脊索腫(chordoma)は、胎生期に存在する脊索(notochord)遺残から発生する稀少腫瘍です。発生頻度は低いものの、頭蓋底・脊椎・仙骨に好発し、画像診断上非常に特徴的な所見を呈します。
病理学的には良性腫瘍と分類されることもありますが、局所浸潤性・再発性が高く、臨床的には悪性腫瘍として扱われます。中高年男性にやや多く、男女比は2:1と報告されています。
脊索腫(chordoma)の好発部位
- 仙尾部(最も多い)
- 頭蓋底(斜台部):全頭蓋内腫瘍の0.2〜1%
- 脊椎(特に軸椎の歯突起)
頭蓋内発生例では、脳神経症状や下垂体機能障害を伴うことがあり、緩徐に進行するのが一般的です。
脊索腫(chordoma)の画像所見と診断のポイント
CT所見
- 正中に位置する、境界明瞭な膨張性軟部組織腫瘍
- 骨溶解像+辺縁硬化像(一部症例で)
- 内部の不均一な高吸収域:石灰化や変位した骨片
- 造影効果:中等度〜著明な造影効果
MRI所見
- T1WI:低〜等信号、出血やムチンで高信号域も可
- T2WI:ムチンに富むため著明な高信号(画像診断のキーポイント)
- 内部の隔壁:出血・蛋白質濃度の高い粘液瘤や石灰化による低信号隔壁
- 造影:不均一な造影効果
- SWI:腫瘍内の微小出血を検出可能
- 拡散強調画像(DWI):ADCは高めで、強い拡散制限は伴わない
症例 40歳代男性
引用:radiopedia
橋前槽から斜台後面に分葉状腫瘤あり。T2WIで高信号を示し、内部に小さな低信号域を含む。T1WIでは主に低信号を示し、腫瘍の大部分は中等度に造影増強されている。
脊索腫(chordoma)を疑う所見。病理学的にも診断された。
※ちなみに左側頭葉に比較的大きなクモ膜嚢胞も認めています。
病理所見との対応
脊索腫の画像所見は、組織学的特徴と良く一致します:
- 腫瘍は豊富なムチン基質に富み、MRIのT2高信号と一致
- physaliferous cells(泡沫細胞):空胞を多数含む細胞が特徴
- 組織学的には低異型性だが、局所浸潤・再発能が高い
このため、MRI画像と病理像は相補的であり、画像所見を元に病理的裏付けを想定しやすい腫瘍と言えます。
脊索腫(chordoma)の鑑別診断と比較
骨病変との鑑別
- 骨転移:多発性・辺縁明瞭・骨硬化を伴う
- 形質細胞腫:単発性骨融解性病変、T1低信号・T2高信号
- 悪性リンパ腫:骨破壊より軟部成分が目立つ。造影効果が乏しいことも
他の脊索系腫瘍との比較
- 軟骨腫:CTで「ring and arcs」石灰化、正中より外側に偏位
- 軟骨肉腫:T2高信号だが、石灰化パターンが異なる。CTでリング状石灰化が特徴的
- 泡状外脊索症(ecchordosis physaliphora):無症候性・造影されず・骨破壊なし
- benign notochordal cell tumor:良性で骨破壊や造影効果を伴わない。臨床的意義は限定的
骨外病変との鑑別
治療と予後:長期戦に備える管理戦略
外科的切除が治療の第一選択ですが、斜台部・仙骨部では全摘困難例も多く、陽子線治療や重粒子線治療が重要な補助療法となります。
再発率は高く、術後5年以内の局所再発は50%前後とされる報告もあります。したがって、術後の定期的なMRIによる画像フォローアップが重要です。
まとめ:画像診断時に注意すべき脊索腫のサイン
- 正中構造に沿う骨破壊性腫瘍
- T2WIで著明な高信号+造影不均一
- 石灰化・粘液瘤・出血による内部構造の多様性
これらのポイントを押さえることで、他の類似腫瘍との鑑別精度が高まり、治療方針決定にも大きく貢献します。
参考文献
- Erdem E, et al. Comprehensive review of intracranial chordoma. Radiographics. 2003;23(4):995-1009.
- Walchli T, et al. Imaging characteristics of chordoma and chondrosarcoma. AJNR Am J Neuroradiol. 2010;31(10):1909–1912.
- Fukushima T, et al. Clinical features and prognosis of sacral chordoma. J Neurosurg Spine. 2014;21(6):971-978.
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