「脳梗塞が起こった時に、CTで診断することはできるのだろうか?」
「脳梗塞はCTよりも、MRIが強いって聞いたけど・・・」
事実、脳梗塞の診断に強いのはMRIです。
MRIの中でも拡散強調像(DWI)が急性期脳梗塞の診断に非常に有効な撮像法です。
しかし、CT装置しかない施設は日本で多数あります。
では、CTで脳梗塞はわかるのでしょうか?
今回は、CTでの脳梗塞の診断について、イラストや実際のCT画像を用いてまとめました。
CTで新しい脳梗塞はわからない!?
CTで新しい脳梗塞はわからないといえば、厳密に言えば誤りで、
- 新しい脳梗塞はCTではわからないことが多い
というのが正解です。
実はCTでわかる脳梗塞もあります。
CTでわかる新しい(急性期)脳梗塞とは?
脳梗塞とは脳の血管が詰まり、脳虚血に陥った状態です。
CTでわかるのは、脳梗塞に陥った割合(範囲)が広いときです。
つまり、重症な脳梗塞ならばCTで捉えることができるということです。
逆に言えば、小さな新しい脳梗塞はCTで捉えることは非常に厳しいということです。
MRIで脳梗塞と診断できるのに、CTでは異常なしということは、特に小さな脳梗塞の場合、しばしばあることです。
ここでの注意点として、今は新しい(急性期)脳梗塞の場合の話です。
古い(慢性期)脳梗塞の場合は、後述するように、小さくてもCTでわかることはしばしばあります。
CTでわかる急性期脳梗塞の所見を早期虚血サイン(early CT sign)と言います。
早期虚血サイン(early CT sign)とは?
CTでわかる早期脳梗塞の所見は以下の4点として現れます。
- 皮質・白質の境界消失
- Silvius裂の狭小化、脳溝の狭小化・消失
- レンズ核の不明瞭化
- 中大脳動脈高吸収所見(中大脳動脈に血栓があることを示唆)
の4つです。
4つ目以外は、大まかに言うと、
「脳梗塞が起こって、むくんで本来あるべき境界線がぼやける」
ということです。
これらは重複して見られることもありますし、1つのみ見られることもあります。
上の脳のCTの正常例をみてください。
脳の表面の皮質(灰白質)はやや高吸収(白め)で、深いところ(白質)はやや低吸収(黒め)ですよね。
この境界がぼやけてわからなくなるのが、早期虚血サインです。
実際の症例でこの早期虚血サイン(early CT sign)を見てみましょう。
症例 70歳代男性 左麻痺
頭部CT
解説をつけないものと、つけているものは全く同じCT画像です。
緑点線で囲ったところは、皮質と髄質の境界がまだわかりやすいですよね。
ところが赤点線で囲った側は、全体的にむくんでいて、境界がはっきりしません。
これらのCT所見が
- 皮質・白質の境界消失
- Silvius裂の狭小化、脳溝の狭小化・消失
- レンズ核の不明瞭化
に相当します。
とはいえ、なかなか難しいですよね。
専門家が見ても評価が非常に難しいのです。
ちなみに、この早期虚血サインは、上のような
- 基底核レベル
- 放線冠レベル
といわれる高さでチェックすることが多いです。(中大脳動脈領域にこの早期虚血サインは出やすいといわれるからです)
CTによる脳梗塞の診断は?急性期は?慢性期は?
