先に結論:鼓室硬化症
- 鼓室硬化症は慢性中耳炎などの後に、鼓膜や中耳に硬いプラーク(硝子化・石灰化・骨化)ができる状態で、耳小骨や鼓膜が動きにくくなって伝音難聴を起こします
- 側頭骨CTで鼓膜・上鼓室・耳小骨周囲・卵円窓の点状〜網状の石灰化があれば診断しやすくなります
- 石灰化のない線維性の固着はCTでは分かりにくく、聴力検査や手術所見と合わせて判断します。耳硬化症・真珠腫とは別の病気です
- 耳硬化症はCTで卵円窓の前の骨が黒っぽく抜ける(脱灰)のに対し、鼓室硬化症は白い石灰化プラークが手がかりで、見え方が逆になります
鼓室硬化症(tympanosclerosis)とは
鼓室硬化症は、慢性中耳炎などの炎症後変化として、中耳腔や鼓膜に硝子化したコラーゲン沈着が生じ、しばしば石灰化や骨化(新生骨)を伴い、耳小骨連鎖や鼓膜の可動性を低下させて伝音性難聴の原因となる病態。
画像診断の中心は側頭骨HRCTであり、石灰化・骨化を伴うタイプではCTで診断しやすい一方、線維性成分主体の固着は画像的に決め手に欠けることがある。
鼓室硬化症に含まれる病態
- 線維性固着:非石灰化なのでCTで決め手に欠けやすい(軟部陰影として非特異)。
- 硝子化+石灰化(狭義の鼓室硬化):高吸収プラークとして拾える。鼓膜主体ならmyringosclerosis。
- 骨化(新生骨):上鼓室優位の骨性架橋/層状高吸収として拾えることがある(頻度は高くない)。
臨床的には「鼓室硬化症」と一括されることが多いが、CTで診断しやすいのは主に石灰化・骨化を伴うタイプである。一方、線維性固着のみで伝音難聴を作る症例ではCTではわかりにくいことがあり要注意。
慢性中耳炎に伴う難聴はなぜ起こるか
慢性中耳炎の難聴は、「音を伝える部品が壊れる」「部品が動かなくなる」「炎症が内耳まで波及する」の3系統で整理すると理解しやすい。
- 耳小骨の障害(とくにキヌタ骨長脚が傷みやすい)
炎症が長引くと耳小骨がびらん・欠損し、音の伝達が途切れて伝音難聴になる。とくにキヌタ骨の長脚は障害されやすい部位として知られ、ここがやられると気骨導差が目立ちやすい。 - 鼓室硬化症=「動きが悪くなる」
鼓膜や耳小骨周囲、窓部(卵円窓・正円窓ニッチ)などに硝子化/石灰化/骨化が生じ、鼓膜・耳小骨連鎖の可動性が低下する。結果として形は残っているのに動かない状態になり、伝音性難聴の原因となる。 - 迷路炎(内耳合併症)=「内耳がやられる」
炎症が内耳へ波及すると感音難聴成分を伴い得る。伝音成分に感音成分が上乗せされると混合難聴として説明される。
鼓室硬化症の画像診断:結論
- 鼓膜の白色プラークは耳鏡でも確認できることがある(myringosclerosis)。慢性化膿性中耳炎775例の検討では鼓室硬化症は11.6%にみられ、鼓膜のみの硬化(myringosclerosis)では気骨導差20〜40dBが多かったのに対し、鼓膜と中耳の両方に及ぶ例では61%で40dBを超えていた。真珠腫の合併は2.2%と少なかった。
- 画像診断の中心は側頭骨HRCTである。
- 鼓膜や鼓室内の石灰化・骨化があれば診断は比較的容易である。
- 線維性固着は画像診断が難しいことが多く、CTだけで固着を断定できない場面がある。
CTで見るべき部位
読影では「どこが固着の主座になり得るか」を意識して、以下をルーチン化するのがコツである。
- 上鼓室(epitympanum / attic):耳小骨頭部周囲、キヌタ−ツチ関節周囲の高吸収プラーク、新生骨。
- 耳小骨周囲:耳小骨表面に接する点状/網状の石灰化、支持靭帯や筋腱の石灰化。
- 卵円窓ニッチ(oval window niche):アブミ骨周囲の石灰化、ニッチの狭小化/閉塞、固着を示唆する軟部組織。
- 正円窓ニッチ(round window niche):石灰化があれば拾えるが、軟部陰影のみは非特異になりやすい。
- 岬角(promontory)近傍:癒着性変化・中耳腔狭小化の背景評価。
- 鼓膜:肥厚+線状/斑状の高吸収(myringosclerosis)。
典型的CT所見(覚え方と表現)
1)石灰化:点状〜網状の高吸収(punctate / weblike)
中耳腔内や鼓膜に点状、網状の石灰化が多発する。耳小骨に接して見えることも多く、支持靭帯や筋腱の走行に沿うように見える場合もある。
読影文の例:
- 「上鼓室〜耳小骨周囲に点状/網状の石灰化を認め、鼓室硬化症を示唆する。」
- 「鼓膜に線状高吸収を認め、myringosclerosisの所見である。」
2)線維性固着:非石灰化の軟部組織が耳小骨を包む
CTでは非骨性・非石灰化の軟部組織が耳小骨連鎖の一部〜全体を取り囲む像として描出され得る。しかし石灰化がなければ決め手に欠け、滲出液や肉芽などとの鑑別が問題になりやすい。よって「固着が疑われる」という表現に留め、臨床(聴力像・耳鏡)や術所見との統合が必要になることがある。
3)骨化/新生骨:上鼓室に限局しやすい骨性増殖
上鼓室(attic)を中心に骨新生が起こり、CTでは層状の高吸収や骨性の架橋として捉えられ得る。頻度は高くないが、見えれば診断の後押しになる。
