脊索腫(chordoma)は、胎生期に存在する脊索(notochord)遺残から発生する稀少腫瘍です。発生頻度は低いものの、頭蓋底・脊椎・仙骨に好発し、画像診断上非常に特徴的な所見を呈します。
WHO分類では悪性腫瘍(低悪性度)に分類され、増殖はゆっくりですが局所浸潤性・再発性が高く、遠隔転移することもあります。中高年男性にやや多く、米国の集計では年齢調整発生率は10万人あたり男性0.10・女性0.06で、40歳未満ではまれでした(McMaster 2001)。
先に結論:脊索腫とは・画像の特徴
- 脊索腫は、胎児期の脊索(背骨のもとになる組織)の名残から発生するまれな悪性の骨腫瘍です。ゆっくり大きくなりますが、まわりに広がりやすく再発しやすいのが特徴です
- できる場所は体の正中線上で、仙骨・尾骨、頭蓋底の斜台、頸椎などの背骨です(米国の集計では頭蓋・脊椎・仙骨がほぼ3分の1ずつ)。症状は場所により、腰・お尻の痛みや排尿・排便の異常、物が二重に見えるなどの脳神経症状です
- CTでは骨を壊して広がる正中のかたまりと内部の石灰化・骨片、MRIではT2強調像でとても白い(著明な高信号)分葉状の腫瘤で、内部に黒い隔壁が見えるのが典型です。治療はできるだけ広く切除する手術と、陽子線・重粒子線治療などです
脊索腫(chordoma)の好発部位
- 仙尾部
- 頭蓋底(斜台部):全頭蓋内腫瘍の約0.2%(Lowery 1999)
- 脊椎(特に軸椎の歯突起)
頭蓋内発生例では、脳神経症状や下垂体機能障害を伴うことがあり、緩徐に進行するのが一般的です。
脊索腫(chordoma)の画像所見と診断のポイント
CT所見
- 正中に位置する、境界明瞭な膨張性軟部組織腫瘍
- 骨溶解像+辺縁硬化像(一部症例で)
- 内部の不均一な高吸収域:石灰化や変位した骨片
- 造影効果:中等度〜著明な造影効果
MRI所見
- T1WI:低〜等信号、出血やムチンで高信号域も可
- T2WI:ムチンに富むため著明な高信号(画像診断のキーポイント)
- 内部の隔壁:出血・蛋白質濃度の高い粘液瘤や石灰化による低信号隔壁
- 造影:不均一な造影効果
- SWI:腫瘍内の微小出血を検出可能
- 拡散強調画像(DWI):ADCは高めで、強い拡散制限は伴わないただし斜台部では、脊索腫のADCは軟骨肉腫より有意に低いと報告されており、両者の鑑別の手がかりになります。
症例 40歳代男性

引用:Radiopaedia
橋前槽から斜台後面に分葉状腫瘤あり。T2WIで高信号を示し、内部に小さな低信号域を含む。T1WIでは主に低信号を示し、腫瘍の大部分は中等度に造影増強されている。
脊索腫(chordoma)を疑う所見。病理学的にも診断された。
※ちなみに左側頭葉に比較的大きなクモ膜嚢胞も認めています。
病理所見との対応
脊索腫の画像所見は、組織学的特徴と良く一致します:
- 腫瘍は豊富なムチン基質に富み、MRIのT2高信号と一致
- physaliferous cells(泡沫細胞):空胞を多数含む細胞が特徴
- 組織学的には低異型性だが、局所浸潤・再発能が高い
このため、MRI画像と病理像は相補的であり、画像所見を元に病理的裏付けを想定しやすい腫瘍と言えます。
脊索腫(chordoma)の鑑別診断と比較
骨病変との鑑別
- 骨転移:多発することが多く、溶骨性・造骨性さまざま。仙骨の腫瘍では転移・骨髄腫・リンパ腫が最も多い(Gerber 2008)
- 形質細胞腫:単発性骨融解性病変、T1低信号・T2高信号
- 悪性リンパ腫:骨破壊より軟部成分が目立つ。造影効果が乏しいことも
他の脊索系腫瘍・軟骨性腫瘍との比較
- 軟骨腫:CTで「ring and arcs」石灰化、正中より外側に偏位
- 軟骨肉腫:T2高信号だが、石灰化パターンが異なる。CTでリング状石灰化が特徴的
- 泡状外脊索症(ecchordosis physaliphora):無症候性・造影されず・骨破壊なし
- benign notochordal cell tumor(良性脊索細胞腫):良性で骨破壊や造影効果を伴わない。臨床的意義は限定的。脊索腫と病理診断されていた38例の再検討では、良性脊索細胞腫5例はすべて骨破壊がなく軽い骨硬化のみで造影されず、4例は骨内にとどまっていた。一方、脊索腫33例はすべて骨溶解と造影効果を示し、31例は骨の外へ広がっていた(Nishiguchi 2011)
骨外病変との鑑別
頭蓋底の脊索腫と軟骨肉腫:ADC値の目安
斜台など頭蓋底では、脊索腫と軟骨肉腫の形や造影のされ方が似ていて区別に迷います。拡散強調像のADC値は、両者の区別の手がかりになります。
| 報告 | 結果 |
| 19例の検討(Yeom 2013) | 平均ADC(×10-6 mm2/s):軟骨肉腫2051±261、古典的脊索腫1474±117、低分化型脊索腫875±100。低分化型脊索腫はT2強調像で低信号 |
| 3T装置で105例(脊索腫70例、軟骨肉腫35例)の検討(Welzel 2018) | 充実部の平均ADCは軟骨肉腫で高く、1585×10-6 mm2/sを境にすると感度94.3%、特異度98.6% |
ADCが高めなら軟骨肉腫寄り、低めなら脊索腫寄りと考えます。ただし数値は装置や測り方で変わるため、表の値は目安とし、関心領域は壊死や石灰化を避けて充実部に置きます。
治療と予後:長期戦に備える管理戦略
外科的切除が治療の第一選択ですが、斜台部・仙骨部では全摘困難例も多く、陽子線治療や重粒子線治療が重要な補助療法となります。可動脊椎・仙骨の脊索腫では広い切除縁での一塊切除(en bloc切除)と術後放射線治療が標準とされ、斜台部では神経機能の温存を重視した最大限安全な減量切除と高精度の放射線治療が基本とされます。
