
先に結論:腹部レントゲンは「決まった順番」で、正常のガス分布を基準に見る
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 見る順番 | ①消化管のガス ②腹腔外のガス ③液体・臓器の輪郭・腸腰筋の線 ④石灰化 ⑤骨・軟部・異物 |
| 小腸と大腸 | 位置(中央か辺縁か)と、ひだの走り方(全周か一部か)で見分ける |
| 腹腔外ガス | 立位・側臥位が見やすい。仰臥位ではRigler徴候など複数のサインを探す |
| 限界 | 腸閉塞も腎結石も、単純X線だけでは見逃す・過小評価することがある |
腹部単純X線とは
腹部単純X線(腹部レントゲン)は、造影剤を使わずにお腹を撮るX線検査です。腎臓・尿管・膀胱を含めて撮る意味でKUB(kidneys, ureters, bladder)と呼ばれることもあります。腹痛で救急外来を受診した人に最初に行われることが多い検査で、結果を見て追加のCTなどが必要かどうかを決める助けになります(Loo 2017)。
CTに比べると得られる情報は限られますが、ガスの分布、石灰化、カテーテルや異物の位置は一枚で全体を見渡せるのが長所です。そのぶん、見る順番が決まっていないと「黒いところ」「白いところ」に目が散ってしまいます。ここでは研修医や技師、医学生の方向けに、見る順番とつまずきやすい所を整理します。
見る順番の全体像
| 順番 | 見る所 | 主な落とし穴 |
|---|---|---|
| ①消化管のガス | 胃・小腸・大腸のガスの量、拡張、ひだ、ガス像の位置 | 小腸と大腸の取り違え、便による偽の閉塞像 |
| ②腹腔外のガス | 横隔膜下、腸管壁の両側、後腹膜、腸管壁内 | 仰臥位では見えにくい。正常の影を遊離ガスと誤る |
| ③液体・臓器の輪郭 | 肝・脾・腎の陰影、腸腰筋の線、腹膜外脂肪線、骨盤内の陰影 | 輪郭の消失は病気のサインだが、体型や腸管ガスでも見えにくい |
| ④石灰化 | 腎・尿管・胆嚢・膵・血管・骨盤内 | 静脈石と尿管結石、石灰化と体外の異物 |
| ⑤骨・軟部・異物 | 腰椎、骨盤、股関節、チューブ、手術クリップ、衣類・湿布など | 端にある骨病変は最後まで見落としやすい |
①正常なガス像と小腸・大腸の見分け方
健康な人でも、胃には空気(胃泡)があり、大腸には便とともにガスが入っています。一方、小腸のガスは正常ではごく少量で、目立たないのが普通です。「小腸のガスが多い」こと自体が一つの手がかりになります。
小腸と大腸の区別
| 見分けるポイント | 小腸 | 大腸 |
|---|---|---|
| 位置 | 腹部の中央に寄る | 外周を取り囲む(上行・横行・下行・S状) |
| ひだ | ひだが腸管の幅全体を横切り、間隔が細かい | ハウストラ(ふくらみ)が腸管の幅の途中までしか届かず、間隔が広い |
| 太さ | 大腸より細い | 小腸より太い。盲腸は特に太くなりやすい |
| 内容物 | ガスや液体 | 便(まだら状の陰影) |
腸閉塞のときは、拡張した腸管がどこまでか(小腸だけか、大腸まで及ぶか)が診断の鍵になります。詳しい所見はイレウス・腸閉塞のレントゲン所見と見方をご覧ください。
ここで注意したいのが、大腸の便がたまっているだけでも小腸が広がって見えることです。大腸に便塞栓のあった515人のうち、他の原因がないのに小腸だけが拡張していた人は18人(3.5%)で、拡張した小腸の太さは平均3.7cmでした(Torigian 2001)。また、小腸閉塞の診断における単純X線の感度は69%、特異度は57%と報告されており、重い閉塞(高度)では感度86%、軽い閉塞では56%でした(Maglinte 1996)。X線が正常でも小腸閉塞は否定できません。
逆に、ガスがほとんど見えない場合も要注意です。ガス像が消える原因はガスレス(gasless abdomen)とは?腹部レントゲンでガス像が消える原因で整理しています。
②腹腔外のガス(free air・後腹膜・腸管壁内)
消化管の外にガスが見えたときは、穿孔など緊急性の高い病気を考えます。ただし医療行為(手術後・内視鏡後など)でも生じるため、経過との照らし合わせが必要です。
腹腔内の遊離ガス(free air)
基本は、立位や側臥位(左側を下にして撮影)でガスが上に移動する性質を使います。立位では横隔膜の下に三日月状の黒い影、側臥位では右の肝臓の外側(腹壁との間)にガスがたまります。体を起こせない患者さんでは仰臥位(あおむけ)で撮るため、次のサインを探します。
| サイン | 見え方 |
|---|---|
| Rigler徴候 | 腸管の壁の内側(腸管ガス)と外側(遊離ガス)の両方が黒く、壁が白い線として見える |
