
腹部大動脈瘤とは、おなかの大動脈が直径3cm以上にふくらんだ状態で、多くは腎動脈より下にでき、太くなるほど破裂しやすくなります。研修医のハジメくんと一緒に、CTでどこをどう測るか、太さと破裂リスク・検査の間隔・手術の目安、破裂と切迫破裂のCT所見を整理します。
先に結論
- 腹部大動脈瘤とは、おなかの大動脈が直径3cm以上にふくらんだ状態。ふだんは症状がなく、エコーや別目的のCTで見つかることが多い。
- CTでは壁在血栓も含めた外壁から外壁までを、血管に直交する断面で測る。エコーはCTより小さめに出やすい。
- 太いほど破裂しやすく、男性はおおむね5.5cmが手術を考える目安。破裂は後腹膜血腫、切迫破裂はcrescent signを探す。
目的から読む: 腹部大動脈瘤とは / 原因・なりやすい人 / CTでの測り方 / 大きさと破裂リスク / 検査の間隔 / 手術・ステントグラフトの目安 / 破裂のCT所見
腹部大動脈瘤とは?直径3cm以上で診断
腹部大動脈瘤とは、おなかの大動脈が直径3.0cm以上にふくらんだものです。多くは腎動脈が分かれる所より下にできます。

腹部大動脈瘤(AAA)の定義と場所
大動脈は心臓から出て、胸からおなかへ下り、へその高さあたりで左右の足へ向かう血管(総腸骨動脈)に分かれます。おなかの部分(腹部大動脈)がこぶのようにふくらんだものが腹部大動脈瘤(英語でAAA)です。多くは腎臓の動脈が分かれるところより下(腎動脈下)にできます。
臨床研究では、直径3.0cm以上を腹部大動脈瘤とし、3.0〜5.4cmを「小さい瘤(small AAA)」として経過観察の対象にしています(RESCAN 2013, Sweeting 2012)。胸の大動脈瘤も含めた定義・形(紡錘状・嚢状)・種類(真性・仮性・解離性)は「大動脈瘤とは?定義と分類」でまとめています。
ふだんは症状がないことがほとんどで、健診のエコーや、ほかの病気で撮ったCTで偶然見つかるのが典型的です。
太さ・形・症状で見た目安
| 項目 | 目安 | 文献 |
|---|---|---|
| 診断 | 腹部大動脈の直径3.0cm以上。3.0〜5.4cmは小さい瘤として経過観察の対象 | RESCAN 2013 |
| 破裂のしやすさ | 小さいうちは破裂はまれ。太くなるほど破裂しやすい | RESCAN 2013 |
| 手術を考える太さ | 男性はおおむね5.5cm。女性・急な拡大・症状・嚢状は早めに血管外科へ相談 | Lederle 2002, Sweeting 2012 |
| 急ぐ症状 | 急なおなか・腰・背中の激痛、血圧低下 → 破裂を考えて緊急のCTと血管外科への連絡 | Rakita 2007 |
腹部大動脈瘤の原因・なりやすい人(危険因子)
いちばん強い危険因子は喫煙で、男性・高齢・家族歴・動脈硬化の病気が加わります。禁煙するとリスクは下がります(Kent 2010)。
アメリカの約310万人の超音波検診データでは、次のような関係が示されました(Kent 2010)。
- 喫煙:吸っていた年数・本数が多いほどなりやすく、禁煙するとリスクは下がる
- 男性・高齢・家族歴(親きょうだいに大動脈瘤)
- 心臓や血管の病気(動脈硬化)がある
- 体重オーバー。運動、野菜・果物・ナッツをとる人は少ない傾向
大動脈の壁にカルシウムがたまる「石灰化」とは別の所見です。石灰化だけの場合は「大動脈の石灰化」、太さは正常で曲がっているだけなら「大動脈の蛇行」の記事も参考にしてください。
腹部大動脈瘤のCT所見と測り方
CTでは、背骨の前の大動脈が輪切りで丸くふくらみ、内側に壁在血栓がドーナツ状についていることがよくあります。太さは血栓も含めた外壁から外壁までを測ります。