再発率は高く、切除された仙骨脊索腫1,235例の系統的レビューでは局所再発42.6%、遠隔再発22.4%で、広い切除縁が局所再発の少なさと関係していました(Kerekes 2019)。したがって、術後の定期的なMRIによる画像フォローアップが重要です。
仙骨にできる腫瘍の見分け方(良性・悪性)
仙骨の腫瘍では、転移や骨髄腫・リンパ腫が最も多く、原発性の骨腫瘍では脊索腫と骨巨細胞腫が仙骨を好むとされます(Gerber 2008)。
| 腫瘍 | 良性/悪性 | 画像のヒント |
|---|---|---|
| 脊索腫 | 悪性(低悪性度) | 下位仙骨・尾骨の正中、T2で著明な高信号の分葉状腫瘤、前方へ大きく張り出す |
| 骨巨細胞腫 | 良性(局所で攻撃的) | 上位仙骨に多く偏心性、T2で比較的低い信号の部分や出血を含むことがある |
| 神経鞘腫 | 良性 | 仙骨孔に沿って広がり、孔を押し広げる(骨の破壊より圧排) |
| 良性脊索細胞腫 | 良性 | 骨内にとどまり、骨硬化のみで造影されない |
| 転移・骨髄腫・リンパ腫 | 悪性 | 多発することが多い。原発巣や血液検査と合わせて判断 |
脊索腫でよくある疑問(Q&A)
Q. 読み方は?「コルドーマ」とは?
A. 「せきさくしゅ」と読みます。英語のchordoma(コルドーマ)のことで、同じ腫瘍です。
Q. 予後は?
A. 米国のがん登録400例では、5年相対生存率67.6%、10年39.9%でした(McMaster 2001)。再発することが多いため、長期にわたるMRIでの経過観察が必要です。腰やお尻の痛み、排尿・排便の異常、物が二重に見えるなどの症状が続く場合は医療機関で相談してください。
まとめ:画像診断時に注意すべき脊索腫のサイン
- 正中構造に沿う骨破壊性腫瘍
- T2WIで著明な高信号+造影不均一
- 石灰化・粘液瘤・出血による内部構造の多様性
これらのポイントを押さえることで、他の類似腫瘍との鑑別精度が高まり、治療方針決定にも大きく貢献します。
あわせて読みたい:斜台から発生する(原発)腫瘍の鑑別診断は?
参考文献
- Erdem E, et al. Comprehensive review of intracranial chordoma. Radiographics. 2003;23(4):995-1009.
- Yeom KW, Lober RM, Mobley BC, et al. Diffusion-weighted MRI: distinction of skull base chordoma from chondrosarcoma. AJNR Am J Neuroradiol. 2013;34(5):1056-1061.
- Farsad K, Kattapuram SV, Sacknoff R, et al. Sacral chordoma. Radiographics. 2009;29(5):1525-1530.
- Walcott BP, Nahed BV, Mohyeldin A, et al. Chordoma: current concepts, management, and future directions. Lancet Oncol. 2012;13(2):e69-e76. PubMed
- McMaster ML, Goldstein AM, Bromley CM, et al. Chordoma: incidence and survival patterns in the United States, 1973-1995. Cancer Causes Control. 2001;12(1):1-11. PubMed
- Lowery RD. A case report: maxillotomy for removal of a clival chordoma. J Neurosci Nurs. 1999;31(5):303-8. PubMed
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- Welzel T, Meyerhof E, Uhl M, et al. Diagnostic accuracy of DW MR imaging in the differentiation of chordomas and chondrosarcomas of the skull base: A 3.0-T MRI study of 105 cases. Eur J Radiol. 2018;105:119-124. PubMed
- Nishiguchi T, Mochizuki K, Ohsawa M, et al. Differentiating benign notochordal cell tumors from chordomas: radiographic features on MRI, CT, and tomography. AJR Am J Roentgenol. 2011;196(3):644-50. PubMed
- Kerekes D, Goodwin CR, Ahmed AK, et al. Local and Distant Recurrence in Resected Sacral Chordomas: A Systematic Review and Pooled Cohort Analysis. Global Spine J. 2019;9(2):191-201. PubMed
- Gerber S, Ollivier L, Leclère J, et al. Imaging of sacral tumours. Skeletal Radiol. 2008;37(4):277-89. PubMed
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