【胸部】症例32
【症例】50歳代女性
【主訴】発熱、倦怠感
【現病歴】当院呼吸器内科かかりつけ。2週間前くらいから調子が悪かった。昨日より発熱、倦怠感あり、予約外受診。
【既往歴】左乳癌術後、放射性肺臓炎
【身体所見】意識清明、 BT 36.7℃、肺音:右上肺野でinspiratory crackles
【データ】WBC 10000、CRP 3.57
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まず胸部レントゲンから見ていきましょう。
右上葉末梢優位にかなり濃度の濃い浸潤影を認めています。
この浸潤影はminor fissure(小葉間裂)で境されており、minor fissure(小葉間裂)を超えて下方には認めていないことから、minor fissure(小葉間裂)の上に存在する、すなわち、上葉に陰影があることが推測されます。
すなわち、minor fissure(小葉間裂)による病変の分布の推定は以下の様になります。
今回は正面像でminor fissure(小葉間裂)より上にのみ陰影を認めており、minor fissure(小葉間裂)で境されていますので、上葉に病変があるということです。
では次にCTを見てみましょう。
右上葉末梢優位にかなり濃度の濃い浸潤影を認めています。
周囲にはすりガラス影(halo sign)を認めている事が分かります。
浸潤影の尾側には、すりガラス影が後半に広がっていますが、ネットワーク状の陰影であり、いわゆるcrazy paving appearanceやメロンの皮様と言われる陰影です。
また浸潤影のより頭側である肺尖部では、すりガラス影の周りを浸潤影が取り囲むような陰影(reversed halo sign)を認めていることがわかります。
さて、お気づきかもしれませんが、この症例は症例31と同一症例です。
左乳房温存術後で放射性肺炎の既往があります。
今回は、左肺尖部にもすりガラス影を認めていますが、主には照射部位と反対側である右側に陰影が出現しています。
また陰影の特徴としては、
- 末梢優位に非区域性に広がる濃度の濃い浸潤影
- 周囲にすりガラス影(halo sign)を伴う
- 浸潤影の尾側にはcrazy paving appearance様の陰影の広がりあり
- 浸潤影の頭側では、すりガラス影の周りに浸潤影(reversed CT halo sign)を認める
- またこれらの陰影は放射線照射部位とは反対側に認めている
といったものがあります。
こういった所見を見た際に考えるべきは、乳房温存療法後の照射野外の器質化肺炎(OP)です。
診断:乳房温存療法後の器質化肺炎(OP)
※器質化肺炎に加えて感染性肺炎の可能性も考慮され、ステロイドに加えて、抗生剤にて加療されましたが、抗生剤に不応であり、ステロイド増量し加療されました。入院18日後に退院となっています。
関連:
- 乳癌放射線療法の合併症である放射性肺臓炎・器質化肺炎のCT画像診断
- 特発性器質化肺炎(COP)のCT画像診断の特徴は?原因は?
