先に結論:脊髄小脳変性症(SCD)のMRI
- 脊髄小脳変性症は、ふらつき・ろれつが回らない・手の動きのぎこちなさ(運動失調)がゆっくり進む病気の総称(指定難病)で、約3分の1が遺伝性(日本ではSCA3・SCA6・SCA31・DRPLAが多い)、残りが孤発性で、孤発性の多くは多系統萎縮症(MSA)です
- MRIでは小脳の萎縮が共通の所見で、タイプにより小脳だけが萎縮する型(SCA6・SCA31など)と、脳幹も萎縮する型(SCA3・MSA-Cなど)があります。MSAでは橋の十字サイン(hot cross bun sign)が手がかりです
- 画像だけでの区別は難しく、発症年齢・家族歴・遺伝子検査と合わせて診断します
- 小脳だけが萎縮する(純小脳型)ときは、遺伝性のSCA6・SCA31と孤発性の皮質性小脳萎縮が候補で、家族歴と遺伝子検査が決め手になります
※ふらつきやろれつの回りにくさが続くときは、脳神経内科を受診してください。
脊髄小脳変性症(Spinocerebellar degeneration:SCD)とは?
- 小脳及び脊髄に異常があり、運動失調を来す疾患。
- 発症は中年以降に多いが、若年発症もある。
- 多くは進行が緩徐で、経過は長いことが多い。
- 日本での有病率は人口10万人あたり18.5人と推定されている(Tsuji 2008)。
- 3分の1は遺伝性、3分の2は非遺伝性(孤発性)。(Tsuji 2008)
- 遺伝性は、多数の原因遺伝子が知られている。日本では、SCA-3(Machado-Joseph disease:MJD)、6、31とDRPLAが多い。※SCA=spinocerebellar ataxia(脊髄小脳失調症)
- 非遺伝性(孤発性)のうち多く(約3分の2:日本の調査で64.7%、Tsuji 2008)は、立ちくらみ・排尿障害などの自律神経症状やパーキンソン症状を伴う多系統萎縮症が占める。
- 多系統萎縮症は脊髄小脳変性症の一つであるが、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症は難病法で別々に難病に指定されている。

脊髄小脳変性症の種類(タイプ)とMRIの萎縮パターン
大きく純小脳型と小脳+脳幹(橋)型に分けると整理しやすくなります(Mascalchi 2022)。
| 種類 | 遺伝 | MRIのおもな所見 |
|---|---|---|
| SCA6 | 遺伝性(常染色体顕性) | 純小脳型。北海道の遺伝子解析では遺伝性SCDで最多の25.3%(Mizushima 2024) |
| SCA31 | 遺伝性(常染色体顕性) | 純小脳型。文献レビューで小脳萎縮78.7%、脳幹萎縮は9.1%(Saucier 2023) |
| SCA3(MJD) | 遺伝性(常染色体顕性) | 小脳+脳幹。橋被蓋の萎縮、上小脳脚の萎縮、第4脳室の拡大 |
| SCA1・SCA2 | 遺伝性(常染色体顕性) | 小脳+脳幹。SCA2では十字サインがみられることがある(Higashi 2018) |
| DRPLA | 遺伝性(常染色体顕性) | 小脳+脳幹(Higashi 2018) |
| CCA | 孤発性 | 純小脳型(虫部上部〜半球) |
| MSA-C | 孤発性 | 小脳・中小脳脚・橋底部の萎縮、hot cross bun sign |
脊髄小脳変性症の画像所見は?
