
遺伝性痙性対麻痺(HSP)とは、脊髄の長い神経路がゆっくり変性して両下肢のつっぱり(痙性)が進む遺伝性疾患の集まりで、MRIの見え方は型によって大きく違います。研修医のハジメくんと一緒に、脳がほぼ正常なSPG4、脳梁が薄いSPG11・SPG15とears of the lynxサイン、MRIで除きたい似た病気を順に整理します。
先に結論
- HSPのMRIは正常でもよい。最も多いSPG4(SPAST)の純粋型は脳がほぼ正常で、脊髄の萎縮が手がかりになる(Rezende 2015、Choi 2026)。
- 脳梁が薄いHSPではSPG11が最多、SPG15が2番目。FLAIRで前角の前に高信号が並ぶears of the lynxがあれば、SPG11・SPG15を強く考える(Goizet 2009、Pascual 2019)。
- MRIのいちばんの役割は、脊髄の圧迫・多発性硬化症などの似た病気を除き、遺伝子検査の方向をつけること(da Graça 2018)。副腎脊髄ニューロパチーは脳MRIが正常のこともあり、MRIだけでは除けない(Dubey 2005)。
目的から読む: HSPとは / SPG4のMRI(脊髄萎縮) / 脳梁菲薄化(SPG11・SPG15) / ears of the lynxサイン / 型ごとのMRI所見の一覧 / 似た病気との見分け方
遺伝性痙性対麻痺(HSP)とは? 純粋型と複合型
HSPは、皮質脊髄路と後索という脊髄の長い神経路がゆっくり変性する遺伝性疾患の集まりです。両下肢の痙性と腱反射の亢進が中心で、原因遺伝子が多く、型によって症状も画像も異なります(da Graça 2018)。
脊髄の長い神経路が変性する遺伝性疾患
遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia:HSP)は、脊髄の長い神経路、とくに皮質脊髄路と後索がゆっくり変性する遺伝性疾患の集まりです。両下肢のつっぱり(痙性)と腱反射の亢進が中心で、歩きにくさが少しずつ進みます。原因遺伝子は数多く、遺伝形式も常染色体顕性・潜性・X連鎖とさまざまで、型によって症状も画像も異なります(da Graça 2018)。SPG4の脳と脊髄を調べた研究でも、障害は皮質脊髄路の遠い側(脊髄)で目立ち、大脳皮質は比較的保たれていました(Rezende 2015)。
症状が下肢の痙性・筋力低下と排尿障害などにとどまるものを「純粋型」、知的障害・てんかん・小脳失調・末梢神経障害などを伴うものを「複合型」と呼びます。韓国の単施設で69例(54家系)をまとめた研究では、原因遺伝子が分かったのは54家系のうち34家系で、最も多いのはSPAST(SPG4)の26家系でした。69例の74%が純粋型で、SPG4の患者はすべて純粋型でした。排尿障害は61%にみられました(Choi 2026)。
遺伝性の脊髄小脳変性症との関係
HSPは、運動失調を主とする脊髄小脳変性症と症状が重なることがあり、分類のうえでも並べて扱われます。小脳萎縮が目立つ型(SPG7など)もあります(da Graça 2018)。脊髄小脳変性症の分類とMRIは脊髄小脳変性症(SCD)の分類とMRI画像所見で整理しています。
SPG4(純粋型)のMRI所見: 脳はほぼ正常、脊髄の萎縮が手がかり
最も多いSPG4では、通常の脳MRIは正常のことが多く、見るべきは脊髄です。頸髄・胸髄が扁平化を伴わずに全体に細くなることがあります(Rezende 2015、Choi 2026)。
純粋型(SPG4):脳はほぼ正常、脊髄が細い
SPG4の11例と健常者23例を3TのMRIで比べた研究では、脳の体積の解析で肉眼的な異常は見つかりませんでした。一方、拡散テンソル画像では皮質脊髄路・帯状回・脳梁膨大部で異方性(FA)が広く低下し、脊髄の形態計測では扁平化を伴わない萎縮がありました。脳梁と錐体路のFAは重症度と相関しました(Rezende 2015)。
