肺アスペルギルス症は肺に発生する真菌症の中で最多であり、空気中に浮遊するアスペルギルス(Asperigillus)という真菌が原因となります。
感染した人の免疫能により様々な病態をきたすため、手術を含め、どのような治療法があるのか気になってきます。
そこで今回は、肺アスペルギルス症について
- 原因
- 分類
- 症状
- 検査
- 治療
までをまとめました。
肺アスペルギルス症とは?手術が必要?
アスペルギルスは、空気中に存在する真菌(カビ)の一種で、その真菌が肺に入ることで発症するのが、肺アスペルギルス症です。
そして、先ほど申し上げたように、肺に発生する真菌症の中で最も多いのが、アスペルギルスになります。
治療として手術が必要になる場合もありますが、中には薬だけで治療することができるものもあります。
では、原因から順番に解説していきます。
肺アスペルギルス症の原因は?どんな人がかかりやすい?
肺アスペルギルス症は上で述べたように、アスペルギルスという真菌が肺に入ることが原因となります。
この真菌は自然環境内に広く存在し、動物の糞や土壌に含まれるほか、空気中に普通に雑菌として浮遊しているため、日常的に私たちはこの胞子を吸い込んでいることになります。
ですので、元気な綺麗な肺を持つ人などには通常発症しません。
基本的には、免疫能の低下した人がかかりやすいとされます。
中でも、既存の肺構造に空洞などがある人に日和見感染症として起こりやすいのが特徴です。
肺アスペルギルス症の分類は?
感染した宿主(人)の状態により様々な病型を取り得るのがこのアスペルギルスです。
肺アスペルギルス症としては、次のように分類されます。
すなわち、肺アスペルギルス症は大きく
- 慢性肺アスペルギルス症(CPA)
- 侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)
- アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
の3つに分けることができます。
中でも、急速に進行するタイプが侵襲性肺アスペルギルス症です。
侵襲性肺アスペルギルス症とは?
好中球減少や機能低下を主体とした免疫能の低下した人がかかりやすく、高い致死率を示すのが、この侵襲性肺アスペルギルス症です。
侵襲性肺アスペルギルス症は
- 血管侵襲性
- 気道侵襲性
の2種類にさらに分けられます。
一方で、慢性的にゆっくり進行するのが、慢性肺アスペルギルス症(CPA:chronic pulmonary aspergillosis)です。
慢性肺アスペルギルス症(CPA)
陳旧性肺結核や慢性閉塞性肺疾患(COPD)など肺組織の破壊が基礎に存在するケースが多く、そこにアスペルギルスが感染をきたします。
この慢性肺アスペルギルス症では、1ヶ月以上の経過をたどり肺内にできた単一の嚢胞や空洞にアスペルギルスが侵入し、そこで増殖し、真菌球(fungus ball)を形成します。
その中でも、非活動性で、手術で治癒が見込める
- 単純性肺アスペルギローマ(SPA:simple pulmonary aspergilloma)
と、活動性の病変があったり、複数の空洞に及び手術での治癒が望めない
- 慢性進行性肺アスペルギルス症(CPPA:chronic progressive pulmonary aspergillosis)
に分けられます。
慢性進行性肺アスペルギルス症はさらに、壊死が進行して空洞が形成され、肺組織への侵襲を認める
- 慢性壊死性肺アスペルギルス症(CNPA:chronic necrotizing pulmonary aspergillosis)
と既存の空洞にアスペルギルス感染を起こし活動性病変を伴うが、肺組織への侵襲は認めない
- 慢性空洞性肺アスペルギルス症(CCPA:chronic cavitary pulmonary aspergillosis)
に分けられます。
さらに気管支喘息などアレルギー疾患を引き起こし、気道の炎症性破壊を伴うのが、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA:allergic bronchopulmonary aspergillosis)です。
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
これまで見てきたアスペルギルスとは少し異なり、喘息症状が必ず見られ、アスペルギルスが粘液栓の形で中~細気管支に停留します。
その強い抗原刺激のため、Ⅰ・Ⅲ・Ⅳ型アレルギーを生じるものがアレルギー性気管支肺アスペルギルス症です。
症状は、
- 反復する喘息発作
- 発熱
- 喀痰
などが見られます。
肺アスペルギルス症の検査、診断は?
