
先に結論:新生児HIEのMRIは「障害の型」と「撮像の時期」をセットで読む
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 主な型 | 基底核・視床型(急性・高度の低酸素)、分水嶺型(軽〜中等度で長引く低酸素)、全体型(非常に高度で長い低酸素) |
| MRIの主役 | 拡散強調像(DWI)。T1・T2では最初の数日は変化が目立ちにくい |
| 撮る時期 | 生後4〜5日ごろが読みやすいとされる。2週目に入るとDWIが正常に戻って見えることがある(偽正常化) |
| 予後との関係 | 基底核・視床や内包後脚の障害が強いほど運動の後遺症が重くなりやすい |
新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)とは
低酸素性虚血性脳症(HIE:hypoxic-ischemic encephalopathy)は、出産前後に脳へ届く酸素や血流が足りなくなり、赤ちゃんの意識や筋緊張、けいれんなどに異常が出る病気です。満期に近い赤ちゃんの神経の後遺症の大きな原因とされ、低体温療法(体を冷やして脳を守る治療)が行われるようになった今も、発達に影響が残る赤ちゃんがいます(Parmentier 2022)。
画像検査の役割は、障害の時期と性質を見極めること、治療方針の判断を助けること、そして発達の見通しを考えることです。MRIは、拡散強調像を含めて標準的な評価法とされ、予後を予測する力に優れています(Parmentier 2022)。同じように脳症の症状を示す別の病気(感染症、代謝の病気、外傷、先天的な異常)もあるため、画像はそれらを見分ける手がかりにもなります(Parmentier 2022)。
HIEのMRIでみる3つの損傷パターン
脳の傷つき方は、低酸素の重さ・続いた時間・赤ちゃんの脳の成熟度で決まります。大きく3つの型に分けられます(Parmentier 2022)。
| 型 | 背景となる低酸素 | MRIで障害されやすい場所 |
|---|---|---|
| 基底核・視床型 | 急に起こる高度の低酸素(臍帯脱出、子宮破裂など) | 被殻の後ろ、視床の腹外側、中心溝まわりの皮質 |
| 分水嶺型(傍矢状型) | 軽〜中等度で、時間をかけて続く低酸素 | 前・中・後大脳動脈の境目の白質、重症では皮質と皮質下白質 |
| 全体型(near total) | 非常に高度で長く続く低酸素 | 基底核・視床と白質の広い範囲 |
(Parmentier 2022)
基底核・視床型
急に血流や酸素が途絶えると、脳の中でも代謝が活発な場所に傷が出ます。具体的には視床の腹外側、被殻の後部、中心溝まわり(perirolandic)の皮質です(Parmentier 2022)。この型は運動の発達の障害、特に脳性麻痺と関わります。基底核・視床の障害の重さと運動障害の重さは強く関係し、重い基底核・視床の病変が重い運動障害を予測する精度は0.89(95%信頼区間0.83〜0.96)と報告されています(Parmentier 2022が引用)。
また、内包後脚(PLIC)に通常見られるT1・T2強調像での高信号が消えていることは、重い運動障害を強く示唆します。ただしT1・T2だけで見ると、内包後脚の異常が見えるまでに最大4日ほどかかることがあります(Parmentier 2022)。
分水嶺型(傍矢状型)
軽〜中等度の低酸素が長く続くと、体は血流を脳の代謝の高い場所へ優先して回します。そのしわ寄せが、血管の支配領域の境目(分水嶺)の白質に出ます。傷は大脳の正中に沿った傍矢状部に並ぶので「傍矢状型」とも呼ばれ、重症では皮質や皮質下白質にも及びます(Parmentier 2022)。皮質の障害はT2強調像で皮質と白質の区別があいまいになる所見(cortical ribbonの消失)として見えます(Parmentier 2022)。
全体型(near total)
非常に重く、長く続いた低酸素では、基底核・視床と白質の両方に広い障害が出ます。DWIで大脳がほぼ全体に白く、小脳だけ比較的正常に見えることから「white cerebrum」とも呼ばれます。このような赤ちゃんは状態が重く、MRIを撮る前に亡くなることもあり、報告は他の型より少ないとされています(Parmentier 2022)。
症例 生後8日の女児 新生児低酸素性虚血性脳症(重度)

