【胸部】TIPS症例24
【症例】40歳代女性
【主訴】咳嗽、喀痰
【現病歴】20日前に肺炎と診断され抗生剤加療となる。今回フォローのCTが撮影された。陰影の軽減を認めず気管支鏡検査目的で入院となる。
画像はこちら
画像所見と診断は?
右下葉S9に気管支血管束周囲を中心に粒の細かい粒状影の集簇を認めています。
気管支血管束に病変を作ると言うことは前回の症例23でも見たように広義リンパ路病変であるということです。
他、両下葉に小さな陰影が散見されますが、この場所が最も目立ちます。
その陰影はあたかも宇宙に広がる銀河のようだということで、Glaxy signとも呼ばれます。
また単純CTで少しわかりにくいかもしれませんが、
- 右気管傍リンパ節
- 両側肺門部リンパ節
に腫大を認めています。
特に両側肺門リンパ節腫大(bilateral hilar lymphadenopathyの頭文字をとってBHL)は、医師国家試験などでもよく出てくるところです(確か)。
ガリウムシンチが撮影されました。
ちょっとわかりにくいかもしれませんが、右肺S9の最も陰影が目立つ部位および、縦隔・両側肺門部リンパ節に集積亢進を認めています。
Fusion画像の方が横断像でわかりやすいです。
確かに同部に集積を認めていることがわかります。
- 広義リンパ路病変で、小さな粒が集簇したような肺病変を作る。
- 両側肺門部リンパ節腫大を認める。
- 病変部はGaシンチで集積亢進を来している。
これらの所見から、疑われる疾患は、サルコイドーシス(sarcoidosis)です。
診断:サルコイドーシス(疑い)
※画像のみでは確定診断できませんので、疑いとしています。入院精査となり、気管支鏡検査(Broncho fiberscopy: BFS)が施行され、右のB9より経気管支肺生検 (transbronchial lung biopsy:TBLB)が行われました。病理の結果、「類上皮細胞と多核巨細胞が肉芽腫を形成している。壊死は見られない。」ということでサルコイドーシスと診断されました。
また、サルコイドーシスの診断基準2015に当てはめてみると、
- BHL あり ○
- リゾチーム高値 ×
- S-IL2R高値 ○
- Gaシンチ集積 ○
- BALでのリンパ球比率上昇またはCD4/CD8高値3.5以上 未
5項目中2項目以上陽性の場合に陽性としますので、ここからもサルコイドーシスと診断できます。
今後について:無症状の間は経過観察となるが、有意臓器症状(眼、心臓、神経など)があればステロイドを中心とした治療介入を行う。と記載がありました。咳嗽については鎮咳薬で対応しているようです。
関連:
【胸部】TIPS症例24の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
難しいです。しかし、こういうのをわかるようにならないと何でもかんでも肺炎で終わらせてしますことになるので貴重な提示だったと思います。両側リンパ腫大は気づきたかったですし、気づいていればサルコイドーシスを疑うべきだったと反省しています。ギャラクシーサインも同様ですが・・・次につなげたいです。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>何でもかんでも肺炎で終わらせてしますことになるので
今回は非常に典型的なGalaxy signだと思いますので、このような陰影を見たときには「もしかしたら気道散布性病変ではなく、広義リンパ路病変なのかもしれない」と思えることが重要ですね。
>両側リンパ腫大は気づきたかった
今回は単純CTなのでどうしても難しいですよね。
広義リンパ路病変であり、両側肺門リンパ節の腫大というのは特徴的な所見ですね。間違えましたが。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。
肺野病変のみ
リンパ節腫大のみ
両方ある
この3パターンがありますが、今回は両方あるというパターンですね。