- crazy-paving pattern/appearanceとは?画像診断、鑑別診断
【胸部】症例32の動画解説
crazy paving patternについて解説
※2020年7月21日追記
- COVID-19肺炎でもcrazy paving appearanceを認めることがありますので、しばらくはこの所見を見つけたときは要注意です。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
細菌性やウイルス製の肺炎に見えました。
乳房温存治療後に多いとのことですが、基本的には原因不明で、抗生剤が効かなかったから後からCOPといえるという感じでしょうか。さらに感染の合併も考えられるということで非常に難しい症例で勉強になりました。
とりあえず乳房温存治療後にCOPが起こりうるということを覚えておきます。
アウトプットありがとうございます。
>細菌性やウイルス製の肺炎に見えました。
ぱっと見、そう考えてしまいますよね。
・分布が区域性とは言いにくい。
・halo signや場所によってはreversed halo signを伴っている
・crazy paving appearanceを伴っている
この辺りから普通の感染性以外の可能性も考慮したいところですね。
実際は厳しいところもありますが(^_^;)
>基本的には原因不明で、抗生剤が効かなかったから後からCOPといえるという感じでしょうか。
そういったケースが実際は多いです。
陰影の不自然さと、肺炎として治療抵抗性があることがきっかけになることが多いですね。
放射線治療に起因したBOOPにしては離れすぎているという印象でしたがステロイドに反応し、抗生物質に反応しないということでそうなんでしょうね。
アウトプットありがとうございます。
>放射線治療に起因したBOOPにしては離れすぎている
離れすぎていたり、対側に認めてもよいのがこのOPの特徴でもありますね。
(コメントの反映が上手くいかなかったみたいなので、再送信します。重複していればすいません)
「放射線肺臓炎、放射線肺線維症、治療後器質化肺炎を再確認することができたと思います」と記載した以上、この問題は間違えることにはできませんでした^^
この症例は、もちろん細菌感染は考慮しますが、肺野の陰影の割にWBCやCRPが低値で、BT 36.7℃と高くなく、非区域性の浸潤影と網状影(crazy paving appearance)で陰影が硬く、まずは間質主体の病変を疑いたいです。(reversed halo signには気が付きませんでした、ありがとうございます)
アウトプットありがとうございます。
>「放射線肺臓炎、放射線肺線維症、治療後器質化肺炎を再確認することができたと思います」と記載した以上、この問題は間違えることにはできませんでした^^
ですね。このコメントを見たときに今日はどっちの症例だったかな(器質化肺炎だったかな)と思わず思ってしまいました(^_^;)
>reversed halo signには気が付きませんでした、ありがとうございます
これはその目で見ないと厳しいかもしれませんね・・・。
みなさん言っておられるようにCOPなどは救急の現場ではなかなか鑑別に挙がりづらいですよね。でもこうして勉強して頭の片隅に置いておくことが重要と思いました。
アウトプットありがとうございます。
>COPなどは救急の現場ではなかなか鑑別に挙がりづらい
おっしゃるとおりです。
何でも肺炎に見えてしまうかもしれません。
ただ、感染としては不自然な非区域性分布やhalo sign、reveresed halo signなどを見たら、
「なんかいつもの肺炎と違う気がする」
と思いたいですね。
いつもありがとうございます。
31番のコメントで照射野外の陰影を見たときは器質化肺炎を、と学んでいたので正解できました。
アウトプットありがとうございます。
>31番のコメントで照射野外の陰影を見たときは器質化肺炎を、と学んでいたので正解できました。
それは良かったです(^^)
本日もありがとうございました。
以前先生がおっしゃっていたように、肺の画像診断は、非特異的な所見が多くて難しいですね。。
他の方のコメントにもありますが、
「器質化肺炎は臨床症状と画像所見が細菌性肺炎と酷似しており、抗菌薬治療に反応が乏しい肺炎として、呼吸器内科に紹介されることが多い」(胸部X線・CTの読み方やさしくやさしく教えます!より引用) のですね。
メロンの皮や、CT halo sign等が見られたら、感染症にしては何か変だなぁと思えるようにしておこうと思います。。
アウトプットありがとうございます。
>以前先生がおっしゃっていたように、肺の画像診断は、非特異的な所見が多くて難しいですね。。
そうなんです。
陰影の精査をしたけど、結局原因はよく分からなかったということもありますし・・・・(^_^;)
>抗菌薬治療に反応が乏しい肺炎として、呼吸器内科に紹介されることが多い
抗生剤不応という点も重要ですね。
この場合は、実は肺癌(中でも浸潤性粘液産生性腺癌)だったということもあります。
>メロンの皮や、CT halo sign等が見られたら、感染症にしては何か変だなぁと思えるようにしておこうと思います。。
そうですね。今回は陰影のみでなく病歴・経過が特に重要ですね。
胸部XーPでminor fissureを超えない陰影で上葉の病変とわかっても、それが第2〜第4肋骨にまで陰影が及んでいたら胸部XーP上は「上肺野〜中肺野に及ぶ陰影」と表現しても良いのでしょうか?それとも「上葉の病変」とした方が良いのでしょうか?
