
先に結論:Papez回路は「海馬→脳弓→乳頭体→視床前核→帯状回→海馬傍回」の輪で、MRIでは各部分を順に見る
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 回路 | 海馬→脳弓→乳頭体→乳頭視床路→視床前核→帯状回→海馬傍回(嗅内野)→海馬 |
| 役割 | 記憶と情動(1937年にPapezが提唱) |
| MRIで見る場所 | 海馬は冠状断、脳弓・乳頭体・帯状回は矢状断、視床前部は軸位・冠状断 |
| 記憶障害で疑う病変 | 脳弓の梗塞、乳頭体や乳頭視床路の障害(Wernicke脳症など)、視床の梗塞、海馬の硬化や萎縮 |
| 注意 | この一方向の輪という見方は見直しが進んでおり、回路の一部が壊れた症状と画像の対応は個人差がある |
辺縁系とPapez回路とは
辺縁系は、大脳の内側面で脳幹をとりまく(縁取る)ように位置する領域の総称で、情動や記憶にかかわります。海馬、扁桃体、帯状回、海馬傍回、脳弓、乳頭体、視床前核などが含まれます。
Papez回路は、1937年にJames Papezが提唱した回路で、記憶と情動を制御すると考えられてきました。帯状皮質、嗅内野、海馬傍回、海馬、視床下部(乳頭体)、視床で構成されます。のちにYakovlevとMacLeanが、前頭前野・眼窩前頭皮質、中隔、扁桃体、側頭葉前部を加えて、辺縁系の概念を広げました(Kamali 2023)。
近年は、拡散強調の線維追跡(トラクトグラフィー)で、辺縁系の線維の結びつきがさらに見つかっています(Kamali 2023)。また、Papez回路を「順番に流れる1本の回路」と考える見方は、解剖と機能の新しい知見からは単純すぎるとして、視床前核と海馬体の「対等な連携」へ考え方を改めるべきだという提案も出ています(Aggleton 2022)。画像を読むときは、「回路の名前」ではなく「その構造そのものが壊れていないか」を確認する、という使い方が実用的です。
輪をつくる構造の場所とMRIでの見つけ方
| 構造 | 場所 | 見る断面・ポイント |
|---|---|---|
| 海馬・海馬傍回(嗅内野) | 側脳室下角の内側壁にある海馬。その内側下方に海馬傍回 | 冠状断で左右の大きさ・形・信号を比べる。詳しい正常像は頭部MRIの冠状断・矢状断の解剖 |
| 脳弓 | 海馬から出て、脳梁の下をアーチ状に走り、モンロー孔の前で下に降りる | 軸位断で、モンロー孔(室間孔)の外側に左右の脳弓柱。矢状断で脳梁の下のアーチ |
| 乳頭体 | 視床下部の後方、脚間窩の前にある1対の小さな丸い構造 | 矢状断のT1・T2・FLAIRで大きさと信号を見る |
| 乳頭視床路 | 乳頭体から視床前核へ向かう線維束 | 直接は見えにくい。乳頭体と視床前部の病変から推定する |
| 視床前核 | 視床の前方の核 | 軸位・冠状断で、視床の前部の信号 |
| 帯状回 | 脳梁の上を走る内側面の脳回 | 矢状断で脳梁の上をたどる。脳梁は脳梁とは?吻部・膝部・体部・膨大部の場所 |
脳弓は海馬からの主要な出力線維で、脳梁の下を走り、乳頭体に至ります。脳弓の梗塞は、脳梁下動脈や外側後脈絡叢動脈の領域で起こる、まれだがよく知られた脳卒中症候群とされています(Bradshaw 2024)。
記憶障害の画像:どの輪が壊れたか
記憶障害の画像診断では、輪のどこが壊れても症状が似るため、1か所に病変を見つけても、他の部分も確認することが大切です。代表的な原因ごとに整理します。
| 障害される場所 | 原因の例 | MRIのポイント |
|---|---|---|
| 脳弓 | 梗塞(両側脳弓梗塞) | DWIで脳弓柱に左右対称の高信号。モンロー孔の外側 |
| 乳頭体・乳頭視床路 | Wernicke脳症・Korsakoff症候群、視床梗塞 | 乳頭体のT2・FLAIR高信号(急性)、萎縮(慢性) |
| 視床 | 視床の梗塞(Percheron動脈領域など) | 視床の傍正中部〜前部のDWI高信号 |
| 海馬・海馬傍回 | 海馬硬化症(側頭葉てんかん)、アルツハイマー病、てんかん発作後 | 冠状断で海馬の萎縮・T2/FLAIR高信号、左右差 |
脳弓の梗塞:両側性は記憶障害で発症する
