大動脈(だいどうみゃく)は、最も大きな動脈であり、心臓から駆出(くしゅつ)された血液を全身に送っています。
しかし、大動脈は体表から触れたりすることができないため、
「大動脈の場所はどこなのか?」
という疑問をお持ちの方もおられると思います。
そこで今回は、大動脈の場所を図や実際の胸部レントゲン画像、CT画像を用いて確認したいと思います。
さらに、主に胸部レントゲンやCT検査で指摘されることが多い大動脈の蛇行(読み方は「だこう」)についてもまとめました。
先に結論:大動脈の蛇行とは
- 大動脈がまっすぐでなく、曲がりくねって走る状態です。主に加齢で血管がのびることで起こります
- 胸部レントゲンでは、下行大動脈の線が右へ張り出したり、大動脈弓が左へ移動したりして見えます
- 蛇行そのものは、それだけで治療が必要になることはあまりありません。ただし動脈瘤や縦隔腫瘍と見分けが必要なことがあり、血圧の管理も大切です
- 気になる場合や、ほかの所見も指摘された場合は、かかりつけ医に相談しましょう
大動脈の場所(位置)は?
大動脈の全体像を模式図で表すと次のようになります。

大動脈は心臓の大動脈弁から
- 胸部上行大動脈(きょうぶじょうこうだいどうみゃく)
- 大動脈弓部(だいどうみゃくきゅうぶ)(近位と遠位に分かれる)
- 胸部下行大動脈(きょうぶかこうだいどうみゃく)
- 腹部大動脈(ふくぶだいどうみゃく)
と名前を変えて、一旦上行したあと、下行していきます。
途中様々な血管を分岐しながら(上の図では腎動脈のみ表示)、最後は左右の総腸骨動脈(そうちょうこつどうみゃく)へと変わります。
大動脈弓部の解剖と境界は?
大動脈弓部の解剖について詳しく見ると次のようになります。

すなわち、胸部上行大動脈と、近位大動脈弓部の境界は、腕頭動脈の近位(もしくは右側の第2胸肋関節の高さ1))となります。
また、近位大動脈弓部と遠位大動脈弓部の境界は、左鎖骨下動脈の遠位となります。
最後に、遠位大動脈弓部と胸部下行大動脈との境界は、第(3-)4胸椎レベル1)となります。
大動脈の胸部レントゲン画像における場所(位置)は?
実は健康診断などで撮影する胸部レントゲンにも大動脈は写っています。

大動脈弓部と下行大動脈の一部を左第1弓、下行大動脈線として、見ることができます。
逆にこれらの線が正常に見えない場合は、肺炎や肺癌などの病気が隠れている可能性があります。
なお、後で説明しますが、下行大動脈は加齢とともに蛇行することがあり、このようにほぼ直線で見えないことはしばしばあります。
そんな大動脈が、胸部や腹部のどのあたりを走行しているのかを知るには、CT画像を見るのがわかりやすいです。
大動脈のCT画像における場所(位置)は?
ではこの大動脈と胸腹部のCT画像を対比させながら、大動脈の場所を見ていきましょう。
まず、胸部上行大動脈、下行大動脈両方があるスライス(高さ)のCT画像(横断像)です。

上のCT画像のように、胸部上行大動脈は腹側、胸部下行大動脈は背側を走行していることがわかります。
下行大動脈は椎体のすぐ左側を下行します。
図でみると胸部上行大動脈と、胸部下行大動脈が横並びにあるように見えますが、実際は、ほぼ前後方向に存在していることがわかりますね。
続いて横隔膜よりも下の腹部大動脈のレベルです。

腹部大動脈も椎体の前〜やや左側を下行しています。
上の画像(スライス)では左腎動脈が起始しているところです。
最後に、腹部大動脈が、両側の総腸骨動脈に分岐したところのレベルを見てみましょう。