| 右上腹部のガス | 右上腹部に、三角形または線状のガスがたまる |
| 肝鎌状間膜徴候 | 肝臓の前を通る靱帯がガスに縁取られて見える |
| フットボール徴候 | 腹腔全体が楕円形に黒く縁取られる(大量のガス) |
| 逆V字徴候 | 臍から骨盤に向かう内側臍ヒダ(索状のひだ)が、ガスで縁取られて逆V字に見える |
ただし、仰臥位の検出力には限りがあります。遊離ガスの44例と、ガスのない87例を混ぜた研究では、これらのサインが1つ以上見えたのは44例中26例(59%)で、内訳は右上腹部のガス41%、Rigler徴候32%でした(Levine 1991)。しかも、ガスのない87例のうち11例(13%)で、右上腹部のガスまたはRigler徴候を誤って陽性としていました。本当のRigler徴候では腸管壁の厚さが1〜8mmだったのに対し、偽陽性の例では壁が1mm以下でした(Levine 1991)。CTは単純X線より遊離ガスの検出感度が高いとされています(Pinto 2016)。
臥位での見え方の詳細は臥位のfree airと気胸の見落とし、CT・レントゲンでの原因の整理はフリーエアー(腹腔内遊離ガス)のCT・レントゲン所見で解説しています。
症例 60歳代男性 腹腔内遊離ガス(Rigler徴候)
仰臥位の腹部X線。拡張した腸管の壁が、内側のガスだけでなく外側の遊離ガスでも縁取られ、壁が細い白い線として見える(Rigler徴候)。
症例 60歳代男性 腹腔内遊離ガス(胸部X線)
同じ症例の胸部X線。横隔膜の下に黒いガス(横隔膜下遊離ガス)が見える(右側で明瞭)。症例ページでは、横隔膜下の遊離ガスとRigler徴候による大量の腹腔内遊離ガスと記載されている。
後腹膜のガスと腸管壁内のガス
後腹膜には十二指腸の下行部、上行結腸・下行結腸、直腸などがあり、これらの穿孔では腹腔内ではなく後腹膜にガスが出ます。見え方は、腎臓の周りや腸腰筋の縁に沿って、線状・網目状・小さな泡状の黒い陰影が見えるのが特徴です。腎臓の輪郭が普段よりはっきり見えるときは、周囲にガスがある場合があります。腸管壁内のガスは、壁に沿った細い線や小さな泡として見え、腸管内腔のガスとは区別します。
③液体・臓器の輪郭・腸腰筋の線
単純X線では、脂肪の黒さを背景に、肝臓・脾臓・腎臓・膀胱・腸腰筋などが「薄い灰色の影」として見えます。この輪郭がどこまで追えるかを確認します。
| 見る所 | 正常 | 消える・ずれるときに考えること |
|---|---|---|
| 腸腰筋の線 | 腰椎の両脇に、斜めに走る境界線として見える | 後腹膜の血腫・膿瘍・腫瘍(腸腰筋膿瘍など) |
| 腎臓の陰影 | 左右の腰椎の両脇に見える | 腎の腫大・萎縮、周囲の血腫・液体 |
| 肝下縁・脾 | 右上腹部・左上腹部に境界が見える | 臓器の腫大、腹水、腫瘤による腸管の圧排 |
| 腹膜外脂肪線(側腹部) | 腹壁と大腸外側の間に、黒い脂肪の線がある | 腹水や炎症で線が消えたり、腸管との間隔が広がる |
| 骨盤内 | 膀胱が均一な陰影として見える | 骨盤内の腫瘤、液体、便 |
腸腰筋の線は、体格や腸管ガスの重なりで見えないこともあります。左右差があるかを比べ、一方だけ消えている場合に意味があります。
④石灰化の見方
石灰化は、位置と形から原因を絞ります。
| 位置 | 主な原因 | 特徴 |
|---|---|---|
| 腎・尿管の走行 | 尿路結石 | 腎→尿管(腰椎横突起の先の近く)→仙腸関節の内側→骨盤の順に追う |
| 右上腹部 | 胆石 | リング状・層状。写らない胆石も多い |
| 左上腹部の帯状 | 慢性膵炎の膵石灰化、膵のう胞 | 膵の走行に沿う |
| 骨盤の円形 | 静脈石 | 中心が抜けた円形。尿管結石との区別が必要 |
| 線状・斑状 | 血管(大動脈・脾動脈など)、リンパ節 | 血管の走行に沿う、または腸間膜の根の部分に集まる |
X線で尿路結石を探す場合は、「見えないから結石がない」とは言えません。822人で、腎結石をCTと比べた検討では、腎臓・尿管・膀胱の単純X線の感度は49.1%、特異度は99.1%でした(Kanno 2017)。写った場合は信頼できる一方で、半数は見逃されます。CTでの石灰化の鑑別は腹部CTの石灰化の鑑別診断も参考にしてください。
⑤骨・軟部・異物と、最後の見直し
最後に、腰椎・仙腸関節・骨盤・股関節、皮下の軟部組織、チューブやクリップなどの医療機器と体外の異物を確認します。腹痛の原因が骨や脊椎にあったり、チューブの位置がずれていたりすることがあります。ガス像、臓器、石灰化、医療機器や異物の所見は、救急で出会う画像例として整理されています(Loo 2017)。
見落とし防止のチェックリスト
| 確認 | ひとこと |
