閉塞性肺炎(読み方は、へいそくせいはいえん)は、気管支の閉塞によって肺野に炎症が生じる病態であり、その画像所見には特徴的なサインが認められます。
CT画像は、閉塞の原因や肺炎の広がりを評価する上で非常に重要です。
今回は、閉塞性肺炎のCT画像所見の主なポイントを解説します。
閉塞性肺炎とは?
- 肺の気管支が閉塞すると、その閉塞より末梢の部分の肺に空気が入らなくなり、無気肺が生じることがあります 。このような閉塞が長期に続くと、換気不良や分泌物の貯留により、その部位に細菌感染などが起こりやすくなり、肺炎を発症する。これを閉塞性肺炎(obstructive pneumonia)という。
- 特に、肺門部の腫瘍が主気管支や区域気管支を狭窄・閉塞することで、末梢に閉塞性肺炎や閉塞性無気肺を引き起こすことがよく見られる。
- 閉塞性肺炎では、発熱、咳、痰などの炎症症状を呈し、臨床経過は急性から亜急性であることが多い。CT画像所見とこれらの臨床症状を総合的に評価することが診断に重要。
- 閉塞性肺炎の診断においては、単なる感染性肺炎として治療を開始するだけでなく、その根底に気管支の閉塞性病変がないかを常に確認することが極めて重要。特に、広範な病変や、繰り返す肺炎のエピソードがある場合には、腫瘍などによる気管支閉塞を念頭に置いた精密な検査が推奨される。
閉塞性肺炎は無気肺とは異なる?
- 無気肺は、気管支が完全に閉塞されることで、閉塞部位より末梢の肺胞に空気が届かず、肺がしぼんで萎縮した状態。
- 一方で閉塞性肺炎は気道閉塞の結果、末梢にたまった分泌物に細菌が増殖して炎症を起こした「肺炎」の状態。
無気肺 | 閉塞性肺炎 | |
---|---|---|
原因 | 気道の閉塞だけ | 気道閉塞+そこに起こる二次感染 |
画像所見 | 体積減少、肺野の高吸収化のみ | 体積減少+区域性コンソリデーション |
症状 | 呼吸困難が主体 | 咳・痰・発熱など肺炎症状を伴う |
治療 | 気道開通で改善 | 気道開通+抗菌薬など炎症対策が必要 |
※簡単に言うと、無気肺は「肺がしぼむ」だけの状態、閉塞性肺炎はそこに「感染・炎症」が加わった状態。
閉塞性肺炎の主な原因
閉塞性肺炎を引き起こす気管支閉塞の原因は多岐にわたるが
- 腫瘍性病変による気管支閉塞
- 粘液栓よる閉塞
- その他
に大きく分けられる。

腫瘍性病変による気管支閉塞
閉塞性肺炎の最も重要な原因の一つは、気管支を圧迫したり、内腔に浸潤したりすることで閉塞を引き起こす腫瘍である。
- 肺癌:
特に、肺門部など太い気管支に発生しやすい扁平上皮癌や小細胞癌は、気管支内腔に突出したり、周囲から圧迫したりすることで気管支を狭窄・閉塞させ、その末梢に閉塞性肺炎を引き起こす主要な原因となる。 - 浸潤性粘液腺癌:
かつての細気管支肺胞上皮癌とも呼ばれた浸潤性粘液腺癌は、肺炎に類似した広範な浸潤影(consolidation)を示すことがあり、CT angiogram signを呈する病態として報告されています。これも閉塞性肺炎の原因となりえる。 - 悪性リンパ腫:
リンパ腫様肉芽腫症など、悪性リンパ腫を含むリンパ増殖性疾患も気管支閉塞を介して閉塞性肺炎を引き起こす可能性がある。
粘液栓(mucoid impaction)による閉塞
気管支内にたまった粘液が栓となり、気管支内腔を閉塞することで炎症を引き起こすことがある。CT画像上では、分岐状または索状の連続性のある高濃度上昇として描出されることが多い。
- 気管支喘息:
気管支喘息の患者さんでは、気道内に粘液が貯留しやすく、粘液栓による気管支閉塞が閉塞性肺炎の原因となることがある 。 - 非結核性抗酸菌症:
非結核性抗酸菌症も、気管支内の粘液栓を伴うことが多く、閉塞性肺炎の原因となりうる疾患である 。 - アレルギー性気管支肺真菌症(ABPM):
ABPMは、気管支内の粘液栓や気管支拡張を伴い、閉塞性肺炎や浸潤影を引き起こすことが知られている。
その他の原因
- 炎症性滲出液:
気管支内の炎症性滲出液が閉塞を引き起こし、閉塞性肺炎の原因となることがある。 - リポイド肺炎:
これは、油性物質の吸入や肺内での蓄積によって引き起こされる肺炎で、CT angiogram signを呈する病態の一つであり、閉塞性肺炎と関連が見られることがある 。 - 肺膿瘍(肺化膿症):
気管支閉塞を伴う閉塞性肺炎が、肺膿瘍の原因となることもある。
