心嚢水が貯留しているときに、レポートに書くのは心嚢水貯留なのか、心タンポナーデなのかどちらを書かれますか?
画像所見だけで心タンポナーデと言っていいのか迷ってしまいまして…
アウトプットありがとうございます。
>心嚢水が貯留しているときに、レポートに書くのは心嚢水貯留なのか、心タンポナーデなのかどちらを書かれますか?
画像所見だけで心タンポナーデと言っていいのか迷ってしまいまして…
おっしゃるように画像所見のみで心タンポナーデとは言えないので、注意が必要ですね。
心嚢水貯留のみならば、過去画像があればそれとの比較が重要ですね。
今回と同等の量であっても低吸収のみならば、著明な心嚢水貯留と記載します。
今回は解離があり、血性心嚢水があるので心タンポナーデの可能性がより強くなりますが、CTではあくまでその可能性を示唆するに留まります。
心囊液貯留を来す理由を考えたことがありませんでしたが、心囊に破裂しているからなのですね!!(外膜が破れたということで合っていますか?)。
前回の症例で内膜石灰化の位置が大事とあったので、今回は意識して見ることができました。心囊液の2層構造は見逃していましたー。。。悲。
アウトプットありがとうございます。
>外膜が破れたということで合っていますか?
合ってますが、心嚢水=破裂ではないので注意が必要です。むしろ今回は稀なケースです。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/19350
>前回の症例で内膜石灰化の位置が大事とあったので、今回は意識して見ることができました。心囊液の2層構造は見逃していましたー。。。悲。
今回は、血性心嚢水であることに気づけるかが重要ですね。