減圧症の画像 脊髄MRIと、陰性でも否定できない点

ダイビングのあとに足がしびれて歩きにくくなった患者さんが来ました。減圧症を疑ったとき、MRIは何を見ればいいですか?MRIが正常なら減圧症は否定できますか?
減圧症の診断は、潜水歴と症状の経過が土台です。画像は、脊髄や脳の障害の有無と重さを調べるために使います。ただしMRIが正常でも否定はできません。典型的な見え方と、見落としやすい点を整理します。

先に結論:減圧症の診断は病歴が先。MRIは重症度の手がかりで、正常でも否定はできない

項目 ポイント
何か 浮上(減圧)のときに血液や組織に気泡ができて起こる障害。動脈ガス塞栓とあわせて減圧障害と呼ぶ
脊髄型のMRI T2強調像で脊髄内の高信号。複数の高さに斑状に出ることがある
脳のMRI 動脈ガス塞栓では虚血性病変が多く、減圧症では見えにくい
MRIが正常 否定はできない。病変がなくても臨床で判断する
骨の障害 長期の潜水では減圧性骨壊死(上腕骨頭・大腿骨頭)にも注意

減圧症とは:どう分類するか

潜水中は周囲の圧力が高く、体の中に窒素などのガスが溶け込みます。浮上が急だったり、減圧の手順が足りなかったりすると、溶けていたガスが血液や組織の中で気泡になります。この気泡が神経や血管に障害を与えるのが減圧症(decompression sickness、DCS)です。潜水に関連する減圧障害は、動脈ガス塞栓(arterial gas embolism、AGE)と減圧症の2つに大きく分けられ、減圧症はさらに症状によってⅠ型とⅡ型に分類されます。神経症状を伴うⅡ型では、MRIが脳や脊髄の病変を調べるうえで最も精度の高い検査とされています(Kamtchum Tatuene 2014)。

気泡が中枢神経を傷つける仕組みは、動脈の閉塞、静脈の閉塞、組織内で直接障害を起こす作用の3つが考えられています(Kamtchum Tatuene 2014)。この3つが重なることもあるため、画像の見え方も症例ごとに違います。

分類 主な内容
動脈ガス塞栓(AGE) 浮上中に肺から動脈へ気体が入り、脳などの動脈を詰まらせる。突然の意識障害や脳卒中様の症状
減圧症Ⅰ型 皮膚のかゆみ・発疹、関節や筋肉の痛みなど比較的軽い症状
減圧症Ⅱ型 脊髄・脳・内耳などの神経症状、呼吸・循環の症状。画像診断の主な対象

減圧障害の画像診断で主に問題になるのは、神経症状を伴うⅡ型と動脈ガス塞栓です。症状の出る時間、障害される場所、画像の見え方がそれぞれ違うため、読影の前に病歴で型の見当をつけておきます(Kamtchum Tatuene 2014)。

脊髄型減圧症のMRI

脊髄に障害が出る減圧症は、潜水関連の傷害の中で最も危険な型とされます。潜水後に脊髄症状のあった45人を調べた検討では、MRI(受傷後10日以内)で見える脊髄の病変は重症の人に有意に多く、経過が良かった人では1人もありませんでした。感度67%、特異度100%、陰性的中率77%、陽性的中率100%です。急性の背部痛があると、高信号病変と後遺症の残りやすさに関連しました(オッズ比14)(Gempp 2008)。つまり『病変があれば重い』ことは言えても、『なければ軽い』とは言い切れません。

見るところ 読み方
T2強調像・STIR 脊髄内の高信号。斑状で、複数の高さにまたがることがある(Hennedige 2012)
灰白質 動脈性梗塞のような灰白質の障害を示す例がある(Hennedige 2012)
広がり 最初から多くの高さ(6より多い)に病変があると経過が悪い傾向(Hennedige 2012)
造影 病変の造影は目立たない例が報告されている(Pisano 2026)
脊柱管 椎間板の変性などで脊髄を圧迫する要因があると、MRIの異常と関連(Gempp 2008)

脊髄症状のあった7人のMRIを検討した報告では、T2強調像で斑状の高信号が複数の高さに同時に見られ、多くで灰白質が障害されていました。静脈性の梗塞が主役と考えられてきましたが、この検討では動脈性梗塞に近い灰白質の障害も多く、動脈と静脈の両方の梗塞が混ざっている可能性が示されています。症状が浮上後30分以内に始まった人や、最初から多くの高さに病変があった人は、症状が残りやすい傾向でした(Hennedige 2012)。

