肝臓の尾状葉 乳頭突起は腫瘤ではない

CTの報告書に「尾状葉」と書かれていました。肝臓のどこですか?それから、膵臓の近くに腫瘤があるように見えたのですが、肝臓の一部だったと説明されました。そんなことがあるのですか?
尾状葉は肝臓の背中側にある小さな部分で、下大静脈のすぐ前にあります。その一部の「乳頭突起」は、CTの1枚だけを見ると肝臓から離れて見えるため、リンパ節や膵臓の腫瘤に間違われることがあります。場所と形、見分けるコツを整理します。

先に結論:尾状葉は3つの部分に分け、乳頭突起は「肝臓とつながっているか」で腫瘤と見分ける

項目 ポイント
尾状葉とは 肝臓の背側で、下大静脈と門脈の間にある部分。肝静脈とは別に、直接下大静脈へ血液を流す
3つの部分 Spiegel葉・下大静脈部(paracaval portion)・尾状突起(caudate process)(Kumon 2020)
乳頭突起 尾状葉の突出部。CTの1枚では肝臓から離れて見え、リンパ節や膵臓の腫瘤に似る
見分け方 前後のスライスで尾状葉とつながり、肝臓と同じ濃度・同じ造影のされ方であれば乳頭突起
大きくなる病気 慢性肝疾患、Budd-Chiari症候群など。尾状葉が目立つこと自体が所見になる

尾状葉とは:肝臓の「背中側」の小さな部分

肝臓は、右葉・左葉などに大きく分けられますが、その背側(脊椎側)に、右葉・左葉のどちらにも含まれにくい小さな部分があります。それが尾状葉(caudate lobe)です。Couinaudの区域分類では、肝臓の「S1」にあたります。位置は、前に門脈、後ろに下大静脈があり、その間に挟まれています。

尾状葉は、ほかの肝臓と血液の流れ方が違います。肝臓の血液は通常、右・中・左の3本の肝静脈から下大静脈へ流れますが、尾状葉は、これらとは別に小さな静脈で下大静脈へ直接流れ込みます。この違いが、後で説明する肝静脈が詰まる病気で、尾状葉だけが目立つ理由になります。

尾状葉の3つの部分

日本では、尾状葉をSpiegel葉、下大静脈部(paracaval portion)、尾状突起(caudate process)の3つに分けて考えます。門脈の枝の分かれ方に基づく定義で、解剖の研究で整理されてきました(Kumon 2020)。右葉との境界の決め方には複数の考え方があり、区域の名前の付け方にも違いがあります(Kumon 2020)。報告書では「S1」や「尾状葉」と書かれ、細かな部分の名前が書かれないことも多いので、まず3つの部分の位置関係を知っておくと読みやすくなります。

部分 位置と特徴
Spiegel葉 尾状葉の左側の大きな部分。下端の突出部が乳頭突起
下大静脈部(paracaval portion) 下大静脈の前面に接する部分
尾状突起(caudate process) 尾状葉の右側で、肝右葉とつながる橋のような部分。門脈と下大静脈の間を通る

CTで尾状葉の形を調べた研究(196人)では、形は洋ナシ型が59.7%、不整形が26%、長方形が14.3%で、尾状突起はほとんどの人(92.9%)で見えました(Oguz 2023)。つまり、尾状葉の形には個人差が大きく、形が違うだけで異常とは言えません。

乳頭突起(papillary process):腫瘤に見える正常

乳頭突起は、尾状葉の下方から左側へ、胃の方向に向かって突出する部分です。Spiegel葉の下端が突出した部分として説明され、肝臓の左葉の後ろ側にあります。尾状突起が右葉につながるのに対し、乳頭突起は左側へ向かいます。

この部分が問題になるのは、CTの横断像の1枚だけを見ると、肝臓本体から離れて浮かんでいるように見えるためです。超音波で調べた400人の研究では、乳頭突起が肝臓から離れて見えたのは62人(15.5%)で、卵形で、最大の横径は8〜39mmでした。また、リンパ節や膵臓の腫瘤に間違われることがあることが指摘されています(Donoso 1989)。慢性肝疾患のある人では、大きく見える乳頭突起がより多く見られました(Donoso 1989)。