ここでは、主に急性期の脳梗塞のお話をしていますが、古い脳梗塞はCTでもわかることが多いです。
急性期の脳梗塞、慢性期の脳梗塞がCTでわかるのかは以下の通りです。
- 新しい脳梗塞:サイズが大きいものはCTでわかることがある。サイズが小さいものはほぼわからない。
- 古い脳梗塞:サイズが小さい場合でもCTでわかることが多い。
ということです。
それでは実際の古い梗塞の症例を見てみましょう。
症例 80歳代男性 頭部CT画像
たとえば上の画像ですと、両側の基底核や左の視床に多数の低吸収域(黒い抜け)を認めます。いずれも古い梗塞(陳旧性脳梗塞)を疑う所見です。
脳梗塞の診断に大事なのは臨床症状
新しい脳梗塞の場合、一方でMRIの特に拡散強調像といわれる撮像では、早期脳梗塞を非常に明瞭に描出します。
早期の脳梗塞の診断に最も優れた画像検査です。
ですので、CTを撮影したけども、特に異常はない。しかし、それでも脳梗塞が疑われるという場合には、MRIを撮影することがすすめられます。
ただし、最初に申し上げたようにMRはCTほど簡便に撮影できるというものではありません。
- 撮影までに時間がかかる。
- 酸素ボンベを持ち込めない。
- 金属を持ち込めない
- 撮影できる技術をもった検査技師が必要。
こういった条件を全てクリアできなければ、撮影することができないからです。
そもそも、MRIがないという施設も日本にはたくさんありますし、むしろそういった施設が大半です
その場合は、CTで脳出血を除外できたら、臨床的に脳梗塞として治療を開始することもありますし、MRIが撮影できる施設へ転送することもあります。
CTで脳梗塞を診断しにいくことも大事ですが、CTで脳梗塞がない!なんて診断はできないわけです。本当に大事なのは臨床症状です。
CTで何もないといわれたけど、明らかにおかしい、麻痺がある、しゃべりにくいなどの症状があるのならば、脳梗塞の可能性があります。
脳梗塞のCT画像所見の変化
下のイラストのように、脳梗塞が生じるとその部位はCTでは、経時的に黒くなっていきます。
ただし、2週間前後で一旦等吸収に戻るので注意が必要です。
発症直後(0-1時間)
所見なし。
つまりCTではほぼ脳梗塞は指摘できません。
超急性期(1-24時間)
上に述べたように、特に中大脳動脈領域の脳梗塞の場合は早期虚血サイン(Early CT sign)として描出されることがあります。
症例 70歳代男性
上のCT画像は脳梗塞発症から数時間後のCT検査です。
上で提示した症例と同じものです。
一見左右差がないようにも見えますが、よく見ると左側(向かって右側)の皮質と髄質の境界が不明瞭化しており、浮腫性変化を認めています。
これがearly CT signと呼ばれるものです。
非常に微細な所見ですね。
急性期(1-7日間)
脳梗塞部位は低吸収として描出され、周囲には低吸収の浮腫性変化を認めます。
上と同じ症例の翌日のCT検査です。
治療はすでに始まっていますが、脳の低吸収化(黒くなる)及び浮腫の増大が目立ちます。
ここまで脳梗塞が進行した状態で、脳梗塞と診断するのではなく、早期虚血サイン(early CT sign)の状態で気がつかなければなりません。
亜急性期(1-4週間)
脳梗塞部位は低吸収として描出される時期と、等吸収として描出される時期があります。
発症から2週間前後で、血管性浮腫の消退に伴い梗塞部位が周囲の正常脳実質と同じくらいの濃度を示し、あたかも正常のように見えます。
これをfogging effectと言います。
この時期を挟むように、脳梗塞部位は低吸収として描出されます。
慢性期(1ヶ月~)
脳脊髄液と同じ程度の低吸収域となり、上の症例のようにいわゆる古い梗塞(陳旧性脳梗塞)と分類されるようになります。
最後に
CTで脳梗塞はわかることもあるが、多くはわからない。
というのが正しい表現になります。
特に新しい、急性期の脳梗塞で、小さな脳梗塞ほどCTではわからないことが多いのです。
CTでわかるような脳梗塞は相当範囲が広いことが多く、明らかな症状として医師の目にもわかることが多いのです。
一方小さなラクナ梗塞といわれる梗塞では、症状があっても、CTではわかならないことがほとんどです。
もしあなたが、普段と違う、何かおかしい、症状があると思えば、MRIを設備した施設を受診することも考慮してください。