上のCT画像のように、腹部大動脈は左右の総腸骨動脈に分岐します。
その後、総腸骨動脈は、内腸骨動脈、外腸骨動脈と分岐して、それぞれ、骨盤内の内臓や、下肢に血流を送ります。
このように大動脈は、胸部から腹部まで走行しているのです。
大動脈の蛇行とは?
さてそんな大動脈ですが、加齢とともに蛇行(だこう)といって、曲がりながら走行することがあります。
それぞれ、
- 上行大動脈は右側に突出する。
- 大動脈弓は左側に移動する。
- 下行大動脈は屈曲し、蛇行します。
といった変化をすることがあります。健常成人256人をMRIで調べた研究では、大動脈は健常者でも加齢とともに長くなり、その主体は上行大動脈の延長であったと報告されています(年齢との相関 r=0.72)(Sugawara et al. 2008)。CT 210例の検討でも胸部大動脈の長さは年齢と相関し(r=0.54)、20歳から80歳までに男性で59mm、女性で66mm長くなっていました。延長がいちばん目立ったのは下行大動脈の近位部でした(Adriaans et al. 2018)。
上行大動脈が右側に突出することで、本来心陰影の右第1弓は上大静脈で形成されますが、上行大動脈が形成することがあります。
大動脈弓が左側に移動することにより、大動脈弓の頂点が左鎖骨下動脈の後方に位置し、縦隔腫瘍のように見えてしまうことがあるので注意が必要です。
下行大動脈は、横隔膜を貫く手前で屈曲するのが一般的で、延長、蛇行が強いと真ん中の正中線をこえて右側に屈曲します。
また、大動脈から分岐する腕頭動脈が屈曲蛇行し、右上肺野内側に突出して肺の腫瘍のようにみえたり,縦隔腫瘍のように見える場合もあるので注意が必要です2)。
では、最も胸部レントゲンで指摘されることの多い下行大動脈の蛇行の実際の画像を見てみましょう。
症例 80歳代女性

胸部レントゲン(XP)画像です。
先ほどの胸部レントゲンよりも下行大動脈線が右側(向かって左側)に屈曲・蛇行している様子がわかります。
先ほど説明したように、下行大動脈は、横隔膜を貫く手前で屈曲するのですがその様子をCT画像で見てみましょう。

胸部造影CTの横断像です。
横隔膜の手前のスライスですが、下行大動脈が右側へ強く屈曲・蛇行している様子がわかります。
この断面だけをみて動脈瘤があると早とちりしないことが大事です。
この横断像の屈曲の様子を動画にしましたので屈曲・蛇行する様子をチェックしてみてください。
(ちなみにこの症例では、心拡大もあります)
これを大動脈の走行に合わせた断面(MPR)で見ると次のようになります。

大動脈が横隔膜を貫く直前で、かなり前方へ蛇行して、その後で下に向かう様子がわかりますね。
大動脈蛇行でよくある疑問(Q&A)
Q. 大動脈蛇行の原因は?
A. 主な原因は加齢です。健康な人でも年齢とともに大動脈が長くなり、その分だけ曲がって走るようになります(Sugawara et al. 2008、Adriaans et al. 2018)。
Q. 大動脈蛇行と大動脈瘤はどう違いますか?
A. 蛇行は血管が長くなって曲がる状態、大動脈瘤は血管の一部がふくらんで太くなる状態です。横断像1枚では区別しにくいことがあり、走行に沿った断面(MPR)で確かめます。
最後に
人体の最も大きな動脈である大動脈の場所、走行、蛇行についてまとめました。
- 大動脈は、胸部上行大動脈、大動脈弓部、胸部下行大動脈、腹部大動脈の4部位に主に分かれる。
- 大動脈は、胸部から腹部にかけて上下方向に広い範囲で存在している。
- 大動脈の一部は胸部レントゲン(XP)検査で見ることができる。
- 胸部レントゲン検査で、加齢性変化である大動脈の蛇行を指摘されることがある。
- 胸部CTで大動脈の蛇行を動脈瘤と間違えないように注意しないといけない。
といった点がポイントとなります。
大動脈がどのように体の中を走行しているのかご理解いただけましたでしょうか。
参考になれば幸いです<(_ _)>
参考文献:
1)解剖学講義 改訂第2版 P314
2)画像診断のピットフォール 偽病変をつくらないために 1990年 P88
- Ciurică S, Lopez-Sublet M, Loeys BL, et al. Arterial Tortuosity. Hypertension. 2019;73(5):951-960. PubMed
- Sugawara J, Hayashi K, Yokoi T, et al. Age-associated elongation of the ascending aorta in adults. JACC Cardiovasc Imaging. 2008;1(6):739-748. PubMed
- Adriaans BP, Heuts S, Gerretsen S, et al. Aortic elongation part I: the normal aortic ageing process. Heart. 2018;104(21):1772-1777. PubMed
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