治療方針は太さ(血管に直交する断面での外壁間の最大径)でほぼ決まるため、測り方がとても大切です。
- 血管の外の壁から外の壁まで(outer-to-outer)を測る方法が、CTでも再現性が高い方法の一つです(Tomee 2021)
- 大動脈が曲がっていると、輪切り(横断像)のままでは斜めに切れて太めに測れてしまうため、血管の走行に直交する断面(MPR・曲面再構成)で測ると正確になります

エコーとCTの差・測り直しのぶれ
- エコーはCTより小さめに出やすい:測り方によって平均1〜5mmほど小さく測れたという報告があります(Chiu 2014)。前回とちがう検査で比べるときは注意が必要です
- 決まった手順のエコーでも、同じ人が測り直すと1.6mm程度はぶれます(Tomee 2021)。数mmの変化は誤差のこともあります
| 比べたこと | 結果 | 文献 |
|---|---|---|
| エコーの3つの測り方とCT | CTより外壁-外壁で平均1mm、前縁-前縁で3mm、内壁-内壁で5mm小さい | Chiu 2014 |
| 手順を決めたエコーと各施設のCT | CTが平均4.1mm大きい。測り方をそろえると差は1.8mmに縮まった | Tomee 2021 |
| CTでの測る人どうしの一致(ICC) | 内壁-内壁 0.94、外壁-外壁 0.96 | Tomee 2021 |
症例 70歳代男性 別の検査で偶然見つかった腹部大動脈瘤(治療前の精査)

引用:Radiopaedia(Abdominal aortic aneurysm)
腎動脈の分かれ目より下の大動脈が、こぶ状に大きくふくらんでいます(この症例では最大径59mm)。白く造影されている血液の通り道(内腔)のまわりを、灰色の血栓(壁在血栓)が厚く取り囲んでおり、壁には白い石灰化も見えます。瘤の大きさは、この血栓も含めた外側の壁から壁までで測ります。
レポートに書いておくこと
| 項目 | なぜ書くか |
|---|---|
| 最大径(直交断面・外壁間) | 経過観察の間隔と手術の目安を決める値 |
| 瘤の上端と腎動脈との距離 | ステントグラフト(EVAR)ができるかの判断に使う |
| 総腸骨動脈への広がり | 治療の範囲が変わる |
| 壁在血栓・壁の石灰化の途切れ | 切迫破裂・破裂の手がかり |
| 周囲の脂肪のにごり・軟部組織 | 炎症性・感染性の手がかり |
周囲に厚い軟部組織がまとわりつくタイプは「炎症性腹部大動脈瘤」で、嚢状で周囲が炎症を起こしているときは「感染性大動脈瘤」で、それぞれ症例のCTと見分け方を確かめられます。
腹部大動脈瘤の大きさと破裂リスク
太さが0.5cm増えるごとに破裂の起こりやすさは約1.9倍になります(RESCAN 2013)。小さい瘤の拡大は平均で年に約2.2mmです(Sweeting 2012)。

小さい瘤(3.0〜5.4cm)の約1万5千人のデータをまとめた研究では、次のことがわかっています。
| わかったこと | 数値 | 文献 |
|---|---|---|
| 平均の大きくなる速さ | 年に約2.2mm | Sweeting 2012 |
| 太さと破裂 | 0.5cm太くなるごとに破裂の起こりやすさは約1.9倍 | RESCAN 2013 |
| 破裂しやすい人 | 女性は男性の約4倍、喫煙中の人は約2倍、血圧が高いほど上昇 | Sweeting 2012 |
| 大きくなりやすい人 | 喫煙者(年0.35mm速い)。糖尿病の人は年0.51mm遅い | Sweeting 2012 |
| 4.0〜5.4cmを経過観察した群 | 破裂は年0.6% | Lederle 2002 |
腹部大動脈瘤の経過観察:検査の間隔
間隔は太さで変わります。SVSのガイドラインは3.0〜3.9cmなら3年ごと、4.0〜4.9cmなら12か月ごと、5.0〜5.4cmなら6か月ごとの画像検査を勧めています(Chaikof 2018)。