- タイプにより画像所見は異なる。画像だけでは鑑別困難なことも多く、確定診断には、発症年齢、家族歴の聴取、出身地の確認や遺伝子診断が必要。
- いずれの場合も小脳、脳幹の萎縮の評価が重要。
- 小脳萎縮は小脳溝の開大として認める。正常の小脳溝は小脳上面にわずかに見える程度。これが明瞭化している場合に萎縮を考える。
- SCA31、6、CCA:純小脳型萎縮。※CCA(cortical cerebellar atrophy):孤発性皮質性小脳変性症(皮質性小脳萎縮症)
- SCA1、2:MSA類似の小脳、脳幹の萎縮。程度が軽度であることが多い。
- SCA3:橋被蓋の萎縮、第4脳室前後径の拡大、上小脳脚萎縮。
- MSA-P,C:いずれの場合も小脳、中小脳脚、脳幹の萎縮を認める。
- MSA-P:被殻の外側凸な突出が萎縮して直線状に見える。背外側にT2WIで直線状の高信号を認める。
- MSA-C:小脳橋底部や中小脳脚の萎縮、橋横走線維変性を反映した逆T字状もしくは十字状のT2強調像高信号化(“hot cross bun’’sign)。中小脳脚の高信号化を認める。運動症状の発症2年以内のMSA-C 24例では、縦線状を含むhot cross bun signが91.7%にみられました。発症3年以内で比べると、完成した十字状の信号はMSA-Cの66.7%にみられた一方、SCA3 26例では1例もみられませんでした。2022年のMDS(国際パーキンソン病・運動障害学会)の診断基準では、「臨床的に確実(clinically established)なMSA」と診断するために、MSAを示唆する脳MRI所見があることが必須とされました。
SCA6の特徴と、純小脳型(小脳だけの萎縮)の鑑別
SCAは現在、原因遺伝子ごとにSCA1、SCA2…とSCA番号で呼ばれ、SCA3(MJD)のように繰り返し配列の伸長で起こるものと、SCA5のようにそれ以外の変異で起こるものに分けられます(Klockgether 2019)。MRIで小脳だけが萎縮しているとき、日本では次のような見方が役に立ちます。
- SCA6:CACNA1A遺伝子のCAG繰り返しの軽度の伸長で起こります。日本人家族の解析では、SCA1・2・3・DRPLAを除いた常染色体顕性(優性)遺伝のSCA 98家系のうち30家系(31%)がSCA6で、CAG繰り返し数は21〜26と少なく、繰り返し数が多いほど発症が早い傾向がありました(Ikeuchi 1997)。初発症状は運動失調が多く、経過が長い例ではジストニア姿勢や不随意運動を伴うことがあります(Ikeuchi 1997)。
- SCA6を疑う手がかりは、水平または斜め方向の注視で出る眼振と純小脳型の萎縮で、孤発性にみえる例でもSCA6のことがあります。一方で、SCA6でも橋の萎縮を伴う例が報告されているため、「橋が萎縮していればSCA6ではない」とは言い切れません(Sugawara 2000)。
- SCA31:日本で3番目に多い常染色体顕性のSCAで、海外ではまれです。ゆっくり進む失調と構音障害が中心で、MRIでは小脳萎縮が多く、脳幹の萎縮は一部です(Saucier 2023)。
- 孤発性の純小脳型:家族歴がなく、遺伝子検査も陰性で、小脳だけが萎縮してゆっくり進む場合は、原因が不明の孤発性成人発症失調症(SAOA)が考えられ、ほかの原因を除外して診断します。MSA-Cより進行がずっとゆっくりで、画像では小脳だけの萎縮が典型的とされます(Klockgether 2018)。
つまり、純小脳型の萎縮は特定の病気に決まる所見ではありません。遺伝性のSCAだけでなく、後天性の運動失調でも同じ萎縮パターン(皮質性小脳萎縮)をとることがあり(Mascalchi 2022)、年齢、家族歴、自律神経症状、経過、血液検査・遺伝子検査を合わせて鑑別します。
脊髄小脳変性症のMRIでよくある疑問(Q&A)
Q. hot cross bun sign(十字サイン)があればMSAと考えてよいですか?
A. 小脳失調の患者202例の解析では、十字サインはMSA-Cに対して特異度97.7%で、MSA-C以外ではSCA2でみられました(Higashi 2018)。SCA2・SCA7などの遺伝性SCAでの報告もあるため(Naidoo 2022)、家族歴の確認が大切です。
