
先に結論:脳梗塞に似る病気(stroke mimic)は、病歴と血液検査、MRIの「場所」と「経過」で見分ける
| 病気 | 脳梗塞に似る点 | 見分ける手がかり |
|---|---|---|
| 低血糖 | 片麻痺。MRIの拡散強調像で内包後脚などが白く光る | 血糖値。ブドウ糖で症状と画像が戻ることがある(Yamashita 2010) |
| 一酸化炭素中毒(遅発性) | 回復後に急に認知症のような症状 | 中毒の病歴。2〜40日の「意識清明期」のあとに発症(Choi 1983) |
| 放射線治療後のSMART症候群 | 頭痛・まひ・けいれん。片側の大脳皮質の異常 | 頭部の放射線治療歴。脳回に沿った腫れと造影(Singh 2021) |
| 剣創状強皮症(線状強皮症) | けいれんや局所の神経症状。片側の脳の異常信号 | 額の線状の皮膚病変。脳病変は皮膚と同じ側(Zhuo 2022) |
脳梗塞に似る病気に血栓溶解療法が行われた場合の重い出血はまれとされますが(Tsivgoulis 2015)、原因が違えば必要な治療も違います。
脳梗塞に似た病気(stroke mimic)とは
急に片側の手足が動かない、言葉が出ないなど、脳梗塞のような症状で来院しながら、実際には脳梗塞ではない病気をstroke mimic(ストローク・ミミック)と呼びます。
血栓溶解療法(点滴で血栓を溶かす治療)を受けた516例を前向きに調べた研究では、75例が脳梗塞ではない病気でした。9研究のメタ解析では、こうした例で症候性頭蓋内出血は0.5%と、脳梗塞の人より少ない結果でした(Tsivgoulis 2015)。
一方、治療開始までの時間を短くするほど、脳梗塞でない人に治療が行われる可能性も出てきます(Tsivgoulis 2015)。だからこそ、血糖値などの基本的な検査、病歴、MRIの「場所」と「経過」が大切になります。脳梗塞のCT・MRIでの見え方は脳梗塞はCTでわかる?MRIとの違いや脳梗塞のMRI・CT画像の経時的変化をご覧ください。
1. 低血糖:内包後脚が光り、片麻痺を起こす
低血糖は、脳梗塞と同じように片麻痺を起こすことがあります。
63歳男性の報告では、意識の混乱と右手足のまひで脳卒中を疑われ、拡散強調像で脳梁膨大部と左内包後脚に高信号(ADC低下)がありました。直後に血糖23mg/dLと分かり、ブドウ糖の静注ですぐに症状が消え、3日後のMRIでも異常は消えていました(Yamashita 2010)。
低血糖脳症17例の検討では、拡散強調像の異常は「灰白質と白質の両方」「灰白質だけ」「白質だけ」の3つの型に分かれました。両側対称で広い障害は経過が悪く、片側の白質だけや脳梁膨大部だけの例は後遺症なく回復しました(Ma 2009)。
内包後脚や脳梁膨大部の拡散制限で、血管の支配に合わないときは、低血糖を思い出すことが大切です。詳しくは低血糖脳症とは?MRI画像所見にまとめています。
症例 30歳代女性 低血糖脳症

引用:Radiopaedia(Hypoglycemic encephalopathy)
両側の内包後脚が拡散強調像で白く光っています(症例ページでは脳梁膨大部にも拡散制限あり)。血糖は32mg/dLで、1か月後のMRIでは拡散制限は消えていました。
2. 一酸化炭素中毒:治ったと思った数週間後に起こる
一酸化炭素(CO)中毒では、急性期を乗り切って意識がはっきりしたあと、しばらくして症状が出ることがあります(遅発性脳症、間欠型)。
一酸化炭素中毒2360例の報告では、遅発性の神経症状は2.75%(入院例の11.8%)に起こりました。症状が出るまでの意識清明期は2〜40日(平均22.4日)で、知的機能の低下、尿便失禁、歩行障害、無言などが多くみられました。2年追跡できた36例のうち27例(75%)は1年以内に回復しました(Choi 1983)。
遅発性の症状は大脳白質の神経線維の脱髄によると考えられています(Beppu 2010)。「急に認知症のようになった」ときに、数週間前のCO中毒の病歴を聞けるかが鍵です。淡蒼球病変を含むMRI所見は一酸化炭素中毒のMRI画像診断をご覧ください。
3. 放射線治療後のSMART症候群
SMART症候群(stroke-like migraine attacks after radiation therapy)は、頭部の放射線治療から年月がたって起こる、脳卒中に似た発作です。
メイヨー・クリニックの25例では、放射線治療から発症までの中央値は21.6年でした。MRIでは全例で脳回(脳のしわ)に沿った腫れと造影効果があり、側頭葉(80.6%)と頭頂葉(74.2%)に多くみられました。多くは回復しますが、10週の時点で約3分の1は回復しきっておらず、高齢・側頭葉病変・拡散制限がその関連因子でした(Singh 2021)。
放射線治療後の脳の変化については脳腫瘍の治療後MRI:放射線壊死と再発の見分け方も参考にしてください。
4. 剣創状強皮症:皮膚より先に脳の異常が出ることも
剣創状強皮症(linear scleroderma en coup de sabre)は、額から頭にかけて刀で切ったような線状の皮膚硬化ができる病気です。脳に病変が及ぶことがあります。
脳病変を伴った小児6例の報告では、全例がけいれん、5例が局所の神経症状を起こしました。5例は皮膚病変が先でしたが、1例は神経症状が皮膚病変の2か月前に出ていました。MRIでは片側の大脳白質を中心とした異常信号があり、脳病変はすべて皮膚と同じ側でした。CTで石灰化(4例)、造影で局所の増強(5例)、SWIで小さな低信号(5例)がみられました(Zhuo 2022)。
