先に結論:脳の生理的鉄沈着
- 脳には年齢とともに鉄が自然にたまる場所があり、淡蒼球・黒質・赤核・小脳歯状核が代表で、高齢になると被殻・尾状核・視床にも目立ってきます
- これらはMRIのT2*強調像・SWI(磁化率強調像)・T2強調像で左右対称に黒く(低信号)見えますが、正常な所見なので、古い出血(微小出血)と間違えないことが大切です
- 見分けるポイントは場所と形です。生理的鉄沈着は決まった神経核に左右対称、微小出血は脳のあちこちに小さな丸い点として散らばります
- 年齢に比べて強すぎる・左右差がある・分布が違う場合は、NBIA・多系統萎縮症・表在性ヘモジデリン沈着症などの病気を考えます
MRIは磁場を用いた検査であり、鉄イオンの検出に有用です。
中でもT2*WI(T2スター強調像)、またSWI(磁化率強調像)が有用とされます。
ここで問題となるのが、これらのシークエンスで低信号を示したときに、
- 古い出血を見ているのか
- 生理的鉄沈着を見ているのか
の鑑別です。
誤って陳旧性出血!と診断しないためには、生理的鉄沈着を示す部位をあらかじめ知っておくことです。
そこで、今回は脳の生理的鉄沈着部位についてまとめました。
脳の生理的鉄沈着とは?
- 幼小児期より生理的に鉄沈着(フェリチン)する部位として、淡蒼球、黒質、赤核、小脳歯状核、視床下核がある。
※1.5TのT2強調像で白質より明らかな低信号として見えてくるのは一般に10歳以降で、淡蒼球が最も早く、次いで赤核・黒質、最後に歯状核の順である(歯状核は25歳でも約3分の1にとどまる)(Aoki 1989)。小児では年齢に応じた見え方を知っておくことが、鉄沈着症の診断に役立つ。 - 高齢者では、視床、被殻、尾状核にも集積が見られるようになる。SWIでは深部灰白質のいずれも年齢とともに信号が低下していた(Harder 2008)。
- 異常な鉄沈着が問題になる病気としては、脳内鉄沈着を伴う神経変性症(NBIA、旧称Hallervorden-Spatz病)、多系統萎縮症、superficial siderosis(表在性ヘモジデリン沈着症)などがある。NBIAの一つであるPKANでは淡蒼球の低信号の中に高信号がみられ(Hayflick 2003)、多系統萎縮症(パーキンソン型)ではT2*強調像・SWIでの被殻の低信号がパーキンソン病との区別に役立つ(Lim 2022)。
淡蒼球
- 淡蒼球は基底核の一部で、特に鉄分が豊富に蓄積されることが知られている。
- 鉄はMRIでのT2緩和時間を短縮し、SWIおよびT2WIで低信号を示す。この低信号は加齢とともに目立つ生理的な所見であり、それだけで病的と判断しない。
- なお淡蒼球にCTで生理的な高吸収を認めることがあるが、これは主に石灰化を見ている(下の関連記事を参照)。石灰化もT2*強調像で低信号になるため、迷うときはCTで高吸収かどうかを確かめる(Greenberg 2009)。
赤核と黒質
- 赤核と黒質もまた、鉄を多く含む脳の領域であり、SWIおよびT2WIで低信号を示す(Drayer 1986)。これらの構造は、運動制御と調節に関与しており、パーキンソン病などの運動障害の病態解析において重要である。
視床下核と歯状核
- 視床下核(大脳基底核の一部で運動の調節に関わる)と小脳の歯状核も、生理的に鉄が沈着しやすい部位で、T2WI・SWIで低信号に見えることがある。
- また歯状核も淡蒼球同様にCTで高吸収(石灰化)を認めることがある。
生理的鉄沈着のMRI画像所見
- 鉄はT2WIおよびT2*WI、またSWIにて低信号を呈する。特に後者2つが有用。DWIもT2WIを反映して低信号に見えることが有る。関連:脳MRIのDWIで「周りより低信号(黒く)」見えるのはどんな場所や解剖?
