転移性肺腫瘍(肺転移)の画像診断、画像所見(非典型例、特殊な形態)
非典型的な肺転移肺に結節を認めたとき、空洞を伴っていたり、石灰化を伴っていたり、肺炎様だとついつい転移ではないと思ってしまいがちです。
このような形態の転移もあるということを頭にいれて、またある程度パターンは限られていますので、原発巣の推定にも役立ちます。
非典型的な転移性肺腫瘍
- 腫瘍塞栓(乳癌、胃癌、肺癌、肝癌など)
- 石灰化(骨肉腫、軟骨肉腫など)
- 空洞(頭頚部扁平上皮癌など)、嚢胞(血管肉腫、腺癌など)
- halo sign(血管肉腫、絨毛癌、骨肉腫、悪性黒色腫など)
- 浸潤影・すりガラス影(膵癌、乳癌、卵巣癌など)
- 気管支内転移(腎癌、乳癌、大腸癌、悪性黒色腫など)
- びまん性微小結節転移(腎癌、甲状腺髄様癌、肺癌など)
- 良性腫瘍の転移性肺腫瘍(子宮筋腫、多形腺腫など)
- embolic carcinomatosis(肝細胞癌、胃癌など)
石灰化を有する肺転移
- 石灰化を伴うことは1%以下。
- 原発巣としては骨肉腫、軟骨肉腫、滑膜肉腫の頻度で高い。他に、乳癌、精巣腫瘍、粘液産生性の悪性腫瘍(大腸癌、胃癌、卵巣癌)。なかでも骨肉腫の肺転移の6割程度には骨化が認められるとされる。
- 石灰化を有する転移性肺腫瘍以外の病変として肺過誤腫(hamartoma)が有名だが、結核や非結核性抗酸菌症、硬化性肺胞上皮腫などでも石灰化を伴う結節が認められることが知られている。
- 肺転移病変に動脈相での強い造影効果がみられた場合は、甲状腺癌や腎細胞癌などの検索を行う。
※頻度は少ないが原発性肺癌に石灰化を伴うことがある(6%)。5cm以上の大きな肺癌に多く、辺縁に粒状に分布することが多い。
症例 10歳代男性 既知の骨肉腫
引用:radiopedia
両側肺野に多発結節を認めており、転移を疑う所見です。
縦隔条件で多発結節は石灰化を有していることが確認できます。
骨肉腫の多発肺転移と診断されました。
空洞を有する肺転移
- 空洞形成は5%程度。
- 多発充実性肺結節の中の一部が空洞形成している場合も多い。
- 機序として、腫瘍内壊死やチェックバルブ機構などが考えられている。
- 組織型としては、扁平上皮癌が最多(70%)であるが、肉腫や腺癌でも見られる。
- 原発として扁平上皮癌(頭頚部など)、肉腫、大腸癌、膵癌、肺癌、膀胱癌、悪性黒色腫、移行上皮癌が挙げられる。
- 骨肉腫や血管肉腫の肺転移に気胸を合併することがある。
両肺に多発する空洞性病変の鑑別
- 非結核性抗酸菌症
- 肺結核
- 多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangitis:GPA)←転移性肺腫瘍でみられる空洞性病変は、少しの壁の厚みが確認できることが一般的で、GPAとは特に似る。
- リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:LAM)
- Langerhans細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)
症例 50歳代男性 直腸癌術後
両側肺野に多数の空洞を有する結節影を認めています。
空洞を有する多発肺転移を疑う所見です。
halo signを伴う肺転移
- 転移性結節周囲にすりガラス濃度(halo)を伴う場合がある。このすりガラスは出血を見ている場合が多く、血管に富む腫瘍の肺転移で見られる所見である。
- 血管肉腫、絨毛癌、腎癌、骨肉腫、悪性黒色腫、甲状腺癌など。
- 肺への血管肉腫の転移は、すりガラス影だけでなく、空洞形成やそれに伴う気胸の発生を伴うことがあり、これらの特徴は原発巣を特定する際に役立つ。
- 免疫チェックポイント阻害薬の使用により、明瞭な境界を持つ丸い転移性肺結節の周囲にすりガラス状の密度上昇が観察されることがある。