医療者向け:脳梗塞に似る病気を疑うポイント
| 手がかり | 考える病気 |
|---|---|
| 内包後脚・脳梁膨大部の拡散制限、血管支配に一致しない | 低血糖(Yamashita 2010、Ma 2009) |
| 数週間前のCO中毒の病歴、意識清明期のあとの症状 | CO中毒の遅発性脳症(Choi 1983) |
| 頭部放射線治療歴、片側の皮質の腫れと脳回状造影 | SMART症候群(Singh 2021) |
| 若年、額の線状の皮膚病変、同側の白質病変・石灰化 | 剣創状強皮症(Zhuo 2022) |
ほかにも、脳梗塞との区別が話題になる病気としてPRES(可逆性後白質脳症症候群)、MELAS、痙攣後脳症があります。
心配なとき、次にすること
急に手足が動かない、言葉が出ない、顔がゆがむといった症状は、脳梗塞でも脳梗塞に似た病気でも、すぐに医療機関を受診する必要があります。自分で判断せず救急要請を考えてください。糖尿病の治療中であること、放射線治療を受けたこと、最近のCO中毒などの病歴は、診断の大きな手がかりになるので伝えましょう。
よくある疑問(Q&A)
Q. 低血糖で脳梗塞のような症状になるのはなぜですか?
A. 脳はブドウ糖を主なエネルギーにしているため、低血糖で脳の働きが落ちると、まひなどの症状が出ることがあります。MRIでも一時的に拡散強調像で白く写ることがあり、血糖が戻ると消える例があります(Yamashita 2010)。
Q. 一酸化炭素中毒は、回復しても注意が必要ですか?
A. 回復して2〜40日ほどたってから症状が出ることがあります(Choi 1983)。物忘れや歩きにくさなど、様子の変化があれば主治医に相談してください。
Q. 脳梗塞に似た病気だったら、脳梗塞の治療は無駄だったのですか?
A. 急いで治療を始めるため、最初は区別が難しいことがあります。脳梗塞に似る病気に血栓溶解療法が行われても、重い出血はまれでした(Tsivgoulis 2015)。今後の治療は主治医に相談してください。
参考文献
- Tsivgoulis G, Zand R, Katsanos AH, et al. Safety of intravenous thrombolysis in stroke mimics: prospective 5-year study and comprehensive meta-analysis. Stroke. 2015;46(5):1281-7. PubMed
- Yamashita S, Kawakita K, Hosomi N, et al. Reversible magnetic resonance imaging changes associated with hypoglycemia. Case report. Neurol Med Chir (Tokyo). 2010;50(8):651-4. PubMed
- Ma JH, Kim YJ, Yoo WJ, et al. MR imaging of hypoglycemic encephalopathy: lesion distribution and prognosis prediction by diffusion-weighted imaging. Neuroradiology. 2009;51(10):641-9. PubMed
- Choi IS. Delayed neurologic sequelae in carbon monoxide intoxication. Arch Neurol. 1983;40(7):433-5. PubMed
- Beppu T, Nishimoto H, Ishigaki D, et al. Assessment of damage to cerebral white matter fiber in the subacute phase after carbon monoxide poisoning using fractional anisotropy in diffusion tensor imaging. Neuroradiology. 2010;52(8):735-43. PubMed
- Singh TD, Hajeb M, Rabinstein AA, et al. SMART syndrome: retrospective review of a rare delayed complication of radiation. Eur J Neurol. 2021;28(4):1316-1323. PubMed
- Zhuo XW, Fang F, Gong S, et al. [Analysis of clinical and imaging features of 6 cases of linear scleroderma en coup de sabre with central nervous system involvement in children]. Zhonghua Er Ke Za Zhi. 2022;60(11):1147-1152. PubMed
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