閉塞性肺炎の診断においては、単に感染性肺炎として治療を開始するだけでなく、その根底に気管支の閉塞性病変がないかを常に確認することが極めて重要。特に、広範な病変や、繰り返す肺炎のエピソードがある場合には、上記のような原因(特に腫瘍など)を念頭に置いた精密な検査が推奨される。
閉塞性肺炎のCT画像所見の特徴
- 浸潤影およびすりガラス影:閉塞性肺炎は、CT画像で浸潤影として描出されることが一般的。病変は局所的に限局すること~広範囲にわたる場合もある。また、すりガラス影を伴うこともある。広範なコンソリデーション(浸潤影)が見られる場合には、中枢に腫瘍などの気管支閉塞がないかを確認することが重要です。
- 粘液栓(Mucous Plugging):気管支の閉塞によって生じる二次的な変化として、粘液栓がしばしば見られる。粘液栓は、CT画像上、分岐状または索状の連続性のある高濃度上昇として描出され、気管支内腔を閉塞していることを示す。これは気管支喘息や非結核性抗酸菌症などで多く見られる所見。閉塞性肺炎やアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPM)の所見として、粘液栓が挙げられ、浸潤影を伴うこともある。
- 閉塞性無気肺(Obstructive Atelectasis):気管支が閉塞すると、その末梢側の肺区域に空気が入らなくなり、閉塞性無気肺が生じまる。この無気肺がさらに閉塞性肺炎を引き起こすことがある。
- CT Angiogram Sign(CT血管造影サイン):CT angiogram signは、病変内部に肺血管が造影剤で強調されて描出される所見で、病変が肺実質や胸膜を占拠していることを示す。閉塞性肺炎においてもこのサインが認められることがあり、特に浸潤性粘液腺癌など、気管支閉塞を伴う悪性腫瘍に起因する閉塞性肺炎で重要な所見とされている。
関連記事:CT angiogram signとは?肺腫瘍やリンパ腫の鑑別に役立つ重要所見
症例 20歳代女性 慢性咳嗽
引用:radiopedia
左上葉の気管支に高吸収な粘液栓を認めその末梢は無気肺となっています。
また中枢側の気管支拡張も認めています。アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)による閉塞性肺炎を強く示唆する所見で、実際ABPAと診断されました。
症例 50歳代女性 胸痛、息切れ、咳嗽、喀血
右下葉気管支は閉塞しており,右下葉に無気肺を認めています。縦隔条件では境界不明瞭な大きな浸潤性腫瘤の存在が示唆されます。
無気肺となっている部分には線状の造影効果を認めており、CT angiogram signが陽性であることがわかります。
冠状断像では右下葉に広範な無気肺を認めていることを確認できます。
CTで認めた右肺門部の境界不明瞭な腫瘤にFDG-PETで集積を認め、同部に腫瘍の存在が示唆されます。
引用:radiopedia
以上より肺門部肺腫瘍による右下葉の無気肺が疑われます。(この症例は肺炎そのものはなさそうですので、閉塞性肺炎の症例というよりは閉塞性無気肺の症例となります。)
気管支鏡下生検により分化度の低い非小細胞肺癌(腺癌サブタイプ)と確定診断されました。
参考文献・出典
- Abers MS, Sandvall BP, Sampath R, et al. Postobstructive pneumonia: an underdescribed syndrome. Clin Infect Dis. 2016;62(8):957–961.
- Valvani A, Martin A, Devarajan A, Chandy D. Postobstructive pneumonia in lung cancer. Ann Transl Med. 2019;7(15):357. doi:10.21037/atm.2019.05.26
- Murayama S, et al. CT angiogram sign in obstructive pneumonitis and pneumonia. Comput Assist Tomogr. 1993;17:610–612.
- Eisenhuber E. The tree-in-bud sign. Radiology. 2002;222(3):771–774.
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