
好酸球増多症候群(HES)の脳梗塞とは、血液中で増え続ける好酸球を背景に起こる脳梗塞で、MRIでは両側の境界領域(分水嶺)に小さな梗塞が多発する形が最も多くみられます。研修医のハジメくんと一緒に、拡散強調像での分布の見方、脳出血の合併、心臓と好酸球数の確かめ方、予後に関わることまでを順に整理します。
先に結論
- HESの脳梗塞は、両側の境界領域に多発する小梗塞が最も多い(64例の64.1%、Miethe 2022)。主幹動脈1本の大きな塞栓は11%にとどまる(Ono 2021)。
- 心停止・高度の低血圧・内頸動脈の高度狭窄がないのに境界領域に梗塞が並ぶときは、好酸球数を確かめ、心臓(Löffler心内膜炎・壁在血栓)を調べる。心臓が正常でも否定しない(Lee 2014)。
- 脳出血が重なることがあり(Hidaka 2026)、T2*強調像・SWIもあわせて見る。意識障害は予後不良の最も強い予測因子(Lee 2014)。
目的から読む: HESの脳梗塞とは・仕組み / MRI所見(境界領域) / 脳出血の合併 / 心臓の評価 / 画像から検査へ / 予後
好酸球増多症候群(HES)の脳梗塞とは? 脳梗塞が起こる仕組み
HESは、血液中の好酸球が持続して増え、その好酸球で臓器が傷つく病気の総称です(Ono 2021)。中枢神経が侵されるのはまれですが、その中で最も多いのが脳梗塞などの脳血管障害です(Lee 2014)。
HESとは
好酸球増多症候群(hypereosinophilic syndrome:HES)は、血液中の好酸球が持続して増え、その好酸球によって臓器が傷つく病気の総称です。心臓では、心内膜に好酸球が浸潤して線維化し、その上に壁在血栓ができる「Löffler心内膜炎(心臓HES)」が知られています(Ono 2021)。
中枢神経が侵されるのはまれですが、重い合併症です。自験10例と文献の67例、計77例をまとめた研究では、中枢神経病変で最も多いのは脳血管障害(63.6%)で、意識障害が40.3%にみられました。この研究は、二次的な原因のない末梢血の好酸球増多(1,500/μL超)と中枢神経症状がある患者を対象にしています(Lee 2014)。
肺の好酸球性疾患は好酸球性肺炎総論、好酸球増多と血管炎が重なる病気は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)で扱っています。
脳梗塞が起こる仕組み
考えられているのは、心臓の壁在血栓が飛ぶ塞栓、好酸球が出す物質による血液の固まりやすさ(凝固能の異常)、小血管の障害などです。77例のまとめでは、MRIの多発病変は塞栓を示唆する一方で、心内膜の病変のような明らかな塞栓源は多くの例で見つかりませんでした。著者らは、好酸球の陽イオン性タンパクによる抗凝固の障害を別の機序として挙げています。病理で好酸球が脳実質に直接浸潤していることはまれで、脳血管障害の例では見つかりませんでした(Lee 2014)。
中国の2例の報告では、どちらも好酸球数が持続して高く、境界領域の多発梗塞と小血管病がみられました(Chen 2017)。
HESの脳梗塞のMRI所見: 両側の境界領域に多発する小梗塞
最も多いのは、境界領域(分水嶺)に小さな梗塞が多発するパターンです。血圧低下などの血行力学的な原因がないのに境界領域に並ぶことが、HESの特徴とされています(Miethe 2022)。
境界領域の多発梗塞
HESで虚血性脳卒中を起こし、画像の詳細が分かる成人64例を集めた系統的レビューでは、境界領域(border zone)のパターンが41例(64.1%)と最多でした。末梢の梗塞だけの例は7例(10.9%)、境界領域の分布をとらない多発急性梗塞は16例(25.0%)でした(Miethe 2022)。
脳卒中を起こしたHES97例をまとめた文献レビューでも、80%が多発梗塞、57%が境界領域を含み、主幹動脈1本の閉塞による塞栓性脳卒中は11%でした(Ono 2021)。
| パターン | 頻度(Miethe 2022、64例) | 考えること |
|---|---|---|
| 境界領域の梗塞 | 41例(64.1%) | 前・中・後大脳動脈の境目(皮質の境界領域)や深部白質(内側の境界領域)に並ぶ小梗塞 |
| 境界領域以外の多発急性梗塞 | 16例(25.0%) | 複数の血管領域にまたがる。塞栓源の検索 |
| 末梢の梗塞だけ | 7例(10.9%) | 皮質枝の小さな梗塞 |
