
先に結論:胸壁の腫瘤は「由来の場所」→「骨の変化」→「中身(脂肪・石灰化・嚢胞状か)」の3段階で絞る
| 段階 | 見るもの | わかること |
|---|---|---|
| 1. 由来 | 胸膜との境界、骨の変化、腫瘤が胸壁の中にあるか | 肺由来か、胸膜由来か、胸壁(胸膜の外)由来か |
| 2. 骨 | 肋骨や胸骨の破壊、骨膜反応、軟部腫瘤を伴うか | 骨が主体の腫瘍か、軟部組織の腫瘍か、悪性を疑う所見があるか |
| 3. 中身 | 脂肪、石灰化(輪状・弧状)、嚢胞状、造影のされ方 | 脂肪腫、軟骨系腫瘍、神経原性腫瘍などに絞る |
| 正常・炎症 | 左右差、骨や軟骨の形、感染・外傷の経過 | 腫瘍でないものを除く |
胸壁とは何か、胸壁腫瘍はどのくらいあるか
胸壁は、皮膚・皮下脂肪・筋肉・骨(肋骨・胸骨・鎖骨・肩甲骨・胸椎)・軟骨・胸膜の外側にある脂肪・血管・神経などでできています。肺の外側にあるこれらの構造すべてが、胸壁の腫瘤の「発生元」になりえます。
胸壁の腫瘍は多くありません。総説では、胸部の悪性腫瘍全体の約5%とされ、胸壁の腫瘍の半分以上は悪性です。この中には、胸壁そのものから生じる原発性の悪性腫瘍だけでなく、肺がんなど胸の中の腫瘍が直接広がったもの、胸の外の腫瘍からの転移も含まれます(Carter 2016)。胸部X線で見つかるのは約20%とされ、評価の中心は断層画像(CT・MRI)です(Carter 2016)。
手順1:肺・胸膜・胸壁のどこから出た腫瘤か
最初に決めるのは、腫瘤の「由来」です。胸壁の外側の腫瘤は肺のほうへ張り出し、肺由来の腫瘤とは境界のつくり方が異なります。X線でもCTでも、次の点を順に見ます。
| 見るところ | 胸壁・胸膜外の腫瘤で多い | 肺内の腫瘤で多い |
|---|---|---|
| 胸壁(胸膜)との角度 | なだらかな鈍角で接する | 鋭角に近い角度で、肺に囲まれる |
| 辺縁 | 肺側の縁が滑らかで、胸壁側の縁が追えない(境界が途切れて見える) | 全周が肺に囲まれて追える |
| 肺側の胸膜 | 腫瘤にそって押し込まれた胸膜が細い線に見える(extrapleural sign) | 胸膜は腫瘤の外にあり、肺の中に腫瘤がある |
| 骨の変化 | 隣り合う肋骨の破壊・硬化・圧排がある | 通常は骨に変化がない |
胸膜の外から発生した病変が、胸膜を内側に押し込みながら大きくなるときに見える所見がextrapleural signです。詳しい見え方はextrapleural signの記事で整理しています。また、肺・胸膜・胸壁のうち「どの臓器から出たか」を決める考え方は、腫瘤の由来臓器を見分ける記事も参考になります。
骨の変化は由来を決める手がかり
隣り合う肋骨に破壊や硬化があれば、病変は肺単独ではなく胸壁に関係していると考えます。肋骨の評価では、CTは皮質骨の破壊をより正確に示し、MRIは骨髄への広がりと軟部組織への広がりの評価に優れる、と整理されています(Kuhlman 1994)。
胸部X線で肋骨の異常を見落とすこともあります。63例のCTの検討では、胸部X線では心臓・横隔膜・腫瘤・胸水に隠れて見えなかった肋骨の破壊が、9例でCTにより見つかりました(Edelstein 1985)。腫瘍が肋骨へ直接広がる場合や転移では、肋骨が部分的または全体的に溶けるような破壊(溶骨性の破壊)を示し、軟部組織の腫瘤(胸膜の外にできる腫瘤)を伴うことが多い、とされています(Edelstein 1985)。
胸膜の肥厚や広がりとの区別が問題になるときは、胸膜肥厚の鑑別診断の記事も参考になります。
手順2:胸壁の腫瘍は「骨から」と「軟部組織から」に分ける
胸壁の腫瘍は、骨や軟骨から出るもの(肋骨・胸骨・鎖骨など)と、筋肉・脂肪・神経・血管などの軟部組織から出るものに大きく分かれます。それぞれが良性にも悪性にもなります(Carter 2016)。
骨・軟骨から出る腫瘍
| 種類 | 見え方の特徴 | 文献での記載 |
|---|---|---|
| 軟骨肉腫(chondrosarcoma) | 肋骨から生じる大きな分葉状の腫瘤。軟骨の成分を反映して綿くず状・輪状や弧状の石灰化が散在する | Jeung 1999 |
