脳の中に大脳基底核(だいのうきていかく)と呼ばれる部位があります。
ちょっと難しそうな名前ですが、この大脳基底核とは一体どう言ったもので、どのような機能や役割があるのでしょうか?
実は、あなたの意識的な動きを調節しているのは大脳基底核です。
つまり、大脳基底核は動き・運動を調節しているのです。
では、どうやって調節しているのでしょうか?
また大脳基底核が障害されたらどのようなことが起こるのでしょうか?
その仕組み・機序を理解したとき、あなたは人間の脳の複雑さに触れることができるでしょう!
今回は、
- 大脳基底核とはどのようなものか。
- どのような機能があり、どのように調節されているのか。
- 障害されるとどのような病気が起こり、どのような症状が起こるのか。
などを、図(イラスト)や実際のCT画像を用いてわかりやすくまとめました。
一部難しいところもありますが、ぜひ参考にしてください。
では、いきましょう!
大脳基底核とは?解剖は?
大脳基底核は大脳のやや深いところ(髄質)にある灰白質の塊であり、神経細胞体の集合部位を指し、
- 尾状核(びじょうかく)
- レンズ核
と呼ばれる部位から成ります。
頭部CTでそれぞれの大脳基底核の解剖をみると以下の通りです。
レンズ核とは、被殻(ひかく)、淡蒼球(たんそうきゅう)と呼ばれる部位からなり、尾状核と被殻を合わせて線条体(せんじょうたい)と呼びます。
大脳基底核は広義には、機能的に関連の深い視床下核、黒質を含めることがあります。
つまり広義の大脳基底核=尾状核+被殻+淡蒼球+視床下核+黒質だということです。
ではその大脳基底核にはどのような機能・役割があるのかを次に見ていきましょう。
大脳基底核の機能・役割は?
そんな大脳基底核は、簡単にいうと私たちが意識的に行う運動(これを随意運動という)の調節をしてくれます。
例えば、「位置について、よーいどん!」と言われると、ポーズを取って走りはじめますよね。
その滑らかな一連の動きをきちんと調節してくれるのが大脳基底核なのです。
ですので、大脳基底核に障害があると
- 動きが鈍くなったり(無動)
- 本来出るべきではない運動が出たり(多動)
といったことが起こります。
このほかに大脳基底核の機能・働きの中には、認知機能や学習、情動にも関わわりがあることがわかってきています。
- 随意運動を調節
- 認知機能・学習・情動に関与
そんな大脳基底核はどのようにして運動を調節しているのかを次に見ていきましょう。
大脳基底核はどうやって随意運動を調節している?その機序は?
そんな大脳基底核は一体どうやって、私たちの運動(随意運動)を調節しているのでしょうか?
その機序を解き明かすには、大脳皮質-大脳基底核-視床-大脳皮質というループ回路を理解する必要があります。
まずこの回路の主役達は上の通りです。
- 大脳皮質
- 大脳基底核
- 視床
ですね。
ではこれらがどのように回路を作ってお互い相互関係しているかを示したのが下の図になります。
これが大脳皮質-大脳基底核-視床-大脳皮質というループ回路です。
これからわかることは、大脳基底核は普段、視床に対して抑制性に働いていることがわかります。
イメージでいうとブレーキをかけてスピードを調節しているのが大脳基底核ということです。
- 運動するときにはブレーキを緩めて
- 運動を止めるときにはブレーキを閉めて
という感じですね。
大脳基底核は、この微妙な調節をして随意運動を滑らかなものにしているのです。
また、大脳基底核は直接随意運動を調節するのではなく、視床→大脳皮質を介して随意運動を調節していることがわかりますね。
大脳基底核のループ回路の直接路と間接路とは?