- T2*WIやSWIは磁化率効果を強く反映するため、T2WIよりも鉄による信号低下が目立つ。
- 年齢とともに低信号が目立ってくる順番は、淡蒼球が最も早く、次いで赤核・黒質である(Aoki 1989)。
T2強調像・T2*強調像・SWIの違い
| 撮像法 | しくみ | 鉄・出血の見え方 |
|---|---|---|
| T2強調像(T2WI) | スピンエコー法で撮る基本の画像 | 鉄の多い神経核は低信号。小さな出血は目立ちにくい |
| T2*強調像(T2スター) | グラディエントエコー法。磁化率(磁場の乱れ)に敏感 | 鉄・ヘモジデリン・石灰化が大きく黒く見える(blooming) |
| SWI(磁化率強調像) | 位相画像から作ったマスクで磁化率の差を強調(Haacke 2004) | 鉄・静脈・微小出血がさらに鋭敏に見える |
生理的鉄沈着と陳旧性出血(微小出血)の見分け方
| 生理的鉄沈着 | 微小出血(陳旧性出血) | |
|---|---|---|
| 場所 | 淡蒼球・黒質・赤核・歯状核など | 脳のあちこちに散在 |
| 左右差 | 左右対称 | 非対称でばらばら |
| 形 | 神経核の形に沿った低信号 | 小さな円形〜楕円形の点状低信号(大きさの上限は報告により5〜10mm) |
カルシウムや鉄の沈着も小さな低信号に見えますが、通常は両側の基底核にみられます(Greenberg 2009)。
症例 70歳代女性

T2*WIの横断像において、淡蒼球、中脳の赤核、中脳の黒質、小脳の歯状核にそれぞれ低信号を認めています。
いずれも生理的鉄沈着を疑う所見です。
鑑別
- T2WI・T2*WIで低信号になるものとしては、鉄沈着の他に、出血(ヘモジデリン・デオキシヘモグロビン)、石灰化、血管内の速い血流(flow void)などがある(Greenberg 2009)。
脳の鉄沈着とMRIでよくある疑問(Q&A)
Q. T2スター(T2*)で黒く(低信号に)見えたら出血ですか?
A. そうとは限りません。淡蒼球や黒質などが左右対称に黒いのは、多くが年齢相応の生理的な鉄沈着です。石灰化も黒く見えるため、場所・形・左右差をみて、必要ならCTで確かめます(Greenberg 2009)。
Q. MRIで「脳に鉄がたまっている」と言われました。病気ですか?
A. 脳の鉄は年齢とともに増えていくもので(Drayer 1986)、決まった場所に年齢相応にみられるものは正常です。手足の動かしにくさなどの症状がある場合は、主治医や脳神経内科で相談してください。
参考文献:
- Radiopaedia – Substantia Nigra
- Harder SL, et al. Mineralization of the deep gray matter with age: a retrospective review with susceptibility-weighted MR imaging. AJNR Am J Neuroradiol. 2008;29(1):176-183. PubMed
- Neuroradiology – Bilateral Basal Ganglia T2 Hypointensity
- Aoki S, Okada Y, Nishimura K, et al. Normal deposition of brain iron in childhood and adolescence: MR imaging at 1.5 T. Radiology. 1989;172(2):381-385. PubMed
- Drayer B, Burger P, Darwin R, et al. MRI of brain iron. AJR Am J Roentgenol. 1986;147(1):103-110. PubMed
- Aquino D, Bizzi A, Grisoli M, et al. Age-related iron deposition in the basal ganglia: quantitative analysis in healthy subjects. Radiology. 2009;252(1):165-172. PubMed
- Haacke EM, Xu Y, Cheng YC, et al. Susceptibility weighted imaging (SWI). Magn Reson Med. 2004;52(3):612-8. PubMed
- Greenberg SM, Vernooij MW, Cordonnier C, et al. Cerebral microbleeds: a guide to detection and interpretation. Lancet Neurol. 2009;8(2):165-74. PubMed
- Hayflick SJ, Westaway SK, Levinson B, et al. Genetic, clinical, and radiographic delineation of Hallervorden-Spatz syndrome. N Engl J Med. 2003;348(1):33-40. PubMed
- Lim SJ, Suh CH, Shim WH, et al. Diagnostic performance of T2* gradient echo, susceptibility-weighted imaging, and quantitative susceptibility mapping for patients with multiple system atrophy-parkinsonian type: a systematic review and meta-analysis. Eur Radiol. 2022;32(1):308-318. PubMed
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症例で、「T2*Wlの横断像が低信号なので生理的鉄沈着」と書かれていますが、本文で「ヘモジデリンではよりT2*WIで低下」との記載もされています。T2*Wlの低信号=鉄沈着と覚えて良いのでしょうか?
コメントありがとうございます。
>T2*Wlの低信号=鉄沈着と覚えて良いのでしょうか?
ではないです。石灰化などでも低信号となります。
詳細はこちらの記事をご覧ください。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/35883