
先に結論:見落とし・誤診は「見えなかった(知覚の誤り)」と「見えたが解釈を誤った(認知の誤り)」に分けて考える。系統的に全体を読み、1つ見つけても探し続け、過去レポートをうのみにしない
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| どのくらい起こるか | 後ろ向きに見直すと約30%、日常の読影では平均3〜5%の誤りがあるとされる |
| 多い型 | 所見の見落とし(underreading)、1つ見つけて満足する(satisfaction of search)、推論の誤り、関心領域外の所見 |
| 引き継がれる誤り | 診断が遅れた症例の約3分の1で、次の検査でも正しい診断に至らなかった |
| 対策の考え方 | 読む順番を決めて全体を見る、探索を早く打ち切らない、自分のバイアスを知る、誤りを型に分けて振り返る |
読影の誤りはどのくらい起こるか
放射線科医の誤りの頻度は、1960年代に最初に推定されて以来ほとんど変わっていないとされます(Bruno 2015)。後ろ向きに見直すと検査の約30%に誤りが見つかり、日常の読影でリアルタイムに起こる誤りは平均3〜5%と報告されています(Lee 2013)。
画像機器が進歩しても誤りの率が変わらないのは、読影が人の知覚と認知に頼る作業だからです。外からの割り込み、読影件数の増加、疲労などの環境も影響します(Waite 2017)。
誤りの型:知覚の誤りと認知の誤り
| 型 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 知覚の誤り(perceptual error) | 大事な異常が画像上に写っているのに見えていない | 肺野の小結節、撮影範囲の端の骨病変を見逃す |
| 認知の誤り(cognitive error) | 異常は見えているが、その意味や重要性を正しく解釈できていない | 所見に気づいたが良性と判断した、別の疾患と考えた |
このように、誤りは大きく2つに分けて考えられています(Bruno 2015)。
見落とし(遅れた診断)656例・1,269件の誤りを分類した研究では、最も多かったのは所見の見落とし(underreading)で42%、次いで satisfaction of search が22%で、推論の誤りや所見の位置(関心領域から外れた場所)による誤りも多くみられました(Kim 2014)。
1つ見つけると次を見落とす(satisfaction of search)
1つ目の異常を見つけたあと、ほかの異常の検出率が下がる現象です。画像に模擬の結節を加えると、もともとあった別の病変の検出精度が有意に下がることが実験で示されました(Berbaum 1990)。
専門家でも「見ているのに見えない」
肺結節を探す課題の最後の症例に、平均的な結節の48倍の大きさのゴリラの絵を入れたところ、放射線科医24人のうち83%が気づきませんでした。視線の記録では、気づかなかった人の多くがその場所を直接見ていました(Drew 2013)。何かを探しているとき、探していないものは目に入っていても認識されにくいことを示す結果です(非注意性盲目)。
誤りは引き継がれる
前述の研究では、656例のうち196例(30%)で、後の検査でも正しい診断に至っていませんでした。最初の誤りから正しい診断までの期間は平均251日でした(Kim 2014)。前回のレポートの結論がそのまま次の読影に持ち込まれることがある、という点に注意が必要です。
認知バイアスを知る
人の脳は、大量の情報を処理するときに経験や思い込みで近道をします。これが認知バイアスで、読影のどの段階でも起こり、いくつも重なって誤りにつながります(Yoon 2024)。
日常の読影の多くは速い直感的な判断(type 1)で行われていて、効率がよい反面、誤りも起こりやすいとされます。近道をなくすのではなく、よく起こるバイアスを知り、自分の考え方を一歩引いて確かめる(メタ認知)ことが、続けられる改善策として提案されています(Lee 2013)。
- 依頼文・過去レポートにひっぱられる:依頼文の疑い病名や前回の結論から入ると、それに合わない所見を軽く見がちになる
- 最初の印象にとらわれる:早い段階で浮かんだ診断に合う所見ばかり集める
- 早く結論を出しすぎる:説明のつく診断が見つかった時点で考えるのをやめる
見落としを減らす読影の手順
上の研究結果を、読む手順に置き換えると次のようになります。
- 撮影された範囲をすべて、決めた順番で見る:関心領域だけを見ると、範囲の端や別の臓器の所見を落としやすい。部位ごとの順番の例は頭部CTの見方まとめ、胸部CTの読影・見方の基本を参考に。
