心肺停止の蘇生後にみられることが多い低酸素脳症の画像診断についてまとめました。

先に結論:低酸素脳症(蘇生後脳症)とは

  • 脳に酸素が届かなくなって起こる脳の障害で、心肺停止から蘇生した後(蘇生後脳症)や溺水、新生児の仮死などで起こります
  • 成人では酸素不足に弱い灰白質(大脳皮質・基底核・視床・海馬・小脳)が左右対称に障害されます
  • 主な症状は意識障害(昏睡)で、けいれんやミオクローヌス(手足がぴくつく動き)、回復後の記憶障害などが残ることがあります
  • 心停止後に昏睡が続く場合、CTの灰白質/白質比(GWR)の著明な低下やMRI拡散強調像(DWI)の広範な拡散制限は予後予測の材料になりますが、単独では判断せず、ほかの検査と組み合わせます。2021年版ERC-ESICMガイドラインでは、DWIは心停止後およそ2〜7日に評価するとされています(Nolan 2021。2025年版も公表済みです)
検査 主な画像所見
CT 早期はわかりにくい。脳全体のむくみで脳溝が狭くなり、皮髄境界(ひずいきょうかい:皮質と白質の境目)や基底核の輪郭が不明瞭に。くも膜下出血のように見えるpseudo-SAH sign、重症では大脳が暗く小脳が相対的に明るく見えるreversal sign
MRI 急性期は拡散強調像(DWI)で皮質・基底核・視床が左右対称に高信号。亜急性期以降はT1強調像で脳回に沿った高信号

低酸素脳症(Brain Hypoxia)

  • 低酸素により起こる脳症。
  • 心肺停止の蘇生後にみられることが多い。
  • 胎児、新生児の場合は仮死による低酸素が多い。
  • 障害部位や程度は脳実質の成熟度や低酸素の度合い、持続時間、体温などにより異なる。
  • 成人の場合、灰白質の障害が主体。左右対称性に視床、基底核、大脳皮質、海馬や小脳が障害される。大脳皮質および小脳では境界領域に梗塞を生じる。(大脳皮質、海馬、基底核、小脳は低酸素により脆弱で障害されやすい。)

低酸素脳症の原因と症状

  • 原因:脳への血流が止まる・減る場合(心肺停止、重いショック)と、血液中の酸素が足りなくなる場合(溺水、窒息、首を絞められる、呼吸停止、一酸化炭素中毒、薬物の過量服薬による呼吸抑制など)があります。
  • 症状:意識障害(昏睡)が中心で、けいれん、ミオクローヌス、回復してからの記憶障害・認知機能の低下、運動障害などがみられます。障害の重さは、酸素不足の程度と続いた時間で大きく変わります。
  • 家族などに急な意識の変化や異常な動きがあれば、すぐに救急要請・医療機関の受診をしてください。

低酸素脳症(Brain Hypoxia)の画像診断

 画像診断
CT
  • 早期の病変検出能は低い。
  • びまん性の脳腫脹→脳溝・くも膜下腔の狭小化→pseudo SAH sign
  • 皮髄境界、基底核の不明瞭化。
  • 重症例では大脳がびまん性に低吸収域→小脳や脳幹が大脳半球に比べて相対的に高吸収、皮質と白質の濃度が逆転する(reversal sign)。小脳・脳幹が相対的に高吸収に保たれる所見はwhite cerebellum signと呼ぶ(後循環への血液再分布による)
MRI(急性期) DWIにて左右対称性に皮質、基底核、視床など灰白質優位に高信号。DWIの拡散低下(ADCの低下)は心停止後1.5日ごろから目立ちはじめ、3〜5日で最も強くなります(Mlynash 2010)。24時間以内の撮像では異常が目立たない例があるため、撮像のタイミングに注意が必要です。心停止後の昏睡例では、CT・MRIは神経学的予後予測の材料の一つとされ、2021年のERC・ESICM蘇生後ケアガイドラインでも予後予測の項目で扱われています(詳しくは下の節)。44研究のメタアナリシスでは、CTの灰白質/白質比の低下は転帰不良の予測に感度44%・特異度97%、MRIのDWI異常は感度77%・特異度92%でした。感度は十分でないため、画像だけで判断せず臨床所見や神経生理検査と組み合わせて評価します。
MRI(亜急性期以降) T1WI T2WI DWI
脳回に沿った高信号(laminar necrosis) 高信号 高信号