孤立性の両側脳弓梗塞の症例報告では、急性の記憶障害で発症し、MRIで脳弓の前方の柱(anterior columns)に両側性の梗塞が認められました。9か月後には記憶障害の重さはいくらか軽くなったものの、前向性健忘(新しいことを覚えられない)は大きく残り、日常生活の障害が続いたと報告されています(Bradshaw 2024)。脳弓の梗塞は、DWIを撮らなければ見逃されやすい病変です。
症例 両側脳弓梗塞(健忘で発症)のMRI

引用:Bradshaw J, et al. BMJ Neurol Open 2024;6:e000655(Figure 1)。PMC、CC BY-NC 4.0
健忘で発症した症例の拡散強調像(DWI、A)とADC map(B)です。3日目のMRIで、モンロー孔の外側の左右対称な拡散制限が認められ、脳弓の前方の柱の急性梗塞と診断されました。
乳頭体と乳頭視床路:Wernicke脳症、視床梗塞
Wernicke脳症では、乳頭体・中脳水道周囲灰白質・視床・視床下部・中脳蓋が典型的に侵されます。47例の検討では、MRIで異常があったのは77%(36例)で、FLAIRが最も異常を検出しやすい撮像でした。MRIで偽陰性になるのは約4分の1の例で、神経症状への注意が診断に大切です。SWIでは、乳頭体の微小出血が検出された例もありました。短期記憶の低下と関連したのは乳頭体の変化(オッズ比2.2)だけでした(Arendt 2024)。詳細はウェルニッケ脳症とは?原因・症状とMRI画像所見にまとめています。
視床の梗塞による記憶障害では、乳頭体から視床前核へ向かう乳頭視床路が重要です。左視床梗塞の12例の検討では、乳頭視床路が障害された例の記憶障害が重く、背内側核だけの障害では程度が軽いことが分かりました(Danet 2015)。視床梗塞は両側視床傍正中部梗塞(Percheron動脈梗塞)のMRI画像診断と症状も参考になります。
海馬硬化症と輪の他の部分:脳弓・乳頭体の萎縮
側頭葉てんかんの海馬硬化症では、海馬だけでなく、輪の他の部分にも変化が出ることがあります。海馬硬化症が疑われた15例のMRIでは、Papez回路の構造に萎縮や信号の変化があったのは5例で、海馬傍回が5例すべて、脳弓が4例、乳頭体が3例、視床が2例、帯状回が1例でした。脳弓・乳頭体・視床・帯状回の変化は、いつも海馬と海馬傍回の萎縮に伴っていました(Oikawa 2001)。
乳頭体の萎縮は、海馬硬化症を伴う側頭葉てんかんの69例中18例(26.1%)に認められましたが、臨床的な意義は小さいと報告されています(Cho 2022)。乳頭体が小さいからといって、すぐに病的と決めないことが大切です。海馬硬化症の読影は海馬硬化症(内側側頭葉硬化症)のMRI画像診断で解説しています。
記憶障害のMRIを読む順番
- 冠状断で海馬を見る:左右の大きさ、形、T2/FLAIRの信号。内側側頭葉の萎縮や高信号。
- 脳弓を見る:軸位断でモンロー孔の外側にある左右の柱、矢状断で脳梁の下のアーチ。DWIで高信号がないか。
- 乳頭体を見る:矢状断で大きさと信号。FLAIR/T2の高信号(急性)と萎縮(慢性)。Wernicke脳症が疑われる場合は、中脳水道周囲灰白質・視床・視床下部・中脳蓋も一緒に確認する。
- 視床前部・内側部を見る:DWI・FLAIRで梗塞を探す。
- 帯状回と海馬傍回を見る:矢状断で脳梁の上、冠状断で海馬の下方。
- 左右差と対称性を見る:両側対称の病変は、代謝・中毒・血管(Percheron動脈、脳弓)などを考える。
見落としやすいところ・よくある間違い
| 間違いやすい点 | 考え方 |
|---|---|
| 海馬だけ見て終わり | 記憶障害では、脳弓・乳頭体・視床も原因になる。輪の全体を確認する |
| 脳弓の梗塞はCTやT2で見える | 急性期はDWIでないと分かりにくいことがある。記憶障害ではDWIを含めて撮る |
| 乳頭体の萎縮はいつも病的 | 側頭葉てんかんで26.1%にみられるが臨床的意義は小さいと報告されている(Cho 2022) |
| Wernicke脳症はMRIで除外できる | MRIの偽陰性は約4分の1で、症状と合わせて判断する(Arendt 2024) |
| Papez回路の一方向の輪が絶対 | 視床前核と海馬体の連携という見方があり、回路のどの部分でも似た症状が出る(Aggleton 2022) |
よくある疑問(Q&A)
