失語の話になると必ず出てくるのが、Broca野(ブローカ野)とWernicke野(ウェルニッケ野)です。

今回は、両者のMRI画像での大まかな位置についてまとめました。

Broca野(運動性言語中枢)の同定

  • Broca野は、一般に前頭葉の左下前頭回(IFG:Inferior Frontal Gyrus)の後部に位置する。
  • ブロードマンの脳地図では44野(弁蓋部)と45野(三角部)に相当する。

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MRIでのBroca野の同定

矢状断像で前頭葉と側頭葉の境界であるシルビウス裂(外側溝)を同定し、外側に追っていく。

シルビウス裂(外側溝)から見て前方の前水平枝と頭側の前上行枝を同定し、それらによって囲まれた部分が三角部、前上行枝より背側部分が弁蓋部である。

またこれらを合わせたのがBroca野である。

現実には矢状断像が撮影されていないことの方が多く、横断像である程度同定できた方が良い。

横断像ではシルビウス裂からほぼ直行して外側に連続する前上行枝(脳表から島表面まで達する深い脳溝)を同定する。

  • 前上行枝より前方が三角部
  • 前上行枝より後方が弁蓋部

と同定でき、これらを合わせたのがBroca野であると同定できる。

伝統的に44野と45野がBroca野とされるが、近年の機能的MRI(fMRI)を用いた研究では、より広範な前頭前野や島皮質とのネットワークが言語生成に関与していることが示唆されている (Keller et al., 2009)。

 Wernicke野(感覚性言語中枢)の同定

  • Wernicke野の定義はBroca野よりも議論が分かれることが多いが、解剖学的には左上側頭回(STG:Superior Temporal Gyrus)の後部、ブロードマンの22野を指すのが一般的である。

MRIでのWernicke野の同定

矢状断像で前頭葉と側頭葉の境界であるシルビウス裂(外側溝)を同定する。

それに平行して走行する上側頭溝を同定する。するとその間が上側頭回でありその後方にWernicke野が存在する。

横断像では目安として前交連、後交連が見えるレベルで後交連よりもやや尾側に存在するのがWernicke野である。

 

Broca野とWernicke野の比較

項目 Broca野 Wernicke野
解剖学的場所 下前頭回(弁蓋部・三角部) 上側頭回後部
ブロードマン領域 44野, 45野 22野
主な機能 発話、文法構築 言語の理解、意味処理
損傷時の症状 運動性失語(言葉が出にくい) 感覚性失語(理解不能、流暢な錯語)
  • これら二つの領域は独立しているわけではない。弓状束(Arcuate Fasciculus)と呼ばれる白質線維束によって強く結ばれている。
  • MRIのDTI(拡散テンソル画像)などでこの線維束を確認することができる。Broca野やWernicke野そのものに病変がなくても、この連絡路(弓状束)が脳梗塞や腫瘍で遮断されると、伝導性失語を呈するため注意が必要である。

参考文献

  • Keller, S. S., Crow, T., Foundas, A., Amunts, K., & Roberts, N. (2009). Broca’s area: Clicking the interface between shape and function. Brain and Language.
  • Tremblay, P., & Dick, A. S. (2016). Broca and Wernicke are dead, or moving past the classic model of language neurobiology. Brain and Language.
  • 井上 聖啓(著)『神経局在診断』

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