この大脳基底核と大脳皮質、視床との関係は、実はもう少しややこしいのです。
上で出てきた大脳皮質と大脳基底核、視床の関係ですが、大脳基底核のところは、単に大脳基底核とのみしか記載がありません。
しかし大脳基底核には、線条体やレンズ核、視床下核、黒質といったものが含まれているのでした。
では、これらがどのように関係しているのかを先ほどの回路に加えてみるとこのようになります。
これを回路に組み込んで、細かく表示すると次の図です。
この緑の部分が全て大脳基底核に相当します。
さて、この大脳基底核に相当するところを次のように2つに分けますね。
これにより
- 線条体が黒質や淡蒼球内節を介して視床へ行く経路(直接路)
- 線条体が淡蒼球外節や視床下核を介して視床へ行く経路(間接路)
に分けることができ、前者を直接路、後者を間接路と言います。
- 直接路は大脳皮質の興奮性を高める(促進する)=ブレーキを緩めるイメージ
- 間接路は大脳皮質の興奮性を弱める(抑制する)=ブレーキを強めるイメージ
という全く逆のことをおこなっているのです!
つまり、大脳基底核がブレーキを調節することで、随意運動を調節すると上で説明しましたが、この直接路がブレーキを緩め、間接路がブレーキを強めることで、調節しているということなのですね。
ですので、
- ブレーキを緩めることで、必要な運動を行う!
- ブレーキを強めることで、不必要な運動を行わない!
という作用があります。
補足)なぜ直接路が大脳皮質の興奮性を高めるのか、間接路が大脳皮質の興奮性を弱めるのか、気になる方のために動画解説をしました。
こちらからどうぞ。
そんな大脳基底核が障害されるとどのようなことが起こるかを次に見ていきましょう。
大脳基底核が障害されるとどうなる?どんな病気がある?
大脳基底核が障害されるということは、上で説明したブレーキをうまく調節できないということです。
つまり、
- ブレーキを適切に緩めることができない=ブレーキがかかったまま→必要な運動ができない。
- ブレーキを適切に強めることができない=ブレーキがかからない→不必要な運動が起こってしまう。
といったことが起こります。
これらの場合、以下のような症状(障害)が起こり得るのです。
この大脳基底核の障害によって起こる症状を錐体外路症状(すいたいがいろしょうじょう)と言います。
錐体外路症状には上のように、ブレーキがかかったままの状態ですと、
- 運動の減少:無動
- 不随意運動:安静時振戦
- 筋トーヌス亢進:筋強剛(固縮)
- 姿勢反射異常
といった症状が起こります。
逆に、ブレーキがかからない状態の場合、
- 運動の亢進:多動
- 不随意運動:舞踏運動など
- 筋トーヌス低下
といった症状が起こります。
必要な運動ができない代表的な疾患が、パーキンソン病(Parkinson病)で、不必要な運動が起こってしまう代表的な疾患が、ハンチントン舞踏病(Huntington舞踏病)です。
最後に
今回は、大脳基底核についてまとめました。
ポイントは以下の通りです。
- 大脳基底核には、尾状核+被殻+淡蒼球+視床下核+黒質が含まれる。(広義の場合)
- 大脳基底核は主に、あなたが意識して行う動き(随意運動)を調節している。
- 調節には、大脳皮質-大脳基底核-視床-大脳皮質というループ回路が関与している。
- ループ回路では、大脳基底核はブレーキをかけて運動を調節している(とイメージすればわかりやすい)
- ループ回路では、ブレーキを緩める直接路とブレーキを強める間接路があり、双方でブレーキを調節している。
- 大脳基底核が障害されると、パーキンソン病やハンチントン病などが起こりうる。
- 大脳基底核は随意運動の調節のほかにも、認知機能・学習・情動に関与していると言われている。
普段何気なく動いていますが、それが自分の思うようにスムーズに動けるのは大脳基底核が調節をしてくれているからなのです。
大脳基底核が作用するその機序として考えられている直接路と間接路で、随意運動がうまく調節されている点は非常にややこしくも素晴らしいと個人的には思いました。
参考になれば幸いです( ´∀`)