日本脳炎のMRI 両側視床・黒質の病変とANEとの見分け

頭部MRIで「両側の視床に異常信号」と言われ、日本脳炎の可能性も挙がりました。日本脳炎とはどんな病気で、画像にはどう写るのですか?
日本脳炎は蚊が媒介するウイルスによる脳炎です。MRIでは、両側の視床を中心に、基底核や中脳(黒質)などにも左右対称性の病変が出やすいのが特徴です。ただし画像だけで決まる病気ではなく、似た画像を示す病気との見分けも大切です。順に整理します。

先に結論:日本脳炎のMRIは「両側視床」が要。ただし画像だけでは確定できず、血液・髄液の検査と経過が必要

項目 ポイント
病気 蚊が媒介する日本脳炎ウイルスによる脳炎。高熱・頭痛・意識障害で発症する
MRIの特徴 両側の視床にT2強調像・FLAIR像で高信号。基底核・中脳(黒質)・橋・小脳・大脳皮質にも広がる
見分け 単純ヘルペス脳炎は側頭葉内側、急性壊死性脳症(ANE)は小児の対称性病変、デング熱も視床病変あり
診断 画像は補助。特異性の高い検査(ウイルスの検出や抗体)での確認が重要
予防 ワクチンで予防できる感染症。接種は医療機関・自治体に相談

日本脳炎とは

日本脳炎は、日本脳炎ウイルス(フラビウイルス属)によって起こる、蚊が媒介する脳炎です。アジアの広い地域とオセアニアの一部で流行しています。脳炎になると20〜30%が亡くなり、生き残った人の30〜50%に長期の後遺症が残るとされます(Hills 2026)。
一方で、ワクチンで予防できる感染症でもあります(Hills 2026)。

症状は高熱、頭痛、意識の障害などです(Abe 1998)。流行地ではこれまで子どもに多い病気でしたが、ワクチン接種が進んだ地域では相対的に成人の割合が増えていると報告されています(Hills 2023)。日本脳炎ウイルスが新しい地域に入ると、免疫のない成人にも患者が出やすくなります(Hills 2023)。

ワクチンの接種時期や回数、海外渡航前の相談は、お住まいの自治体や医療機関でご確認ください。発熱に続いて意識がおかしい、けいれんがあるなどの症状があれば、すぐに医療機関を受診してください。

画像所見:MRIでどこに病変が出るか

日本脳炎のMRIでは、両側の視床の病変が最もよく知られています。古典的にはT2強調像で高信号、T1強調像で低信号に見え、病変の中に出血を伴うこともあります(Abe 1998)。

代表的な報告の数字

報告 内容
インドの42例(Kalita 2000) MRIを撮った31例の全例で異常。視床の病変はT2強調像で高信号または混在信号で、2例を除く全例にあった。ほかに基底核11例、中脳18例、橋8例、小脳6例、大脳皮質6例、皮質下白質2例
インド北東部の54例(Phukan 2021) 多くの患者で両側視床と黒質に異常信号
系統的レビュー(Pichl 2022) MRIで視床病変は23研究の74%に報告

両側視床のほかに、黒質(中脳)にも左右対称の高信号が出ることがあります(Phukan 2021)。黒質は運動の調節にかかわる中脳の構造で、視床とセットで探すと日本脳炎の手がかりになります。

CTとMRIの違い

CTは病初期には正常のことがあります。インドの42例の検討では、CTとMRIの両方を撮った28例のうちCTで異常があったのは21例(視床の低吸収域は15例)でしたが、MRIは31例すべてで異常があり、CT正常の17例でも病変が見つかりました。MRIはCTより視床とそれ以外の病変を見つけやすいと報告されています(Kalita 2000)。