|---|---|
| 撮影体位を確認したか | 立位・仰臥位・側臥位でガスの見え方が変わる |
| 横隔膜の下まで画像に入っているか | 写っていなければ立位胸部で補う |
| 小腸のガスが多くないか | 多ければ閉塞・麻痺性イレウス・便塞栓を考える |
| 腸腰筋の左右差 | 片側だけ消えていれば後腹膜を疑う |
| 石灰化の位置を臓器と合わせたか | 尿路の走行と骨盤の静脈石の区別 |
| 骨とチューブを見たか | 最後に見るのではなく、最初から視野に入れておく |
1つ異常を見つけると、そこで満足して他の所見への注意が下がることがあります(satisfaction of search)。見つけた後も、決めた順番で最後まで見直しましょう。これは読影で見落としが起こる仕組みの一つです。
よくある疑問(Q&A)
Q. 立位で撮れない場合はどうしますか?
A. 側臥位(左側を下にして撮影)や、仰臥位でのサイン探しになります。ただし仰臥位では遊離ガスの検出に限りがあり、疑う場合はCTが選ばれます(Levine 1991、Pinto 2016)。
Q. 腹部レントゲンが正常なら、腸閉塞ではないと言えますか?
A. 言えません。小腸閉塞では単純X線の感度は69%と報告され、軽い閉塞では特に見逃されやすいです(Maglinte 1996)。症状が続くときは、追加の検査を相談してください。
Q. 腎結石は腹部レントゲンで見つかりますか?
A. 見える結石もありますが、CTと比べた検討では約半数にとどまりました(Kanno 2017)。腹痛や血尿があるときは、医療機関で超音波やCTを含めた検査を受けてください。
Q. 便がたまっているだけでも、腸閉塞に見えることはありますか?
A. あります。大腸の便塞栓があると、他に原因がなくても小腸が広がって見えることが報告されています(Torigian 2001)。腹部の症状が強いときは、早めに受診してください。
あわせて読みたい:腹部CTの読み方、骨のレントゲンの見方
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参考文献
- Loo JT, Duddalwar V, Chen FK, et al. Abdominal radiograph pearls and pitfalls for the emergency department radiologist: a pictorial review. Abdom Radiol (NY). 2017;42(4):987-1019. PubMed
- Levine MS, Scheiner JD, Rubesin SE, et al. Diagnosis of pneumoperitoneum on supine abdominal radiographs. AJR Am J Roentgenol. 1991;156(4):731-5. PubMed
- Pinto A, Miele V, Schillirò ML, et al. Spectrum of Signs of Pneumoperitoneum. Semin Ultrasound CT MR. 2016;37(1):3-9. PubMed
- Maglinte DD, Reyes BL, Harmon BH, et al. Reliability and role of plain film radiography and CT in the diagnosis of small-bowel obstruction. AJR Am J Roentgenol. 1996;167(6):1451-5. PubMed
- Torigian DA, Levine MS, Rubesin SE, et al. Fecal impaction: a cause of isolated small bowel dilatation on abdominal radiographs. Eur J Radiol. 2001;40(1):45-9. PubMed
- Kanno T, Kubota M, Funada S, et al. The Utility of the Kidneys-ureters-bladder Radiograph as the Sole Imaging Modality and Its Combination With Ultrasonography for the Detection of Renal Stones. Urology. 2017;104:40-44. PubMed
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