| 形質細胞腫(骨髄腫の局所病変) | 境界が明瞭な「打ち抜き」状の溶骨像と、胸膜の外の軟部腫瘤 | Jeung 1999 |
| 転移・骨髄腫 | 肋骨の部分的または全体的な溶骨性の破壊と、胸膜の外の軟部腫瘤 | Edelstein 1985 |
| Ewing肉腫・Askin腫瘍 | 胸壁に生じる大きな胸膜に接する腫瘤と胸水 | Murphey 2013 |
軟骨肉腫では、石灰化の形が診断の手がかりになります。胸壁の軟骨肉腫が輪状・弧状の石灰化を示すのは、軟骨の基質(軟骨の中身)が石灰化するためです(Jeung 1999)。CTは小さな石灰化と骨の破壊を見つけやすく、MRIは軟部腫瘤の広がりを示すのに優れています(Kuhlman 1994)。
症例 60歳代男性 肋骨の軟骨肉腫

引用:Radiopaedia(Chondrosarcoma of rib)
前胸壁に、内部に石灰化を伴う大きな軟部腫瘤があります。症例ページでは、骨の破壊、軟部腫瘤、軟骨基質を表すrings and arcs型の石灰化が軟骨肉腫の典型的な所見として記載されています。
Ewing肉腫とAskin腫瘍:現行のWHO分類では
Askin腫瘍は、胸壁に生じた骨外性のEwing肉腫を指す名前です。典型的な画像では、胸膜に接する大きな腫瘤と、胸水を伴います。治療は術前の化学療法のあとに手術を行い、放射線治療を加えることもあります。MRIは、術前化学療法の効果の判定、手術範囲の決定、再発の検出に役立ちます(Murphey 2013)。
腫瘍の名前は、WHO分類(骨腫瘍・軟部腫瘍の2020年第5版)で整理し直されています。この版では、「未分化小円形細胞肉腫」という新しい項目が設けられ、Ewing肉腫とEwing類似肉腫(EWSR1-non-ETS融合を持つ肉腫、CIC再構成肉腫、BCOR遺伝子異常を持つ肉腫)がそこに分類されています(Hwang 2023)。胸壁に発生したものは、「胸壁のEwing肉腫」(Askin腫瘍)として扱われます(Murphey 2013)。
症例 5歳男児 胸壁のEwing肉腫

引用:Radiopaedia(Ewing sarcoma of the chest wall)
左胸腔に大きな軟部腫瘤があります。症例ページでは、左胸壁から生じた大きな破壊性の軟部腫瘤で、第7肋骨の大部分が破壊され、造影CTで不均一に造影されると記載されています。のちに組織診断でEwing肉腫と確認された症例です。
手順3:軟部組織の腫瘤は「中身」で絞る
軟部組織から出る腫瘤には、末梢神経腫瘍・脂肪腫・脂肪肉腫・血管腫・弾性線維腫・転移・リンパ腫・膿瘍などがあり、デスモイド腫瘍も含まれます。多くは特徴的な画像所見や好発部位から、具体的な診断名を推定できます(O’Sullivan 2007)。見るポイントは、脂肪・石灰化・嚢胞状か・造影のされ方です。
| 候補 | 手がかり | 検査の選び方 |
|---|---|---|
| 脂肪腫 | 全体が脂肪の吸収値(CT)・脂肪の信号(MRI)で均一 | CTで診断でき、速く費用も抑えられる。浸潤が疑わしい腫瘍や手術前はMRIが範囲の評価に優れる(Kuhlman 1994) |
| 神経原性腫瘍 | MRIのT2強調像で高信号。神経の走行にそう。骨の圧排や椎間孔の拡大 | MRIが筋肉内の神経線維腫や、骨髄・脊柱管内への進展を示す。CTは小さな石灰化と骨の破壊が見やすい(Kuhlman 1994) |
| 血管腫 | MRIのT2強調像で高信号 | MRIが有用(Jeung 1999) |
| デスモイド腫瘍 | 胸壁の軟部腫瘤として挙げられるもののひとつ(O’Sullivan 2007) | WHO 2020では、局所に侵襲的な中間群(転移はまれ)に分類される(Haseli 2023) |
| 軟部肉腫 | 軟部組織の吸収値で、内部に壊死による低吸収域を伴うことが多い | CT・MRIで広がりを評価し、生検で診断する(Jeung 1999) |
| 感染(結核・真菌) | 骨と軟骨の破壊、石灰化や辺縁が造影される軟部腫瘤、膿瘍 | CTで骨の破壊と穿刺の誘導、MRIで軟部組織への広がり(Jeung 1999、Kuhlman 1994) |
