先に結論:浸潤性粘液性腺癌(旧・粘液産生性BAC)のCT
- 浸潤性粘液性腺癌は、粘液を多く作る肺腺がんの一種で、肺炎のような浸潤影として見えるのが特徴です。以前は「細気管支肺胞上皮癌(BAC)」と呼ばれていましたが、現在この名称は使いません
- CTでは浸潤影の中の空気の入った気管支(air bronchogram)や小さな空洞、造影で浮かび上がる血管(CT angiogram sign)、周りや別の肺葉に散らばるすりガラス影・結節が見られ、下葉・末梢に多いです
- 抗菌薬で改善しない・何か月も消えない・症状の割に影が大きい「肺炎」では、このがんを疑い、気管支鏡などで組織を確認します
※肺炎と言われても影が長く消えないときは、呼吸器内科で相談してください。
浸潤性粘液性腺癌
- 古典的には胸部単純X線写真で肺炎様を呈する細気管支肺胞上皮癌[BAC:今後この用語は使用しない]としてなじみが深い。
- 病巣が多発し、経気道性に転移することが特徴。
- 浸潤性粘液性腺癌は、従来mucinous BAC(粘液産生性BAC)と呼ばれていたものに相当する。
- 陰影の割に症状が軽い場合や、肺炎を疑うような臨床像と異なる場合は、感染症以外の病気として浸潤性粘液性腺癌を考慮する。
浸潤性粘液性腺癌とは:英語名・頻度・遺伝子の特徴
- 英語名はinvasive mucinous adenocarcinoma(IMA)で、日本語では「浸潤性粘液性腺癌」と訳されます。「粘液産生性肺腺癌」「粘液性肺腺癌」と呼ばれることもあります。
- 肺腺癌の3〜10%を占めるまれな型で、KRAS遺伝子変異、非喫煙者ではNRG1融合遺伝子と関連します。手術例107例の解析では、KRAS変異が70.1%、NRG1融合が9.2%でした(Masago 2025)。
浸潤性粘液性腺癌のCT画像所見
- HRCTで、腫瘍や肺炎様の肺胞性陰影の内部に、多数の小空洞と管状およびV字状, Y字状の拡張したair bronchogramを認める。(pneumonic pattern)
- 腺癌の産生する粘液が排泄されると、陰影が軽減することがあるため注意が必要。(陰影が軽減したからといって、必ずしも感染症などではない)病理で確定した浸潤性粘液性腺癌46例の経過CTの検討では、14例で治療をしていないのに浸潤影が自然に軽減しました。このような例は初回CTで肺炎型・大きい・多発・高病期のものが多く、予後もむしろ不良であったと報告されています。また、1葉に限局した肺炎型でも、CTで別の結節を伴う例は予後不良因子とされています。
- 末梢、下葉優位の分布が多い。多施設341例の検討では、感染性肺炎と比べて発熱やCRP上昇が少ないこと、CTの吸収値が低いこと、葉間裂の膨隆や衛星病変などが肺炎型の浸潤性粘液性腺癌を示す手がかりとされています。
- 肺胞腔内の腫瘍増殖、腫瘍からの粘液を反映してコンソリデーションとなる。
- 気道周囲の分布は、経気道性転移を反映する。
- 比較的大きな病変では、造影CTで陰影内に肺血管が造影されて浮かび上がり、あたかも血管造影のように見える所見をCT angiogram signと呼ばれている。(CT angiogram signは肺胞充填病変を意味する非特異的所見)
関連記事)肺胞性(大葉性)肺炎のCT画像診断とは?非区域性コンソリデーションがポイント!
