
乳児神経軸索ジストロフィ(INAD)とは、PLA2G6遺伝子の異常で乳幼児期に発達が後戻りしていく神経変性疾患で、PLA2G6関連神経変性症(PLAN)の乳児型です。研修医のハジメくんと一緒に、MRIで小脳萎縮・小脳皮質の高信号・clavaの腫大・脳梁膨大部・淡蒼球の鉄沈着をどの順に見るか、初回MRIが正常でも否定できない理由を整理します。
先に結論
- 乳児神経軸索ジストロフィ(INAD)とは、PLA2G6遺伝子の両アレルの変異で起こるPLA2G6関連神経変性症(PLAN)の乳児型。生後6〜18か月ごろに発達の停止・退行と筋緊張低下で始まる。
- MRIの軸は小脳萎縮(変異陽性のほぼ全員)。小脳皮質のT2/FLAIR高信号・clavaの腫大・細く縦向きの脳梁膨大部が加わると強く疑う。
- 淡蒼球の鉄沈着は約半数で、遅れて出ることが多い。鉄がない・初回MRIが正常でも否定できず、診断は遺伝子検査で確かめる。
目的から読む: INADとは / 症状と経過 / MRI所見(小脳萎縮) / clava・脳梁膨大部 / 鉄沈着(NBIA) / 診断と遺伝子検査 / 鑑別
乳児神経軸索ジストロフィ(INAD)とは? PLA2G6関連神経変性症(PLAN)の乳児型
INADは、PLA2G6遺伝子の変異で起こる神経変性症(PLAN)のうち、乳児期に発症するいちばん重い型です。脳・脊髄・末梢神経に、軸索が風船のように膨らんだ「軸索スフェロイド」ができます。
PLA2G6関連神経変性症(PLAN)の乳児型
乳児神経軸索ジストロフィ(infantile neuroaxonal dystrophy:INAD)は、乳児期から幼児期に発症し、運動と知的な発達が後戻りしていく、まれな神経変性疾患です。PLA2G6遺伝子の変異が原因と分かり、現在はPLA2G6関連神経変性症(PLA2G6-associated neurodegeneration:PLAN)の一番重い型として扱われます。PLANには、乳児型(INAD)のほか、小児期発症の非典型的な神経軸索ジストロフィ、成人発症のジストニア・パーキンソニズムなどが含まれます(Wilson 2025)。
遺伝のしかたは常染色体潜性遺伝で、PLA2G6遺伝子の両アレルに変異があります。INADと臨床診断された56例では、80%でPLA2G6の変異が見つかりました(Gregory 2008)。
病理では、脳・脊髄・末梢神経に軸索が風船のように膨らんだ「軸索スフェロイド」がみられます。PLANは、淡蒼球に鉄がたまる病気の集まりである脳内鉄沈着を伴う神経変性症(NBIA)の1つにも数えられます(Gregory 2008)。
INADの症状と経過: 発達の停止・退行から痙性へ
多くは生後6〜18か月ごろ、獲得した運動ができなくなる発達の停止・退行と、全身の筋緊張低下で始まります。進むと錐体路徴候・小脳失調・眼球運動の異常が加わり、痙性四肢麻痺・視神経萎縮へ進みます(Carrilho 2008、Romani 2015)。
症状の経過
ポルトガルの10例では、最初の症状は生後6〜18か月に現れ、発達の停止または退行で始まりました。最初の神経所見は全身の筋緊張低下と錐体路徴候で、脳波では全例で速波がみられました(Carrilho 2008)。北アフリカの17例では、乳児型の16例が早い退行・筋緊張低下・錐体路徴候と小脳徴候・眼球運動の異常で始まり、重い痙性四肢麻痺・認知障害・視神経萎縮へ急速に進みました(Romani 2015)。
| 時期 | よくみられること(Carrilho 2008、Romani 2015) |
|---|---|
| はじめ | 獲得した運動(お座り・つかまり立ち・歩行)ができなくなる、筋緊張低下 |
| 進行期 | 錐体路徴候、小脳失調、眼振・斜視、痙性四肢麻痺 |
| 検査 | 脳波の速波、末梢神経の障害(運動または感覚運動ニューロパチー)、視神経萎縮 |