教えてください。
今回の画像を見て「まさかゴロー先生、COVID-19を!?」とハッとしましたが、(2週間前から調子が悪かったとはいえ)症状出現から2日の陰影でこれはないと判断し、放射線治療後としました。
でも確かに今の時期ではCOVID-19も疑われることは提起した方が良いかもですね!
アウトプットありがとうございます。
>胸部XーPでminor fissureを超えない陰影で上葉の病変とわかっても、それが第2〜第4肋骨にまで陰影が及んでいたら胸部XーP上は「上肺野〜中肺野に及ぶ陰影」と表現しても良いのでしょうか?それとも「上葉の病変」とした方が良いのでしょうか?
どちらも正解ですが、上葉の病変とした方がより深い読みと言うことになりますね。
>でも確かに今の時期ではCOVID-19も疑われることは提起した方が良いかもですね!
そうですね。下葉ではありませんが、crazy paving patternや一部胸膜下にも認めている点から特に今は鑑別に挙げるべきですね。そして意外と早く第2波が来そうですね(^_^;)
初歩的な質問かもしれませんが、、
画像を最初に見た際に気管支に沿った陰影から区域性の浸潤影と判断してしましました、、
非区域性とする理由としては陰影が末梢のみで中枢側まで及んでいない点があげられるでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>非区域性とする理由としては陰影が末梢のみで中枢側まで及んでいない点があげられるでしょうか?
おっしゃるとおりですが、気管支に沿ってコンソリデーションを認めており、少し区域性にも見えますね。
ですので、典型的な非区域性とはいえないかもしれません。
ほぼ右上葉に限局しているとはいえ、crazy paving patternがあり、COVID-19肺炎が頭によぎりました。
器質化肺炎、しかも放射線治療の反対側の陰影ということで、この疾患を初めて知りました。
無い袖は振れないように、知らない疾患は当然頭によぎりることはありません。次回は鑑別に入れられるようにしたいです。
アウトプットありがとうございます。
>crazy paving patternがあり、COVID-19肺炎が頭によぎりました。
確かに分布を無視するとそうですね。crazy paving patternは典型的ですね。
>無い袖は振れないように、知らない疾患は当然頭によぎりることはありません。次回は鑑別に入れられるようにしたいです。
おっしゃるように一度経験をしないとなかなか鑑別にもあげられないかもしれません。
単にコンソリデーションで終わらせるのではなく、既往が非常に重要な疾患となります。
crazy paving patternがあり、コロナ!と早合点してしまいました。
いまだに肺のどの区域かSのどこかや、(胸部関係ないですが)肝臓の区域でどの部分に病変があるのか言語化できなくて困っています。どうしたら良いでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>crazy paving patternがあり、コロナ!と早合点してしまいました。
あれだけCOVID-19肺炎をやれば逆にそうなってしまうかもしれませんね(^_^;)
>いまだに肺のどの区域かSのどこかや、(胸部関係ないですが)肝臓の区域でどの部分に病変があるのか言語化できなくて困っています。どうしたら良いでしょうか?
肺については、区域はまたがっていれば表現が難しい場合は、S○と表現しなくても、大葉間裂、小葉間裂をメルクマールに右は上葉、中葉、下葉、左は上葉(+舌区)、下葉と葉で表現してもいいと思います。
肝臓についてもまずは右葉、左葉のいずれなのか、その中でも前なのか後なのか、右葉ならば上なのか下なのか大雑把に判断するところから始めればいいと思います。
肺も、肝臓も区域がまたがっていたり、わかりにくいことはありますので。
関連
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動画解説もしていますので、是非参考にしてください。