CTで調べた別の研究(196人)では、乳頭突起は87.2%の人で見られませんでした(Oguz 2023)。つまり、乳頭突起の目立つ人は、全体のおよそ1割強です。誰にでもある所見ではないため、初めて見る人ほど腫瘤と間違えやすい構造です。

症例 75歳男性 乳頭突起が目立つ例

尾状葉の乳頭突起 単純CT 横断像 注釈つき
引用:Radiopaedia(Prominent papillary process of the caudate lobe)

転倒による外傷でCTを撮影した症例です。注釈つきの画像で、紫色の部分が、尾状葉から内側へのびる細長い乳頭突起を示しています。症例ページでは、胃の後方と膵体部の上方に接して、肝臓と連続し、均一で肝臓と同じ濃度の、丸みのある管状の構造があると記載されています。肝臓の形が崩れていないことから、肝臓や膵臓の腫瘍、後腹膜のリンパ節の可能性は低いと説明されています。

腫瘤・リンパ節との見分け方

門脈と下大静脈の間(門脈大静脈間隙:portacaval space)には、尾状葉と乳頭突起のほか、リンパ節、副右肝動脈、後上膵十二指腸の血管、胆嚢管、網嚢孔(小網嚢への入口)など、いくつもの構造が入ります。この間隙のリンパ節は、横断像で長方形や楕円形に見え、前後の径が最大1.3cmに達することがあり、膵臓・肝臓・胆道の一部に似ることがあります(Zirinsky 1985)。

見る点 乳頭突起 腫大リンパ節・腫瘤
肝臓との連続 前後のスライスで尾状葉とつながる 肝臓との間に脂肪の層がある、または押し込んでいる
濃度・造影 肝臓と同じ濃度・同じ造影のされ方(全相で) 肝臓と違う濃度・造影パターン
血管との関係 総肝動脈の上方・前方、門脈の近くに位置する(Donoso 1989) 血管を取り囲む・圧排する
形 丸みのある卵形・管状で、肝臓の形は保たれる 不整形や分葉状。ほかのリンパ節も腫れる

判断に迷うときは、冠状断・矢状断で尾状葉との連続を追います。報告書に「膵上縁の腫瘤」「肝十二指腸間膜のリンパ節」と書かれていても、尾状葉の乳頭突起の可能性があるときは、これらの再構成画像で連続を確かめます。

報告書の言葉と、画像での場所の対応

報告書や健診の結果には、尾状葉に関する言葉がいくつか出てきます。画像で見る場所と合わせて確認しておくと、説明を受けるときに理解しやすくなります。

報告書の言葉 意味・画像での見え方
S1・尾状葉 肝臓の背側の小さな部分。門脈の後ろ、下大静脈の前
Spiegel葉 尾状葉の左側の部分。胃や膵臓の近くに向かって張り出すことがある
乳頭突起 Spiegel葉の下端の突出。1枚のスライスでは肝臓から離れて見えることがある
尾状葉腫大 尾状葉が相対的に大きい。肝静脈の閉塞や慢性肝疾患で見られることがある
門脈大静脈間リンパ節 門脈と下大静脈の間のリンパ節。乳頭突起と並ぶ位置にあり、間違えやすい(Zirinsky 1985)

乳頭突起はリンパ節や膵臓の腫瘤と間違われることがあるため(Donoso 1989)、「肝臓の外の腫瘤」と書かれた場合でも、薄いスライスや冠状断で尾状葉との連続を確かめると、正常の構造だったと分かることがあります。

尾状葉が大きくなる病気

尾状葉は、肝静脈とは別に下大静脈へ血液を流すため、肝静脈が詰まる病気では、尾状葉が代償的に大きくなることがあります。Budd-Chiari症候群(肝静脈や下大静脈の閉塞)の総説では、尾状葉の肥大は、肝内の側副路と並ぶ代償機構の1つとされています(Montes López 2025)。CTでも、尾状葉の腫大は肝静脈が見えない、静脈の閉塞、不均一な肝臓の造影、側副静脈、腹水とともに、Budd-Chiari症候群の共通の所見として挙げられています(Ali Bakry 2025)。詳しくはBudd-Chiari症候群(バッドキアリ)のCT・MRI・エコー所見をご覧ください。