INADのMRI所見: いちばん大切なのは小脳萎縮
INADのMRIでまず見るのは小脳です。PLA2G6変異のある患者のほぼ全員に小脳萎縮があり、小脳萎縮があると変異陽性の可能性が高いとされます(Gregory 2008)。
小脳萎縮:最も大切な所見
INADと臨床診断された56例と特発性NBIAの23例を調べた多施設研究では、PLA2G6変異のある患者のほぼ全員に小脳萎縮があり、脳の鉄沈着は半数にとどまりました(Gregory 2008)。ポルトガルの10例でも、全例に小脳萎縮がありました(Carrilho 2008)。
萎縮は進行が速いことがあります。PLA2G6変異のある双胎の2例では、約8〜9か月の間に小脳の体積が16〜26%ほど減っていました(Mascalchi 2017)。
症例 1歳代女児 INADの小脳萎縮(T2強調像)

引用:Venkataramana Reddy K et al. Clin Case Rep 2026(Figure 1)(CC BY-NC 4.0)
1歳11か月の女児です。15か月ごろから一人で歩けなくなり、眼振が出てきました。T2強調横断像で小脳が強く萎縮し、小脳回の間(葉間)のすき間、第4脳室、小脳橋角槽が目立ちます。歯状核の信号は正常です。遺伝子検査でPLA2G6のホモ接合性変異が見つかりました(Venkataramana Reddy 2026)。
小児の小脳萎縮には多くの原因があります。成人の場合の考え方は成人の小脳萎縮の鑑別疾患、遺伝性の脊髄小脳変性症は脊髄小脳変性症(SCD)の分類とMRI画像所見で、小脳萎縮の見え方を症例と合わせて確かめられます。
小脳皮質のT2/FLAIR高信号
小脳皮質がT2強調像・FLAIRで高信号になる所見は、INADの特徴とされてきました。ただし半数ほどにしかみられず、遅れて出ることもあります。
ポルトガルの10例では、10例中5例にみられました(Carrilho 2008)。一方で、PLA2G6の変異が確認されたのに小脳皮質の信号が正常だった2歳男児の報告があり、この所見がないことでINADを否定はできません(Biancheri 2007)。北アフリカの17例では、小脳萎縮とclavaの腫大が最も多く早い所見で、小脳皮質の高信号と淡蒼球の鉄沈着は遅れて出てくる所見でした(Romani 2015)。
症例 同じ女児の小脳皮質の高信号(FLAIR)

引用:Venkataramana Reddy K et al. Clin Case Rep 2026(Figure 3)(CC BY-NC 4.0)
同じ患者のFLAIR横断像です。小脳皮質が高信号になっています(Venkataramana Reddy 2026)。萎縮とあわせて、小脳のグリオーシスを示す所見とされます。
clava(薄束結節)の腫大と細い脳梁膨大部: 正中矢状断で見る
INADを強く示唆するのは、clavaの腫大・小脳萎縮とグリオーシス・細く縦向きの脳梁膨大部の組み合わせです(Wilson 2025)。正中矢状断のT1強調像では、小脳虫部の萎縮・clavaの腫大・脳梁膨大部の形を確認します。小脳のグリオーシスを示唆する高信号は、T2強調像・FLAIRで評価します。
2025年に出たPLANの国際的な診療ガイドライン(合意形成による)は、小脳の虫部と半球の萎縮を、症状のある小児PLANのほぼ全例にみられる所見としています。そのほか、clava(延髄背側の薄束結節)の腫大、細く縦向きになった脳梁膨大部、小脳皮質・歯状核・テント上白質のT2高信号、大脳萎縮が挙げられています(Wilson 2025)。
ガイドラインは、診断の段階で脳MRIを撮ることを勧めています(Wilson 2025)。脳梁の部位の名前は脳梁の解剖(吻部・膝部・体部・膨大部)で、膨大部がどこかを矢状断の図で確認できます。
淡蒼球・黒質の鉄沈着(NBIA): 約半数で、遅れて出る