- 鑑別診断は、侵襲性肺真菌症、敗血症性肺塞栓症、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、その他の血管炎、悪性リンパ腫やリンパ増殖性疾患など。
浸潤影・すりガラス影(膵癌、乳癌、卵巣癌など)を来たしあたかも原発性肺癌と類似した肺転移
- 転移性肺腫瘍は、一般的に原発性肺癌と比較して、はっきりとした境界を持ち、円形を呈しやすく、しばしば多発することが特徴。
- しかし、特に、膵癌や乳癌などの腺癌が原因である場合、肺への転移は縮小変化を伴う不規則な形状を示すことがある。時にすりガラス状の濃度変化や気管支透亮像を含むことがあり、これらは原発性肺腺癌の特徴に似る。
- 乳癌の場合、原発巣の摘出手術後に長期間を経て、短期間で急速に成長する転移性肺腫瘍が現れることがあり、これも原発性肺癌に似た特徴を示すことがある。
- また、化学療法などの治療を受けた後、転移性肺腫瘍は不規則な縮小変化を伴った結節に変化し、さらに原発性肺腺癌に似た特徴を示すことがある。
中でも置換性発育(lepidic:鱗状)を伴う肺転移
- すりガラス影を呈する肺転移=肺炎様転移(lepidic metastasis)
- 細気管支肺胞上皮癌(BAC)と同様に肺胞壁に沿った進展形式を取る。
- CTでは、浸潤影、すりガラス影を認める。一見すると肺炎の様に見えるが、臨床症状や炎症反応に乏しく、抗生剤に反応せず、進行することが多い。腺癌の粘液産生により濃度が軟部陰影より低くなり、水濃度に近くなることがある。
- 膵癌、消化器癌(大腸癌、小腸癌)、乳癌、卵巣癌に認められる。
症例 60歳代女性 膵体部癌
両側肺野にすりガラス影を主体とする多発結節を認めており、多発肺転移(lepidic metastasis)が疑われる。
気管支内転移(endobronchial metasitasis)
- 気管支壁に転移、浸潤を示す転移性肺腫瘍。
- 血痰、無気肺を来すことが多い。
- 近位の気道が最もよく侵される。
- 腎癌、乳癌、大腸癌、悪性黒色腫、卵巣癌、甲状腺癌、子宮癌(子宮平滑筋肉腫)などが気管支内転移を起こす。
- 気管支内腔に突出したポリープ状の軟部組織濃度の腫瘤が認められ、内腔は狭小化する、閉塞すると無気肺を来す。粘液産生性ならば粘液栓(mucoid impaction)を形成する。
- 画像診断では、喀痰との鑑別が重要であり、移動性や造影効果の確認が必要である。
症例 80歳代男性 腎癌術後
多発肺転移あり。
右側の気管支内に充実部分あり、末梢はmucoid impactionを形成している。
気管支内転移が疑われる。
びまん性微小結節転移
- 甲状腺癌(乳頭癌)、腎癌、肺癌、悪性黒色腫、乳癌、骨肉腫、絨毛癌、前立腺癌に認められる。
- 粟粒結核と比較すると結節の大きさがやや不揃いであるものの、画像のみで鑑別困難な場合もある。粟粒結核であれば発熱があったり、強い倦怠感があったり、血液検査で炎症所見が高かったりといった臨床所見も併せて評価することが大切。
- 癌の化学療法中にはしばしば結核の発症もある点にも注意が必要。
良性腫瘍の肺転移
- 原発巣としては、子宮筋腫、侵入奇胎、骨巨細胞腫、軟骨芽腫、髄膜腫、多形腺腫。
- 画像上は境界明瞭な多発結節を呈する場合が多い。
- 子宮筋腫や骨腫瘍の手術の既往や、時間経過とともに肺転移巣がほとんど進行しないか、進行が緩徐である点が鑑別の手がかりとなる。
embolic carcinomatosis
- 肺動脈内を塞栓状に腫瘍細胞が閉塞する。
- 顕微鏡的微小肺動脈腫瘍塞栓(pulmonary tumor thrombotic micrangiopathy:PTTM)とは異なる。
- 肝細胞癌、胃癌など。
- 咳嗽や比較的急速な呼吸困難などの症状が強いことが特徴。
- 肺動脈の連珠状の拡張、造影CTによる血管内の欠損像などの所見を呈する。
参考文献:画像診断 Vol.43 No.13 2023 P11242-1254