症例 43歳男性 脊髄型減圧症

脊髄型減圧症 胸椎MRI T1・T2・STIR矢状断と軸位T2強調像
引用:Pisano TJ, et al. Neurohospitalist 2026(Figure 1)、CC BY-NC 4.0(PMC13675418)

約90フィート(約27m)の深さからの急な浮上のあとに、胸のあたりまでの感覚障害と歩行障害が出た経験豊富なテクニカルダイバーです。発症から73時間後の胸椎MRI(T1・T2・STIR、A)で、T3からT10〜11にかけて、脊髄内の左右対称で後方に強い信号異常があります。軸位のT2強調像(B〜E)でも確認できます。論文では、T1低信号、脊髄の腫大、異常な造影効果はなく、臨床経過とあわせると脊髄型減圧症を支持するが、所見自体は特異的ではないと記載されています。約7か月後のMRIでは、縦に長い高信号は大きく減っています。

このように縦に長く伸びる脊髄内のT2高信号は、他の脊髄疾患でも見えます。鑑別の考え方は脊髄梗塞のMRI画像診断の記事も参考になります。脊髄型の読影では、潜水歴の有無を依頼票で確認することが最初の一歩です。

脳の減圧障害:AGEと減圧症で違う

潜水に関連する減圧障害16人にMRIを行った検討では、動脈ガス塞栓の8人中6人で脳の虚血性病変がありました。一方、神経型の減圧症Ⅱ型では8人中2人しか局所の高信号を認めず、脊髄の病変が見えたのは脊髄を調べた7人中1人でした。結論として、MRIは動脈ガス塞栓の脳障害はよく見つけますが、減圧症では感度が低く、MRIが陰性でも動脈ガス塞栓や減圧症は否定できません(Reuter 1997)。

息ごらえで潜る素潜りでも、減圧障害は起こります。日本の海女(Ama)の報告では、脳卒中のような脳の症状が目立ち、脊髄は保たれる傾向でした。画像では大脳基底核・脳幹・脳の深部と浅部の白質に、症状のある・ない両方の虚血性病変が見られ、動脈の血流不足を思わせるとされています(Kohshi 2021)。『潜水=脊髄』と決めつけず、症状に応じて脳も確認します。頭部MRIをどの順で見るかは頭部MRIの読み方、拡散強調像の基本は拡散強調像(DWI)とはで解説しています。

減圧性骨壊死(Dysbaric osteonecrosis)

減圧障害は骨にも起こります。窒素の気泡が血流を妨げて骨が壊死するのが減圧性骨壊死で、上腕骨頭と大腿骨頭に多いと報告されています。規制の乏しい環境で働くダイバーでは有病率が最大76.9%と高く、規制のある軍のダイバーでは0〜3.125%でした。単純X線は早期の壊死に感度が低く、MRIが標準とされます。症状が出やすいのは、関節面の近く(軟骨下)の病変でした(Houssaini 2026)。骨壊死一般の見え方は特発性骨壊死とその関連疾患で整理しています。

検査 役割
単純X線 進行した壊死は分かるが、早期は見逃す
MRI 早期の壊死を拾える。上腕骨頭・大腿骨頭を意識して撮像範囲を決める
症状 肩や股関節の痛みがあれば、潜水歴とあわせて画像を依頼する

どんな人で起こりやすいか

脊髄型の減圧症では、右左シャント(卵円孔開存など)との関連も調べられています。脊髄型の減圧症の潜水者49人と、潜水の対照者49人を比べた検討で、大きな右左シャントは減圧症の人に多く(オッズ比3.6)、特に胸腰髄の障害と強く関連しました(オッズ比6.9)。一方、頸髄の障害とは関連がありませんでした(Gempp 2009)。ただしこれは患者対照研究で、因果関係を決めるものではありません。

また、椎間板の変性などで脊髄を圧迫する要因があると、MRIの異常と強く関連していました(Gempp 2008)。MRIでは『脊髄の信号』だけでなく『脊柱管の状態』も記載すると臨床に役立ちます。