引用:Radiopaedia(Neonatal hypoxic ischemic encephalopathy (profound))
左の脳室内出血を伴い、白質の信号が高度に異常で、両側の基底核にも高度の異常があります。皮質の薄さと皮質・白質の境目の不明瞭さも見られます。症例ページには、このような両側対称の高度な異常は新生児の画像に慣れていないと見落とされやすい、と書かれています。
撮像の時期とDWIの偽正常化
HIEのMRIでは、いつ撮るかで見え方が大きく変わります。
| 時期 | DWI・ADC | T1・T2 |
|---|---|---|
| 最初の24時間 | DWIでも異常が出ず偽陰性のことがある | 変化は乏しい |
| 生後数日〜1週間 | 障害部位がDWIで高信号、ADC低下。3〜5日ごろが最も目立つ | 後半にかけて徐々に明らかになる |
| 2週目 | ADCがいったん「正常に見える」ようになる(偽正常化) | — |
(Parmentier 2022)。DWIやADCの基本は拡散強調像(DWI)とは?頭部MRIで高信号になる3つの理由とADCで解説しています。
ADCは、急性期に低下したあと数日かけて上がり、対照の赤ちゃんと区別できなくなる時期があります。これが偽正常化です。重い予後不良のHIEの赤ちゃん12例の検討では、ADCが明らかに低いのは生後およそ2日〜1週間ほどで、正常と区別できなくなる時期は生後約8〜10日と推定されました。さらに生後2週目の後半には、むしろ高い値になることがあります(Winter 2007)。低体温療法を受けた赤ちゃんでは、この偽正常化は生後11〜12日ごろ、冷やしていない赤ちゃんでは6〜8日ごろとまとめられています(Parmentier 2022)。
そのため、生後4〜5日ごろの早めのMRIは、偽正常化の前にDWIの異常を捉えられる点で有利とされます。一方、2週目にDWIだけ見て「正常」と判断すると、傷を見逃すことがあります(Parmentier 2022)。
早く撮っても、遅く撮っても大きくは変わらない?
低体温療法を受けた41人で、生後中央値4日と11日にそれぞれMRIを撮って重症度スコアを比べた研究では、37人(約90%)で同じ重症度と判定されました。ただし、早い時期のMRIで白質・分水嶺のスコアが2、または基底核・視床のスコアが1だった赤ちゃんの一部は後で悪化していたため、そうした場合は撮り直しが勧められています(Skranes 2015)。
MRI以外の検査と、他の病気との見分け方
- 頭部エコー:非侵襲的で、出生前からの障害や出血のスクリーニングに第一選択。149人の検討では、生後48時間以内のエコーが正常だった赤ちゃんの95%でMRIも正常か軽度の異常にとどまり、エコーで高度の異常があった赤ちゃんではMRIが正常な例はなく、83%が高度の異常でした(Cizmeci 2024)。
- MRスペクトロスコピー(MRS):基底核・視床の乳酸/NAA比が2歳時の発達の予測に有用とされます(Laptook 2026)。
- CT:頭部エコーでは対応できない緊急の場合に限るのが基本です(Parmentier 2022)。
成人の低酸素脳症や低血糖脳症の見え方は低酸素脳症(蘇生後脳症)とは?原因・症状とCT・MRI画像所見、低血糖脳症とは?原因・症状とMRI画像所見も参考になります。またHIEとは別に、生まれてから髄鞘化が進む順番も把握しておくと読影が楽になります(髄鞘化のMRI画像診断|月齢ごとのT1・T2信号変化と進む順番)。早産児の白質障害(PVL)との違いはterminal zone of myelinationとPVL・髄鞘化遅延の見分け方で整理しています。
MRIの結果と発達の見通し
MRIの所見は、損傷パターン、スコアリング、スペクトロスコピー、拡散画像のそれぞれが長期の予後を予測する指標として整理されています(Hung 2024)。所見をまとめて点数にするスコアリングが、Barkovich、NICHD新生児研究ネットワーク、Weekeなど複数あります。それぞれ2歳時点の認知・運動の予後をよく予測し、言語の予後と関連したのはWeekeのスコアだけでした(Parmentier 2022)。低体温療法を受けた149人の研究では、MRIが高度の異常だったことが、1歳半時点の不良な転帰の唯一の独立した危険因子で、オッズ比は19.9(95%信頼区間4.0〜98.1)でした(Cizmeci 2024)。