重症度による画像パターンの違いと遅れて出る白質病変

  • 重い低酸素:大脳皮質・基底核・視床・海馬・小脳など灰白質が左右対称に障害されます(上記)。
  • 軽い〜中等度の低血圧・低灌流:血流の境目にあたる境界領域(watershed)の皮質・皮質下白質に病変が出やすくなります(Huang 2008)。
  • 遅発性低酸素後白質脳症(delayed post-hypoxic leukoencephalopathy):低酸素のあといったん回復したように見えてから、数日〜数週後に意識レベル低下・精神運動興奮・認知機能低下・パーキンソン症状などが出るまれな病態です。73例のシステマティックレビューでは、原因は薬物の過量服薬(ベンゾジアゼピン・オピオイドなど)や一酸化炭素中毒が多く、MRIでは大脳白質のびまん性T2高信号(ときに基底核・淡蒼球も)がみられました。多くは数か月かけてかなり回復しましたが、認知機能の後遺症が残る例も多くみられました(Srichawla 2024)。

心停止後の予後評価における画像の位置づけ(ERC-ESICM 2021)

心停止から蘇生した後も昏睡が続く場合、頭部CTとMRIは「どの程度の脳障害か」を見積もる材料になります。ERC(欧州蘇生協議会)とESICM(欧州集中治療医学会)の2021年版ガイドラインは、脳全体のむくみを示す、CTでのGM/WM比(灰白質/白質比、GWR)の著明な低下、またはMRIでの広範な拡散制限を、ほかの予測因子と組み合わせて神経学的な転帰不良の予測に使うよう提案しています(弱い推奨、エビデンスの質は非常に低い)。具体的には、CTは心停止後(自己心拍再開後)72時間以内、MRIは2〜7日のあいだの所見を用います(Nolan 2021)。なお、同ガイドラインは2025年版(Nolan 2025)が公表されています。以下の推奨内容と数字は2021年版のものです。

CTのGM/WM比(GWR)とは

  • 灰白質と白質のCT値(HU)の比です。灰白質のほうが白質より濃度が高いので、正常ではGWRは1より大きくなります。脳のむくみ(細胞性浮腫)が強いほど灰白質と白質の差が小さくなり、GWRは低下します(Nolan 2021)。
  • 測定部位は研究により異なり、多くは基底核の灰白質と白質で、ほかに大脳(半卵円中心や円蓋部)で測るものもあります。転帰不良に対して特異度100%となる閾値は研究ごとに異なり、自己心拍再開後2時間以内の測定では1.1〜1.23の範囲でした。スキャナーや計算ソフトによる差もあり、現時点で標準化された測定法や共通のカットオフはありません(Nolan 2021)。
  • GWRの低下は、重症の低酸素脳症では自己心拍再開後1時間という早い時期からみられ、72時間まで特異度が高いとされています(Nolan 2021)。
  • GWRを測らず、むくみを視覚的に評価した研究でも、転帰不良に対する特異度98.4%、感度33.6%でした(Nolan 2021)。特異度が高い一方で感度は低く、CTでむくみがないからといって、予後がよいとは言えません。複数の研究をまとめた解析でも、GWR低下の感度44%、特異度97%でした(Lopez Soto 2020)。

DWI(拡散強調像)はいつ撮るか

時期 わかっていること
24時間以内 拡散制限が目立たない例がある。転帰不良だった患者では、24時間以内に撮像した3例を除く全例で、皮質の灰白質に中等度〜高度の異常がありました(Mlynash 2010)
1.5日〜 特に後頭葉・側頭葉の皮質や被殻でADCが低下しはじめ、3〜5日で最も強くなります(Mlynash 2010)
2〜7日 ERC-ESICM 2021がMRIの評価に用いる時期です(Nolan 2021)。DWIによる予後評価の最適な時間枠は、心停止後49〜108時間(約2〜4.5日)と報告されています(Wijman 2009)
  • 量で見る方法:ADCが650×10-6 mm²/s未満の領域が脳全体の10%以上あると、転帰不良に対して特異度91%、感度72%でした。特異度100%にするには、22%を超える広がりが必要でした(Hirsch 2016、125例の後ろ向き多施設研究)。
  • 視覚評価の限界:DWI病変の有無を目で見て判定した研究では、特異度が55.7〜100%と幅がありました(Nolan 2021)。ADCの測り方もまだ標準化されていません。
  • 画像の強みと弱み:画像は鎮静薬の影響を受けにくい一方、ベッドサイドでは撮れず、不安定な患者ではMRIが難しいことがあります。ガイドラインは、経験のある施設で、熟練した神経放射線科医の目視の判断を補う形で使うことを想定しています(Nolan 2021)。
  • どの所見も単独で転帰を決めるものではありません。診察、脳波、体性感覚誘発電位、血液検査などとあわせて評価します。

