
先に結論:DTIは「水の動く方向」から線維を推定する。数値と図は、推定であることを前提に読む
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何を測るか | 水分子の拡散の方向性(異方性)。白質では線維に沿った方向に拡散しやすい |
| FA(fractional anisotropy) | 拡散の方向の偏りの強さ。0〜1で、1に近いほど一方向に偏る。白質の線維が整っているほど高い |
| カラーマップ | 線維の向きを色で表す。一般に、赤=左右、緑=前後、青=上下 |
| トラクトグラフィー | 拡散の主な向きを順番につないで線維の走行を計算で描いたもの。推定であり、実在しない線維も描かれうる |
| 臨床での使い道 | 脳腫瘍の手術前に神経路との位置関係を見る、脳梗塞後の神経路の変化を見る、など |
DTIの原理:なぜ線維の向きが分かるのか
脳の中の水分子は、細胞や線維の壁にぶつかりながら動いています。灰白質や髄液のように壁が少ない場所では、どの方向にもほぼ同じように動けます(等方性の拡散)。一方、白質では神経線維の軸索と髄鞘が壁になり、線維に沿った方向には動きやすく、線維を横切る方向には動きにくいという方向の偏り(異方性)が生じます(Nanda 2022)。
この方向ごとの動きやすさを、数学の「テンソル」で表すのがDTIです。テンソルは楕円体の形で表され、最も長い軸の向きがその場所の線維の向きの推定値になります。通常のDWI(拡散強調像)が「水の動きにくさの強さ」を見るのに対し、DTIは「動きやすい向き」まで調べる点が違います。DWIの基本はMRIの基本シーケンスを部位別にで整理しています。
FA・MD・カラーマップの読み方
| 指標 | 意味 | 病気での変化の例 |
|---|---|---|
| FA | 拡散の方向の偏り(異方性)の強さ | 線維の障害や破壊で低下する。脊髄損傷の部位ではFAの低下が一貫して見られる(Nanda 2022) |
| MD(平均拡散能) | 水の動きやすさの平均。ADCに近い指標 | 線維や組織の破壊で上昇することが多い。ただし値は研究ごとにばらつく(Nanda 2022) |
| カラーFAマップ | FAの強さと線維の向きを色と明るさで表した画像 | 赤=左右(脳梁など)、緑=前後、青=上下(皮質脊髄路など)。左右差を見る |
グリオーマ(神経膠腫)の患者48人(うち34人がgrade IIまたはIIIの膠腫)を3TでDTI撮像した前向き研究では、腫瘍が入り込んでいると見えた神経路の区間では、相対FA(rFA)が低く、相対MD(rMD)が高い傾向があり、その割合はそれぞれ89%と78%でした(Delgado 2016)。FAが低く、MDが高いという組み合わせは、線維の構造が乱れたサインとして使われますが、浮腫・腫瘍浸潤・神経の変性など、複数の原因で起こる点に注意します。
主な白質線維と、トラクトグラフィーで見る線維の種類
白質の神経線維は、大きく3種類に分けられます。連合線維(同じ側の皮質どうしをつなぐ)、交連線維(左右の半球をつなぐ)、投射線維(皮質と、視床・脳幹・脊髄などをつなぐ)です。
| 分類 | 線維束の例 | つなぐ場所 |
|---|---|---|
| 連合線維 | 弓状束 | 前頭葉と側頭葉(言語野の連絡。ブローカ野・ウェルニッケ野も参照) |
| 連合線維 | 下前頭後頭束(IFOF) | 後頭葉と前頭葉 |
| 連合線維 | 下縦束(ILF) | 後頭葉と側頭葉 |
| 連合線維 | 鉤状束 | 側頭葉前部と前頭葉 |
| 連合線維 | 帯状束 | 帯状回に沿って前後をつなぐ。辺縁系の一部 |
| 交連線維 | 脳梁(前方は鉗子状に前頭葉へ) | 左右の半球。詳細は脳梁とは? |
| 投射線維 | 皮質脊髄路 | 運動野から内包・脳幹を通り脊髄へ。錐体路のMRI解剖で位置を確認 |
| 投射線維 | 視放線 | 外側膝状体から後頭葉へ。視路のMRI画像解剖 |
| 辺縁系の線維 | 脳弓 | 海馬から乳頭体へ |
症例 トラクトグラフィーで描いた白質線維

引用:Delgado AF, et al. Radiol Res Pract 2016;2016:7671854(Figure 1)。PMC、CC BY 4.0
3D-トラクトグラフィー(TrackVis)で、グリオーマの患者さんの、腫瘍と反対側の半球の主な線維束を描いた図です。(a)皮質脊髄路(3つの区間)、(b)下前頭後頭束、(c)帯状束、(d)海馬傍回の帯状束、(e)弓状束、(f)下縦束、(g)鉤状束、(h)脳弓、(i)脳梁(前頭葉へ向かう鉗子状の部分)を示します。背景はFAのカラーマップで、色が線維の向きを表しています。
トラクトグラフィーの限界:描かれた線維をどこまで信じるか
トラクトグラフィーは、拡散の主な向きを1つの点から次の点へとつなげて、線維の走行を計算で描きます。最も単純な方法(ボクセル単位)から、ボクセルより細かい単位で向きを考える方法(サブボクセル法)まであり、どの方法にも固有の技術的な限界があります(Chung 2011)。
この限界を調べるため、正解の線維束が分かっているシミュレーションの脳データを使った国際的な比較試験(20の研究グループが96通りの解析を提出)が行われました。現在広く使われている多くのアルゴリズムは、正解の線維束の90%をある程度は描き出せましたが、同じ結果の中には実在しない線維束がそれよりずっと多く含まれ、その半分は研究グループが違っても同じように現れました。つまり、向きの情報だけで線維を再構成することには、本来の曖昧さがあり、解釈に注意が必要だと結論されています(Maier-Hein 2017)。
| よくある落とし穴 | 考え方 |
|---|---|
| 線維が描かれない=線維がない | 浮腫や腫瘍で拡散の向きが乱れると、線維があっても描けないことがある。描けないことが障害の証明にはならない |
| 線維が描かれた=その線維は実在する | 実在しない線維が描かれることがある(Maier-Hein 2017)。解剖と合わせて確認する |