ただし画像は、診察や脳波、成長後の発達の評価と合わせて総合的に考えるものです。MRIの結果だけで将来が決まるわけではありません。
ご家族の方へ
MRIの結果の説明では「どの部分に・どの程度の変化があるか」と「いつ撮った画像か」を併せて主治医に聞くと理解しやすくなります。発達や筋肉の緊張、けいれんなど気になる様子があるときは、担当の医療機関に相談してください。
よくある疑問(Q&A)
Q. MRIが「正常」と言われたら安心してよいですか?
A. 撮った時期が大切です。生後24時間以内のMRIは偽陰性があり得ますし、2週目に入るとDWIが正常に戻って見えることがあります(Parmentier 2022)。いつ撮ったかを含めて主治医に確認してください。
Q. 低体温療法をするとMRIの結果は変わりますか?
A. DWIの偽正常化は、低体温療法を受けた赤ちゃんで冷やしていない赤ちゃんより遅く、生後11〜12日ごろと整理されています(Parmentier 2022)。
Q. 1回目と2回目のMRIで結果が違うことはありますか?
A. 多くは同じ判定ですが、早い時期のスコアが低めでも後で悪化した例があります(Skranes 2015)。必要に応じて撮り直します。
Q. 他の病気でも似た画像になりますか?
A. 感染症や代謝の病気、外傷、先天的な異常でも脳症の症状と画像異常が出ることがあります。HIEと決める前にそれらを考えます(Parmentier 2022)。
参考文献
- Parmentier CEJ, de Vries LS, Groenendaal F. Magnetic Resonance Imaging in (Near-)Term Infants with Hypoxic-Ischemic Encephalopathy. Diagnostics (Basel). 2022;12(3):645. PubMed
- Winter JD, Lee DS, Hung RM, et al. Apparent diffusion coefficient pseudonormalization time in neonatal hypoxic-ischemic encephalopathy. Pediatr Neurol. 2007;37(4):255-62. PubMed
- Skranes JH, Cowan FM, Stiris T, et al. Brain imaging in cooled encephalopathic neonates does not differ between four and 11 days after birth. Acta Paediatr. 2015;104(8):752-8. PubMed
- Cizmeci MN, Wilson D, Singhal M, et al. Neonatal Hypoxic-Ischemic Encephalopathy Spectrum: Severity-Stratified Analysis of Neuroimaging Modalities and Association with Neurodevelopmental Outcomes. J Pediatr. 2024;266:113866. PubMed
- Laptook A, Garvey AA, Adams C, et al. Magnetic resonance imaging and spectroscopy in neonatal encephalopathy: current consensus position and future opportunities. Pediatr Res. 2026;99(6):2191-2205. PubMed
- Hung SC, Tu YF, Hunter SE, et al. MRI predictors of long-term outcomes of neonatal hypoxic ischaemic encephalopathy: a primer for radiologists. Br J Radiol. 2024;97(1158):1067-1077. PubMed
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