
先に結論:透析患者の脳症は「いつ・どの条件で・どこに」を組み合わせて読む。基底核の左右対称なT2高信号(lentiform fork sign)は代表的
| 病態 | 画像の手がかり | 背景 |
|---|---|---|
| 透析不均衡症候群 | 脳浮腫が背景。頭頂後頭葉の白質変化の報告があるが、画像所見の報告は少ない(Sheth 2003) | 透析の開始・急速な除去 |
| 尿毒症性脳症 | 両側基底核の腫れた高信号(lentiform fork sign)。透析で改善する例 | 慢性腎不全、糖尿病 |
| PRES | 両側頭頂後頭葉が多いが、脳幹・小脳のみの例もある | 高血圧、透析のとりこぼし |
| 薬剤・代謝性 | 基底核病変で似ることがある | メトホルミンなど、乳酸アシドーシス |
透析患者の脳症:まず3つを分ける
腎不全では、尿毒症性の毒素がたまることで脳症が起こりえます。症状は軽い錯乱から深い昏睡までと幅があり、羽ばたき振戦などの不随意運動を伴うことがあります。さらに透析の治療そのものに関連する神経合併症として、急性の透析脳症や、以前は透析認知症と呼ばれた慢性の透析脳症があります(Seifter 2011)。
画像診断の現場では、病名よりも『透析の何時間後か』『透析をさぼったか』『血圧は高いか』『血糖や薬は』といった状況が手がかりになります。次の3つをまず頭に置いて読みます。
- 透析の開始・急速な透析のあと:透析不均衡症候群
- 透析が足りていない・慢性の腎不全、とくに糖尿病:尿毒症性脳症
- 高血圧・透析のとりこぼし:PRES
透析不均衡症候群(DDS)
透析不均衡症候群は、透析を始めて間もない人などに起こる神経合併症です。DDSの報告を集めた系統的レビュー(49研究)では、DDSは新しく血液透析を始めた人に最も多く、透析をとばした慢性透析の人、急性腎障害、持続的な腎代替療法、腹膜透析でも見られるとされました。DDSと判断された226人の症状は、吐き気25.2%、頭痛24.8%、嘔吐23.9%、筋けいれん18.1%、意識レベルの低下8.8%、けいれん4.9%、錯乱4.4%でした(Raina 2022)。
なぜ起こるかについては、血液から尿素が速く除かれるのに脳の尿素は残るため浸透圧の差で脳が腫れるという『逆尿素説』と、脳内に新しい浸透圧物質ができるという説が議論されてきました。レビューでは、逆尿素説が依然として有力な説明であり、高い尿素値を急に下げること自体が危険因子とされています(Silver 1996)。
画像所見の報告は少なく、診断は他の原因を除外して行う、という点が大切です。それでも、透析を始めた直後にけいれんを起こした患者で、頭頂葉後部と後頭葉の白質変化が可逆性後頭葉白質脳症(RPLS、PRESと同じ)に似て見えた報告があり、血管原性浮腫でDDSとPRESが連続している可能性が提案されています(Sheth 2003)。
尿毒症性脳症とlentiform fork sign
慢性腎不全の患者の尿毒症性脳症では、大脳基底核の病変が有名です。T2強調像で基底核が腫れたように高信号になる所見をlentiform fork signと呼びます(Ishizaki 2020)。尿毒症性脳症のMRIを検討した10人では、クレアチニン高値(4.3〜11.7mg/dL)に伴い、慢性腎不全の9人で両側基底核の腫れた病変があり、基底核病変はすべてT2強調像で高信号(lentiform fork sign)でした。拡散強調像の見え方は一定せず、血清クレアチニン値とも相関しませんでした。透析後に追跡できた4人では、病変がすべて消えました。急性腎不全の1人は、可逆性の皮質病変でした(Kim 2016)。
| 見るところ | 読み方 |
|---|---|
| 基底核 | 両側対称に、T2・FLAIRで腫れたような高信号。CTでは低吸収 |
| 拡散強調像 | 高信号・等信号・低信号とばらつく。血管原性・細胞毒性の浮腫が混在(Kim 2016) |
| 皮質 | 急性腎不全では皮質中心の病変がある(Kim 2016) |
| 経過 | 透析・治療後に改善する例がある。追跡で縮小・消失した報告もある(Kim 2016、Lee 2007) |
症例 成人男性 尿毒症性脳症(lentiform fork sign)

引用:Alhusseini A, et al. Clin Case Rep 2023(Figure 2)、CC BY-NC 4.0(PMC10661331)