韓国の研究でも、SPG4の患者の脳MRIはすべて正常でした。脊髄MRIでは16例(27%)に脊髄の萎縮があり、SPG4の患者では6例(21%)でした(Choi 2026)。日常の読影では「脳は正常」でも、頸髄・胸髄が全体に細くないかを見ておく価値があります。
HSPの5つの型(SPG3A・4・7・8・11)の84例を比べた研究では、SPG3Aを除くすべての型で脳の異常が見つかり、そのパターンは遺伝子ごとに異なっていました(Servelhere 2021)。こうした違いは主に体積計測や拡散テンソル画像で見えるもので、通常の画像の目視だけでは分からないことが多い点に注意します。型ごとの内訳は後ろの「根拠(もう少し詳しく)」の表にまとめました。
脳梁菲薄化を伴うHSP(HSP-TCC): SPG11とSPG15
脳梁が薄いHSP(HSP-TCC)では、SPG11が最も多く、SPG15が2番目です(Goizet 2009)。正中矢状断のT1強調像で、膝部から体部の前方の薄さを見ます。
脳梁が薄い型(HSP-TCC):SPG11とSPG15
複合型の常染色体潜性HSPのうち、脳梁が薄いもの(thin corpus callosum:TCC)はHSP-TCCと呼ばれます。イタリアのHSP-TCC61例の遺伝子解析では、SPG11が最も多く(26.2%)、SPG15(14.8%)、SPG35、SPG48が続きました(da Graça 2018が引用)。SPG11以外のHSP60例を調べた研究でも、HSP-TCCの中でSPG15はSPG11に次いで2番目に多い型(11.5%)で、SPG15の患者では脳梁の菲薄化と白質の高信号がMRIの特徴でした。著者らは、SPG11とSPG15は臨床像も画像もよく似ていて、1人の患者から遺伝子型を推し量るには違いが小さいとしています(Goizet 2009)。韓国の研究で脳梁が薄かったのは、SPG11の2例でした(Choi 2026)。
脳梁の菲薄化は、正中矢状断のT1強調像で、とくに膝部から体部の前方で目立ちます。脳梁の各部の名前は脳梁の解剖(吻部・膝部・体部・膨大部)で確かめられます。
ears of the lynx(オオヤマネコの耳)サインとは
FLAIRの横断像で、側脳室前角のすぐ前に左右一対の高信号が見える所見です。脳梁の小鉗子に一致し、T1強調像では低信号になります(Pascual 2019)。
ears of the lynx(オオヤマネコの耳)サイン
「ears of the lynx」サインは、脳梁の小鉗子(膝部から前頭葉へ向かう線維)がFLAIRで高信号、T1強調像で低信号になる所見です(Pascual 2019)。側脳室前角の前方に、左右一対の高信号として見えます。名前は、オオヤマネコの耳の先の房毛に見立てたものです。
SPG11またはSPG15の原因変異がある34例、健常者34例、多発性硬化症34例の画像を、診断を伏せた4人の読影者が判定した研究では、FLAIRでの感度は78.8〜97.0%、特異度は90.9〜100%でした。著者らは、このサインがあれば家族歴がなくてもSPG11・SPG15の遺伝子変異の可能性が高いとしています(Pascual 2019)。
引用元の図 HSPの型ごとのMRI所見(SPG4・SPG11・SPG15・SPG7・SPG35)

引用:da Graça FF et al. Front Neurol 2018(Figure 2)(CC BY 4.0)
(A)SPG4の患者で、中脳水道の狭窄による水頭症がみられます(SPG4ではまれな所見です)。(B)SPG11の患者のT1強調矢状断像で脳梁の菲薄化と脊髄の萎縮があり、同じ患者のFLAIR横断像でears of the lynxサインがみられます。(C)SPG15の患者でも脳梁の菲薄化と軽いears of the lynxサインがあります。(D)SPG7の患者のT1強調矢状断像で、強い小脳萎縮がみられます。(E)SPG35の20歳代の患者のT2強調像で、白質の高信号と両側淡蒼球の低信号がみられます(da Graça 2018)。