レポートに書く内容の例

脊髄型を疑う依頼では、次のような項目を書くと臨床に伝わりやすくなります。病変の高さ(T3〜T10など)・縦の長さ・灰白質か白質か・脊髄の腫大や造影の有無・脊柱管の狭窄や椎間板変性の有無・潜水歴との整合です。所見が乏しいときは、『MRIで明らかな異常を認めないが、減圧症を否定するものではない』と添えると、陰性の意味が誤解されません(Reuter 1997、Gempp 2008)。

研修医向け:減圧症を疑ったときのチェックリスト

  • 依頼票・問診で潜水歴(深さ・時間・浮上の状況)と症状が出るまでの時間を確認する
  • MRIは病変の有無と範囲の評価に使う。正常でも否定しないことをレポートに残す
  • 脊髄症状では、T2強調像・STIRで縦に広がる高信号、灰白質の障害、病変の広がり(高さの数)を書く
  • 脊柱管の狭窄や椎間板変性など、脊髄の圧迫要因も記載する
  • 脳の症状(意識・視野・失調)があれば、動脈ガス塞栓や脳の減圧症を考えて頭部も評価する
  • 肩・股関節の痛みが長引く潜水者では、骨壊死のMRIも考える
  • 治療(再圧)の判断は臨床が優先。画像の結果待ちで遅らせず、早い治療の重要性が強調されている(Pisano 2026)

よくある疑問(Q&A)

Q. MRIが正常なら、減圧症ではありませんか?
A. そうとは限りません。神経型の減圧症Ⅱ型でMRIに異常があったのは一部で、陰性でも動脈ガス塞栓や減圧症は否定できないと報告されています(Reuter 1997)。症状と潜水の状況から判断します。

Q. MRIで病変があると、後遺症が残りますか?
A. 病変は重症と関連します。脊髄型の45人では、病変のある人は重症に多く、経過の良かった人には病変がありませんでした(Gempp 2008)。ただし個々の経過は症状・治療の時期などで変わります。

Q. 素潜りでも減圧症になりますか?
A. 起こり得ます。日本の海女(Ama)では、脳の症状が中心の減圧障害が報告されています(Kohshi 2021)。潜る回数や深さ、休みの取り方が関係するとされています。

Q. ダイビングのあとに体調が悪いときは?
A. しびれ、脱力、めまい、強い疲れ、関節の痛みが出たら、潜水から時間が経っていても、早めに医療機関や潜水医学の分かる施設に相談してください。

あわせて読みたい:脊柱管内の髄外造血とは、高所脳浮腫(HACE)のMRI所見、透析患者の脳症のMRI

参考文献

  1. Kamtchum Tatuene J, Pignel R, Pollak P, et al. Neuroimaging of diving-related decompression illness: current knowledge and perspectives. AJNR Am J Neuroradiol. 2014;35(11):2039-44. PubMed
  2. Gempp E, Blatteau JE, Stephant E, et al. MRI findings and clinical outcome in 45 divers with spinal cord decompression sickness. Aviat Space Environ Med. 2008;79(12):1112-6. PubMed
  3. Hennedige T, Chow W, Ng YY, et al. MRI in spinal cord decompression sickness. J Med Imaging Radiat Oncol. 2012;56(3):282-8. PubMed
  4. Reuter M, Tetzlaff K, Hutzelmann A, et al. MR imaging of the central nervous system in diving-related decompression illness. Acta Radiol. 1997;38(6):940-4. PubMed
  5. Gempp E, Blatteau JE, Stephant E, et al. Relation between right-to-left shunts and spinal cord decompression sickness in divers. Int J Sports Med. 2009;30(2):150-3. PubMed
  6. Kohshi K, Tamaki H, Lemaître F, et al. Diving-related disorders in commercial breath-hold divers (Ama) of Japan. Diving Hyperb Med. 2021;51(2):199-206. PubMed
  7. Houssaini R, Abdelrazik Y. Dysbaric Osteonecrosis in Divers: A Narrative Review With a Systematic Literature Search of Pathophysiology, Prevalence, Clinical Features, and Screening. Cureus. 2026;18(1):e102625. PubMed
  8. Pisano TJ, Zotter B, Lambert DS, et al. Decompression Sickness Myelopathy: Case Report and Acute Management Review for the Neurologist. Neurohospitalist. 2026. PubMed

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