肺原発悪性リンパ腫(Primary Pulmonary Lymphoma, PPL)は、肺に限局して発生するまれな悪性腫瘍で、特に低悪性度B細胞性リンパ腫(MALTリンパ腫)が多くを占めます。
肺原発悪性リンパ腫の疫学
- 悪性リンパ腫全体の0.5〜1%
- 肺腫瘍全体の0.4%
- 肺内リンパ組織(BALT:気管支関連リンパ組織)由来の疾患
- 50〜70歳代に好発し、性差は明確でない
- 免疫異常(Sjogren症候群、自己免疫疾患、EBV感染)との関連が知られる
臨床症状
多くの症例では無症状で、健康診断や他疾患のCTで偶然発見されます。
症状がある場合は以下の通り:
- 咳嗽(最も一般的)
- 痰、呼吸困難、胸痛(進行例)
- 発熱・体重減少などの全身症状はまれ
画像診断:典型的CT所見
- consolidation(浸潤影)や腫瘤影:air bronchogram sign を伴うことが多い
- CT angiogram sign:病変内部で血管構造が保たれて浮かび上がる
- 分葉状の境界不明瞭な腫瘤、微細結節、すりガラス影を伴う場合あり
- 気管支血管束周囲の間質性肥厚や胸膜肥厚もみられる
- 通常は無気肺や肺門リンパ節腫大などの二次所見は伴わない
CT angiogram signとは?
CT angiogram signは、造影CTで病変(consolidation)内に肺動脈が明瞭に浮かび上がる像です。
- 病変が血管構造を破壊せずに取り囲んでいることを示す
- 血管と病変の密度差によりアンギオグラフィー様に描出される
- MALTリンパ腫をはじめとする低悪性度リンパ腫で高頻度に出現
関連記事:CT angiogram signとは?肺腫瘍やリンパ腫の鑑別に役立つ重要所見
症例 30歳代 肺悪性リンパ腫
引用:radiopedia
造影CTにおいて、consolidationを呈する肺実質内に血管構造が明瞭に保持されて描出されており、CT angiogram signと合致。
この所見は、構造を破壊せずに肺実質へ浸潤するリンパ腫の低悪性度腫瘍性病変を示唆する画像所見です。
鑑別診断
肺原発悪性リンパ腫は以下の疾患と画像上類似するため、慎重な鑑別が必要です:
- 浸潤性粘液性腺癌(IMA):air bronchogramやconsolidationを伴うが、血管構造は破壊されやすい
- 器質化肺炎(COP):非腫瘍性だがconsolidationとair bronchogramを伴う
- 出血性・壊死性肺炎:濃度不均一で血管構造が描出されにくい
- 肺結核:空洞形成や石灰化、リンパ節腫大などを伴うことが多い
診断とマネジメント
- CT angiogram signが見られた場合はMALTリンパ腫を強く疑う
- 確定診断には気管支鏡生検・経皮針生検・外科的肺生検が必要
- 治療は経過観察・放射線療法・R-CHOP療法など病型に応じて選択
まとめ
- 肺原発悪性リンパ腫はまれだが、air bronchogram signとCT angiogram signを伴う浸潤影があれば鑑別に挙げる
- 造影CTが診断に不可欠であり、血管構造の保持を見極めることがカギ
- 非腫瘍性病変や肺癌との鑑別には臨床背景と組み合わせた読影が重要
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