検査 見え方
CT 視床の低吸収域。早期は正常のこともある(Kalita 2000)
MRI(T2・FLAIR) 視床などが高信号。出血があると信号が混在する(Abe 1998)
拡散強調像(DWI)・ADC 発症後15日以内の群ではADCの平均値が約0.56×10-3 mm2/秒と低く、15日より後の群では約1.10と高かった。病期の評価に役立つとされる(Phukan 2021)

病変には出血を伴うことがあり、その場合は信号が混在します(Abe 1998)。急性期に高信号だった病変も、時間がたつと信号が変化します。そのため、MRIを撮った時期(発症から何日目か)を確認して読むことが大切です。

症例 20歳代男性 日本脳炎

日本脳炎 MRI FLAIR像 軸位断 両側視床の高信号
引用:Radiopaedia(Japanese encephalitis)

FLAIR像で、両側の視床が左右対称に高信号を示しています。症例ページでは、日本脳炎ではT2強調像・FLAIR像で両側の視床と黒質が高信号になり、拡散の制限(拡散強調像での高信号)も伴うと記載されています。

鑑別疾患:何と見分けるか

「両側の視床に病変」は日本脳炎に特徴的ですが、日本脳炎だけの所見ではありません。ウイルス性脳炎ではMRIのパターンが病原体の手がかりになります(Ramli 2023)。

疾患 MRIの場所・特徴
日本脳炎 両側視床が中心。基底核・黒質・橋・小脳・皮質にも(Ramli 2023、Phukan 2021)
単純ヘルペス脳炎 側頭葉が典型(Ramli 2023)。ヘルペス脳炎(単純ヘルペス脳炎)の症状・MRI所見も参照
インフルエンザ関連脳症・急性壊死性脳症(ANE) 両側視床(Ramli 2023)。ANEは小児に多く、視床・大脳白質・脳幹・小脳に対称性の病変(Mizuguchi 1995)
デング熱の脳症 視床病変は日本脳炎より少ないが報告がある(Pichl 2022)
エンテロウイルス・狂犬病 脳幹(Ramli 2023)

急性壊死性脳症(ANE)との違い

急性壊死性脳症(ANE)は、日本で多いとされる小児の急性脳症です。もともと健康だった子どもに、呼吸器感染のあと、昏睡・けいれん・嘔吐・高熱などが起こります。MRIやCTで視床、大脳白質、脳幹、小脳に左右対称の病変が見られ、肝機能障害などの検査異常を伴います(Mizuguchi 1995)。視床の対称性病変という点で日本脳炎とよく似ているため、年齢、先行する感染、流行地・蚊に刺される機会、血液や髄液の検査を合わせて判断します。

デング熱やウイルス性脳炎との違い

系統的レビューでは、視床病変は日本脳炎でもデング熱の脳炎でも多く、どちらか一方に決め手となる画像所見はなかったと結論されています。画像は診断の助けになりますが、特異性の高い検査による確認が欠かせません(Pichl 2022)。

読影のポイント

  • 両側の視床が左右対称に侵されていないかを見る。片側だけなら別の病気も考える。
  • 視床だけで終わらず、基底核・中脳(黒質)・橋・小脳・皮質まで見る(Kalita 2000、Phukan 2021)。
  • 出血の有無(T1・T2・T2*の信号の混在)を確認する(Abe 1998)。
  • DWIとADCマップで急性期の拡散制限を確認し、発症からの日数と照らす(Phukan 2021)。
  • 流行地への滞在、蚊に刺された機会、年齢、先行する感染などの病歴を確認する。

脳炎以外の両側視床病変

感染症以外にも、両側の視床に病変が出る病気は少なくありません。梗塞、静脈の血栓症、Wernicke脳症などが代表で、詳しくはDWIで視床に高信号を認める疾患の鑑別診断、脳MRIでDWI高信号を見たときの鑑別診断、頭部CTの低吸収域とは?正中・左右対称性病変の救急鑑別疾患で整理しています。発熱や意識障害といった経過、流行地への渡航や居住歴が、鑑別のよりどころです。