ふだんの間隔は上のアメリカ血管外科学会(SVS)の推奨にそろえます(Chaikof 2018)。参考までに、RESCANのモデル解析では、男性で「5.5cmを超える危険を10%未満に抑える」なら、3.0cmで約7年おき、5.0cmで約8か月おきの検査で足りると推定されました(RESCAN 2013)。これは特定の条件での推定で、推奨される間隔ではありません。
手術・ステントグラフトを考える目安
男性ではおおむね5.5cmが手術を考える目安です。女性、急な拡大、症状がある瘤、嚢状の瘤は、それより小さくても早めに血管外科へ相談します。
小さい瘤(4.0〜5.4cm)の人を「すぐ手術する群」と「5.5cmになるか症状が出たら手術する群」に分けた試験では、すぐ手術しても長生きにはつながりませんでした(Lederle 2002)。このため、男性ではおおむね5.5cmが手術を考える目安として広く使われています。
- 女性は同じ太さでも破裂しやすいため、より小さい太さで手術を考えてもよいとされています(Sweeting 2012)
- 急に大きくなる、痛みが出た(症状のある瘤)、嚢状(片側だけ袋状にふくらむ形)は、太さにかかわらず早めの相談が必要です
- 日本では「2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」(日本循環器学会など4学会合同)があり、英語版も出ています(Ogino 2023)。実際の判断は、このガイドラインと体の状態をふまえて主治医が行います

治療は大きく2つです。
| 治療 | 方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 開腹手術(人工血管置換術) | おなかを開け、瘤の部分を人工血管に取りかえる | 体への負担は大きめ |
| ステントグラフト内挿術(EVAR) | 足の付け根の血管からバネ付きの人工血管を入れて、内側から瘤をふさぐ | 体への負担が小さい。術後も定期的なCT・エコーが必要 |
どちらが向くかは、瘤の形(腎動脈との距離など)、年齢、心臓・肺の状態で決まります。EVARのあとに瘤の中へ血液がもれ続ける「エンドリーク」のタイプ分けと造影CTでの見え方は、「TEVAR・EVAR後のエンドリーク」で確かめられます。
腹部大動脈瘤破裂の症状とCT所見(切迫破裂も)
破裂の多くは、瘤のまわりの後腹膜血腫として見えます。切迫破裂では、血栓の中の三日月形の高吸収(crescent sign)を探します(Rakita 2007)。
破裂すると死亡率は非常に高く、約85%とされます(Kent 2010)。症状は突然の腹痛・腰痛・背部痛、血圧低下(ショック)で、尿管結石やぎっくり腰とまちがわれることもあります。