Q. 十字サインがないときはどう見分けますか?
A. 橋底部と橋被蓋の前後径の比(BT比)が参考になります。橋被蓋の萎縮が目立つ(BT比が大きい)ときはSCA3・SCA1・DRPLAなど脳幹を巻き込むSCAを、橋の信号変化がなくBT比も小さいときは純小脳型のSCAなどを考えます(Higashi 2018)。
Q. 小脳だけが萎縮していたら、遺伝性ですか?
A. 画像だけでは決められません。純小脳型の萎縮は、SCA6・SCA31などの遺伝性SCAでも、孤発性の皮質性小脳萎縮(SAOAなど)でも、後天性の原因でもみられます(Mascalchi 2022、Klockgether 2018)。家族歴の聴取と遺伝子検査が必要です。
Q. 小脳萎縮のMRIで、MSA-Cと純小脳型のSCAはどう見分けますか?
A. MSA-Cでは橋底部・中小脳脚の萎縮と十字サインがみられ、起立性低血圧や排尿障害などの自律神経症状を伴います。2022年のMDS基準では、臨床的に確実なMSAの診断にMSAを示唆するMRI所見が必須とされました(Wenning 2022)。純小脳型では橋の信号変化がなく、経過もゆっくりです(Klockgether 2018、Higashi 2018)。
ふらつきやろれつの回りにくさ、飲み込みにくさが続くときは、早めに脳神経内科を受診してください。
関連:
参考文献
- Tsuji S, Onodera O, Goto J, et al. Sporadic ataxias in Japan–a population-based epidemiological study. Cerebellum. 2008;7(2):189-97. PubMed
- Wenning GK, Stankovic I, Vignatelli L, et al. The Movement Disorder Society Criteria for the Diagnosis of Multiple System Atrophy. Mov Disord. 2022;37(6):1131-1148. PubMed
- Mascalchi M. MRI CNS Atrophy Pattern and the Etiologies of Progressive Ataxias. Tomography. 2022;8(1):423-437. PubMed
- Klockgether T, Mariotti C, Paulson HL. Spinocerebellar ataxia. Nat Rev Dis Primers. 2019;5(1):24. PubMed
- Sugiyama A, Yokota H, Yamanaka Y, et al. Vertical pons hyperintensity and hot cross bun sign in cerebellar-type multiple system atrophy and spinocerebellar ataxia type 3. BMC Neurol. 2020;20(1):157. PubMed
- Mizushima K, Shibata Y, Shirai S, et al. Prevalence of repeat expansions causing autosomal dominant spinocerebellar ataxias in Hokkaido, the northernmost island of Japan. J Hum Genet. 2024;69(1):27-31. PubMed
- Saucier J, Al-Qadi M, Amor MB, et al. Spinocerebellar ataxia type 31: A clinical and radiological literature review. J Neurol Sci. 2023;444:120527. PubMed
- Higashi M, Ozaki K, Hattori T, et al. A diagnostic decision tree for adult cerebellar ataxia based on pontine magnetic resonance imaging. J Neurol Sci. 2018;387:187-195. PubMed
- Naidoo AK, Wells CD, Rugbeer Y, et al. The “Hot Cross Bun Sign” in Spinocerebellar Ataxia Types 2 and 7-Case Reports and Review of Literature. Mov Disord Clin Pract. 2022;9(8):1105-1113. PubMed
- Ikeuchi T, Takano H, Koide R, et al. Spinocerebellar ataxia type 6: CAG repeat expansion in alpha1A voltage-dependent calcium channel gene and clinical variations in Japanese population. Ann Neurol. 1997;42(6):879-84. PubMed
- Sugawara M, Toyoshima I, Wada C, et al. Pontine atrophy in spinocerebellar ataxia type 6. Eur Neurol. 2000;43(1):17-22. PubMed
- Klockgether T. Sporadic adult-onset ataxia. Handb Clin Neurol. 2018;155:217-225. PubMed
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