Q. Papez回路とは何ですか?
A. 海馬から脳弓、乳頭体、乳頭視床路、視床前核、帯状回、海馬傍回を経て海馬に戻る、記憶と情動にかかわる経路で、1937年にPapezが提唱しました(Kamali 2023)。画像診断では、これらの構造を1つずつ確認するための地図として使います。
Q. 脳弓の梗塞は、画像で見つけられますか?
A. DWIで、モンロー孔の外側の脳弓柱に左右対称の高信号を探します。両側の脳弓梗塞の症例報告では、3日目のMRIで拡散制限とFLAIR高信号が確認されました(Bradshaw 2024)。孤立性の脳弓梗塞はまれです。
Q. 乳頭体が小さいと言われました。病気ですか?
A. 乳頭体の萎縮は、海馬硬化症を伴う側頭葉てんかんの69例中18例(26.1%)に認められましたが、臨床的な意義は小さいと報告されています(Cho 2022)。アルコール多飲歴やWernicke脳症が疑われる場合は、他の所見や症状と合わせて判断します。
Q. もの忘れが気になります。MRIで何が分かりますか?
A. MRIでは、海馬の萎縮や、脳弓・視床・乳頭体の病変など、記憶にかかわる場所の異常を調べられます。気になる症状が続く場合は、医療機関で相談してください。
あわせて読みたい:脳神経の解剖、脊髄伝導路の解剖、第4脳室の解剖
参考文献
- Kamali A, Milosavljevic S, Gandhi A, et al. The Cortico-Limbo-Thalamo-Cortical Circuits: An Update to the Original Papez Circuit of the Human Limbic System. Brain Topogr. 2023;36(3):371-389. PubMed
- Aggleton JP, Nelson AJD, O’Mara SM. Time to retire the serial Papez circuit: Implications for space, memory, and attention. Neurosci Biobehav Rev. 2022;140:104813. PubMed
- Oikawa H, Sasaki M, Tamakawa Y, et al. The circuit of Papez in mesial temporal sclerosis: MRI. Neuroradiology. 2001;43(3):205-10. PubMed
- Cho KH, Lee HJ, Lee DA, et al. Mammillary Body Atrophy in Temporal Lobe Epilepsy With Hippocampal Sclerosis. J Clin Neurol. 2022;18(6):635-641. PubMed
- Bradshaw J, Choi PM, Wrigley S. Long-term cognitive recovery following isolated bilateral infarction of the fornix presenting with amnesia. BMJ Neurol Open. 2024;6(1):e000655. PubMed
- Danet L, Barbeau EJ, Eustache P, et al. Thalamic amnesia after infarct: The role of the mammillothalamic tract and mediodorsal nucleus. Neurology. 2015;85(24):2107-15. PubMed
- Arendt CT, Uckermark C, Kovacheva L, et al. Wernicke Encephalopathy: Typical and Atypical Findings in Alcoholics and Non-Alcoholics and Correlation with Clinical Symptoms. Clin Neuroradiol. 2024;34(4):881-897. PubMed
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