
有棘赤血球舞踏病(VPS13A病)とは、VPS13A遺伝子の変異で大脳基底核が少しずつ傷み、舞踏運動と、とげのある赤血球(有棘赤血球)がみられる遺伝性の病気です。MRIの中心は両側の尾状核頭部の萎縮で、ハンチントン病とよく似ています。研修医のハジメくんと一緒に、MRIの見る場所と、画像のあとで病気を絞る手がかりを整理します。
先に結論
- 有棘赤血球舞踏病(VPS13A病)とは、VPS13A遺伝子の変異(常染色体潜性遺伝)で基底核が変性する病気。神経有棘赤血球症の中心となる病気の一つ。
- MRIの中心は両側の尾状核頭部の萎縮と側脳室前角の拡大。被殻の萎縮や信号変化を伴うことがある。
- 画像だけではハンチントン病と区別しにくい。口・舌の不随意運動と咬傷、てんかん、CK上昇、有棘赤血球、遺伝子検査をあわせて診断する。
目的から読む: 有棘赤血球舞踏病とは / 症状 / MRI所見 / ハンチントン病との違い / 血液・遺伝子検査 / McLeod症候群など
有棘赤血球舞踏病(神経有棘赤血球症)とは?
神経有棘赤血球症は、血液に有棘赤血球がみられ、大脳基底核が変性していく病気の総称です。有棘赤血球舞踏病はその中心となる病気で、VPS13A遺伝子の変異で起こるため、VPS13A病とも呼ばれます。
「有棘赤血球」と「基底核の変性」を併せ持つ病気
神経有棘赤血球症(neuroacanthocytosis)は、とげのある形の赤血球(有棘赤血球)が血液にみられ、大脳基底核が少しずつ変性していく病気の総称です。いずれもきわめてまれで、それぞれの病気の有病率は100万人あたり1〜5人未満と推定されています。中心となるのは、常染色体潜性遺伝の有棘赤血球舞踏病(chorea-acanthocytosis)と、X連鎖遺伝のMcLeod症候群です(Jung 2011)。
有棘赤血球舞踏病はVPS13A遺伝子の変異で起こり、最近はVPS13A病とも呼ばれます。赤血球では、この遺伝子がつくるタンパク質(コレイン)が欠けています(Jung 2011)。有棘赤血球がはっきりしない患者もいるため、遺伝子にもとづく呼び方が使われるようになっています(Makharia 2026)。
サイトの一覧では「非遺伝性脊髄小脳変性症」の節に挙がっている項目ですが、有棘赤血球舞踏病そのものは遺伝性の病気です。脊髄小脳変性症の全体像は脊髄小脳変性症(SCD)の分類とMRI画像所見をご覧ください。
有棘赤血球舞踏病の症状: 口・舌の不随意運動と咬傷
全身の舞踏運動に加えて、舌のジストニアや食べるときのジストニア、唇・舌の咬傷など、口のまわりの症状が目立ちます。てんかん・末梢神経障害・筋障害・精神症状も出ます(Jung 2011、Makharia 2026)。
症状
ハンチントン病に似た舞踏運動・精神症状・認知機能の低下に加え、筋障害や軸索性の末梢神経障害など、いくつもの系統の症状が出ます(Jung 2011)。インドの8施設で遺伝子が確定した18例をまとめた研究では、全員に全身の舞踏運動があり、舌のジストニアが88.9%、チックが50.0%にみられました。てんかんで始まった患者は、専門施設での評価までの期間が長い傾向がありました(Makharia 2026)。
| 手がかり | 内容 |
|---|---|
| 口・舌の不随意運動 | 舌のジストニア、口顔面の舞踏運動、食べるときのジストニア。18例で舌のジストニア16例(88.9%)、食べるときのジストニア17例(94.4%)(Makharia 2026) |
| 咬傷 | 唇や舌をくり返しかんでできる傷。18例中12例(66.7%)(Thapa 2016、Makharia 2026) |
| てんかん | 18例中7例(38.9%)。最初の症状になることがある(Makharia 2026) |
| 筋・末梢神経 | 筋障害、軸索性ニューロパチー(Jung 2011)。末梢神経障害は18例中12例(66.7%)(Makharia 2026) |
| 血液検査 | 末梢血の有棘赤血球、血清CKの上昇。赤血球のコレインの欠如(Jung 2011) |
有棘赤血球舞踏病のMRI所見: 尾状核頭部の萎縮
MRIで見るのは両側の尾状核頭部です。萎縮すると本来の丸い膨らみが失われ、側脳室前角が外側へ広がります。被殻の萎縮や信号変化を伴うこともあります(Henkel 2006、Makharia 2026)。
尾状核頭部の萎縮
VPS13A変異のある6例(年齢の中央値37歳、発症からの平均13年)と健常者15例を、ボクセル単位の体積解析(VBM)で比べた研究では、両側の尾状核頭部の灰白質がほぼ対称に強く減っていました。そのほかの灰白質の変化はなく、脳全体の萎縮も有意ではありませんでした。著者らは、尾状核頭部が特に傷つきやすいことを示す結果としています(Henkel 2006)。
インドの18例では、MRIを評価できた15例中14例(93.3%)に尾状核の萎縮があり、被殻・皮質・小脳の萎縮や信号異常はそれより少数でした(Makharia 2026)。この研究では、尾状核の萎縮を、尾状核頭部・体部の体積が減り、本来の丸い膨らみが失われ、側脳室前角が広がる所見と定義しています。
