手首の小指側に触れる出っぱりが、尺骨の先端にある尺骨茎状突起(しゃっこつけいじょうとっき)です。転んで手をついたときの橈骨遠位端骨折に一緒に起こることが多く、レントゲンで「小指側の骨も少し折れています」と言われるのがこの骨折です。
尺骨茎状突起には手首の小指側のクッションであるTFCC(三角線維軟骨複合体)がつながり、前腕の骨どうしの関節である遠位橈尺関節(DRUJ)の安定に関わります。この記事では、骨折が「基部」か「先端」か、DRUJの不安定性やTFCC損傷をどう考えるかを、実際の画像とともに解説します。橈骨側の骨折は橈骨遠位端骨折のレントゲンの見方とCT画像所見、TFCCはTFCC損傷の手関節MRIで詳しく扱っています。
先に結論:尺骨茎状突起骨折の画像診断のポイント
- 多くは橈骨遠位端骨折に合併:橈骨遠位端骨折の40〜65%にみられるとされます
- 基部か先端か:骨折線が茎状突起の付け根(基部)にあるか、先端寄りかを正面像で確認します。基部骨折と骨片の大きなずれはDRUJ不安定性の危険を高めます
- DRUJを見る:側面像で尺骨頭が橈骨に対して前後にずれていないか、正面像で橈骨と尺骨の間が開いていないか
- TFCC:骨折の位置にかかわらず、TFCCの尺骨小窩(fovea)付着部の損傷は多く、疑えばMRIで評価します
- 骨がつかなくても多くは問題ない:茎状突起の偽関節は、手首の機能の差につながらないことが多いと報告されています。治療方針を決めるのは骨片よりDRUJの安定性です
尺骨茎状突起骨折とは?
尺骨の遠位端には、関節面のある尺骨頭と、その小指側に突き出た茎状突起があります(骨の位置は手の解剖と骨の名称)。TFCCの深い層(橈尺靱帯)は尺骨頭の付け根のくぼみ(尺骨小窩=fovea)と茎状突起の基部につき、DRUJを安定させています。
尺骨茎状突起骨折は橈骨遠位端骨折の40〜65%にみられるとされます(van Rossenberg 2024)。転倒して手をつき、手首が反る・ねじれる力で、茎状突起が引きちぎられるように折れるのが典型です。単独で起こることは少なく、橈骨遠位端骨折やDRUJ脱臼の一部としてみるのが基本です。
画像の見方
X線(レントゲン)でどこを見るか
- 骨折の位置(正面像):茎状突起の付け根(基部)を通るか、先端寄り(先端・中央)か。基部骨折は橈尺靱帯の付着部を含みやすい位置です
- 骨片のずれ:骨片が尺骨から離れているほど、靱帯ごと引き抜かれている可能性を考えます
- DRUJのずれ(側面像):正しい側面像で尺骨頭が橈骨の背側・掌側にずれていないか。斜めになった側面像では判断できません
- DRUJの開大(正面像):橈骨の尺骨切痕と尺骨頭の間のすき間が開いていないか
- 橈骨の短縮と傾き:橈骨が短くなる・背屈変形するとDRUJの関係も崩れます(正常値は橈骨遠位端骨折の記事)
橈骨遠位端骨折166件を見直した検討では、尺骨茎状突起骨折の3分の1以上が基部に起こっていました。DRUJ不安定性を伴った橈骨遠位端骨折はすべて尺骨茎状突起骨折を伴い、基部の骨折と骨片の大きなずれがDRUJ不安定性の危険を高めていました(May 2002)。

引用:Lee et al. J Clin Med 2026(Figure 2)
AO/OTA分類C2型の橈骨遠位端骨折に、尺骨茎状突起の基部骨折を伴った症例です。(A、B)術前のX線と3D CTで、橈骨の骨折と尺骨茎状突起基部の骨折がみえます。(C)術直後、(D)最終経過観察時に骨癒合、(E)抜釘後のX線。(F〜I)は手首の動きを示す写真です。(出典:Lee et al. J Clin Med 2026, Figure 2, CC BY 4.0)
DRUJ脱臼を見逃さない
尺骨茎状突起骨折にDRUJの脱臼が隠れていることがあります。痛みで手首を正しい位置に置けないと、側面像が斜めになり、DRUJのずれが分かりにくくなります。掌側へのDRUJ脱臼の症例でも、最初のX線は痛みのために位置合わせが不十分で、3D CTで初めて脱臼が明らかになっています(Elmeligy 2026)。

引用:Gandadikusumah et al. Int J Surg Case Rep 2024(Figure 1)