一瞬、本編のような症例だったので、TIPSとしての解答に迷いました(^^;) 本編/TIPSを通して、二次小葉に基づいて所見を読むことの重要性がよくわかります。
アウトプットありがとうございます。
>一瞬、本編のような症例だったので、TIPSとしての解答に迷いました(^^;)
実は本編に入れる案も最初あったのですが救急ではないなということでこちらに入れました。
まあ本編も最後らへんは救急でないものもありますが・・・。
サルコイドーシスや癌性リンパ管症は肺水腫に加えて広義リンパ路病変を理解するには重要な疾患ですね。
肺野の読影独特のパターンなどに慣れなければ診断はかなり難しいと思い知らされました。
勉強しがいがありますね。
アウトプットありがとうございます。
>肺野の読影独特のパターンなどに慣れなければ診断はかなり難しい
ですね。今回の所見から広義リンパ路病変を疑うのはかなり難しいと思います。
より広義リンパ路病変を反映したサルコイドーシス症例もあったのですが、今回はGalaxy signを見ていただきたい願望が勝りました。
またどこかで紹介したいと思います。
いつもありがとうございます。
浸潤性粘液産生性腺癌との鑑別は広義リンパ路の病変なことでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
浸潤性粘液産生性腺癌はもともと
BAC(bronchioloalveolar carcinoma、細気管支肺胞上皮癌)=粘液非産生(ほとんど)、粘液産生(稀)
のうち、稀な粘液を産生するタイプに含まれていました。
この癌は部分的に肺胞隔壁を置換していくlepidic growthと呼ばれる進展以外に、経気道性に散布し、あたかも肺炎のような画像を呈するため、BACへの分類をやめてその他(variants)に分類されるようになった経緯があります。
ですので、
小葉中心性粒状影、すりガラス影
癌細胞や粘液貯留を反映してコンソリデーション
を来します。
ですので、おっしゃるように広義リンパ路病変ではありませんね。
抗生剤に反応しない肺炎像などを認めた際に疑いますね。
おはようございます!いつもご解説ありがとうございます。
昨日サルコイドーシスと珪肺の鑑別を意識しながら読影していたので、正答できました。
たしかに単純CTだと、血管と肺門リンパ節腫脹の区別がぱっと見では難しく、血管のような管状の連続性のない構造物としてひとつひとつ確認しなければならず、大変でした…。
Gaシンチはギリシャ文字の「λ」に似ている所見から命名された、「ラムダサイン」について確認しました。あわせて頭頸部の「パンダサイン」もとっても可愛らしい所見で思わずほっこりしてしまいました…。※1
fusionだとカラフルに染まるというのもとても印象的でした!
【参考】
※1.Sulavik, S. B., Spencer, R. P., Weed, D. A., Shapiro, H. R., Shiue, S. T., & Castriotta, R. J. (1990). Recognition of distinctive patterns of gallium-67 distribution in sarcoidosis. Journal of Nuclear Medicine, 31(12), 1909–1914.
アウトプットありがとうございます。
>たしかに単純CTだと、血管と肺門リンパ節腫脹の区別がぱっと見では難しく、血管のような管状の連続性のない構造物としてひとつひとつ確認しなければならず、大変でした…。
おっしゃるように、単純CTでは結構指摘が難しいことがある点を覚えておきましょう。
通常胸部CTは腹部と異なり単純CTが撮影されますが、造影によりリンパ節が非常に評価しやすくなると言うことも覚えておきましょう。
>Gaシンチはギリシャ文字の「λ」に似ている所見から命名された、「ラムダサイン」について確認しました。あわせて頭頸部の「パンダサイン」もとっても可愛らしい所見で思わずほっこりしてしまいました…。
補足ありがとうございます!!
