【胸部】症例21
【症例】50歳代男性
【主訴】胸背部痛
【現病歴】午前1時に入浴し歯磨きをしている際に突然の冷汗を伴う背部痛あり。軽減しないため救急要請。
【既往歴】高血圧、蜂窩織炎
【生活歴】喫煙:20本/日×20年、飲酒なし
【身体所見】意識清明、BP 右165/85mmHg、左155/80mmHg、SpO2 99%(RA)、P 85bpm、四肢:両側足背動脈触知良好で左右差なし、背部:脊椎叩打痛なし。
【データ】WBC 11700、CRP 0.63、D-dimer 15.5、BNP 11.3
画像はこちら
まずレントゲンから見ていきましょう。
すると、(上)縦隔陰影の拡大を認めていることがわかります。
胸背部痛を認めていて、このような縦隔陰影の拡大を認めているということは、どんな疾患を考えなければならないでしょうか?
次に単純CTを見てみましょう。
すると、
- 大動脈の内膜の石灰化が中枢に偏位している
- 大動脈の中にリング状陰影を認める
- リング状陰影の外側がやや高吸収となっている(hyperdense crescent sign)
という所見があります。
これは、大動脈解離が起こっていることを示唆する所見です。
さらにややわかりにくいですが、リング状陰影の外側がやや高吸収となっているということは、その大動脈解離が偽腔閉鎖型であり、内部に血腫が満たされていることを示唆する所見で、hyperdense crescent signと呼ばれます。
次に、ダイナミックCTが撮影されました。
ダイナミックCTでは外側の偽腔には造影効果を認めていないことがわかります。
やはり偽腔閉鎖型の大動脈解離であることがわかります。
次に見るべきは、解離腔はどこからどこまで及んでいるかということです。
矢状断では全体像がよくわかります。
解離腔はこのスライスで写っている、左鎖骨下動脈から右腎動脈レベルまで認めています。
上行大動脈へ解離腔は及んでいないので、Stanford B型であると診断できます。
なお、大動脈解離を見た際に、大動脈解離のCT所見の評価項目としては以下のものが知られています。
- 解離の存在診断 → 今回、単純CT,造影CTで指摘可能。
- 偽腔の血流状態の評価 → 今回は偽腔閉鎖型。
- 解離の形態および進展範囲、特に上行大動脈の解離の有無。 → 左鎖骨下動脈から右腎動脈レベルで上行大動脈へ解離腔は及んでいない。
- entry(内膜裂口(入口部))/re-entryの同定 → 認めない。
- 大動脈弁への解離波及の評価 → 認めない。
- 合併症(破裂、心タンポナーデ、大動脈の主要分枝閉塞による臓器虚血など)の有無 → 認めない。
- Adamkiewicz動脈の評価。→ 今回同定できない。症状からも解離が及んでいることは否定的。
診断:偽腔閉鎖型大動脈解離 Stanford B型
※解離腔は弓部までであるが、上行大動脈への進展も考えられ(?)、心臓血管外科のある病院へ転送となりました。
ちなみに肺野条件ですが、
両側上肺野の胸膜直下に比較的壁が明瞭な嚢胞性変化を認めています。
これは傍隔壁性肺気腫といって、喫煙に関連する肺気腫の一つです。
この気腫性変化以外にも、内層では軽度の小葉中心性の気腫性変化も認めています。こちらも喫煙に関連する肺気腫と言われています。
関連:
その他所見:肝門部にcavernous transformationあり。
【胸部】症例21の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
大動脈解離の上記のチェック項目は術式や対処法に直結する物が多いので、見落としが無いよう1つ1つ確認するようにします。
Xpでの縦隔拡大や石灰化の位置を意識して、分かりにくい症例でも指摘したいですね。
アウトプットありがとうございます。
>Xpでの縦隔拡大や石灰化の位置を意識して、分かりにくい症例でも指摘したいですね。
そうですね。特に単純CTのみの撮影の場合は注意が必要ですね。
軽度の偽腔閉鎖型大動脈解離は、CTのみでは動脈硬化と紛らわしくて見落とされることがあり、単純CTが重要な疾患だと認識しています。
アウトプットありがとうございます。
>単純CTが重要な疾患だと認識しています。
おっしゃるとおりです。
たまにいきなり造影されていて、単純もオーダーしてくれぇと嘆くことがあります。
スタンフォードAとBの境界はどこなのかあやふやでした。悩んだ末Aと答えてしまいました。大動脈弓の上向きのところはあくまで弓で上行ではないということですね。診療された先生もBだけどAに近いと判断(迷い)されたのでしょうね。勉強になりました。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
>大動脈弓の上向きのところはあくまで弓で上行ではないということですね。
解離は弓部に存在する左総頚動脈、腕頭動脈には及んでいませんので、Bとなりますね。
今日もありがとうございます。
所見を書く時にStanford分類なのかDeBakey分類なのか診療科の先生はどちらが役立つのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
基本はStanford分類で大丈夫です。
大動脈解離は腹部救急でも勉強しましたが、良い復習になりました!
