胸の壁(胸壁)には、肋骨の外側に何枚もの筋肉が重なっています。胸部CTでは肺や縦隔ばかり見てしまいがちですが、大胸筋・小胸筋・前鋸筋・菱形筋・斜角筋の場所がわかると、腋窩リンパ節の位置、胸壁のしこり、胸郭出口症候群などを読むときの「住所」が言えるようになります。

この記事では、画像診断cafeの正常な胸部CT(縦隔条件)に色を付けて、胸壁の筋肉がどこにあり、何と何の間にあるかを高さごとに解説します。肩の筋肉(棘上筋・棘下筋・肩甲下筋など)は肩のMRIの記事で扱っているため、ここでは胸の前・横・背中側の筋肉に絞ります。

先に結論:胸壁の筋肉をCTで見つける目印

  1. 大胸筋:胸の前面でいちばん浅い(皮下脂肪のすぐ下の)大きな板状の筋肉です
  2. 小胸筋:大胸筋のすぐ裏(深い側)にある細長い筋肉です。その裏を腋窩動脈・静脈が通ります
  3. 前鋸筋:肋骨の外側面に貼りつき、胸の横(側胸部)を前から後ろへ回り込みます
  4. 菱形筋:背中で僧帽筋の深い側、背骨と肩甲骨の内側縁の間にあります
  5. 斜角筋:肺尖の高さで、頸椎から第1肋骨へ下りる首の筋肉です。前斜角筋と中斜角筋の間を腕神経叢と鎖骨下動脈が通ります

胸壁の筋肉はどこにある?(ひとことで)

胸壁の筋肉は、前は大胸筋と小胸筋、横は前鋸筋と広背筋、後ろは僧帽筋・菱形筋・脊柱起立筋と覚えると整理できます。上の端(肺尖の高さ)では、首から下りてくる斜角筋が第1肋骨に付きます。

まずは大動脈弓のすぐ下の高さで、全体の並びを見てみます。

胸部CT 胸壁の筋肉 大胸筋 小胸筋 前鋸筋 肩甲下筋 広背筋 菱形筋 僧帽筋 脊柱起立筋
左胸壁を拡大しています。前から大胸筋(1)と小胸筋(2)、肋骨の外側に前鋸筋(3)、肩甲骨の前に肩甲下筋(4)、腋窩の後ろに広背筋(5)、背中に菱形筋(6)・僧帽筋(7)・脊柱起立筋(8)が並びます。
画像:画像診断cafe(正常例)

CTで見分けるコツは、筋肉そのものの濃さではなく、間にある脂肪の線と骨の目印を使うことです。筋肉どうしはどれも同じような灰色ですが、筋肉と筋肉の間には薄い脂肪の層があり、肋骨・肩甲骨・鎖骨・烏口突起が付着部の目印になります。

大胸筋と小胸筋:胸の前面

胸部CT 大胸筋 小胸筋 腋窩動脈 前鋸筋
赤が大胸筋、黄色が小胸筋です。小胸筋の外側の奥に紫の腋窩動脈、肋骨の外側に薄く前鋸筋が見えます。
画像:画像診断cafe(正常例)

大胸筋は、鎖骨・胸骨・肋軟骨から始まり、扇のように集まって上腕骨(大結節稜)に付きます。CTでは胸の前面いっぱいに広がる、いちばん浅い筋肉です。女性では乳腺の裏(深い側)にあり、乳がんの広がりを評価するときに「大胸筋まで届いているか」が問題になります。

小胸筋は、第3〜5肋骨あたりから始まり、肩甲骨の烏口突起に付きます。CTでは大胸筋の裏に、外上方へ斜めに走る細長い筋肉として見えます。小胸筋は腋窩の目印として大切で、腋窩リンパ節のレベル(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)は小胸筋の外側・裏・内側で分けます(詳しくは乳がんの所属リンパ節と腋窩リンパ節のレベル)。腋窩動脈も小胸筋を境に第1〜3部に分けられます。

大胸筋が片側だけない、あるいは薄い場合は、ポーランド症候群を考えます。胸骨の前に縦に走る余分な筋肉があれば胸骨筋、腋窩をまたぐ筋肉の帯はLanger腋窩弓という破格(正常変異)です。

前鋸筋と広背筋:胸の横

胸部CT 前鋸筋 広背筋 大胸筋 心臓の高さ
心臓の高さです。オレンジの前鋸筋が肋骨の外側面に貼りつき、その外側後方に青の広背筋、前方に赤の大胸筋の端が見えます。
画像:画像診断cafe(正常例)

前鋸筋は、第1〜8(9)肋骨の外側面からギザギザ(のこぎりの歯)のように始まり、胸郭の側面を後ろへ回って、肩甲骨の内側縁の前面(肋骨側)に付きます。CTでは肋骨のすぐ外側に貼りついた薄い筋肉として、側胸部を前から後ろへ追えます。上のほうでは肩甲骨と肋骨の間に挟まり、肩甲下筋と接します。

前鋸筋は長胸神経で動き、肩甲骨を胸郭に押さえつけています。この神経が傷むと肩甲骨の内側縁が浮き上がる「翼状肩甲」になります。単独の解説は前鋸筋のCT画像の解剖にまとめています。

