舟状骨骨折(scaphoid fracture)
- 手を着いて転倒し、手関節を背屈して生じる骨折。
- 手根骨の骨折および脱臼で最多。
- 中央1/3(中央のくびれた部位)で骨折することが多い(7割)。
- 合併症としては骨片の癒合が悪いことがある。中央1/3の骨折の3割、近位1/3の9割、遠位の1割で癒合しない。
- 血流は遠位から近位に向かうため外傷による舟状骨の無腐性壊死(avascular necrosis)は近位端に起こる。一般的な骨折は骨癒合期間は1ヶ月ほどだが、この解剖学的理由のため舟状骨骨折では骨癒合に6ヶ月かかることもある。
- タバチエールのくぼみ(解剖学的嗅ぎタバコ入れ(Snuff box))と呼ばれる短母指伸筋腱と長母指伸筋腱の間のくぼみに痛みが生じる。これをタバチエールのくぼみの圧痛(snuffbox tenderness)という。
- 見逃さないためには、好発部位を知った上で骨折線を探すこと、上記身体所見(Snuffbox tenderness)、舟状骨撮影を追加オーダーすることが重要。
- 舟状骨撮影を追加することで舟状骨骨折の75%は判別可能となる。
舟状骨骨折の頻度
- 遠位1/3:10-20%
- 中央1/3:70%
- 近位1/3:5-10%
と中央が多い。
舟状骨骨折を見逃してはいけない理由
偽関節を生じ、無腐性壊死(avascular necrosis)を起こすことがあるため。
舟状骨は橈骨動脈の枝がループを描くように遠位から近位へと血流が供給されている。
舟状骨の近位部での骨折では血流供給が途切れてしまい、骨折部の癒合不全が生じ、偽関節を生じやすくなる(頻度15-30%)。
つまり、(4週を超える)治療開始の遅れが、偽関節を増加させるリスク因子をして挙げられる。
舟状骨骨折の画像所見
- X線では見逃されやすい骨折の1つ。疑わしい場合は圧痛のみで治療を開始することが多い。
- 7-10日後に、骨折線が明瞭化することあり。
- MRIでは骨折部位の周囲に骨髄浮腫を生じる。帯状の走行を示す。初回レントゲンで10-20%の舟状骨の骨折は指摘できないとされ、MRIを撮影してようやく診断に至ることもある。
症例 20歳代男性 転倒後も痛み続くため来院
舟状骨の中央部で骨折あり。癒合悪く、骨移植へ。
症例 50歳代女性 3ヶ月前に自転車で転倒。その後も痛みが続くため来院。
舟状骨遠位端にて骨折線あり。
骨の癒合は進んでいない。
参考:骨癒合の起こりにくい骨折
- 大腿骨頸部内側骨折
- 手の舟状骨骨折 ←
- 脛骨中下1/3骨折
これらは、血流が少ないため。 - 病的骨折(悪性腫瘍の転移による)
- 疲労骨折
- 骨端線離開を合併した骨折
- 第3骨片が離開した骨折
参考文献:
- レジデントノート Vol.21 No.17(増刊)2020 P78-86
- 骨折ハンター P177-182
- 臨整外 56巻5号 2021年5月 P494-497