尾状核の場所と血管支配は尾状核とはどこ?、基底核の全体像は大脳基底核とは?で説明しています。
被殻の信号変化を伴うことがある
被殻の萎縮や信号変化は、尾状核の萎縮より少ない頻度でみられます。症例報告では、尾状核頭部の萎縮とあわせて、被殻がT2強調像・FLAIRで高信号でした(Thapa 2016)。
同じ研究・症例でみられたMRIの所見
| 所見 | 報告された割合・内容 |
|---|---|
| 尾状核の萎縮 | 15例中14例(93.3%)(Makharia 2026) |
| 尾状核の信号変化 | 12例中6例(50.0%)(Makharia 2026) |
| 被殻の萎縮・信号変化 | 萎縮13例中6例(46.2%)、信号変化12例中5例(41.7%)(Makharia 2026) |
| 小脳・皮質の萎縮 | それぞれ14例中4例(28.6%)(Makharia 2026) |
| 症例報告(36歳女性) | 尾状核頭部の萎縮と、T2強調像・FLAIRでの被殻の高信号(Thapa 2016) |
MRIを撮った時期や撮り方が患者ごとに違うため、所見ごとに評価できた人数(分母)が異なります(Makharia 2026)。
同じ患者の末梢血塗抹標本
上の症例報告(Thapa 2016)の患者は、下唇をくり返しかむ傷と口顔面のジスキネジア、末梢神経障害がありました。

引用:Thapa L et al. Int Med Case Rep J 2016(Figure 2)(CC BY-NC 3.0)
末梢血の塗抹標本で、とげのある形の赤血球(有棘赤血球、赤矢印)がみられます(Thapa 2016)。
ハンチントン病との違い: MRIで見分けられる?
日常の画像を目で見るだけでは、ハンチントン病と区別しにくいのが実際です。体積を測る解析では、基底核のまわりと視床の白質の体積低下が有棘赤血球舞踏病だけにみられました(Suzuki 2020)。
ハンチントン病との違い
舞踏運動と尾状核の萎縮という点で、有棘赤血球舞踏病はハンチントン病とよく似ています。遺伝子で確定した有棘赤血球舞踏病5例とハンチントン病11例を、1例ずつのVBM解析で比べた研究があります。尾状核の灰白質の体積低下は16例全員にみられましたが、両側の淡蒼球・被殻・視床にかけての白質の体積低下は、有棘赤血球舞踏病の5例全員にみられ、ハンチントン病の患者には1例もみられませんでした(Suzuki 2020)。
ただし、これは体積計測ソフトを使った解析で、日常の画像を目で見て分けられる違いではありません。画像は「尾状核の萎縮がある」ことを示し、そこから臨床と血液・遺伝子の検査で病気を絞る、という使い方が現実的です。
| 項目 | 有棘赤血球舞踏病 | ハンチントン病 |
|---|---|---|
| 遺伝形式 | 常染色体潜性(VPS13A) | 常染色体顕性(HTT) |
| 尾状核の萎縮 | あり(Henkel 2006) | あり |
| 基底核周囲・視床の白質の体積低下 | 5例全員(Suzuki 2020) | 11例とも認めず(Suzuki 2020) |
| 臨床の手がかり | 口舌の不随意運動・咬傷、てんかん、ニューロパチー、CK上昇、有棘赤血球(Jung 2011) | 家族歴(親から子へ)、CAGリピートの延長 |
ハンチントン病の尾状核の萎縮と前角の形は、Huntington病のMRI画像所見のポイントで並べて見られます。
診断の手がかり: 有棘赤血球・CK・遺伝子検査
画像で尾状核の萎縮をみたら、末梢血の有棘赤血球と血清CKを確かめ、最後は遺伝子検査で確定します。有棘赤血球は見つからないこともあり、見つからなくても否定できません(Makharia 2026)。
血液・遺伝子の検査
インドの18例では、全員に有棘赤血球の検査が行われ、見つかったのは14例(77.8%)でした。遺伝子で確定した4例では、有棘赤血球が記録されていませんでした。血清CKは13例中12例(92.3%)で上がっていました(Makharia 2026)。有棘赤血球は見つからないことや検査の方法に左右されることがあり、疑うときは遺伝子検査を考えます。
根本的な治療はなく、不随意運動などの症状に合わせた治療が行われます(Jung 2011)。
McLeod症候群など、ほかに区別したい病気
同じ神経有棘赤血球症のMcLeod症候群(X連鎖・主に男性・心臓の症状)と、有棘赤血球がみられるPKANや脂質代謝の病気を区別します。若い人の舞踏運動では、高血糖性舞踏病やウィルソン病も画像で手がかりがあります。
ほかに区別したい病気
McLeod症候群は、XK遺伝子によるX連鎖の病気で、主に男性に起こります。神経症状と心臓の症状がおおむね40歳ごろから出てきます。赤血球のKx抗原が欠如し、Kell抗原の発現が低下しています。輸血のときに特別な配慮が要ります(Roulis 2018、Jung 2011)。