HSPの型ごとのMRI所見の一覧
脳梁の菲薄化・脊髄萎縮・白質のT2高信号・淡蒼球のT2低信号・小脳萎縮のどれがあるかで、考える型が絞れます。ただし同じ所見が複数の型に出るので、遺伝子検査の方向づけとして使います(da Graça 2018)。
| MRIの所見 | よく挙げられる型(da Graça 2018の表) |
|---|---|
| 脳梁の菲薄化 | SPG11、SPG15、SPG35、SPG4・SPG7(まれ)など |
| 目立つ脊髄萎縮 | SPG4、SPG6、SPG8 |
| ears of the lynx | SPG11、SPG15 |
| 白質のT2高信号 | SPG2、SPG5、SPG11、SPG35 |
| 淡蒼球のT2低信号 | SPG28、SPG35、SPG43 |
| 小脳萎縮 | SPG7 |
HSPとの鑑別: MRIで除きたい「似た病気」
両下肢の痙性で始まる病気は多く、HSPを考えるときのMRIの大きな役割は、治療できる病気や別の病気を除くことです(da Graça 2018)。まず脊髄の圧迫、次に脱髄や白質の病気を見ます。
とくに頸椎症性脊髄症や脊髄腫瘍などの圧迫性病変、多発性硬化症は、MRIで手がかりが得られます。副腎脊髄ニューロパチーは、MRIだけでは除外できません。
| 似た病気 | MRIの手がかり |
|---|---|
| 脊髄の圧迫(頸椎症・腫瘍など) | 脊柱管の狭窄、髄外の腫瘤、圧迫部の髄内信号変化 |
| 多発性硬化症 | 脳室周囲・脳梁・テント下・脊髄の脱髄斑。HSPでも多発性硬化症に似た白質病変を示す型があり注意(da Graça 2018) |
| 副腎脊髄ニューロパチー(X連鎖) | 脊髄萎縮を呈しうるが、純粋型では通常の脳MRIが正常なこともある(Dubey 2005)。大脳病変を伴う場合は後方優位の白質のT2高信号を認めうる。女性保因者でも痙性対麻痺を起こしうる(da Graça 2018)。MRIだけでは除外できず、臨床所見に応じて生化学・遺伝学的検査を行う |
| 脳腱黄色腫症 | びまん性萎縮、白質の信号変化、歯状核周囲の病変(da Graça 2018) |
| ARSACS | 上部虫部の萎縮と、FLAIRで橋の線状の低信号(da Graça 2018) |
副腎白質ジストロフィー(副腎脊髄ニューロパチーと同じ遺伝子の病気)は副腎白質ジストロフィーの画像診断、脊髄の腫瘍の分類は脊椎・脊髄腫瘍の分類で説明しています。多発性硬化症の脱髄斑の形と分布は多発性硬化症(MS)のMRI画像診断で、症例と診断基準を合わせて見くらべられます。皮質脊髄路(側索)を侵すほかの病気(HTLV-1関連脊髄症・ALSなど)は、脊髄側索を侵す疾患の鑑別診断でMRIの見え方を並べています。
よくある勘違い
Q. MRIが正常なら、HSPは否定できる?
できません。最も多いSPG4では脳MRIは正常のことが多く、韓国の研究ではSPG4の全員が正常でした(Rezende 2015、Choi 2026)。診断は症状・家族歴・遺伝子検査で行い、MRIはほかの病気を除くことと、脊髄の萎縮を見ることに使います。
Q. 脳梁が薄ければ、SPG11かSPG15と言い切れる?
言い切れません。脳梁が薄いHSPではSPG11が最多、SPG15が2番目ですが、SPG35・SPG48なども挙がります(Goizet 2009。SPG35・SPG48はda Graça 2018が引用するイタリアの61例)。FLAIRでears of the lynxサインがあれば、SPG11・SPG15の可能性がさらに高くなります(Pascual 2019)。
