
先に結論:グリップの衝撃で起こる有鉤骨鉤骨折は、普通のレントゲンでは見逃されやすく、手根管撮影やCTで確認する
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 手首の小指側にある有鉤骨の、手のひら側に突き出た「鉤(かぎ)」の骨折 |
| きっかけ | ゴルフ・テニス・野球など、道具を握ってスイングするスポーツ。転倒や手のひらの打撲でも起こる |
| 症状 | 手のひらの小指側や、手首の小指側の背中側の痛みと押したときの痛み |
| 見逃されやすい理由 | 通常の正面像では鉤が他の骨と重なって骨折線が見えにくい |
| 確認する検査 | 手根管撮影、CT(横断像・矢状断像) |
有鉤骨と「鉤」の場所
手首には8個の小さな骨(手根骨)が並んでいます(手の解剖と骨の名称)。有鉤骨はそのうち、小指側の遠い列に並ぶ骨です。手のひら側へ向かって鉤(かぎ)のように突き出た部分があり、これを有鉤骨鉤(hook of hamate)と呼びます。
鉤は、手首の手のひら側にある「手根管」のトンネルの小指側の壁をつくっています(手根管の病気は手根管症候群)。鉤のすぐそばを、小指と環指の屈筋腱や尺骨神経が通っています。そのため、鉤の骨折は手のひらの小指側の痛みとして出ます。
どうして折れるのか
1977年の報告では、8年間に診た有鉤骨鉤骨折の20人は、テニス選手4人、ゴルファー7人、野球選手9人でした。ラケット・ゴルフクラブ・バットのグリップが手のひらの鉤に当たる直接の打撃が原因と考えられています(Stark 1977)。
その後の59人の報告でも、骨折の多くはラケット・ゴルフクラブ・バットを振った場面で起きていました。手のひらを物にぶつける、手のひらをついて転ぶ、手を挟まれるといった原因もありました(Stark 1989)。手術で鉤を切除した81人(年齢の中央値22歳)の報告では、74人がスポーツ選手で、野球が57人、ゴルフが8人でした(Bansal 2017)。
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| 繰り返しの衝撃 | 握るスポーツで鉤に力がかかり続けて起こる疲労骨折 |
| 1回の強い衝撃 | スイング中の打撃、手のひらをついた転倒、手を挟まれる外傷 |
握るスポーツの競技歴を聞くことが、診断の大きな手がかりになります。
直接の打撃か、引っ張られる力か
鉤には、小指を曲げる腱などが付いています。そのため「腱に強い力がかかって鉤がはがれる」という考え方もあります。1977年の報告は、病歴と所見から、筋腱による間接の力ではなく、グリップの柄が鉤に当たる直接の打撃が原因だと考えました(Stark 1977)。鉤の基部で折れるのか、先端がはがれるのかは、ケースごとにCTで確認します。
| 受診のときに伝えたいこと | 理由 |
|---|---|
| 競技と、グリップを握る手(利き手か) | 握る道具の衝撃が原因になりやすい |
| 痛みが出始めた時期と、きっかけの1振り | 1回の外傷か、繰り返しの負荷かを分けられる |
| 手のひらの小指側が痛む、握ると痛い | 鉤に近い痛みとして診察の手がかりになる |
| 小指・環指のしびれや動かしにくさ | 近くを尺骨神経や屈筋腱が通るため |
症状:「ただの手首の痛み」と思われやすい
典型的には、手のひらの小指側や、手首の小指側の背中側が痛く、押すと痛みます。1977年の報告では、20人のうち19人が前医で診察を受けていましたが、正しく診断されていたのは2人だけでした。安静、理学療法、ステロイド注射でも良くならなかったとされています(Stark 1977)。診断の遅れが起こりやすい骨折だと言えます。
画像診断:普通のX線で見えにくい理由と、確認する検査
正面像では、鉤が有鉤骨の体部や他の骨と重なります。そのため骨折線がとらえにくく、見逃されやすい骨折の1つです。この骨折を疑うときは、次の撮り方や検査を追加します。
| 検査 | 見え方・役割 |
|---|---|
| 手関節の正面・側面 | 見逃しやすい。鉤の輪郭(リング状の影)が不明瞭になるなど、わずかな手がかりを探す |
| 手根管撮影 | 手のひら側から鉤を横から写す撮り方。1977年の報告では20人全員で骨折が示された(Stark 1977) |
| 斜位像(手を回外した位置) | 補助的な撮影。1989年の報告では、手根管撮影か回外斜位像で多くが診断された(Stark 1989) |
| CT | 鉤の基部の骨折線が明瞭。横断像や矢状断像が有用 |
CTとX線を比べた研究があります。遺体の手18体で有鉤骨を骨折させた実験では、通常のX線(撮影方向をすべて合わせて)は感度72.2%・特異度88.8%でしたが、CTは感度100%・特異度94.4%でした。実際の患者15人(有鉤骨の体部2人、鉤13人)を後から見直した検討では、通常のX線で見つかった骨折は60%でした(Andresen 1998)。この研究は、横断像か矢状断像のCTが選ぶべき検査だと結論しています。1989年の報告でも、CTがこの骨折を示す最良の画像技術と考えられるとされています(Stark 1989)。
症例 20歳代男性 有鉤骨鉤骨折(手根管撮影)

引用:Radiopaedia(Hook of hamate fracture)