脂肪を含む腫瘤:脂肪腫と脂肪肉腫
全体が均一な脂肪で、薄い壁だけなら脂肪腫を考えます。脂肪の中に厚い隔壁や造影される充実性の部分があれば、脂肪肉腫を疑って組織の確認が必要です。胸膜の外側の脂肪が増えて見える変化は、胸膜外脂肪の記事に整理しています。
神経原性腫瘍
神経鞘腫や神経線維腫は、MRIのT2強調像で高信号になりやすい腫瘍です。肋間神経にそって胸壁にできたり、椎間孔から背骨の外へ「ダンベル型」に伸びたりします(Jeung 1999、Kuhlman 1994)。
弾性線維腫(elastofibroma dorsi)
弾性線維腫は、肩甲骨の下端と胸壁の間にできる良性の腫瘤で、左右にできることもあります。軟部腫瘍の一覧でも、胸壁の腫瘤としてよく挙げられるものの一つです(O’Sullivan 2007)。部位に特徴があるため、悪性腫瘍と間違えないことが大切です。
デスモイド腫瘍
デスモイド腫瘍(デスモイド型線維腫症)は、WHO 2020では「中間群・局所に侵襲的」に分類される線維芽細胞・筋線維芽細胞の腫瘍です(Haseli 2023)。
腫瘍ではないのに腫瘤に見えるもの
胸壁の「腫瘤」を腫瘍と決めつける前に、次のものを確認します。
| 分類 | 例 | 見分けるポイント |
|---|---|---|
| 正常構造・正常変異 | 肋骨や肋軟骨の形の左右差、筋肉の厚みの差、肋骨の癒合・分岐 | 左右を比べる。骨の破壊や軟部腫瘤がない。症状がなく、形が昔から変わらない |
| 炎症 | Tietze症候群(肋軟骨の腫れと痛み)、膿瘍、結核 | 痛み・熱感・発熱。肋軟骨や周囲の軟部の腫れ。結核では石灰化と辺縁が造影される腫瘤 |
| 外傷後 | 肋骨骨折の仮骨、血腫 | 外傷の既往、骨折線、時間とともに形が変わる |
| 胸腔内の病変 | 胸膜の肥厚、胸水の限局、肺の腫瘤が胸壁に接する | 手順1の由来の確認に戻る |
臨床的に胸壁の腫瘤が疑われた6例で、CTで腫瘤が否定され、Tietze症候群と診断されたことが報告されています。同じ検討では、他の画像検査で腫瘍が疑われた7例が、CTで外傷後や発育に伴う良性の病変と示されています(Edelstein 1985)。X線やシンチグラフィで判断がつかない肋骨の異常には、CTが役立ちます(Edelstein 1985)。
胸膜の外にある筋肉や縦隔脂肪などが、結節やリンパ節に似て見える場合は、胸部CTの偽病変の記事で整理しています。
画像検査の使い分け
| 検査 | 得意なこと | 限界 |
|---|---|---|
| 胸部X線 | 最初のきっかけになる。胸壁の腫瘍の約20%が見つかる | 心臓・横隔膜・胸水に重なると骨の破壊を見落とす |
| CT | 骨・筋肉・血管の描出。小さな石灰化、皮質骨の破壊、穿刺の誘導 | 軟部組織のコントラストと、骨髄への広がりはMRIに劣る |
| MRI | 軟部組織のコントラストが高く、病変の広がり全体を示せる。骨髄、脊柱管内への進展 | 小さな石灰化や皮質骨の評価はCTが得意 |
| FDG-PET/CT | 病期診断、治療効果の判定、再発の検出 | 胸壁の悪性腫瘍に対して日常的には行わない |
| 超音波 | 表在の腫瘤の観察、生検の誘導 | 深い病変の評価と性状診断には限りがある |
(Carter 2016、Kuhlman 1994)
悪性腫瘍が疑われる場合は、画像で広がりを確認し、組織の検査で診断を確かめます。検査や治療の進め方は、診療する施設の外科・整形外科・放射線科で相談して決まります。
読影のチェックリスト
- 腫瘤は胸壁・胸膜・肺内のどこにあるか(境界の角度、extrapleural sign、骨の変化)
- 骨や軟骨に、破壊・硬化・骨膜反応・病的な骨折があるか
- 軟部腫瘤を伴うか(骨の外へ出ているか)
- 脂肪・石灰化(輪状・弧状など)・嚢胞状・出血・壊死・造影のされ方
- 左右差、昔の画像との比較、外傷・感染・手術の既往
- 縦隔・肺・肋骨以外の骨(胸椎や鎖骨)への広がり
よくある疑問(Q&A)
Q1. 胸壁の腫瘤は、悪性のことが多いのですか?