(A)受傷直後と(B)外来受診時のX線で、いずれも尺骨の掌側へのずれと尺骨茎状突起の骨折がみえます。見逃されて時間がたった遠位橈尺関節の掌側脱臼の症例です。(出典:Gandadikusumah et al. Int J Surg Case Rep 2024, Figure 1, CC BY 4.0)
CT:ずれの向きと骨片の大きさ
CTは、X線で位置合わせが難しいときにDRUJのずれを確かめるのに役立ちます。左右を比べると、わずかなずれもわかりやすくなります。また骨片の大きさ、基部の骨折が尺骨頭の関節面に及ぶかも評価できます。

引用:Elmeligy. Cureus 2026(Figure 4)
3D CTで、遠位橈尺関節の掌側脱臼と、尺骨茎状突起の裂離骨折(青矢印)がはっきりみえます。尺骨頭は橈骨の掌側へずれています。(出典:Elmeligy. Cureus 2026, Figure 4, CC BY 4.0)
MRI:TFCCの付着部を見る
骨折の位置だけではTFCCの状態はわかりません。橈骨遠位端骨折に尺骨茎状突起骨折を伴い、術前にMRIを撮った54人の検討では、基部骨折が69%、先端の骨折が31%でした。TFCCの尺骨小窩付着部の損傷は、基部骨折で89%、先端骨折でも88%にみられました。橈骨の固定後にDRUJ不安定性があったのは全体の52%(基部57%、先端41%)で、不安定性と関連したのは小窩付着部の完全断裂と骨片の離れ具合でした(Kim 2023)。
MRIでは冠状断の脂肪抑制T2強調像・プロトン密度強調像で、尺骨小窩付着部の途切れや高信号、関節液の流入をみます(MRIの正常像とPalmer分類はTFCC損傷の記事)。

引用:Wang et al. Front Med 2026(Figure 2)
3.0T MRIでの典型的なPalmer IB型TFCC損傷です。(A)冠状断の脂肪抑制T2強調像で、尺骨小窩で深層の橈尺靱帯が完全に引き抜かれています(赤矢印)。(B)矢状断像でも、周囲の炎症性の滲出液と靱帯の張りの消失が確認できます。(出典:Wang et al. Front Med 2026, Figure 2, CC BY 4.0)
X線の形からTFCC損傷を推定する試み
骨折とは別に、尺骨茎状突起の向きからTFCC損傷を推定する研究もあります。手関節の正面像で測る「尺骨茎状突起外転角(USAA)」は、MRIで確かめたPalmer IB型損傷の群で大きく(21.0°対14.8°)、17.5°以上を目安にすると感度81.8%・特異度78.2%でした(Wang 2026)。1施設の新しい報告で、骨折のある手首にそのまま当てはめられるかはわかっていませんが、小指側の痛みでMRIを撮るかを考える材料の一つになります。
読影の手順(まとめ)
- 橈骨:骨折線、関節面の段差、短縮と傾き
- 尺骨茎状突起:骨折の有無、基部か先端か、骨片のずれ
- DRUJ:側面像が正しく撮れているかを確かめてから、尺骨頭の前後のずれと橈尺間の開大を見る
- 手根骨:舟状骨・月状骨の並び、有鉤骨などほかの骨折
- 次の検査:DRUJのずれが疑わしければCT、TFCC損傷を疑えばMRI
見逃しやすい点・まぎらわしいもの
- 橈骨の骨折に目を奪われる:橈骨遠位端骨折の評価のあと、尺骨茎状突起・DRUJ・手根骨(舟状骨骨折、舟状月状骨解離)を順に確認します
- 古い骨片(偽関節):以前の骨折の骨片が残っていることがあります。辺縁が丸く硬化していれば古いものを考えます
- 小さな副骨・石灰化:茎状突起の先の小さな骨片は、骨折と紛らわしいことがあります。痛む場所と一致するか、新しい骨折の鋭い辺縁かをみます(骨のレントゲンの見方)
- 尺骨突き上げ症候群:尺骨が長い人で、尺骨頭が月状骨にぶつかって小指側が痛む病気です。骨折とは別に考えます(尺骨突き上げ症候群とキーンベック病)
- 小指側の痛みのほかの骨折:手のひら側の有鉤骨鉤の骨折は、通常の正面・側面像で写りにくい骨折です(有鉤骨鉤骨折)
- 子ども:骨端線が開いている年齢では、骨端線の損傷と区別します(小児の橈骨遠位端骨折)
治療方針に関わる所見
多くの研究で、尺骨茎状突起骨折があっても、手首の機能への影響は小さいことが示されています。