淡蒼球と黒質がT2強調像や鉄に敏感な撮像(T2*・SWIなど)で低信号になる所見は、PLANのもう1つの特徴です(Wilson 2025)。ただし変異のある患者でみられたのは半数で(Gregory 2008)、遅れて出てくる所見でした(Romani 2015)。
ガイドラインは、臨床像がNBIAに合うときはT2*・SWI・QSM・GREなど鉄を強調する撮像をできるだけ加えるよう勧めています(Wilson 2025)。SWIの原理はT2*強調像・磁化率強調像(SWI)とは?で、年齢とともに増える生理的な鉄の分布は脳の生理的鉄沈着のMRI所見で、病的な鉄と見くらべる目安を確かめられます。
所見と撮像・時期のまとめ
| 所見 | 撮像 | 頻度・時期の目安 |
|---|---|---|
| 小脳萎縮(虫部・半球) | T1強調矢状断、T2強調横断・冠状断 | 変異陽性のほぼ全員(Gregory 2008)。早期から(Romani 2015) |
| 小脳皮質の高信号 | T2強調像、FLAIR | 10例中5例(Carrilho 2008)。遅れて出ることがある(Romani 2015) |
| clavaの腫大 | T1強調正中矢状断 | 早期から多い(Romani 2015) |
| 細く縦向きの脳梁膨大部 | T1強調正中矢状断 | 診断を示唆する組み合わせの1つ(Wilson 2025) |
| 淡蒼球・黒質の低信号(鉄) | T2強調像、T2*、SWI | 変異陽性の約半数(Gregory 2008)。遅れて出る(Romani 2015) |
INADの診断: 遺伝子検査が中心、初回MRIが正常でも否定しない
診断の中心はPLA2G6の遺伝子検査です。特徴的なMRIと脳波の速波があれば、生検の前に遺伝子検査を考えられます(Carrilho 2008)。
遺伝子検査が中心
PLA2G6遺伝子が分かる前は、皮膚・神経・結膜・筋の生検で軸索スフェロイドを確かめていました。ガイドラインは、スフェロイドは病初期やすべての組織でみられるわけではなく、1回の生検が陰性でもPLANを否定できないとしています(Wilson 2025)。
また、病気の経過を追うために定期的にMRIを撮り直すことは、遺伝子診断がつき臨床像が合う場合には、特別な理由がなければ勧められていません(Wilson 2025)。
根本的な治療はまだなく、症状に合わせた支持療法が中心です。遺伝子を補う治療などは研究の段階です(Venkataramana Reddy 2026)。
INADと区別したい病気(鑑別)
小脳萎縮だけでは区別できないので、clava・脳梁膨大部・鉄の有無と、脳波・末梢神経の所見をあわせて遺伝子検査へ進みます。ほかのNBIAは淡蒼球の鉄で疑われることが多く、INADは小脳萎縮が前に出るのが違いです。
| 病気 | INADとの違いの考え方 |
|---|---|
| ほかのNBIA(PKANなど) | NBIAの多くは淡蒼球の鉄沈着で疑われる(Hayflick 2018)。INADは小脳萎縮が目立ち、鉄は初期にないことがある |
| 小脳萎縮を来すほかの遺伝性・代謝性の病気 | 小脳萎縮だけでは区別できない。clava・脳梁膨大部・脳波・末梢神経の所見をあわせて遺伝子検査へ |
| 白質ジストロフィー | 大脳白質の信号変化が主体。INADでも白質のT2高信号はありうる(Wilson 2025) |
成人で鉄が脳にたまる病気の例は、無セルロプラスミン血症(ACP)のCT・MRI所見で、鉄の低信号の分布を症例と合わせて見くらべられます。
よくある勘違い
Q. NBIAの仲間なら、淡蒼球の鉄沈着が見えるはず?
いいえ。PLA2G6変異のある患者で鉄がみられたのは半数で(Gregory 2008)、遅れて出てくる所見です(Romani 2015)。INADで先に出るのは小脳萎縮とclavaの腫大です。