総説では、胸壁の腫瘍の半分以上が悪性とされ、胸の外の腫瘍の転移や、肺がんの直接浸潤も含まれています(Carter 2016)。一方で、脂肪腫・神経原性腫瘍・弾性線維腫など良性の腫瘍もよくあり、腫瘍ではない正常変異や炎症の場合もあります。画像で良性らしく見えても、性状が不明確なときは、MRIや組織の確認を考えます。
Q2. 胸壁の腫瘤は、肺がんと間違えませんか?
由来の判断が大切です。胸壁・胸膜外の腫瘤は、胸壁との角度がなだらかで、肺側の縁が滑らかになり、extrapleural signを示します。隣の肋骨に破壊や硬化があれば、肺の外の病変を考えます。肺がんが胸壁に浸潤している場合もあるため、骨の破壊や軟部組織への連続した広がりも確認します。
Q3. 胸のしこりを自分で見つけたら、どうすればよいですか?
成長する、痛みが強い、押しても動かない、発熱や体重減少を伴う、といった場合は、医療機関を受診してください。気になる症状があれば、自己判断せずに医療機関へ相談しましょう。
Q4. 胸壁の腫瘤で、造影CTは必要ですか?
腫瘤の性状や広がりを見るため、造影CTや造影MRIが使われることがあります。造影剤を使えるかどうかは、腎機能やアレルギーの既往などを確認して、検査を行う施設が判断します。
参考文献
- Carter BW, Benveniste MF, Betancourt SL, et al. Imaging Evaluation of Malignant Chest Wall Neoplasms. Radiographics. 2016;36(5):1285-306. PubMed
- O’Sullivan P, O’Dwyer H, Flint J, et al. Soft tissue tumours and mass-like lesions of the chest wall: a pictorial review of CT and MR findings. Br J Radiol. 2007;80(955):574-80. PubMed
- Jeung MY, Gangi A, Gasser B, et al. Imaging of chest wall disorders. Radiographics. 1999;19(3):617-37. PubMed
- Kuhlman JE, Bouchardy L, Fishman EK, et al. CT and MR imaging evaluation of chest wall disorders. Radiographics. 1994;14(3):571-95. PubMed
- Murphey MD, Senchak LT, Mambalam PK, et al. From the radiologic pathology archives: ewing sarcoma family of tumors: radiologic-pathologic correlation. Radiographics. 2013;33(3):803-31. PubMed
- Hwang S, Hameed M, Kransdorf M. The 2020 World Health Organization classification of bone tumors: what radiologists should know. Skeletal Radiol. 2023;52(3):329-348. PubMed
- Haseli S, Mansoori B, Christensen D, et al. Fibroblastic and Myofibroblastic Soft-Tissue Tumors: Imaging Spectrum and Radiologic-Pathologic Correlation. Radiographics. 2023;43(8):e230005. PubMed
- Edelstein G, Levitt RG, Slaker DP, et al. CT observation of rib abnormalities: spectrum of findings. J Comput Assist Tomogr. 1985;9(1):65-72. PubMed
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