GaシンチやFDG-PETで認めるサインですね。
画像所見から「これは小葉中心性の濃度上昇だ!」と判断するのが難しいです・・・。
「小葉中心性」「小葉辺縁性」「汎小葉性」の言葉の区別がついていないような気がします。
多発粒状影→小葉中心性=動脈や気道散布性の病態
ある程度の大きさのベタッとしたコンソリデーション→汎小葉性
蜂の巣みたいな濃度上昇→小葉辺縁性=リンパ路(帰り)や静脈の病態
みたいな感じなのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>画像所見から「これは小葉中心性の濃度上昇だ!」と判断するのが難しいです
おっしゃるように実際難しいことも多いです。
小葉中心性の場合、胸膜直下が保たれたり、今回のような気管支血管束には病変は来しません。
>「小葉中心性」「小葉辺縁性」「汎小葉性」の言葉の区別
についてはこちらを参考にしてみてください。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/20819
今日もありがとうございました。
知らなかったことが沢山あって、半分くらいの理解で精一杯ですが、何とか食らいついていこうと思います笑
小葉中心性分布では、胸膜直下が保たれる・気管支血管束周囲に病変を認めないこと
広義リンパ路とは、胸膜+小葉間隔壁+気管支血管束周囲
鑑別に挙がる疾患は、
1水分バランス調節破綻 ex)肺水腫
2異物除去機構の破綻 ex)サルコイドーシス・珪肺
3血行性転移→肺野末梢間質浸潤 ex)悪性リンパ管症、悪性リンパ腫
↑動画解説で出てきたこのお話もとても勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>知らなかったことが沢山あって、半分くらいの理解で精一杯ですが、何とか食らいついていこうと思います笑
おっしゃるようにこの辺りはちょっと難しいところですね。
>小葉中心性分布では、胸膜直下が保たれる・気管支血管束周囲に病変を認めないこと
広義リンパ路とは、胸膜+小葉間隔壁+気管支血管束周囲
ですね。気管支血管束周囲というか気管支血管束ですね。
>↑動画解説で出てきたこのお話もとても勉強になりました。
ありがとうございます。救急では特に肺水腫が重要になります。
舌区の板状無気肺を陳旧性炎症性変化と考えてしまいましたが、両者の鑑別法はありますでしょうか?
教えてください!よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>舌区の板状無気肺を陳旧性炎症性変化と考えてしまいましたが、両者の鑑別法はありますでしょうか?
両者は鑑別が基本つかないと思います。
「索状影あり。板状無気肺や陳旧性炎症性変化が疑われる。」でよいです。
中年女性で小粒状影が中葉にあるということでNTMと書いてしまいました。見直すと、気管支血管束の川から周囲にあふれ出るような感じで小粒状影があり、tree in budではないし、随伴の気管支拡張所見もなしで確かに違うと再認識しました。小葉間隔壁も目立つように思うのですが、このリンパ路にもサルコイドーシス病変が浸潤しているので目立つのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>気管支血管束の川から周囲にあふれ出るような感じで小粒状影
上手い表現ですね!
>小葉間隔壁も目立つように思うのですが、このリンパ路にもサルコイドーシス病変が浸潤しているので目立つのでしょうか?
気管支血管束周囲を中心に認めていますが確かに陰影が濃いところでは小葉間隔壁の肥厚もあるようにみえますね。
おっしゃるようにサルコイドーシスによる病変と考えられます。
宇宙に広がる銀河のようだということで命名されたGlaxy sign、きれいですね。
約3週間前に肺炎と診断され、抗生剤投与でも陰影が余り変わらなかったようですが、
当初からGlaxy signが見られ、あまり変化しないのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>宇宙に広がる銀河のようだということで命名されたGlaxy sign、きれいですね。
ですね。上手く名付けたと思います(^^)
>当初からGlaxy signが見られ、あまり変化しないのでしょうか。
そうですね。この症例では変化がありませんでした。また今回の画像から1ヶ月後に再検されていますが変化はほぼありません。
無治療で肺病変が自然軽快することもありますし、年単位で変化が見られないこともありケースバイケースですね。
いつも症例ありがとうございます。この症例は、年齢の割に脾臓が大きいと思いました。調べると、サルコイドーシスの脾病変は低吸収SOLを認めると書いてあったり、単に脾腫と書かれていたりしていました。この症例は低吸収SOLはなさそうですが、脾腫とサルコイドーシスの関連性の有無はどのように判断(レポートにどうコメント)されますか。
アウトプットありがとうございます。
脾腫の有無については難しいところですが、40歳代ですのでこのサイズだと正常範囲でよいのではないかと考えます。
今回単純CTですので言及については難しいところですが、このCTの1ヶ月後の造影CTでは脾臓には異常所見は認めていません。
特に関連性はないのではないかと考えます。