腹部CT 冠状断・矢状断

腹部CTの冠状断や矢状断って、横断像と何が違うんですか?
上下に長い構造(血管・腸管・尿管)を1枚でたどれるのが強みです。横断像と組み合わせて使います。

先に結論:冠状断は「正面から」、矢状断は「横から」見た断面

断面 見やすい主な構造
冠状断(coronal) 肝臓と右腎・脾臓と左腎の上下関係、門脈とSMVの合流、腸腰筋、尿管の走行、虫垂・腸管の追跡
矢状断(sagittal) 大動脈から出る腹腔動脈・SMAの分岐の角度、左腎静脈と十二指腸の通り道、椎体との位置関係
横断(axial) 臓器の前後左右の関係・基本の読影断面

横断像で場所を決め、冠状断・矢状断で「上下のつながり」を確かめるのが基本の使い分けです。

実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの腹部CTの正常解剖ツールで、横断・冠状断・矢状断を切り替え、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。

画像診断cafe「腹部CTの正常解剖」の冠状断の画面

画像診断cafe「腹部CTの正常解剖」の冠状断の画面。右上のボタンで横断・冠状・矢状を切り替えられます

冠状断・矢状断とは(断面の向き)

  • 横断(axial):体を輪切りにした断面。足側から見上げる向きで、画面の左が患者さんの右です。
  • 冠状断(coronal):体を正面から見た断面。画面の上が頭側、左が患者さんの右です。
  • 矢状断(sagittal):体を真横から見た断面。ふつう画面の左が体の前(おなか側)、右が背中側です。

現在のCT(MDCT)は薄いスライスで撮影したデータから、冠状断・矢状断を作り直す(再構成, multiplanar reformation: MPR)ことができます。撮り直しは不要です。

冠状断で見えるもの

肝臓と腎臓・脾臓の上下関係

  • 右上に肝臓、その下に右腎。右腎は肝臓に押されて、ふつう左腎よりやや低い位置にあります。
  • 左上に脾臓、その下内側に左腎。
  • 横隔膜がドーム状の線として1枚で見え、肝臓・脾臓との接し方が分かります。

門脈とSMV(上腸間膜静脈)

冠状断では、下からのぼってくるSMVが膵頭部の後ろで脾静脈と合流して門脈になり、肝門へ向かう流れを1本の道としてたどれます。門脈の右枝・左枝への分かれ方には個人差があり、MDCTでの検討では約2割に分岐の変異がみられたと報告されています(Koç 2007)。詳しくは門脈の解剖を参照してください。

腸腰筋と尿管

  • 腸腰筋(大腰筋)は腰椎の両脇から骨盤へ「ハの字」に下る太い筋肉です。冠状断では左右差(腫れ・膿瘍)を比べやすくなります。
  • 尿管は腎盂から出て、腸腰筋の前を下り、総腸骨動脈の前を越えて骨盤へ入ります。横断像では点にしか見えない尿管も、冠状断では線として追えます(尿管の区分とCTでの追い方)。

腸間膜

小腸の腸間膜(mesentery)は、左上腹部から右下腹部へ斜めに付く根部(root)から扇のように広がり、中をSMA・SMVの枝が走ります(Okino 2001)。冠状断では血管の枝が扇状に広がる様子が見やすくなります(腸間膜の種類とCTでの見方)。

矢状断で見えるもの

大動脈と腹腔動脈・SMAの分岐角度

  • 大動脈の前壁から、上に腹腔動脈、そのすぐ下にSMAが出ます。腹腔動脈は前へ短く出てすぐ分かれ、SMAは大動脈に沿うように下へ向かいます。
  • 大動脈とSMAのあいだの角度と距離は矢状断で測るのが分かりやすく、体格(BMI)と相関することが報告されています(Ozkurt 2007)。
  • この角度のすき間を、左腎静脈と十二指腸水平部が通ります。