低酸素脳症の鑑別診断

など

症例 20歳代女性 CPA

Brain Hypoxia CT findings

著明な脳浮腫を認めています。

特に円蓋部レベルで脳溝の異常な高吸収域を認めており、一見くも膜下出血様です。

低酸素脳症による脳浮腫、それに伴うpseudo SAH signを疑う所見です。

基底核レベルでは、両側の基底核の不明瞭化を認めています。

頭蓋底レベルでは、鞍上槽周囲の本来見えるべきくも膜下腔がはっきりせず、著明な浮腫性変化が示唆されます。

症例 30歳代女性 CPA

pseudosah

単純CTで著明な脳浮腫を認めています。

鞍上槽レベルでくも膜下腔に高吸収域を認めており、pseudo SAH signを疑う所見です。

症例 40歳代男性 溺水による低酸素脳症 8ヶ月目

hypoxic ischemic encephalopathy

両側びまん性に大脳半球に低吸収域の広がりあり。

基底核、視床にも左右対称な低吸収域の広がりが見られる。

慢性期にかけて徐々に脳萎縮が出現する。

症例 50歳代男性 5日前蘇生、今回昏睡状態で発見される。

引用:Radiopaedia

大脳皮質および皮質下、両側視床と大脳基底核にDWI高信号あり。同部に一致してFLAIRでも高信号あり。

低酸素脳症に合致する所見です。

(重度の低酸素脳症は、主に大脳基底核、視床、大脳皮質、海馬などの灰白質構造に影響を与える。 小脳損傷も起こり得る。)

低酸素脳症でよくある疑問(Q&A)

Q. 低酸素脳症はCTですぐにわかりますか?
A. 発症直後のCTでは異常がはっきりしないことが多く、時間がたつと脳のむくみ(脳浮腫)による皮髄境界の不明瞭化、pseudo-SAH sign、reversal signなどが見えてきます。早い段階の変化はMRIの拡散強調像のほうがとらえやすいです。

Q. 画像だけで回復の見込みはわかりますか?
A. わかりません。CTの灰白質/白質比の低下は特異度が高い一方で感度は44%と低く、画像だけで判断せず、診察や脳波などの検査と組み合わせて評価します(Lopez Soto 2020)。

Q. 低酸素脳症のDWIは、いつ撮るのがよいですか?
A. 拡散低下は心停止後1.5日ごろから目立ちはじめ、3〜5日で最も強くなります(Mlynash 2010)。2021年版のERC-ESICMガイドラインは、MRIを2〜7日に評価するとしています(Nolan 2021)。24時間以内は、異常が目立たないことがあります。

Q. CTのGM/WM比(GWR)は、いくつ以下だと予後不良ですか?
A. 共通の基準値はありません。転帰不良に対して特異度100%になる値は研究ごとに異なり、自己心拍再開後2時間以内の測定では1.1〜1.23の範囲でした。測り方やスキャナーによっても変わるため、数字だけで判断せず、他の所見と組み合わせます(Nolan 2021)。

関連記事:

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参考文献

  1. Huang BY, Castillo M. Hypoxic-ischemic brain injury: imaging findings from birth to adulthood. Radiographics. 2008;28(2):417-439. PubMed
  2. Yuzawa H, Higano S, Mugikura S, et al. Pseudo-subarachnoid hemorrhage found in patients with postresuscitation encephalopathy: characteristics of CT findings and clinical importance. AJNR Am J Neuroradiol. 2008;29(8):1544-1549. PubMed
  3. Muttikkal TJ, Wintermark M. MRI patterns of global hypoxic-ischemic injury in adults. J Neuroradiol. 2013;40(3):164-171. PubMed
  4. Nolan JP, Sandroni C, Böttiger BW, et al. European Resuscitation Council and European Society of Intensive Care Medicine guidelines 2021: post-resuscitation care. Intensive Care Med. 2021;47(4):369-421. PubMed
  5. Lopez Soto C, Dragoi L, Heyn CC, et al. Imaging for Neuroprognostication After Cardiac Arrest: Systematic Review and Meta-analysis. Neurocrit Care. 2020;32(1):206-216. PubMed
  6. Srichawla BS, Garcia-Dominguez MA. Spectrum of delayed post-hypoxic leukoencephalopathy syndrome: A systematic review. World J Clin Cases. 2024;12(29):6285-6301. PubMed
  7. Mlynash M, Campbell DM, Leproust EM, et al. Temporal and spatial profile of brain diffusion-weighted MRI after cardiac arrest. Stroke. 2010;41(8):1665-72. PubMed
  8. Wijman CA, Mlynash M, Caulfield AF, et al. Prognostic value of brain diffusion-weighted imaging after cardiac arrest. Ann Neurol. 2009;65(4):394-402. PubMed
  9. Hirsch KG, Mlynash M, Eyngorn I, et al. Multi-Center Study of Diffusion-Weighted Imaging in Coma After Cardiac Arrest. Neurocrit Care. 2016;24(1):82-9. PubMed
  10. Nolan JP, Sandroni C, Cariou A, et al. European Resuscitation Council and European Society of Intensive Care Medicine guidelines 2025: post-resuscitation care. Intensive Care Med. 2025;51(12):2213-2288. PubMed

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