- 12研究2,243人のメタ解析では、尺骨茎状突起骨折がある群のDASHスコアの差は3.40点で、臨床的に意味のある差ではありませんでした。1年後のDRUJ不安定性に差はなく、基部骨折と基部以外の骨折の間にも差はありませんでした(Mulders 2018)
- 6研究365人では、茎状突起が骨癒合した群と偽関節の群で、どの評価項目にも差はありませんでした(Wijffels 2014)
- 2026年の11研究1,383人のメタ解析でも、6か月以降の手首の機能に差はなく、基部と先端の骨折の間にも差はありませんでした(Li 2026)
- 尺骨茎状突起骨折を伴った56人を平均18.7か月後に調べた検討では、基部骨折60.7%・先端骨折39.3%で、骨癒合したのは35.7%でした。骨癒合の有無で手首の動き・握力・DASHに差はなく、DRUJの不安定性を調べる診察所見にも差はありませんでした(Ajit Singh 2023)
- 基部骨折の手術と保存的治療を比べたメタ解析では、6か月時点の手首の機能は保存群がよく、12か月では差がありませんでした。手術群は偽関節が少ない一方で合併症が多く、基部骨折を一律に固定する必要はなく、橈骨固定後もDRUJの不安定性が残る場合などに限って手術を考えるとされています(van Rossenberg 2024)
茎状突起の偽関節で痛みが残る場合は、DRUJが安定しているか(Hauck 1型)、亜脱臼を伴うか(Hauck 2型)で治療が分かれ、1型では骨片の切除、2型ではTFCCの修復や骨片の固定が行われたと報告されています(Hauck 1996)。
読影で治療方針に関わるのは、次の所見です。
- DRUJの脱臼・亜脱臼、橈尺間の開大
- 基部骨折か、骨片がどれだけ離れているか
- 橈骨の短縮・変形の程度
- MRIでのTFCC尺骨小窩付着部の断裂
経過観察のX線で見ること
治療後のX線では、尺骨茎状突起が骨癒合したかどうかより、次の点が大切です。
- DRUJの位置関係が保たれているか:側面像で尺骨頭が前後にずれていないか
- 橈骨の長さと傾きが保たれているか:橈骨が短くなると尺骨が相対的に長くなり、小指側の痛みの原因になります
- 金属の位置:プレートやスクリューが関節に入っていないか、ゆるみがないか(プレート・スクリューのレントゲンの見方)
茎状突起の骨片は、骨がつかないまま残ることも珍しくありません。上の56人の検討では骨癒合は約3分の1でした(Ajit Singh 2023)。骨片が残っていること自体は異常として大きく扱わず、症状と診察所見とあわせて評価します。
尺骨茎状突起骨折でよくある疑問(Q&A)
Q. 小指側の骨がくっついていないと言われました。手術が必要ですか?
A. 尺骨茎状突起の偽関節は、手首の機能の差につながらないことが多いと報告されています(Wijffels 2014)。痛みが続く場合や、手首がぐらつく(DRUJの不安定性)場合に治療を検討します(Hauck 1996)。
Q. 基部の骨折と先端の骨折では何が違いますか?
A. 基部の骨折と骨片の大きなずれは、DRUJ不安定性の危険が高いとされます(May 2002)。ただし先端の骨折でもTFCC付着部の損傷は多く(Kim 2023)、骨折の位置だけで決めず、診察でのDRUJの安定性とあわせて判断します。
Q. MRIは必要ですか?
A. 骨折が治ったあとも小指側の痛みや手首のぐらつきが続く場合、TFCC損傷を調べるためにMRIを撮ることがあります。
※手をついて転んだあとに手首が腫れる、小指側が痛む、手首がぐらつくなど、気になる症状があれば医療機関(整形外科)を受診してください。
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参考文献
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- Elmeligy R. Volar Distal Radioulnar Joint Dislocation With Ulnar Styloid Fracture. Cureus. 2026;18(5):e109018. PubMed
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