Q. 小脳皮質の高信号がなければ、INADは考えなくてよい?
いいえ。変異が確認された患者でも小脳皮質の信号が正常だった報告があります(Biancheri 2007)。小脳萎縮と臨床経過から疑います。
Q. 初回MRIが正常なら、INADは否定できる?
できません。正常と読まれたMRIが半年後に小脳萎縮とグリオーシスを示した例があります(Wilson 2025)。症状が進むときは時期をおいて撮り直し、遺伝子検査で確かめます。
今日のまとめ
- INADはPLA2G6関連神経変性症(PLAN)の乳児型。発達の退行と筋緊張低下で始まり、痙性へ移る。
- MRIは小脳萎縮が軸。正中矢状断で小脳虫部・clava・脳梁膨大部を一度に見る。
- 鉄沈着・小脳皮質の高信号はあとから・ないこともある。初回MRIが正常でも否定せず、遺伝子検査へ。
根拠(もう少し詳しく)
| 研究 | 対象 | わかったこと |
|---|---|---|
| Gregory 2008 | 米国などの多施設。INADと臨床診断された56例と特発性NBIAの23例 | INADの80%にPLA2G6変異(特発性NBIAでは20%)。MRIでは変異陽性のほぼ全員に小脳萎縮、鉄沈着は半数。小脳萎縮は変異陽性を予測した |
| Carrilho 2008 | ポルトガルのINAD 10例 | 発症は生後6〜18か月。全例に小脳萎縮と脳波の速波、小脳皮質のT2高信号は5例。特徴的な画像と脳波の速波があれば、生検の前に遺伝子検査を考えられる |
| Romani 2015 | 北アフリカの17例(乳児型16例) | 全例が両アレルの変異。小脳萎縮とclavaの腫大が最も多く早い所見で、小脳皮質の高信号と淡蒼球の鉄沈着は遅れて出た |
| Biancheri 2007 | PLA2G6変異のある2歳男児の症例報告 | 小脳萎縮はあるが、小脳皮質の高信号はなかった |
| Mascalchi 2017 | PLA2G6変異のある双胎2例。3T MRIで体積計測 | 約8〜9か月の間に小脳の体積が25.8%と16.5%減少。前頭葉と後頭葉の皮質の体積も軽く減少 |
| Wilson 2025 | PLANの国際的な診療ガイドライン(合意形成) | 症状のある小児PLANのほぼ全例に小脳の虫部・半球の萎縮。clavaの腫大・小脳萎縮とグリオーシス・細く縦向きの脳梁膨大部の組み合わせが診断を強く示唆。鉄を強調する撮像を加える。生検陰性では否定できない |
参考文献
- Gregory A, Westaway SK, Holm IE, et al. Neurodegeneration associated with genetic defects in phospholipase A(2). Neurology. 2008;71(18):1402-9. PubMed
- Carrilho I, Santos M, Guimarães A, et al. Infantile neuroaxonal dystrophy: what’s most important for the diagnosis? Eur J Paediatr Neurol. 2008;12(6):491-500. PubMed
- Biancheri R, Rossi A, Alpigiani G, et al. Cerebellar atrophy without cerebellar cortex hyperintensity in infantile neuroaxonal dystrophy (INAD) due to PLA2G6 mutation. Eur J Paediatr Neurol. 2007;11(3):175-7. PubMed
- Romani M, Kraoua I, Micalizzi A, et al. Infantile and childhood onset PLA2G6-associated neurodegeneration in a large North African cohort. Eur J Neurol. 2015;22(1):178-86. PubMed
- Mascalchi M, Mari F, Berti B, et al. Fast Progression of Cerebellar Atrophy in PLA2G6-Associated Infantile Neuronal Axonal Dystrophy. Cerebellum. 2017;16(3):742-745. PubMed
- Wilson JL, Soo AKS, Gregory A, et al. Consensus Clinical Management Guideline for PLA2G6-Associated Neurodegeneration (PLAN). J Child Neurol. 2025;40(6):415-432. PubMed
- Hayflick SJ, Kurian MA, Hogarth P. Neurodegeneration with brain iron accumulation. Handb Clin Neurol. 2018;147:293-305. PubMed
- Hayflick SJ, Westaway SK, Levinson B, et al. Genetic, clinical, and radiographic delineation of Hallervorden-Spatz syndrome. N Engl J Med. 2003;348(1):33-40. PubMed
- Venkataramana Reddy K, Daggu A, Mudiyala SR, et al. Regression, Ataxia, and Nystagmus in a Toddler: Unraveling a Rare Neurodegenerative Disorder. Clin Case Rep. 2026;14(8):e73294. PubMed
症例画像は各図の引用元のとおりです。
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