右手首の手根管撮影像(切り出して拡大)です。症例ページでは、4週間前の手首の外傷後で、有鉤骨の鉤に転位のない骨折があると記載されています。
紛らわしいもの
| 状態 | ポイント |
|---|---|
| 有鉤骨鉤の正常変異 | まれに、鉤が体部と別の骨のように見えることがある(骨化の癒合不全)。両側性のことが多く、左右を比べる |
| 手根骨の他の骨折 | ほかの手根骨(舟状骨など)の骨折も見落とさない(舟状骨骨折) |
| 透析関連のアミロイド沈着 | 透析歴があると、手根管のアミロイドが骨を壊し、骨折に似る |
手首の骨折の見逃しを減らす見方は骨のレントゲンの見方もあわせて参考にしてください。
治療と経過
治療方針は整形外科・手外科で決めます。スポーツ選手では、骨片を取り除く手術が選ばれてきました。1989年の報告では、鉤の骨片を取り除いた59人のうち、手の挟み込み外傷の2人を除く全員が、仕事やスポーツに復帰し、手術の合併症はありませんでした(Stark 1989)。
手術で鉤を切除した81人の検討では、競技に戻るまでの中央値は6週間で、78人が元の活動レベルに戻りました。一方で25%に合併症があり、多くは一時的な尺骨神経の症状でした(Bansal 2017)。手術を望まない16人(平均49.6歳)では、前腕から指の付け根までのギプス固定を約4週間行い、そのあと副木固定をして、全員で骨がつながったという報告もあります(Tanaka 2025)。どの方法が合うかは、年齢、競技、骨折の時期によって変わります。
見落とさないためのチェックリスト
- ゴルフ・テニス・野球など、握る競技の経験や、手のひらの打撲の有無を聞く
- 手のひらの小指側の圧痛を確認する
- 正面像で異常がなくても、痛みの場所が合えば手根管撮影かCTを追加する
- CTでは横断像と矢状断像で鉤の基部を確認する
- 鉤が体部と離れて見えるときは、正常変異かどうかを左右で比べる(潜在骨折(occult fracture))
よくある疑問(Q&A)
Q. 手首のレントゲンで異常なしと言われましたが、痛みが続いています。
有鉤骨鉤骨折は普通のレントゲンで見えにくいことがあります。手のひらの小指側の痛みが続くときは、手根管撮影やCTで調べることがあります。気になる症状があれば、整形外科・手外科を受診してください。
Q. どんなスポーツで起こりますか?
ゴルフ、テニス、野球といった、道具を握って振るスポーツで知られています(Stark 1977、Bansal 2017)。
Q. 1回の外傷がなくても、折れることはありますか?
あります。握るスポーツで繰り返しのストレスがかかり、疲労骨折として起こることがあります(Tanaka 2025)。はっきりしたけがの記憶がなくても、手のひらの小指側の痛みが続くときは相談してください。
Q. 手術をしないと治りませんか?
手術で骨片を取り除く方法が広く行われてきましたが、手術を望まない16人にギプスと副木で治療し、全員で骨がついたという報告があります(Tanaka 2025)。選び方は主治医と相談してください。
Q. 手術後はいつ競技に戻れますか?
手術で鉤を切除した81人では、競技復帰の中央値は6週間でしたが、12週間以上かかった人も14%いました(Bansal 2017)。個人差があります。
あわせて読みたい:脂肪血関節症(FBI sign)とは、関節炎のレントゲンの見方
参考文献
- Stark HH, Jobe FW, Boyes JH, et al. Fracture of the hook of the hamate in athletes. J Bone Joint Surg Am. 1977;59(5):575-82. PubMed
- Stark HH, Chao EK, Zemel NP, et al. Fracture of the hook of the hamate. J Bone Joint Surg Am. 1989;71(8):1202-7. PubMed
- Andresen R, Radmer S, Brossmann J, et al. [The imaging of hamate fractures in the conventional X-ray and CT: experimental results and clinical experiences] (ドイツ語). Rofo. 1998;169(1):53-7. PubMed
- Bansal A, Carlan D, Moley J, et al. Return to Play and Complications After Hook of the Hamate Fracture Surgery. J Hand Surg Am. 2017;42(10):803-809. PubMed
- Tanaka T, Yoshii Y. Sixteen patients regarding the conservative treatment for hook of hamate fracture. World J Orthop. 2025;16(4):103795. PubMed
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