広背筋は前鋸筋の外側・後方にあり、腋窩の後ろの壁を作ります(広背筋のCT画像の解剖)。肩甲骨の下角の高さで、前鋸筋・広背筋と肋骨の間にできる腫瘤は、弾性線維腫の典型的な場所です。

菱形筋:背中の深いところ

胸部CT 菱形筋 僧帽筋 脊柱起立筋 肩甲骨
背中側の拡大です。黄色の菱形筋は、青の僧帽筋の深い側で、緑の脊柱起立筋の外側から肩甲骨の内側縁へ向かって伸びています。
画像:画像診断cafe(正常例)

菱形筋は、下位頸椎〜上位胸椎の棘突起から始まり、肩甲骨の内側縁に付きます。上の小さいほうを小菱形筋、下の大きいほうを大菱形筋と呼びますが、CTでは1枚の板として見えることがほとんどです。

見つけ方は3枚重ねで覚えます。背中の皮下脂肪のすぐ下に僧帽筋、その深い側に菱形筋、さらに背骨の両脇に脊柱起立筋です。菱形筋は僧帽筋とほぼ平行に走るため、間の薄い脂肪の線を探すのがコツです。詳しくは菱形筋の起始停止・作用・支配神経、背中の筋肉全体は背中の筋肉の名前一覧と分類をご覧ください。

斜角筋:肺尖の高さ

胸部CT 前斜角筋 中斜角筋 後斜角筋 第1肋骨 肺尖
肺尖の高さ(左側)です。赤の前斜角筋の後ろに黄色の中・後斜角筋が並び、灰色の第1肋骨へ向かって下りていきます。
画像:画像診断cafe(正常例)

斜角筋は首の筋肉で、頸椎の横突起から始まり、前斜角筋と中斜角筋は第1肋骨、後斜角筋は第2肋骨に付きます。胸部CTでは、いちばん上のスライス(肺尖〜鎖骨の高さ)で、気管の外側やや後ろに見えます。

斜角筋が大切なのは、前斜角筋と中斜角筋の間(斜角筋隙)を腕神経叢と鎖骨下動脈が通り、鎖骨下静脈は前斜角筋の前を通るからです。この狭い通り道で神経や血管が圧迫されると胸郭出口症候群になります。頸肋があると、この通り道がさらに狭くなることがあります。

周りの構造との関係

  • 腋窩:前の壁が大胸筋・小胸筋、後ろの壁が広背筋・大円筋・肩甲下筋、内側の壁が前鋸筋です。この四方の壁に囲まれた脂肪の中に、腋窩動静脈・腕神経叢・腋窩リンパ節があります
  • 肩甲骨と胸郭の間:肋骨側から前鋸筋、肩甲下筋、肩甲骨の順に重なります
  • 乳腺:大胸筋の前(浅い側)にあります。マンモグラフィのMLO撮影でも、大胸筋が乳腺の奥に写ることが正しい撮影の目安になります(マンモグラフィの読み方の基本)
  • 肋間筋:これらの筋肉のさらに深い側、肋骨と肋骨の間を埋めています

働き(一般的な解剖)

  • 大胸筋:腕を内側へ寄せる(内転)・内側へひねる(内旋)・前へ上げる。内側・外側胸筋神経が支配します
  • 小胸筋:肩甲骨を前下方へ引きます。腕を固定すると肋骨を引き上げ、呼吸を助けます
  • 前鋸筋:肩甲骨を前へ出し、上方へ回して腕を高く上げるのを助けます(長胸神経)
  • 菱形筋:肩甲骨を背骨側へ寄せ、引き上げます(肩甲背神経)
  • 斜角筋:首を曲げ、第1・2肋骨を持ち上げて、強く息を吸うときの補助呼吸筋として働きます

画像で問題になる病気

画像診断cafeで自分で確かめる

この記事の画像は、画像診断cafeの胸部CT(縦隔条件)の正常解剖ビューアから作りました。スライスを上下に動かしながら、大胸筋・小胸筋・前鋸筋・菱形筋・斜角筋をタップすると、色と名前で確かめられます。筋肉以外の血管・心臓・骨は胸部CTの縦隔条件 正常解剖ツール、高さごとの縦隔の解剖は胸部CTの縦隔の解剖もあわせてどうぞ。

スマートフォンでは、iPhoneはApp Storeで「画像診断cafe」と検索、AndroidはGoogle Playの画像診断cafeからアプリで使えます。

胸壁の筋肉でよくある疑問(Q&A)

Q. 大胸筋と小胸筋はCTでどう見分けますか?
A. 浅いほう(皮膚に近いほう)が大胸筋、その裏にある細いほうが小胸筋です。小胸筋は外上方へたどると烏口突起に付くので、烏口突起の見える高さで確かめると確実です。

Q. 前鋸筋と肋間筋の違いは?
A. 前鋸筋は肋骨の外側面に貼りついて胸の横を回り込む筋肉で、肩甲骨へつながります。肋間筋は肋骨と肋骨の間を埋める筋肉で、胸壁の最も深い層にあります。

Q. 胸部CTで「胸壁の筋肉が左右で違う」と言われたら?
A. 利き腕や体の向き、手術歴で筋肉の厚さには左右差が出ます。左右差だけで病気とは言えず、腫瘤の形・境界・造影のされ方や、以前の画像との比較で判断します。

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