
先に結論:頭蓋底・側頭骨の「孔・裂隙・脂肪を含む骨病変」には正常変異が多い。形・内容・膨張の有無・年齢で見分け、腫瘍・骨折・耳硬化症と取り違えない
| 正常変異 | 間違えやすいもの | 見分けるポイント |
|---|---|---|
| 翼突管(Vidian canal) | 骨折線・異常な管 | 翼口蓋窩から破裂孔方向へ前後に走る管。平均長14.6mm |
| Vesalius孔 | 骨破壊・異常な孔 | 卵円孔の前内側の小孔。41.1%にみられた報告 |
| 含気化の停止(arrested pneumatization) | 線維性骨異形成・腫瘍 | 膨張しない、硬化縁、内部に脂肪、弧状の石灰化 |
| 泡状外脊索症 | 脊索腫 | 斜台背側の正中、T2強調像で高信号。骨の茎を伴うことがある |
| cochlear cleft | 耳硬化症 | 蝸牛周囲の低吸収。年少児(0〜4歳)に多い |
| 側頭骨の縫合・裂 | 側頭骨骨折 | 正常な裂・縫合の位置と形を知っておく |
実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの側頭骨CTの正常解剖ツールで、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。
頭蓋底の孔の正常変異
頭蓋底の主な孔(正円孔・卵円孔・棘孔・頸動脈管・破裂孔)は正円孔・卵円孔・棘孔・頸動脈管・破裂孔とはにまとめています。ここでは、よく見えるのに名前を意識されにくい孔を取り上げます。
翼突管(Vidian canal)
翼突管は、翼突管神経と翼突管動脈が通る骨の管です。翼口蓋窩から後方へ向かい、内頸動脈の錐体部の前方の屈曲部の近くに達します。
日本人231例の高分解能CT(0.5mm厚)の研究では、翼突管の平均長は14.6mmで、全例で内頸動脈錐体部前方屈曲部の下外側にありました。約半数で、翼突管や斜台傍の内頸動脈が蝶形骨洞に突出し、蝶形骨洞の含気化が良好でした(Mato 2015)。内視鏡下経鼻手術では内頸動脈の位置を知る目印として重要な構造です。
翼口蓋窩との交通は翼口蓋窩とはで解説しています。
Vesalius孔(foramen Vesalius)
卵円孔の前内側にある小さな孔で、海綿静脈洞と頭蓋外の静脈(翼突筋静脈叢)をつなぐ導出静脈が通ります。6〜30歳の350人のコーンビームCTの研究では41.1%にみられ、頭蓋底の孔の変異の中でも頻度の高いものでした(Akkoca Kaplan 2020)。同じ研究では、頭蓋咽頭管5.4%、正中底管(canalis basalis medianus)4.3%など、ほかの変異の頻度も報告されています(Akkoca Kaplan 2020)。
これらの変異を知っておくことは、骨折の診断や感染の広がり方を理解するうえで大切とされています(Akkoca Kaplan 2020)。
含気化の停止(arrested pneumatization)
蝶形骨洞などの含気化は、成長の過程で骨髄が空気に置き換わることで進みます。この過程が途中で止まると、骨の中に脂肪や石灰化を含む領域が残ります。
30例を見直した研究では、蝶形骨体部(basisphenoid)やその周囲の頭蓋底に、次の特徴を持つ病変を見たら含気化の停止を強く考えるべきとされています(Welker 2008)。
- 膨張しない(nonexpansile)
- 骨硬化性の辺縁
- 内部に脂肪
- 弧状(曲線状)の石灰化
良性の発生上の変異ですが、重要な頭蓋底疾患と間違われうるものです(Welker 2008)。MRIだけで見ると脂肪髄の信号が腫瘍のように見えることがあるため、CTで脂肪と石灰化、膨張がないことを確認すると判断しやすくなります。
症例 60歳代女性 頭蓋底の含気化の停止

引用:Radiopaedia(Arrested pneumatisation of the skull base)
蝶形骨の中が空気で抜けておらず、脂肪の骨髄の中に曲線状の細い骨梁が入り組んで見えます。症例ページでは、骨のふくらみや破壊はなく、孔の太さも正常で、含気化の停止に合う所見と記載されています。
泡状外脊索症(ecchordosis physaliphora)
斜台背側から橋の前方にみられる、脊索の遺残に由来する良性の病変です。後頭蓋窩をCTと1.5T MRIで撮影した916例の研究では、良性脊索細胞腫瘍(BNCT、泡状外脊索症を含む)が7例(0.76%)にみられました。全例が正中で、T1強調像で低信号、T2強調像で高信号でした。泡状外脊索症に伴う骨の茎は1.65〜3.72mmでした(Golden 2014)。
一方で、7例中5例に骨の茎がない、動脈相での造影、斜台のびらんなど非典型的な所見があり、泡状外脊索症と脊索腫の基準にきれいに分けられない例もあるとされています(Golden 2014)。詳しくは泡状外脊索症とは?脊索腫との違い、脊索腫は脊索腫とはをご覧ください。