境界領域には、大脳の皮質側で前・中・後大脳動脈の灌流域の境目にあたる「外側(皮質)の境界領域」と、深部白質で穿通枝と皮質枝の境目にあたる「内側の境界領域」があります。拡散強調像(DWI)で小さな高信号が数珠状に並び、同じ所のADCが低下しているときに、この分布を思い出します。DWIの高信号の考え方は脳MRIでDWI高信号を見たときの鑑別診断で整理しています。前・中・後大脳動脈の灌流域そのものは、脳血管(脳動脈)の解剖で名称と合わせて確かめられます。
症例 60歳代男性 好酸球増多症候群の境界領域の多発梗塞

引用:Miethe K et al. Neurol Sci 2022(Fig. 1)(CC BY 4.0)
60歳代男性です。進行する歩行障害と精神運動の緩慢で受診し、好酸球の絶対数が増えていました(2.2×109/L)。(A・B)拡散強調像で、内側と外側の境界領域に急性期と亜急性期の梗塞が多発しています。(C)一部の病変は造影T1強調像で造影されます。(D)T2強調グラディエントエコー像では脳微小出血の一例がみられます。心臓の検査で心内膜心筋炎が示唆され、特発性HESと診断されました(Miethe 2022)。
HESの脳梗塞に脳出血が重なることがある
HESでは、脳梗塞と脳出血が同時に起こった報告があります(Hidaka 2026)。多発梗塞をみたら、T2*強調像やSWIで出血と微小出血も確かめます。
脳出血が重なることがある
2例の報告では、HESの患者に虚血性脳卒中と脳出血が同時に起こりました。1例は好酸球増多を治療しないまま急性期の脳梗塞に血栓溶解薬を使ったあとに脳出血が起こり、もう1例は入院時に脳梗塞と脳出血がありました。どちらもステロイドで好酸球を抑えたあとは、新たな脳梗塞や脳出血は起こりませんでした(Hidaka 2026)。著者らは、好酸球増多を早く抑えることが脳血管の合併症を減らすうえで大切だとしています。治療の選択は脳卒中の専門チームが判断します。T2*強調像・SWIで出血が黒く写る理由は、T2*強調像・磁化率強調像(SWI)とはで症例と合わせて見られます。
HESの脳梗塞と心臓の評価: Löffler心内膜炎と壁在血栓
心エコー・心臓MRIで、心内膜の線維化と壁在血栓を調べます。心内膜炎・心内膜線維症を示す所見は約半数、心内血栓は25%で(Miethe 2022)、心臓が正常の例も多くみられます(Lee 2014)。
心臓の評価
系統的レビューでは、心内血栓が60例中15例(25%)、心内膜炎または心内膜線維症を示す所見が60例中31例(51.7%)にありました(Miethe 2022)。97例のレビューでは約半数が心臓HESと診断され、壁在血栓・心内膜の線維化・拘束型の心不全が特徴でした。一方で、著者らは心臓HESがあっても脳卒中を起こすとは限らないとしています(Ono 2021)。
77例のまとめでは、心内膜の病変は26.0%にとどまり、心臓の検査はそれ以外の所見か正常のことのほうが多くみられました(Lee 2014)。心エコーが正常でも、HESによる脳梗塞を否定する理由にはなりません。
境界領域の多発梗塞を見たら: 画像から好酸球数・心臓の検査へ
境界領域の梗塞は、心停止や高度の血圧低下、内頸動脈の高度狭窄でも起こります。そうした原因が見当たらないのに境界領域に多発梗塞があるときは、血算の好酸球の割合と数を確かめるきっかけになります。
| 確かめること | 理由 |
|---|---|
| 末梢血の好酸球数(繰り返し) | 境界領域の多発梗塞の原因として見落とさない。好酸球数を繰り返し確かめるよう勧める報告がある(Chen 2017) |
| 心エコー・心臓MRI | 心内膜の線維化と壁在血栓の評価(Miethe 2022、Ono 2021) |
| T2*強調像・SWI | 微小出血・脳出血の合併(Miethe 2022、Hidaka 2026) |
| MRA・頸部血管 | 境界領域の梗塞を起こすほかの原因(主幹動脈の高度狭窄)を除く |
感染性心内膜炎による多発梗塞との違いは感染性心内膜炎の頭蓋内病変の画像診断が参考になります。両側の複数の血管領域に梗塞が散らばるときのほかの原因(心原性塞栓・がんに伴う凝固亢進など)は、多発脳梗塞の鑑別診断で一覧にして見くらべられます。
HESの脳梗塞の予後: 意識障害が最も強い予測因子
意識障害は予後不良の最も強い予測因子で、中枢神経だけの病変とステロイド治療は予後良好と関連していました(Lee 2014)。
予後に関わること
77例のまとめでは、心臓の異常・意識障害・高い好酸球数が予後不良の例に多く、中枢神経だけの病変は予後良好の例に多くみられました。意識障害は予後不良の最も強い予測因子で、中枢神経だけの病変とステロイド治療は予後良好と関連していました(Lee 2014)。97例のレビューでは、全体の死亡率は11%でした(Ono 2021)。