そのほか、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症(PKAN)や、無βリポタンパク血症などの脂質代謝の病気でも有棘赤血球がみられることがあります(Jung 2011)。若い人の舞踏運動では、糖尿病の高血糖による舞踏病も画像で区別できます。被殻のT1高信号が手がかりで、高血糖性舞踏病(糖尿病性舞踏病)のCT・MRI画像所見で説明しています。被殻のT2高信号がある若い人では、Wilson病(ウィルソン病)のMRI画像所見で、パンダサインなどほかの手がかりと合わせて見られます。
要点の一覧
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 原因 | VPS13A遺伝子の変異(常染色体潜性遺伝)。赤血球ではコレインが欠ける(Jung 2011) |
| MRIの中心 | 尾状核頭部の萎縮。6例の体積解析で両側ほぼ対称に低下(Henkel 2006)。インドの多施設15例中14例(Makharia 2026) |
| ハンチントン病との違い | 淡蒼球・被殻・視床の白質の体積低下が有棘赤血球舞踏病だけにみられた(Suzuki 2020) |
| 臨床の手がかり | 口・舌の不随意運動、唇や舌の咬傷、てんかん、末梢神経障害、CK上昇(Jung 2011、Makharia 2026) |
| 仲間の病気 | X連鎖のMcLeod症候群。心筋症を伴うことがある(Jung 2011、Roulis 2018) |
よくある勘違い
Q. MRIで尾状核が小さければ、ハンチントン病?
尾状核の萎縮は、ハンチントン病にも有棘赤血球舞踏病にもみられます(Suzuki 2020)。画像だけで決めず、遺伝形式・症状・血液検査・遺伝子検査をあわせて判断します。
Q. 血液で有棘赤血球が見つからなければ、否定できる?
できません。遺伝子で確定した18例のうち、有棘赤血球が見つかったのは14例でした(Makharia 2026)。疑うときは遺伝子検査を考えます。
Q. 尾状核のまわりが痩せているだけなら「脳全体の萎縮」でよい?
よくありません。体積解析で目立ったのは両側の尾状核頭部で、脳全体の萎縮ははっきりしませんでした(Henkel 2006)。側脳室前角の形を見て、尾状核頭部の萎縮として書きます。
今日のまとめ
- 有棘赤血球舞踏病(VPS13A病)のMRIは両側の尾状核頭部の萎縮。前角の膨らみが消えて広がるのを見る。
- 画像ではハンチントン病と区別しにくい。体積解析の白質の差は目で見て分けられる違いではない。
- 口・舌の不随意運動と咬傷、てんかん、CK上昇・有棘赤血球を確かめ、最後は遺伝子検査で確定する。
参考文献
- Jung HH, Danek A, Walker RH. Neuroacanthocytosis syndromes. Orphanet J Rare Dis. 2011;6:68. PubMed
- Henkel K, Danek A, Grafman J, et al. Head of the caudate nucleus is most vulnerable in chorea-acanthocytosis: a voxel-based morphometry study. Mov Disord. 2006;21(10):1728-31. PubMed
- Suzuki F, Sato N, Ota M, et al. Discriminating chorea-acanthocytosis from Huntington’s disease with single-case voxel-based morphometry analysis. J Neurol Sci. 2020;408:116545. PubMed
- Makharia A, Shaikh AI, Ganguly J, et al. Clinical and Genetic Spectrum of VPS13A Disease Across India: A Retrospective Multicentre Genetically Confirmed Cohort. Tremor Other Hyperkinet Mov (N Y). 2026;16:56. PubMed
- Roulis E, Hyland C, Flower R, et al. Molecular Basis and Clinical Overview of McLeod Syndrome Compared With Other Neuroacanthocytosis Syndromes: A Review. JAMA Neurol. 2018;75(12):1554-1562. PubMed
- Thapa L, Bhattarai S, Shrestha MP, et al. Chorea-acanthocytosis: a case report. Int Med Case Rep J. 2016;9:39-42. PubMed
症例画像は各図の引用元のとおりです。
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