長くて漢字だらけでややこしい名前ですが、非結核性抗酸菌症(読み方は「ひけっかくせいこうさんきんしょう」)という肺の感染症の病気があります。

他の国と比較しても、日本人の中年女性に多い非結核性抗酸菌症で、罹っている人は2007年と比較して2014年では2.6倍に増大していると言われています。

医療の現場では、

  • NTM(読み方はそのまま、エヌ ティー エム)」
  • MAC症(読み方は、マックしょう)」

などと呼ばれることもあります。
(実際はMAC症は、非結核性抗酸菌症の一部です。)

日常診療でもしばしば目にする非結核性抗酸菌症ですが、今回はこの非結核性抗酸菌症について

  • どのような種類があるのか
  • 感染経路や症状、
  • CT画像所見、
  • 治療法はどのようなものなのか

を実際のCT画像を用いてまとめました。

非結核性抗酸菌症(NTM)とは?種類は?

非結核性抗酸菌症とは、以下のようなものになります。

抗酸菌(Mycobacterium)は

  • 結核菌群
  • らい菌群
  • それ以外の菌群

からなり、このそれ以外の菌群に属するのが非結核性抗酸菌症(NTM:nontuberculous mycobacterial infection)です。

そして今回の記事の主役であるこの非結核性抗酸菌症(NTM)には30種類以上の菌による感染が報告されています。

非結核性抗酸菌症(NTM)で最も多いのは?

中でも最も多いのは、いわゆるMAC症(マックしょう)と呼ばれるMycobacterium avium complexです。
これには2種類の菌が含まれます。

  • Mycobacterium avium(読み方は、マイコバクテリウム アビウム)
  • Mycobacterium intracellare(読み方は、マイコバリウム イントラセルラーエ)

の2種類です。
これらは、非結核性抗酸菌症の70%を占め、以前は区別することが難しいとされていましたが、現在では容易です。ただし治療法に違いがないため、一括してMAC症とて扱うことが多いです。

そして次に多いのが、

  • Mycobacterium kansasii(読み方は、マイコバクテリウム カンザシ)

で、15-20%を占めると言われています。

ですので、非結核性抗酸菌症のほとんどはこれら3つで占められています

その他30種類くらいの菌が同定されています。

非結核性抗酸菌症(NTM)の感染経路は?

口から感染すると言われています。

この非結核性抗酸菌症は、

  • 湿地帯の水や動物などの自然環境
  • 浴槽内、水道水、土壌と言った生活環境

に生息すると言われ、この菌を含んだ目には見えない微小な液体であるエアロゾルを吸入して感染すると言われています。

生活環境や自然環境にも生息するのならば、防ぎようがありません。

ただし人から人への感染はない(うつらない)とされています。

非結核性抗酸菌症(NTM)の症状は?

症状は以下の通りです。

  • 初期は症状がない。
  • 喀痰・咳嗽
  • 発熱
  • 体重減少
  • 血痰・喀血

感染した初期は症状がないのが特徴です。

また呼吸器病変以外に皮膚病変やリンパ節炎などを生じることもあります。

 

非結核性抗酸菌症(NTM)の診断は?

主に培養と画像診断により診断します。

2008年に日本結核病学会と日本呼吸器病学会から発表された肺非結核性抗酸菌症の診断基準(ガイドライン)によると

  • 2回以上の異なった喀痰で培養が陽性となる。
  • 1回以上の気管支洗浄液での培養が陽性となる。
  • 肺生検の場合は抗酸菌症に合致する組織所見+組織、気管支洗浄液あるいは喀痰で1回以上培養が陽性となる。

いずれか当てはまる場合に細菌学的に診断すると記載があります。
ただし、稀な菌や環境から高頻度に認められる菌については、2回以上の培養陽性と菌種の同定検査が必要とされています。

画像診断では、他の疾患を除外したのち、

  • 結節性陰影
  • 小結節性陰影や分枝状陰影の散布
  • 均等性陰影
  • 空洞性陰影
  • 気管支拡張あるいは細気管支拡張

が見られた場合に診断します。
ただし、画像のみでは診断できないので注意が必要です。

これらの画像が特徴とされますが、非結核性抗酸菌症のうち多くを占める、MAC症及びMycobacterium kansasiiによる画像の特徴は別にもありますので次に見ていきましょう。

 

MAC症の特徴は?CT画像所見は?

まず、MAC症の画像所見は5つに分けられます。

  1. 小結節・気管支拡張型:MAC症のほとんどがこのタイプ。
  2. 結核類似型:結核に似たタイプ。
  3. 孤立結節型:単発の結節として発症するタイプ。
  4. 全身播種型:全身に播種するタイプ。
  5. 過敏性肺炎型:過敏性肺炎のような分布を取るタイプ。

の5つです。

ただし上に記載したように、ほとんどは小結節・気管支拡張型ですので、このパターンを押させておけばまずは大丈夫でしょう。他にも2-5の場合があるということは頭の片隅に入れておきましょう。

小結節・気管支拡張型では、基礎疾患のない中高年女性に多く、多くは肺の中葉、舌区に病変をつくります。

そのCT画像の特徴は

  • 小葉中心性の粒状影
  • 分岐線状影(tree-in-bud-apperance)
  • 気管支壁の肥厚を伴った拡張
  • 時に浸潤影
  • 肺容積の減少

です。

 

では実際の症例のCT画像を見てみましょう。

症例 70歳代女性

右の中葉や舌区、左下葉に小葉中心性の粒状影を認めています。

喀痰検査から、MAC症と診断されました。

このCT画像をチェックする。→非結核性抗酸菌症(M.avium)のCT画像所見

症例 60歳代女性

中葉や左下葉(非提示)に小葉中心性の粒状影を認めています。

舌区では気管支拡張を認めています。

喀痰検査から、MAC症と診断されました。

このCT画像をチェックする。→非結核性抗酸菌症(M.avium)のCT画像所見

Mycobacterium kansasiiの特徴は?CT画像所見は?

一方で、Mycobacterium kansasiiによる非結核性抗酸菌症は、MAC症と異なり男性に多く、画像では、上葉に薄壁空洞を認める傾向があると言われます。

右に多いと言われています。

非結核性抗酸菌症の中で唯一薬剤で根治が見込める菌種です。

非結核性抗酸菌症(NTM)の治療は?

非結核性抗酸菌症(NTM)の治療には結核の薬が用いられます。

すなわち、

  • エタンブトール(EB)
  • リファンピシン(RFP)

などの抗結核薬が用いられ、これに加えて、クラリスロマイシン®という抗生物質が投与されることが一般的です。結核の場合は薬を半年服用すればいいのが一般ですが、非結核性抗酸菌症(NTM)の場合は4-5年服用しなければならなかったりします。

また、MAC症の場合は、手術(肺葉の切除)が行われることもあります。

ただし、治療は難渋することが多く、Mycobacterium kansasiiによる非結核性抗酸菌症以外では、効果的でない場合があります。

 

最後に

日本人の中年女性に多い非結核性抗酸菌症についてまとめました。

なかなか聞きなれない病気ではあるかもしれませんが、増加傾向であり、最多であるMAC症は治療に難渋することがあるのが厄介です。

ただし、進行は緩徐で、長年大きな変化がないというケースも多々あり、予後は良好な病気といえます。

感染初期には症状に乏しく、また症状も非特異的ですので、該当する症状が続くようならば、呼吸器科を受診しましょう。

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