Q. 痙性対麻痺の検査は、脳MRIだけで十分?
脊髄も見ます。脊髄の圧迫など治療できる病気を除くのに役立ち、HSPそのものでも27%に脊髄の萎縮がみられました(Choi 2026)。
今日のまとめ
- HSPは脊髄の長い神経路の変性。最も多いSPG4は脳がほぼ正常で、脊髄が扁平化せずに細くなることが手がかり。
- 脳梁の菲薄化(膝部〜体部の前方)と前角の前のears of the lynxは、SPG11・SPG15を考えるきっかけ。
- MRIはまず脊髄の圧迫・多発性硬化症などを除き、所見の組み合わせで遺伝子検査の方向をつける。副腎脊髄ニューロパチーは正常MRIでも否定できず、臨床所見に応じて生化学・遺伝学的検査へ。
根拠(もう少し詳しく)
| 研究 | 対象 | わかったこと |
|---|---|---|
| Rezende 2015 | SPG4の11例と健常者23例(3T) | 脳の体積に肉眼的な異常なし。皮質脊髄路・帯状回・脳梁膨大部でFAが低下。脊髄は扁平化を伴わない萎縮。脳梁と錐体路のFAが重症度と相関 |
| Servelhere 2021 | 5つの型の84例(SPG3A 9例・SPG4 27例・SPG7 10例・SPG8 9例・SPG11 29例) | SPG3Aを除くすべての型で脳の異常。SPG4は基底核・視床・後方の白質、SPG7は白質全体と小脳、SPG8は運動野の皮質の菲薄化と淡蒼球の萎縮、SPG11は灰白質・白質・小脳深部核の広い障害 |
| Goizet 2009 | SPG11以外のHSP60例(知的障害かMRI異常を伴う) | HSP-TCCの中でSPG15はSPG11に次いで2番目(11.5%)。脳梁の菲薄化と白質の高信号が特徴。SPG11とSPG15は臨床像も画像もよく似る |
| Pascual 2019 | SPG11・SPG15の34例、健常者34例、多発性硬化症34例(FLAIRとT1強調像の204画像を4人が判定) | FLAIRで感度78.8〜97.0%、特異度90.9〜100%。読影者間の一致は良好(κ 0.66〜0.77) |
| Choi 2026 | 韓国の単施設、69例(54家系) | 原因遺伝子は34家系で判明し、SPAST(SPG4)が26家系で最多。純粋型74%(SPG4は全員)。排尿障害61%。脳梁が薄いのはSPG11の2例、SPG4の脳MRIは全員正常。脊髄萎縮は16例(27%)、SPG4では6例(21%) |
| da Graça 2018 | HSPの神経画像の総説 | MRIは似た病気の除外と型の絞り込みに役立つ。型ごとの所見の表、似た病気のMRIの手がかり |
参考文献
- da Graça FF, de Rezende TJR, Vasconcellos LFR, et al. Neuroimaging in Hereditary Spastic Paraplegias: Current Use and Future Perspectives. Front Neurol. 2018;9:1117. PubMed
- Pascual B, de Bot ST, Daniels MR, et al. “Ears of the Lynx” MRI Sign Is Associated with SPG11 and SPG15 Hereditary Spastic Paraplegia. AJNR Am J Neuroradiol. 2019;40(1):199-203. PubMed
- Goizet C, Boukhris A, Maltete D, et al. SPG15 is the second most common cause of hereditary spastic paraplegia with thin corpus callosum. Neurology. 2009;73(14):1111-9. PubMed
- Rezende TJ, de Albuquerque M, Lamas GM, et al. Multimodal MRI-based study in patients with SPG4 mutations. PLoS One. 2015;10(2):e0117666. PubMed
- Servelhere KR, Rezende TJR, de Lima FD, et al. Brain Damage and Gene Expression Across Hereditary Spastic Paraplegia Subtypes. Mov Disord. 2021;36(7):1644-1653. PubMed
- Choi Y, Kim SH, Ahn SJ, et al. Comprehensive Characterization of Spastic Paraplegia in Korean Patients: A Single-Center Experience over Two Decades. Yonsei Med J. 2026;67(1):34-41. PubMed
- Dubey P, Fatemi A, Huang H, et al. Diffusion tensor-based imaging reveals occult abnormalities in adrenomyeloneuropathy. Ann Neurol. 2005;58(5):758-66. PubMed
症例画像は各図の引用元のとおりです。
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