T2強調像(A)とFLAIR像(B)で、両側の大脳基底核が左右対称に高信号を示しています。症例ページ(論文)では、基底核とその周囲白質にT2・FLAIR高信号があり、透析治療でよく改善したと記載されています。
糖尿病で慢性腎不全の4人が急に舞踏運動を起こした検討でも、両側基底核にT1低信号・T2高信号の対称性病変があり、拡散強調像では主に血管原性の浮腫と考えられましたが、2人では小さな拡散制限の領域も含まれていました。血液透析後の追跡MRIでは病変が大きく縮小し、運動障害も改善しています(Lee 2007)。基底核の解剖は大脳基底核とは?わかりやすくで確認できます。
メトホルミンなど、似た所見をつくる原因
lentiform fork signは、糖尿病性の尿毒症性脳症で代謝性アシドーシスを伴う例に多いものの、ケトアシドーシス、透析不均衡症候群、中毒、薬剤(メトホルミンなど)でも報告されています。血液透析を4年続けていた57歳の日本人男性では、歩行障害と構音障害、意識障害を起こし、T2強調像でlentiform fork signを認めました。尿毒症の所見は目立たず、禁忌とされるメトホルミンが処方されていたことが分かりました。透析を続けて症状は1週間で改善し、8か月後には高信号域も小さくなっていました(Ishizaki 2020)。
薬や代謝によって基底核や小脳に左右対称の病変ができる病気は、他にもあります。薬剤性脳症とはや高アンモニア血症(アンモニア脳症)のMRI所見もあわせて確認してください。
PRES:透析をとりこぼした患者の脳症
PRESは、けいれん、頭痛、視覚障害、意識の変化を起こす可逆性の血管原性浮腫で、通常は両側の頭頂後頭葉に出ます。しかし前頭葉・側頭葉・基底核・脳幹・小脳にも出ることがあります。血液透析を続けている47歳男性が、3回の透析を休んで高血圧と昏睡で来院し、橋と小脳だけに血管原性浮腫が見られた報告があります。降圧と除水を強化した透析で血圧と意識が戻り、画像異常も消えました。『透析を休んだこと』がPRESの危険因子になりうる、と考察されています(Chiang 2019)。
浸透圧が関係する別の脳の病気に、橋中心髄鞘崩壊症などの浸透圧性脱髄症候群があります。血清ナトリウムの急な補正で起こるもので、浸透圧性脱髄症候群(ODS)とMRIで解説しています。透析不均衡症候群の『浸透圧の差』とは別の病態として整理しておくと混乱しません。
状況から考える:どの順に疑うか
| 状況 | まず疑う | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 透析を始めて間もない、または急速に尿素を下げた直後 | 透析不均衡症候群 | 頭痛・吐き気・けいれん。他の頭蓋内病変の除外 |
| 慢性腎不全で透析が足りていない、糖尿病がある | 尿毒症性脳症 | 基底核の左右対称病変、血糖・アシドーシス、薬剤歴 |
| 血圧が高い、透析を休んだ | PRES | 頭頂後頭葉・脳幹・小脳の浮腫、降圧後の経過 |
| 薬剤(メトホルミンなど)が使われている | 薬剤性・代謝性脳症 | 乳酸アシドーシス、腎機能に合わない処方がないか |
どの場合も、最初の画像は脳出血・脳梗塞・腫瘍・感染など、治療の方針がまったく違う病気を除くために行います。そのうえで、病歴と合わせて表の4つのどれに近いかを考えます。透析患者は血圧・血糖・電解質・薬剤の影響を同時に受けるため、1つの原因に決めつけず、重なっている可能性も頭に置きます(Ishizaki 2020、Chiang 2019)。
研修医向け:読影チェックリスト
- 依頼票で透析の開始時期・直前の透析の内容・透析を休んだかを確認する
- まず頭部CT・MRIで脳出血・脳梗塞・占拠性病変を除外する(除外診断の発想)
- 基底核が左右対称に腫れていたらlentiform fork signと、背景の糖尿病・アシドーシス・薬剤(メトホルミンなど)を確認する
- 頭頂後頭葉の白質や、脳幹・小脳の血管原性浮腫はPRESを考え、血圧と透析の状況を確認する
- 拡散強調像・ADCで、血管原性浮腫と細胞毒性浮腫のどちらが主かを書く
- 治療後の経過で画像が消える・縮小する場合は、可逆性の病態として指摘する
- ODS(急速なナトリウム補正)など、似た病態とは病歴で区別する
よくある疑問(Q&A)