症例 80歳代 女性

両側下葉にコンソリデーション、周囲にすりガラス影あり。
一見肺炎様であるが、気管支鏡にて、浸潤性粘液性腺癌と診断された。
症例 80歳代 女性

胸部CTにて右下葉に浸潤影あり、周囲にすりガラス影、crazy paving appearance所見あり。
FDG PETにて集積あり。
気管支鏡にて生検施行され、浸潤性粘液性腺癌と診断された。
CT angiogram signの意味:特異的ではないが「低い濃度の浸潤影」は手がかり
- CT angiogram signは、もともと肺葉性の細気管支肺胞上皮癌(BAC、現在の浸潤性粘液性腺癌などに相当)で報告された所見です。12例の検討では、造影後の浸潤影が均一な低吸収を示し、その中を造影された肺血管が枝分かれして走っていました。粘液などの産生による低吸収と、腫瘍内で保たれた気管支血管の枠組みがこの見え方の理由と考えられ、他疾患との比較で特異度92.3%と報告されました(Im 1990)。
- しかしその後、造影CTを撮った肺葉性浸潤影51例の検討では、この所見は29%にみられ、閉塞性肺炎の37%、通常の肺炎の20%、無気肺の14%にも出ており、診断の特異度を高めないと結論されました(Shah 1998)。5,500件のダイナミックCTの見直しでも、腫瘍による閉塞性肺炎や肺炎でみられています(Murayama 1993)。
- 肺炎に似たBACと感染性肺炎を比べた47例の検討では、病変内の泡状の低吸収域はBACを、病変に伴う胸膜肥厚と中枢側の気管支壁肥厚は感染性肺炎を示唆しました(Kim 2006)。CT angiogram signの有無よりも、浸潤影そのものの濃度の低さや泡状の低吸収、治療への反応をあわせて考えます。
CTでの2つの型:孤立結節型と肺炎型、ステージ(病期)との関係
| 孤立結節型(solitary type) | 肺炎型(pneumonic type) | |
|---|---|---|
| CTの見え方 | 1個の結節・腫瘤 | 肺炎のような浸潤影・すりガラス影が広がる |
| 手術例68例での内訳(Nie 2019) | 54例 | 14例 |
| 病期・予後(Nie 2019) | 病期が低く、予後が良い | T・N因子、病期が高く、無病生存が不良 |
- 肺炎型は孤立結節型に比べて病期が高く、多変量解析で予後不良の独立した因子でした(Nie 2019)。
- 肺炎型の病期(TNM分類第8版)は、IASLCの提案で1つの肺葉に限局すれば大きさ(またはT3)、同じ側の別の肺葉に及べばT4、反対側の肺に及べばM1aとされています。広がる肺炎型は予後不良ですが、リンパ節転移・遠隔転移は少ない傾向とされています(Detterbeck 2016)。
- 1葉に限局した肺炎型(cT3相当)でも、無再発生存はcT4の肺癌と同程度で、5年無再発生存率33.1%、5年全生存率56.0%と報告されています(Kim 2022)。
関連記事:浸潤性肺腺癌のCT画像所見と組織分類|優位パターンと浸潤性粘液性腺癌
浸潤性粘液性腺癌でよくある疑問(Q&A)
Q. 肺炎との見分け方は?
A. 感染性肺炎に比べて発熱やCRP上昇が少なく、浸潤影の吸収値が低い、葉間裂の膨隆、衛星病変などが手がかりです(Zhang 2022)。病変内の泡状の低吸収域も浸潤性粘液性腺癌を示唆します(Kim 2006)。抗菌薬で改善しない影は、気管支鏡などで組織を確認します。
Q. 両方の肺に広がっているとステージ4ですか?
A. 肺炎型が反対側の肺に及ぶ場合はM1aとして扱う提案が採用されており、M1aは病期IV(ⅣA)にあたります(Detterbeck 2016)。最終的な病期は、リンパ節や他臓器の検査をあわせて主治医が判断します。
参考文献
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- Zhang S, Yu X, Huang Y, et al. Pneumonic-type invasive mucinous adenocarcinoma and infectious pneumonia: clinical and CT imaging analysis from multiple centers. BMC Pulm Med. 2022;22(1):460. PubMed
- Nicholson AG, Tsao MS, Beasley MB, et al. The 2021 WHO Classification of Lung Tumors: Impact of Advances Since 2015. J Thorac Oncol. 2022;17(3):362-387. PubMed
- Beck KS, Sung YE, Lee KY, et al. Invasive mucinous adenocarcinoma of the lung: Serial CT findings, clinical features, and treatment and survival outcomes. Thorac Cancer. 2020;11(12):3463-3472. PubMed
- Kim W, Lee SM, Lee JB, et al. Prognosis for Pneumonic-Type Invasive Mucinous Adenocarcinoma in a Single Lobe on CT: Is It Reasonable to Designate It as Clinical T3? Korean J Radiol. 2022;23(3):370-380. PubMed
- Im JG, Han MC, Yu EJ, et al. Lobar bronchioloalveolar carcinoma: “angiogram sign” on CT scans. Radiology. 1990;176(3):749-53. PubMed
- Shah RM, Friedman AC. CT angiogram sign: incidence and significance in lobar consolidations evaluated by contrast-enhanced CT. AJR Am J Roentgenol. 1998;170(3):719-21. PubMed
- Murayama S, Onitsuka H, Murakami J, et al. “CT angiogram sign” in obstructive pneumonitis and pneumonia. J Comput Assist Tomogr. 1993;17(4):609-12. PubMed
- Kim TH, Kim SJ, Ryu YH, et al. Differential CT features of infectious pneumonia versus bronchioloalveolar carcinoma (BAC) mimicking pneumonia. Eur Radiol. 2006;16(8):1763-8. PubMed
- Masago K, Kuroda H, Seto K, et al. Genomic Landscape of Resected Invasive Mucinous Adenocarcinoma of the Lung. Clin Lung Cancer. 2025;26(7):583-594.e4. PubMed
- Nie K, Nie W, Zhang YX, et al. Comparing clinicopathological features and prognosis of primary pulmonary invasive mucinous adenocarcinoma based on computed tomography findings. Cancer Imaging. 2019;19(1):47. PubMed
- Detterbeck FC, Marom EM, Arenberg DA, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project: Background Data and Proposals for the Application of TNM Staging Rules to Lung Cancer Presenting as Multiple Nodules with Ground Glass or Lepidic Features or a Pneumonic Type of Involvement in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification. J Thorac Oncol. 2016;11(5):666-680. PubMed
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