慢性肝疾患のある人では、大きく見える乳頭突起がより多く見られます(Donoso 1989)。肝臓全体の形の変化と合わせて読みます。

尾状葉の病変を見落とさない

尾状葉は肝臓の背側の奥にあり、右葉・左葉に隠れて見えにくいため、病変を見落とさないよう位置を意識して読みます。肝臓全体の読み方は腹部CTの肝臓の読影ポイントで解説しています。尾状葉では次の点を確認します。

順番 確認すること
1 尾状葉の位置を確認する。門脈の後ろ、下大静脈の前
2 尾状葉の大きさと形。左右の差や不整な突出がないか
3 膵臓の近くの小さな腫瘤は、前後のスライスで尾状葉(乳頭突起)とつながっていないか
4 肝臓と濃度・造影が同じか。単純・動脈相・門脈相・平衡相のすべてで確認する
5 冠状断・矢状断で、肝臓・下大静脈・門脈との関係を確認する
6 尾状葉が大きいとき、肝静脈の閉塞(Budd-Chiari症候群)や慢性肝疾患を考える
7 1つの断面で決めず、薄いスライスで上下に追う

腹部全体の読み方の順番は腹部CTの読み方|見る順番と見落としチェックリストも参照してください。健診などで「尾状葉」や「腫瘤の疑い」と言われて不安なときは、結果を受けた医療機関でご相談ください。

よくある疑問(Q&A)

Q. 尾状葉は肝臓の病気ですか?
A. いいえ。尾状葉は肝臓の正常な部分の名前です。大きさや形には個人差があり、形が違うだけで病気とは限りません(Oguz 2023)。

Q. 乳頭突起とリンパ節は、CTで確実に見分けられますか?
A. 多くは、前後のスライスで尾状葉との連続を確認すれば見分けられますが、迷う場合もあります。そのときはMPRで冠状断・矢状断を作る、造影のされ方を確認する、MRIで肝臓と同じ信号か調べるなどの方法を使います。

Q. 尾状葉が大きいと、肝硬変ですか?
A. 尾状葉の腫大だけでは決まりません。慢性肝疾患やBudd-Chiari症候群で大きくなることがありますが(Montes López 2025、Ali Bakry 2025)、診断は肝臓全体の形、血管、血液検査などを合わせて行います。

Q. 尾状葉に腫瘍ができたときは、見つけにくいのですか?
A. 尾状葉は肝臓の背側の奥にあり、右葉・左葉に隠れて見えにくいため、造影の相を変えて見る、冠状断も確認するなど、位置を意識した読影が大切です。

あわせて読みたい:腫瘤の由来臓器の見分け方

参考文献

  1. Donoso L, Martínez-Noguera A, Zidan A, et al. Papillary process of the caudate lobe of the liver: sonographic appearance. Radiology. 1989;173(3):631-3 PubMed
  2. Zirinsky K, Auh YH, Rubenstein WA, et al. The portacaval space: CT with MR correlation. Radiology. 1985;156(2):453-60 PubMed
  3. Kumon M, Kumon T, Tsutsui E, et al. Definition of the caudate lobe of the liver based on portal segmentation. Glob Health Med. 2020;2(5):328-336 PubMed
  4. Oguz NK, Gunduz D. Assessment of the morphology and morphometry of the caudate lobe of the liver using computed tomography. Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2023;27(8):3344-3350 PubMed
  5. Montes López AK, Garcia Rueda JE, Herrera Correa D, et al. Pathophysiology of Primary Budd-Chiari Syndrome: A Narrative Review. Cureus. 2025;17(11):e96539 PubMed
  6. Ali Bakry AH, Bashir A, Almuqbil N, et al. Common features of Budd Chiari syndrome in Sudanese population: a computed tomography-based review and descriptive analysis. Front Med (Lausanne). 2025;12:1552366 PubMed

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