アスペルギルスそのものを証明することが確定診断となります。
- 気管支肺胞洗浄液(BALF)
- 経気管支肺生検(TBLB)
いずれかにより、病変部位から死守した検体を分離して、培養し、アスペルギルスそのものの存在を同定します。
あるいは、Grocotto染色やPAS染色などで菌糸の存在を証明する事もあります。
肺アスペルギルス症の症状は?
症状は、以下のように様々です。
単純性肺アスペルギローマの場合は、
- 長期間無症状
の事もありますが、慢性進行性肺アスペルギルス症の場合は、
- 発熱
- 喀痰・咳嗽
- 血痰
という症状をきたしますし、急速に進行するタイプである侵襲性肺アスペルギルス症の場合は
- 呼吸苦
などの症状を伴う事があります。
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の症状は上に述べた通りです。
肺アスペルギルス症のCT画像所見は?
これもタイプによって異なります。
まずは、真菌球(fungus ball)を形成する単純性肺アスペルギローマ(SPA:simple pulmonary aspergilloma)の症例を見てみましょう。
症例 70歳代女性 陳旧性肺結核あり。
左肺尖部の空洞に菌球(fungus ball)を疑う結節を認めています。
肺アスペルギルス症に矛盾しないCT画像所見です。
他の検査と合わせて、肺アスペルギルス症と診断されました。
この症例のCT画像を実際に見てみる。→肺アスペルギルス症のCT画像
続いて、慢性壊死性アスペルギルス症の画像です。
症例 60歳代男性
右肺尖部に空洞性病変及び胸膜肥厚あり。
慢性壊死性アスペルギルス症としてフォローされています。
この症例を実際のCT画像でチェックする。→慢性壊死性アスペルギルス症のCT画像所見
肺アスペルギルス症の治療は?
単純性肺アスペルギローマの場合は、根治するためには基本的には手術をしてその部位を切除します。
それ以外の場合や、手術ができない場合は、抗真菌薬にて治療をします。
- ポリコナゾール(VRCZ)
- イトラコナゾール(ITCZ)
- ミカファンギン
- リポゾーマルアムホテリシンB(AMPH-B)
などがあります。
肺アスペルギルスの中でも、侵襲性肺アスペルギルス症になると、肺・副鼻腔・中枢神経系などで組織破壊的に進行します。
症状は急速で、抗真菌薬を使用しても、治療開始から3ヵ月後の死亡率は30〜40%で予後不良です。
そのため、早期治療開始が重要となります。
参考文献:
画像診断 vol.36 No.3 2016 P229-230
病気がみえるvol.4呼吸器P141〜146
アスペルギスについで多い肺真菌症が、肺クリプトコッカス症です。
最後に
- アスペルギルスは、空気中に存在する真菌(カビ)の一種で、免疫が低下した基礎疾患のある人に発症する
- 侵襲性肺アスペルギルス症・慢性肺アスペルギルス症・アレルギー性気管支肺アスペルギルス症に分類される
- アスペルギルスそのものを証明することが、確定診断となる
- 発熱・喀痰・咳嗽・血痰・呼吸苦などの症状が現れるが、単純性肺アスペルギローマの場合は長期無症状
- 単純性肺アスペルギローマの場合は、手術
- それ以外の場合や、手術ができない場合は、抗真菌薬にて治療する
たかがカビといっても、全身症状に加え、呼吸器症状まで伴うことのある肺アスペルギルス症。
免疫が低下している方は、普段から予防やちょっとした異変に早期に気づくことが大切です。