| 状態 | CTで見えること(Rakita 2007) |
|---|---|
| 破裂 | 瘤のまわりの後腹膜血腫(腎臓の周りなどへ広がる)。壁や、ぐるりとつながった石灰化の途切れが破れた場所の手がかり |
| 破裂しかけ(切迫破裂) | 血栓の中に三日月形の高吸収(crescent sign)=壁の中の新しい出血。瘤の拡大、内腔にくらべて血栓が薄い |
| 被覆された破裂 | 瘤の後ろの壁が背骨に沿ってべったり張りつく(draped aorta sign) |
少量の血腫は、十二指腸や瘤のまわりの線維化、リンパ節とまぎらわしいことがあります(Rakita 2007)。
破裂した瘤の治療は時間との勝負で、SVSガイドラインは来院から治療開始まで90分未満を目標にし、破裂した瘤の治療にはステントグラフト(EVAR)を第一に勧めています(Chaikof 2018)。破裂と切迫破裂の実際のCTは「大動脈瘤破裂のCT画像所見」で複数の症例と合わせて見られます。
見つけたあとの一手
- 血管外科・心臓血管外科へ紹介:太さ・形を確認し、次の検査の時期を決める
- 禁煙:大きくなる速さと破裂の両方に関係します(Sweeting 2012)
- 血圧の管理:血圧が高いほど破裂しやすい傾向があります(Sweeting 2012)
- 家族歴:家族歴は危険因子です(Kent 2010)。親きょうだいへの情報提供も検討します
- 急な激痛のときの連絡:「大動脈瘤がある」と伝えて救急要請するよう、本人に説明しておく
よくある勘違い
Q. 造影CTで白く染まった内腔の幅が、瘤の太さ?
いいえ。内腔のまわりの壁在血栓も含めて、外壁から外壁までを測ります。蛇行した大動脈は、血管に直交する断面で測ります。
Q. 前回のエコーより今回のCTが数mm大きければ、拡大している?
エコーはCTより小さめに出やすく、測り直しでも1.6mmほどぶれます。同じ検査・同じ測り方で比べてから判断します。
Q. 薬で腹部大動脈瘤は小さくなる?
血圧やコレステロールの薬などで、小さい瘤の拡大や破裂がはっきり抑えられるという結果は出ていません(Sweeting 2012)。薬は主に心臓・脳の病気を防ぐ目的で使います。対策の中心は禁煙と血圧の管理です。
今日のまとめ
- 腹部大動脈瘤は直径3cm以上。太さは外壁から外壁まで、血管に直交する断面で測る。
- 0.5cm太くなるごとに破裂は約1.9倍。小さい瘤は太さに合わせた間隔で経過観察、男性はおおむね5.5cmで手術を考える。
- 急な腹痛・腰痛・背部痛では破裂を考え、後腹膜血腫・石灰化の途切れ・crescent signを探す。
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参考文献
- RESCAN Collaborators, Bown MJ, Sweeting MJ, et al. Surveillance intervals for small abdominal aortic aneurysms: a meta-analysis. JAMA. 2013;309(8):806-813. PubMed
- Sweeting MJ, Thompson SG, Brown LC, et al. Meta-analysis of individual patient data to examine factors affecting growth and rupture of small abdominal aortic aneurysms. Br J Surg. 2012;99(5):655-665. PubMed
- Lederle FA, Wilson SE, Johnson GR, et al. Immediate repair compared with surveillance of small abdominal aortic aneurysms. N Engl J Med. 2002;346(19):1437-1444. PubMed
- Kent KC, Zwolak RM, Egorova NN, et al. Analysis of risk factors for abdominal aortic aneurysm in a cohort of more than 3 million individuals. J Vasc Surg. 2010;52(3):539-548. PubMed
- Chaikof EL, Dalman RL, Eskandari MK, et al. The Society for Vascular Surgery practice guidelines on the care of patients with an abdominal aortic aneurysm. J Vasc Surg. 2018;67(1):2-77.e2. PubMed
- Rakita D, Newatia A, Hines JJ, et al. Spectrum of CT findings in rupture and impending rupture of abdominal aortic aneurysms. Radiographics. 2007;27(2):497-507. PubMed
- Tomee SM, Meijer CA, Kies DA, et al. Systematic approach towards reliable estimation of abdominal aortic aneurysm size by ultrasound imaging and CT. BJS Open. 2021;5(1):zraa041. PubMed
- Chiu KW, Ling L, Tripathi V, et al. Ultrasound measurement for abdominal aortic aneurysm screening: a direct comparison of the three leading methods. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2014;47(4):367-373. PubMed
- Ogino H, Iida O, Akutsu K, et al. JCS/JSCVS/JATS/JSVS 2020 Guideline on Diagnosis and Treatment of Aortic Aneurysm and Aortic Dissection. Circ J. 2023;87(10):1410-1621. PubMed
症例画像は各図の引用元のとおりです。
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