Q. 透析不均衡症候群では、いつも画像に異常が出ますか?
A. いいえ。画像所見の報告は少なく、診断は他の原因を除外して行います。画像が出る場合は、白質の変化など血管原性浮腫に似る例が報告されています(Sheth 2003)。
Q. lentiform fork signがあれば、尿毒症性脳症と確定できますか?
A. できません。糖尿病性の尿毒症のほか、ケトアシドーシス、透析不均衡症候群、中毒、メトホルミンなどの薬剤でも報告されています(Ishizaki 2020)。血液・薬剤歴とあわせて判断します。
Q. 透析をすれば画像の異常も消えますか?
A. 尿毒症性脳症で透析後に追跡できた4人では、病変がすべて消えました(Kim 2016)。ただし病変や原因により経過は異なり、症状が残る例もあります(Ishizaki 2020)。
Q. 透析中に頭が痛い、気持ち悪いときは?
A. 透析の開始後に起こる頭痛や吐き気は、透析不均衡症候群の症状のことがあります(Raina 2022)。我慢せず、透析中や透析後にすぐ医療スタッフへ伝えてください。
あわせて読みたい:脊柱管内の髄外造血とは、減圧症(潜水病)の画像診断、高所脳浮腫(HACE)のMRI所見
参考文献
- Seifter JL, Samuels MA. Uremic encephalopathy and other brain disorders associated with renal failure. Semin Neurol. 2011;31(2):139-43. PubMed
- Silver SM, Sterns RH, Halperin ML. Brain swelling after dialysis: old urea or new osmoles? Am J Kidney Dis. 1996;28(1):1-13. PubMed
- Raina R, Davenport A, Warady B, et al. Dialysis disequilibrium syndrome (DDS) in pediatric patients on dialysis: systematic review and clinical practice recommendations. Pediatr Nephrol. 2022;37(2):263-274. PubMed
- Sheth KN, Wu GF, Messé SR, et al. Dialysis disequilibrium: another reversible posterior leukoencephalopathy syndrome? Clin Neurol Neurosurg. 2003;105(4):249-52. PubMed
- Kim DM, Lee IH, Song CJ. Uremic Encephalopathy: MR Imaging Findings and Clinical Correlation. AJNR Am J Neuroradiol. 2016;37(9):1604-9. PubMed
- Lee EJ, Park JH, Ihn Yk, et al. Acute bilateral basal ganglia lesions in diabetic uraemia: diffusion-weighted MRI. Neuroradiology. 2007;49(12):1009-13. PubMed
- Ishizaki Y, Nishizono R, Kikuchi M, et al. Case Report: A Case of Encephalopathy Presenting the Lentiform Fork Sign on MRI in a Diabetic Dialysis Patient. F1000Res. 2020;9:969. PubMed
- Chiang WF, Chen PT, Chen YL, et al. Atypical posterior reversible encephalopathy syndrome in a noncompliant hemodialysis patient: Case report and literature review. Hemodial Int. 2019;23(4):E100-E103. PubMed
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