側頭骨の正常変異
cochlear cleft(蝸牛周囲の裂隙)
感音難聴のない小児100例の側頭骨CTで、耳包(otic capsule)の中に小さな裂隙がみられ、「cochlear cleft」と名付けられました。41%にみられ、年齢とともに頻度が下がりました。卵円窓前裂(fissula ante fenestram)にあたる可能性が指摘されています(Chadwell 2004)。
病変のない小児の側頭骨CT 404例の研究では33.4%にみられ、0〜4歳の年少児に多く、性別や難聴の有無、内耳奇形とは関連しませんでした。軟骨内骨化が十分に進んでいない部分を反映した変異で、耳硬化症に似ることがあるため、不要な治療を避けるために知っておくべきとされています(Boonrod 2026)。
耳硬化症のCT所見は耳硬化症(otosclerosis)のCT画像診断で解説しています。
骨折に似る縫合・裂
側頭骨には正常な裂や縫合が多く、薄いスライスのCTが外傷で使われるようになって、これらがよく見えるようになりました。正常解剖を知らないと骨折と読み違えるおそれがあります(Kwong 2012)。側頭骨の正常解剖は側頭骨CTの正常解剖・画像診断ツール、骨折は側頭骨骨折とはを参考にしてください。
よくある疑問(Q&A)
Q. 蝶形骨に脂肪を含む病変があります。経過観察でよいですか?
膨張がなく、硬化縁・内部の脂肪・弧状の石灰化がそろっていれば、含気化の停止を強く考えます(Welker 2008)。典型的でない所見がある場合は、主治医と相談のうえ追加の検査を検討します。
Q. 斜台背側のT2高信号の小結節は脊索腫ですか?
正中のT2高信号で骨の茎を伴う小病変は泡状外脊索症の典型ですが、非典型的な例もあります(Golden 2014)。大きさ・造影効果・骨の破壊・症状を合わせて判断します。
Q. 子どもの側頭骨CTで蝸牛の周りに低吸収があります。耳硬化症ですか?
年少児では正常変異のcochlear cleftが3〜4割にみられます(Chadwell 2004、Boonrod 2026)。年齢と聴力、ほかの所見と合わせて判断します。
参考文献
- Mato D, Yokota H, Hirono S, et al. The vidian canal: radiological features in Japanese population and clinical implications. Neurol Med Chir (Tokyo). 2015;55(1):71-6. PubMed
- Akkoca Kaplan F, Bayrakdar İŞ, Bilgir E. Incidence of anomalous canals in the base of the skull: a retrospective radio-anatomical study using cone-beam computed tomography. Surg Radiol Anat. 2020;42(2):171-177. PubMed
- Welker KM, DeLone DR, Lane JI, et al. Arrested pneumatization of the skull base: imaging characteristics. AJR Am J Roentgenol. 2008;190(6):1691-6. PubMed
- Golden LD, Small JE. Benign notochordal lesions of the posterior clivus: retrospective review of prevalence and imaging characteristics. J Neuroimaging. 2014;24(3):245-9. PubMed
- Chadwell JB, Halsted MJ, Choo DI, et al. The cochlear cleft. AJNR Am J Neuroradiol. 2004;25(1):21-4. PubMed
- Boonrod A, Phuttharak W, Srisitthiprapha W, et al. Cochlear clefts in children: prevalence, characteristics, and clinical implications. Pediatr Radiol. 2026;56(1):121-127. PubMed
- Kwong Y, Yu D, Shah J. Fracture mimics on temporal bone CT: a guide for the radiologist. AJR Am J Roentgenol. 2012;199(2):428-34. PubMed
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