椎体との位置関係

矢状断では、どの腰椎の高さで血管が分岐しているか、臓器が椎体のどの高さにあるかを数えやすくなります。

横断像に冠状断を足す利点

対象 冠状断を足すと
虫垂 盲腸から出る付け根から先端まで、1〜数枚でたどりやすい
腸管(小腸・大腸) 拡張した腸と細くなった場所(閉塞部)の位置関係をつかみやすい
尿管 腎盂から膀胱までの流れと、結石などで止まっている場所を追いやすい
血管 門脈・SMV、腸骨動脈など上下に長い血管の走行を追える

急性虫垂炎のCTでは、横断像に冠状断を加えると虫垂を見つけたり、炎症を否定したりする読影者の確信度が上がったと報告されています(Paulson 2005)。ただし正診率そのものは横断像だけでも高く、冠状断は「横断像の代わり」ではなく「足して使うもの」と考えるのが無難です(Paulson 2005)。

よくある疑問(Q&A)

Q1. 冠状断を見るために追加の撮影や被ばくが要りますか?

薄いスライスで撮影したデータがあれば、冠状断・矢状断はコンピューター上で作り直せるため、そのための追加撮影は通常ありません。

Q2. 冠状断だけで読影してもよいですか?

冠状断は上下のつながりに強い一方、前後の関係は横断像のほうが分かりやすい場面があります。基本は横断像で、冠状断・矢状断を補助に使います。

Q3. 矢状断で左右はどちらですか?

矢状断は真横から見た断面なので、1枚の中に左右はありません。どの位置の断面かは、横断像に表示される位置線で確認します。

まとめ

  • 冠状断は正面から:肝臓と腎臓の上下関係、門脈とSMV、腸腰筋、尿管、腸間膜。
  • 矢状断は横から:大動脈から出る腹腔動脈・SMAの分岐角度、左腎静脈と十二指腸の通り道。
  • 横断像に冠状断を足すと、虫垂・腸管・尿管のように上下に長い構造を追いやすくなる。

画像診断cafeの腹部CTの正常解剖ツールでは、横断・冠状断・矢状断を切り替えながら、構造をタップして名前を確かめられます(無料・登録不要)。スマートフォンでは無料のiPhoneアプリ「画像診断cafe」の腹部CT 冠状断・矢状断の解剖でも確認できます。ツールの紹介は腹部CTの正常解剖ツールの記事にもあります。

参考文献

  1. Paulson EK, Harris JP, Jaffe TA, et al. Acute appendicitis: added diagnostic value of coronal reformations from isotropic voxels at multi-detector row CT. Radiology. 2005;235(3):879-85. PubMed
  2. Neville AM, Paulson EK. MDCT of acute appendicitis: value of coronal reformations. Abdom Imaging. 2009;34(1):42-8. PubMed
  3. Koç Z, Oğuzkurt L, Ulusan S. Portal vein variations: clinical implications and frequencies in routine abdominal multidetector CT. Diagn Interv Radiol. 2007;13(2):75-80. PubMed
  4. Okino Y, Kiyosue H, Mori H, et al. Root of the small-bowel mesentery: correlative anatomy and CT features of pathologic conditions. Radiographics. 2001;21(6):1475-90. PubMed
  5. Ozkurt H, Cenker MM, Bas N, et al. Measurement of the distance and angle between the aorta and superior mesenteric artery: normal values in different BMI categories. Surg Radiol Anat. 2007;29(7):595-9. PubMed

画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
無料講座

腹部画像診断を症例で学ぶ

4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。

講座に参加する(無料) →
胸部レントゲンの正常解剖を31日で
無料講座

胸部レントゲンの正常解剖を31日で

1日3分、全31日で胸部レントゲンの正常解剖の基礎を学ぶ参加型の講座です。全日程に簡単な動画解説が付いています。

講座に参加する(無料) →
画像診断LINE公式アカウント
登録特典あり

画像診断LINE公式アカウント

新しい企画やモニター募集のお知らせを配信しています。登録すると特典として、脳の血管支配域のミニ講座に無料で参加できます。

LINEで友だち追加 →