| FAが低い=線維が壊れた | 浮腫・腫瘍浸潤・線維が交叉する場所でも低下する。左右差や臨床症状と合わせて判断する |
| 施設や装置が違っても同じ値 | 撮像条件と解析が標準化されていない。基準値の使い回しはできない(Nanda 2022) |
臨床での使い道
脳腫瘍の手術前:神経路との位置関係
低悪性度のグリオーマは、白質線維に浸潤するように広がります。手術前にDTIで神経路との位置関係を見ておくと、手術計画の参考になります。先ほどの研究では、腫瘍の浸潤が疑われた区間で、rFAが低くrMDが高い傾向があり、視覚的な評価と定量的な評価が一致したため、手術前の客観的な評価に役立つ可能性があると結論されています(Delgado 2016)。ただし、これは線維の位置関係を示す補助情報であり、手術の方針は他の画像や機能検査も合わせて決められます。
脳梗塞のあと:皮質脊髄路の変性(Wallerian変性)
中大脳動脈の脳梗塞で、梗塞から離れた場所の神経線維が、時間をかけて変性していく現象をWallerian変性と呼びます。梗塞後2〜16日の9人を調べた研究では、通常のT2強調像ではまだ変化が見えない時期に、障害された側の大脳脚でFAが低下していました。そのFAの低下は、検査時と3か月後(90日後)の運動麻痺の程度と相関していました(Thomalla 2004)。通常のMRIで見えない変化を捉えられる点が、DTIの強みです。皮質脊髄路の走行は錐体路(皮質脊髄路)のMRI解剖で確認できます。
脊髄:外傷での使い方
脊髄の白質でも同じ原理が使えます。脊髄損傷の部位ではFAが低下し、3Dのトラクトグラフィーで脊髄の連続性や形、向きを見ることができ、DTIの指標と脊髄損傷の重症度スコアの間に相関が見られると報告されています。一方、撮像と解析の難しさ、標準化されたプロトコルや読影の指針がないことから、日常診療への導入には課題が残るとされています(Nanda 2022)。
DTIの結果を読むときのチェックリスト
- 撮像条件を確認する:施設ごとに拡散の方向数や強さが違う。他の施設の数値と直接比べない。
- FAマップとカラーマップを先に見る:左右差、線維束の途切れ、色の違い。
- 構造画像と重ねる:T2・FLAIR・造影T1と重ねて、腫瘍・浮腫・出血との位置関係を確認。
- 反対側と比べる:同じ線維束の左右差を見る。左右対称なはずの場所に差があるか。
- トラクトグラフィーは推定と心得る:描かれた線維と描かれなかった線維の両方に注意。
- 症状と合わせる:運動・言語・視覚など、症状と線維束の関係を確認。
よくある疑問(Q&A)
Q. FAの値はどれくらいが正常ですか?
A. FA値は撮像条件や装置、解析方法で変わるため、基準値をそのまま他の施設に使うことはできません。同じ施設・同じ条件で、同じ線維束の左右差や過去の画像との比較で見るのが基本です(Nanda 2022)。
Q. トラクトグラフィーで線維が途切れていたら、線維が切れているのですか?
A. それだけでは言い切れません。浮腫や腫瘍で拡散の向きが乱れると、線維があっても描けないことがあり、逆に、実在しない線維が描かれることもあります(Maier-Hein 2017)。構造画像や症状と合わせて判断します。
Q. DTIは通常のMRIで見えないものを見られますか?
A. 脳梗塞のあと、T2強調像ではまだ変化が見えない2週間以内に、障害された側の大脳脚でFAが低下していたという報告があります(Thomalla 2004)。ただし、診療に使えるかどうかは、病気と施設の体制によります。
Q. 手足の動かしにくさや言葉の出にくさがあります。DTIを受けたほうがよいですか?
A. 症状が続くときは、まず医療機関で相談してください。どの検査が必要かは、症状や診察の結果で決まります。
あわせて読みたい:脳神経の解剖、脊髄伝導路の解剖、第4脳室の解剖
参考文献
- Chung HW, Chou MC, Chen CY. Principles and limitations of computational algorithms in clinical diffusion tensor MR tractography. AJNR Am J Neuroradiol. 2011;32(1):3-13. PubMed
- Maier-Hein KH, Neher PF, Houde JC, et al. The challenge of mapping the human connectome based on diffusion tractography. Nat Commun. 2017;8(1):1349. PubMed
- Delgado AF, Nilsson M, Latini F, et al. Preoperative Quantitative MR Tractography Compared with Visual Tract Evaluation in Patients with Neuropathologically Confirmed Gliomas Grades II and III: A Prospective Cohort Study. Radiol Res Pract. 2016;2016:7671854. PubMed
- Thomalla G, Glauche V, Koch MA, et al. Diffusion tensor imaging detects early Wallerian degeneration of the pyramidal tract after ischemic stroke. Neuroimage. 2004;22(4):1767-74. PubMed
- Nanda G, Jain P, Suman A, et al. Role of diffusion tensor imaging and tractography in spinal cord injury. J Clin Orthop Trauma. 2022;33:101997. PubMed
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