Wernicke脳症(ウェルニッケ脳症)とは?

  • ビタミンB1(チアミン)欠乏によって脳内代謝が阻害され、神経障害を惹起する。
  • Wernicke脳症の他に、心不全を呈するwet beriberi、ポリニューロパチーを主徴とするdry berivberiがある。
  • 外眼筋麻痺、運動失調、意識障害を3徴とする急性脳症
  • 急性期のWercnicke脳症は可逆性だが、慢性期のKorsakoff症候群へ移行すると、作話傾向を伴う記憶障害が固定化する。
  • 3徴のすべてを示す典型的なものは約1/3で、意識障害のみが症状として見られることもあるため、画像診断が果たす役割は大きい。
  • 原因としては、慢性アルコール中毒が最も多い(ビタミンB1はアルコール分解に重要な酵素であるため)。他、栄養障害、敗血症、悪性腫瘍、長期透析、長期にわたる経静脈栄養、妊娠悪阻などが挙げられる。
  • 脳室周囲は特にチアミンに関連した糖代謝に高く依存しているとされ、第3脳室周囲(視床内側)、中脳水道周囲、第4脳室底、乳頭体が好発部位である。
  • 治療はビタミンB1投与であり、早いほど予後良好。ただし、精神障害が残り、記銘力障害、逆行性健忘、作話を特徴とするKorsakoff症候群を呈することもある。
  • 予後との関連では、中脳水道周囲のみが侵された症例では予後良好で、視床内側の高信号域や乳頭体の造影効果を認めた場合には,精神障害が残り、Korsakoff症候群を呈することもある。

Wernicke脳症の診断基準

以下の4つのうち2つあれば診断

  1. BMI(Body Mass Index)が2標準偏差以下の低栄養状態、病歴より高度低栄養、ビタミンB1値異常
  2. 眼球運動異常:眼筋麻痺、眼振、注視麻痺
  3. 小脳障害:小脳失調など
  4. 意識障害、記名力低下

 

Wernicke脳症の画像所見

  • CTでの病変の検出は困難。
  • 第3脳室周囲(視床内側)、中脳水道周囲、第4脳室底、乳頭体にT2強調像やFLAIR像で対称性の高信号域を認める。(ビタミンB1は細胞膜を介する浸透圧維持に関与し、第3脳室、中脳水道、第4脳室周囲にビタミンB1が関与する代謝の盛んな部位がある。)
  • 造影増強効果を呈することがあり、特に乳頭体で見られることが多く、乳頭体の造影効果が唯一の所見のこともある。
  • 稀に中心溝周囲皮質、皮質下白質にも対称性の高信号域を認める。
  • 慢性期では第3脳室、中脳水道の拡大、乳頭体の萎縮を示す。
  • Korsakoff症候群における乳頭体萎縮は特異的。
  • また、拡散強調像を含めた検討ではないが、約半数では画像で異常所見が検出できないという報告もあり、画像診断のみで本疾患を除外できないことは注意すべき点である。
  • 拡散強調像では、病変部は高信号でADC値は軽度低下するという報告が多い。また、この高信号域は可逆性であるとする報告がある。
両側視床に対称的な病変を認める疾患の鑑別

症例 70歳代男性

▶キー画像Wernicke両側視床内側にDWIで異常高信号あり。

Wernicke1

中脳水道周囲にも異常高信号あり。

Wernicke2 Wernicke3

T2WIでも同様に高信号あり。

Wernicke4FLAIRで乳頭体に高信号を認めている。

これらはWernicke脳症を疑う所見。

参考)
よくわかる脳MRI 第3版 (画像診断別冊KEY BOOKシリーズ)  青木 茂樹先生
臨床画像2014年2月 急性から亜急性で進行する認知機能障害を見た場合、何を考えるのか 東京大学 森 懇先生ら

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