よくある勘違い
Q. 心エコーで血栓がなければ、HESによる脳梗塞は否定できる?
できません。心内血栓が見つかったのは系統的レビューで25%で(Miethe 2022)、77例のまとめでは心臓の検査は正常か、心内膜以外の所見のことのほうが多くみられました(Lee 2014)。
Q. 血圧が下がっていないのに境界領域の梗塞。分水嶺梗塞と書けば十分?
原因まで考えます。HESでは、血行力学的な障害がないのに境界領域に梗塞が分布することが最も多いパターンです(Miethe 2022)。主幹動脈の狭窄を除き、好酸球数・心臓・出血の確認につなげます。
Q. 好酸球の脳への浸潤がMRIで見えている?
多くはそうではありません。病理で好酸球が脳実質に直接浸潤していることはまれで、脳血管障害の例では見つかりませんでした(Lee 2014)。MRIで見えているのは梗塞や出血です。
今日のまとめ
- HESの脳梗塞は両側の境界領域に多発する小梗塞が典型。拡散強調像とADCをセットで、横断に冠状断も足して分布を見る。
- 血行力学的な原因がない境界領域の多発梗塞は、好酸球数・心臓・出血を確かめるきっかけ。心臓が正常でも否定しない。
- 脳梗塞に脳出血が重なることがある。予後は意識障害が最も強く関わる。
根拠(もう少し詳しく)
| 研究 | 対象 | わかったこと |
|---|---|---|
| Miethe 2022 | 症例報告1例と系統的レビュー(40研究・成人64例。平均51.1歳、女性31.3%) | 境界領域のパターン64.1%、境界領域以外の多発急性梗塞25.0%、末梢の梗塞だけ10.9%。心内血栓25%(15/60例)、心内膜炎・心内膜線維症を示す所見51.7%(31/60例)。診断時の好酸球数の中央値10.2×109/L |
| Lee 2014 | 自験10例と文献67例の計77例(末梢血の好酸球1,500/μL超・中枢神経症状あり) | 中枢神経病変は脳血管障害63.6%が最多。MRIでは境界領域の多発病変45.5%が最も多い所見。意識障害40.3%。心内膜の病変26.0%。意識障害が予後不良の最も強い予測因子、中枢神経だけの病変とステロイド治療が予後良好の予測因子 |
| Ono 2021 | 脳卒中を起こしたHESの文献97例 | 年齢の中央値52歳、男性63%。最初の症状は神経症状73%。多発梗塞80%、境界領域を含む57%、主幹動脈1本の塞栓11%。約半数が心臓HES。死亡率11% |
| Chen 2017 | 中国の2例の報告 | 好酸球数が持続して高く、境界領域の多発梗塞と小血管病。中枢神経病変では血液検査を繰り返してHESを除くよう勧める |
| Hidaka 2026 | 日本の2例の報告 | 虚血性脳卒中と脳出血の合併。1例は血栓溶解薬のあとに出血。ステロイドで好酸球を抑えたあとは再発なし |
参考文献
- Miethe K, Iordanishvili E, Habib P, et al. Imaging patterns of cerebral ischemia in hypereosinophilic syndrome: case report and systematic review. Neurol Sci. 2022;43(8):5091-5094. PubMed
- Lee D, Ahn TB. Central nervous system involvement of hypereosinophilic syndrome: a report of 10 cases and a literature review. J Neurol Sci. 2014;347(1-2):281-7. PubMed
- Ono R, Iwahana T, Kato H, et al. Literature reviews of stroke with hypereosinophilic syndrome. Int J Cardiol Heart Vasc. 2021;37:100915. PubMed
- Chen H, Raza HK, Jing J, et al. Hypereosinophilic syndrome with central nervous system involvement: Two case reports and literature review. Brain Inj. 2017;31(12):1695-1700. PubMed
- Hidaka M, Mezuki S, Yokoi M, et al. Ischemic stroke complicated by intracerebral hemorrhage in patients with hypereosinophilic syndrome: a case series. Ther Adv Neurol Disord. 2026;19:17562864261416619. PubMed
症例画像は各図の引用元のとおりです。
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