肝臓の区域の解剖は、肺の区域と同様に、決して簡単ではありません。
肝臓に腫瘍などがあるときにCTやMRI、エコーなどの画像診断において、肝臓の区域のどこにあるのかを正しく伝達することは、
- 画像での経過観察(フォロー)や精査
- 手術などの治療
のいずれにおいても重要です。
しかし、前区域とか後区域とかあるし、さらにはS1からS8まである肝臓の解剖・・・。
そこで今回は、特にCT、MRI画像を読影する上での肝臓の区域の解剖についてどのように分類され、どのように覚えていけばよいかをイラスト(図)や実際のCT画像を用いてわかりやすくまとめました。
それではいきましょう。
肝臓のCT画像での区域は?
こちらの記事に書いてある内容を動画にまとめました。
ですので、まずはこちらの動画をご覧ください。
肝臓のCT画像における解剖は、肝臓の上の方か下の方かで分けて考えると分かりやすいです。
CT画像の横断像でまず胆嚢が見える下の方のスライスから見ていきます。
肝臓の右葉と左葉の解剖
胆嚢が見えるスライスのCT画像の横断像のイラスト(図)は以下のようになります。
まず下大静脈と胆嚢を結ぶ線(これをカントリー線(Cantlie線)と言います)を引いてください。
(※ただし遊走胆嚢と言って胆嚢が胆嚢窩に固定されていない場合は除きます。)
このカントリー線よりも
- 右側(向かって左側)が右葉
- 左側(向かって右側)が左葉
となります。
肝臓の区域の解剖は?
さらに、右葉のうち、
- 前の方を前区域
- 後ろの方を後区域
と分けることができます。
すると下のようなイラスト(図)になります。
この境界線は、より上のレベルで見える左肝静脈と概ね平行して走行すると覚えましょう。
一方、左葉は、肝鎌状間膜(臍静脈裂)という凹んでいる部分を見つけましょう。
肝鎌状間膜(臍静脈裂)よりも
- 右側(向かって左側)を内側区域
- 左側(向かって右側)を外側区域
と言います。
続いて上の方のスライスを見てみましょう。
下のようなイラスト(図)になります。
- 左肝静脈(LHV:left hepatic vein)
- 中肝静脈(MHV:middle hepatic vein)
- 右肝静脈(RHV:Right hepatic vein)
が下大静脈に流れ込むところが見えるスライスで考えるのがわかりやすいです。
肺でもそうですが、静脈が区域を分ける境界線になります。
これら3つの静脈と下大静脈を結んだ線を延長します。
先ほど申し上げたように、
- 右肝静脈は右葉の前区域、後区域を分ける線
でした。
同じように
- 中肝静脈は前区域と内側区域を分ける線。
- 左肝静脈は内側区域と外側区域を分ける線。
となります。
このような肝臓の区域の分類をHealey& Schroy分類と言います。
肝臓のS4とかS7に腫瘍があるというふうに、S(エス)の何番というのを聞いたことがあるものの、それとは違うのか?・・・
それは・・・クイノー分類と言われる分類です。
クイノー分類(Couinaud分類)
肝臓の解剖というと、Sの何番という言い方のほうが有名でよく使われるかもしれません。
次にクイノー分類について、先ほどと同じように肝臓の上の方と下の方に分けて解説していきます。
上のイラスト(図)のように、まず先ほど説明した
- 内側区域はS4
- 外側区域はS2,3
- 前区域はS5,8
- 後区域はS6,7
とそれぞれなります。
S4は覚えやすいですね。
肝区域S1(尾状葉)とは?
肝区域S1は尾状葉とも呼ばれ、肝門部の後ろ側に位置し、上のイラスト(図)のように下大静脈に接して突出した部分を指します。
肝区域S2,3の違い・境界は?
外側区域のS2,3の違いですが、
- 後ろのほうがS2
- 前のほうがS3
となります。
正直、後ろがS2、前がS3と覚えれば十分だと思います。
が、念のためその境界線について触れておきます。
このS2,3の境界線は左肝静脈の主幹となります。
先ほど説明したように、肺区域と同じように静脈が区域を分ける境界線になります。
ただし、左肝静脈の主幹がわかりにくいこともあります。
その場合は、門脈を参考にすることもあります。
門脈は区域の中心を走りますので境界線にはなりませんが、目安にはなります。
実際のCT画像で見てみましょう。
門脈が肝鎌状間膜の内部を走行する部分を臍部(umbilical portion)と言います。
ここから下の図のように肝S2,3,4の門脈であるP2,3,4が分岐します。
肝区域S5,8とS6,7の違い・境界は?
先ほど説明したように
右葉のうち
- 前にあるのが前区域でS5,8
- 後ろにあるのが後区域でS6,7
でした。
では、S5,8の違い、S6,7の違いは何でしょうか?
実は明確な境界線がここにはありません。
- 上の方が、S7とS8
- 下の方が、S5とS6
となります。
下の方のスライスである胆嚢が見えるスライスでは、イラスト(図)のように
- 前がS5、後ろがS6
となります。
また、上の方のスライスである肝静脈に流入するところが見えるスライスでは、イラスト(図)のように、
- 前がS8、後ろがS7
となります。
ですので、右葉については、下のスライスを前から後ろへ行き、上に上がって後ろから前に順番にS5,6,7,8となっているというふうに覚えます。
下のスライスから、前から後ろにS5→S6となり・・・上に上がって
上のスライスでは後から前にS7→S8となります。
最後に
肝臓のCT画像での区域の解剖及びその覚え方についてまとめました。
肝臓に腫瘍などがあるとき、画像でフォローする場合や、手術などの治療をする場合にも、それが肝臓のどこにあるのかを伝達するためには、この肝区域が理解している必要があります。
この記事に書いた手順で解剖を覚えるのがベストですが、忘れたとしても、もう一度この記事を読みながら確認すればいいだけです。
明日からの医療にお役立ていただければ幸いです( ^ω^ )
医学部学生です。
編集、大変だと思いますが、ありがとうございます!
とてもわかり易くて、ありがたいです!
画像の勉強って中々独学だと難しくて。。本当にお世話になっております。
コメントありがとうございます。
是非動画を活用して覚えてみてください。
カントリー線の走行と重なるのは「中肝静脈」ではないでしょうか。図は正しいと思いますが、文章が「左肝静脈」になっています。