鑑別診断
- 耳硬化症(otosclerosis)
病態が異なる。鼓室硬化症は炎症後の中耳腔/鼓膜の硝子化・石灰化・骨化であり、耳硬化症は骨代謝異常を背景とする。結果としてアブミ骨固着という“見かけ”が似ることがあるため、用語は分けて記載する。 - 真珠腫
軟部陰影に加えて骨破壊が前景に立つ。鼓室硬化症は「高吸収プラーク」が鍵で、骨破壊は主所見ではない。 - 単なる滲出液/肉芽
軟部陰影としては似て見え得る。石灰化がなければ鼓室硬化症“確定”は難しいことがある。
鼓室硬化症と耳硬化症の違い
名前が似ていて混同されやすい2つですが、原因もCTの見え方も異なります。
| 鼓室硬化症 | 耳硬化症 | |
| 原因 | 中耳炎などの炎症のあとに残る瘢痕(硝子化・石灰化) | 内耳を包む骨(耳包)の骨代謝異常 |
| 中耳炎の既往 | あることが多い | 関係しない |
| 鼓膜 | 白い石灰化斑・穿孔がみられることが多い | 正常のことが多い |
| CTの主な所見 | 鼓膜・上鼓室・耳小骨周囲の高吸収(白い)プラーク、中耳腔の軟部濃度 | 卵円窓の前方(fissula ante fenestram)の低吸収(黒っぽい)病巣。進むと蝸牛のまわりにも広がる |
どちらもアブミ骨の固着による伝音難聴を起こしうるため、聴力検査だけでは区別しにくいことがあります。耳硬化症は病巣が小さいとCTで写らないことも多く、手術で確認された68耳の検討では、術前CTの報告で耳硬化症と指摘されていたのは20耳(29.4%)でした(Maxwell 2020)。
CTはどこまで頼りになるか
慢性化膿性中耳炎で鼓室形成術を受けた940耳の検討では、手術で鼓室硬化症が見つかったのは238耳(25.3%)で、そのうち73.1%は鼓膜だけの病変、26.9%は耳小骨の固着を伴っていました。術前の側頭骨CTは耳小骨の固着を感度96.8%・特異度98%で予測していました(Larem 2021)。石灰化を伴う耳小骨固着はCTでかなり捉えられる一方、石灰化のない線維性固着は前述のとおり写りにくい点に注意します。
鼓室硬化症の症状と治療
主な症状は聞こえにくさ(伝音難聴)と耳のつまった感じで、痛みは通常ありません。鼓膜だけの軽い石灰化では聞こえへの影響が小さいこともあります。難聴が強い場合は、補聴器のほか、鼓室形成術で石灰化病変を取り除いたり耳小骨を再建したりする手術が検討されます。聞こえにくさが続くときは耳鼻咽喉科で相談してください。
症例
症例 10歳代女性 化膿性中耳炎(耳漏)の治療後、難聴

引用:Radiopaedia(Tympanosclerosis, case 3)
側頭骨CTの横断像です(画像の向かって左が患者さんの右耳)。
右の中耳腔(耳小骨の周り)から乳突洞・乳突蜂巣に軟部濃度が広がり、耳小骨の周囲・卵円窓・鼓膜に軽い石灰化(高吸収)を伴っています。耳小骨や周囲の骨の破壊はありません。左耳は正常です。
慢性中耳炎のあとに生じた鼓室硬化症として矛盾しない所見で、骨破壊がない点は真珠腫との区別にも役立ちます。
部位別の見え方
鼓膜の鼓室硬化症(myringosclerosis)
- 鼓膜に肥厚+線状/斑状の高吸収(石灰化)を認める。
- 中耳腔の石灰化が乏しい場合、難聴への寄与は症例により幅がある(ただし広範囲なら鼓膜可動性低下の要因になり得る)。
上鼓室〜耳小骨周囲の鼓室硬化症
- 上鼓室(attic)に点状/板状の高吸収プラークを認める。
- 耳小骨周囲の石灰化が明瞭であれば、耳小骨固着の原因として矛盾しない。
卵円窓領域(アブミ骨周囲)
- 卵円窓ニッチ周囲の高吸収、ニッチ狭小化、あるいはアブミ骨周囲の軟部組織を評価する。
- 窓部が関与すると伝音障害が強く出やすい。
参考文献
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- Swartz JD, Goodman RS, Russell KB, et al. High-resolution computed tomography of the middle ear and mastoid. Part II: Tubotympanic disease. Radiology. 1983;148(2):455-459. PubMed
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- Larem A, Abu Rajab Altamimi Z, Aljariri AA, et al. Reliability of high-resolution CT scan in diagnosis of ossicular tympanosclerosis. Laryngoscope Investig Otolaryngol. 2021;6(3):540-548. PubMed
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