どんなときに日本脳炎を疑うか

日本脳炎は、発熱と頭痛に続いて意識がぼんやりする、けいれんが起こる、手足の動きがおかしくなるといった経過で疑います。流行地に住んでいる、または滞在した、蚊に刺される機会があった、ワクチンを受けていない、といった背景が手がかりになります。CT・MRIの前にこうした病歴を確認しておくと、「両側視床の病変」を見たときに日本脳炎を鑑別の上位に挙げやすくなります。

画像を依頼する側(臨床医)は、発症からの日数、熱型、意識状態、渡航歴や居住地、ワクチン歴を依頼票に書いておくと、読影側が鑑別を絞りやすくなります。病変が左右対称に広がる脳炎は、重症度の判断や経過観察にもMRIが使われるため、同じ条件で撮り直して比べられるようにしておくことも大切です。

診断と治療

診断は、症状・経過、画像、髄液や血液の検査を合わせて行います。画像が似た病気があるため、ウイルスの検出や抗体など特異性の高い検査で確認することが重要とされています(Pichl 2022)。治療は、1998年の総説では特異的な治療法はなく、対症療法と全身管理(支持療法)が中心とされていました(Abe 1998)。予後は、病変の広がりが大きいほど悪い傾向があると記載されています(Abe 1998)。

よくある疑問(Q&A)

Q. 両側の視床に異常があれば日本脳炎ですか?
A. いいえ。両側視床は日本脳炎の代表的な所見ですが、デング熱の脳炎やANE、梗塞、静脈血栓症などでも見られます(Pichl 2022、Mizuguchi 1995)。経過や検査と合わせて判断します。

Q. 日本脳炎の初期はCTでわかりますか?
A. CTは正常のことがあります。MRIのほうが視床などの病変を見つけやすいと報告されています(Kalita 2000)。

Q. 黒質に病変があるのはなぜ大事ですか?
A. 日本脳炎では視床とともに黒質の左右対称の高信号がみられる例があり、画像の手がかりになります(Phukan 2021)。ただし、これだけで診断が決まるわけではありません。

Q. 日本脳炎は予防できますか?
A. ワクチンで予防できる感染症です(Hills 2026)。接種については医療機関や自治体にご相談ください。

参考文献

  1. Hills SL, Vu HM, Pitisuttithum P, et al. Japanese encephalitis: Current status, recent progress, and persistent challenges. PLoS Negl Trop Dis. 2026;20(8):e0014641. PubMed
  2. Hills SL, Netravathi M, Solomon T. Japanese Encephalitis among Adults: A Review. Am J Trop Med Hyg. 2023;108(5):860-864. PubMed
  3. Abe T, Kojima K, Shoji H, et al. Japanese encephalitis. J Magn Reson Imaging. 1998;8(4):755-61. PubMed
  4. Kalita J, Misra UK. Comparison of CT scan and MRI findings in the diagnosis of Japanese encephalitis. J Neurol Sci. 2000;174(1):3-8. PubMed
  5. Phukan P, Sarma K, Sharma BK, et al. MRI Spectrum of Japanese Encephalitis in Northeast India: A Cross-Sectional Study. J Neurosci Rural Pract. 2021;12(2):281-289. PubMed
  6. Pichl T, Wedderburn CJ, Hoskote C, et al. A systematic review of brain imaging findings in neurological infection with Japanese encephalitis virus compared with Dengue virus. Int J Infect Dis. 2022;119:102-110. PubMed
  7. Ramli NM, Bae YJ. Structured Imaging Approach for Viral Encephalitis. Neuroimaging Clin N Am. 2023;33(1):43-56. PubMed
  8. Mizuguchi M, Abe J, Mikkaichi K, et al. Acute necrotising encephalopathy of childhood: a new syndrome presenting with multifocal, symmetric brain lesions. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1995;58(5):555-61. PubMed

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