- 1つ見つけても探し続ける:satisfaction of search を意識し、主病変を見つけたあとにもう一度全体を見直す。
- 依頼文・過去レポートと画像を分けて考える:先入観のない目で画像を見る時間をつくり、前回の結論が今回の画像と合っているかを確かめる。
- 過去画像と比べる:同じ部位の過去画像があれば、変化の有無を確認する。
- 所見全体をひとつの病態で説明できるか考える:説明できない所見が残るときは、診断を見直すきっかけにする。
見落とし・誤診の振り返りのしかた
振り返りでは、個人を責めるのではなく、誤りの型を分けることが役に立ちます。
| 振り返る問い | 考える原因 | 見直すこと |
|---|---|---|
| 所見は見えていたか? | 見えていない=知覚の誤り | 読む順番・範囲、件数や割り込みなどの環境 |
| 知っている疾患だったか? | 知らなかった=知識の不足 | その疾患・正常変異を学ぶ |
| 知っていたのに誤ったか? | 認知の誤り | どのバイアスがはたらいたか(依頼文・前回の結論・早すぎる結論など) |
誤りを型ごとに記録しておくと、自分が落としやすい場所や考え方の癖が見えてきます。
よくある疑問(Q&A)
Q. 経験を積めば見落としはなくなりますか?
専門家でも見ている場所の異常に気づかないことがあり(Drew 2013)、誤りの率は長年変わっていません(Bruno 2015)。経験に加えて、手順と振り返りのしくみで減らしていく考え方が現実的です。
Q. 過去レポートは読まないほうがいいのですか?
過去の情報は診断に役立ちます。ただし、前回の結論が次の検査に引き継がれて誤りが続くことがあるため(Kim 2014)、画像を自分の目で見てから照らし合わせるのが安全です。
Q. 疲れていると見落としは増えますか?
疲労や件数の多さ、作業の中断は、誤りに影響する要因として挙げられています(Waite 2017)。
あわせて読みたい:LLM(大規模言語モデル)の画像診断はどこまでできる?
参考文献
- Bruno MA, Walker EA, Abujudeh HH. Understanding and Confronting Our Mistakes: The Epidemiology of Error in Radiology and Strategies for Error Reduction. Radiographics. 2015;35(6):1668-76. PubMed
- Lee CS, Nagy PG, Weaver SJ, et al. Cognitive and system factors contributing to diagnostic errors in radiology. AJR Am J Roentgenol. 2013;201(3):611-7. PubMed
- Kim YW, Mansfield LT. Fool me twice: delayed diagnoses in radiology with emphasis on perpetuated errors. AJR Am J Roentgenol. 2014;202(3):465-70. PubMed
- Berbaum KS, Franken EA, Dorfman DD, et al. Satisfaction of search in diagnostic radiology. Invest Radiol. 1990;25(2):133-40. PubMed
- Waite S, Scott J, Gale B, et al. Interpretive Error in Radiology. AJR Am J Roentgenol. 2017;208(4):739-749. PubMed
- Drew T, Võ ML, Wolfe JM. The invisible gorilla strikes again: sustained inattentional blindness in expert observers. Psychol Sci. 2013;24(9):1848-53. PubMed
- Yoon SY, Lee KS, Bezuidenhout AF, et al. Spectrum of Cognitive Biases in Diagnostic Radiology. Radiographics. 2024;44(7):e230059. PubMed
画像診断を無料で学べるコンテンツ

腹部画像診断を症例で学ぶ
4日に1回、朝6時に症例が届き、実際に画像をスクロールして読影する講座です。90症例以上・1年以上続く講座で、医師・医学生・放射線技師・看護師など10,000名以上が参加中です。
講座に参加する(無料) →