腹部でも出てきましたね。
復習になってよかったです。
胸部レントゲンで縦隔が拡大しているように見えてもCTを撮ったら解離ではないことがしばしばあるのですが、あれはなんで拡大しているように見えるのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように実際の臨床では、結構ありますよね。
・大動脈の蛇行
・大動脈の主要分枝の屈曲、蛇行
・背中の曲がったお年寄り
・開胸術の既往
などではよく見られます。
縦隔の拡大の原因となる一覧が記載ありましたので、こちらに掲載します。
【縦隔の拡大】
・撮像時の体位:AP撮影,吸気不足,円背
・血管像:大動脈とその主要分岐の蛇行、大動脈瘤、大動脈解離、大動脈縮窄症、左上大静脈遣残(persistent left SVC)
・外傷による血腫:大動脈断裂,胸骨・椎骨骨折,縦隔の術後,医原性(カテーテルやファイバーによる気管・食道損傷)
・腫瘍:悪性リンパ腫、ホジキン病、肺癌(特に小細胞癌)のリンパ節転移、他臓器の腫瘍からのリンパ節転移(特に精巣腫瘍),血管腫、リンパ管腫
・炎症:
・肉芽腫性→結核,非定型抗酸菌症,Coccidioidomycosis,サルコイドーシス
・胸腔外からの炎症の波及 →下咽頭膿瘍、横隔膜下膿瘍、急性膵炎
・lipomatosis:Cushing症候群、肥満、ステロイド長期使用
・その他:chylomediastinum、リンパ管拡張|ymphangiectasis(リンパ管腫症Iymphangiomatosis)、放射線肺臓炎
胸部画像診断押さえておきたい24のポイント P47
胸部X線で上縦隔拡大の定義って何ですか?
今回のように下の方の縦隔とそれほど差がないくらいになっていたら拡大ありと判断します。
大動脈損傷の場合ですが、弓部レベルで8cm以上の拡大と記載があります。
参考:臨床画像 Vol.25,No.4増刊号,2009 P89
いつもありがとうございます。
cavernous transformationは初めて見ました…!
この方は肝外門脈の閉塞はないように見えますが、cavernous transformationを呈する原因はなにかあるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>cavernous transformationを呈する原因はなにかあるのでしょうか?
結構な肝右葉の萎縮、S4,S1腫大を認めるので慢性肝障害〜肝硬変があるのかもしれませんね。
脾腫やそれ以外の側副血行路は認めていないですね。
こんばんは.いつもお世話になっております.
胸部Xpでcalcium signがないか注目しましたが,今回は見つけられませんでした…
しかし,CTではばっちり動脈壁の石灰化が確認できました!
アウトプットありがとうございます。
>CTではばっちり動脈壁の石灰化が確認できました!
よかったです!!
今回は造影も提示しましたが、実際は単純だけ撮影して判断しないといけないことも多々あると思うので、動脈壁の石灰化の偏位に着目することは非常に重要ですね。
Stanford AとBを判断する際の”上行大動脈”は具体的にはどこまでを指すのでしょうか?左鎖骨下動脈に少しでも偽腔がかかったらそれはstanfordAになるのでしょうか?教えて下さいお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
確かに気になるところですね。
上行大動脈は、腕頭動脈分岐部までとなります。
参考
http://www.jpats.org/modules/general/index.php?content_id=16
この図1がわかりやすいです。
いつも勉強になってます。ありがとうございます。
ところで、腸管は脱出していない様ですが、脂肪組織が脱出して内鼠径ヘルニアの様になっている様に見えます。
これは何ですか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように両側大網が脱出している鼠径ヘルニアがありそうですね。
偽腔開存型と閉塞型って、どこをどう見分けているのかよくわかっていませんでしたが今回理解できました。
本編と関係ないのですが、PCからCT画像を見ようとするとうまく表示されません・・・
アウトプットありがとうございます。
>本編と関係ないのですが、PCからCT画像を見ようとするとうまく表示されません・・
IEの一部で表示されないという報告があります。
Google chromeなどブラウザを変更して試してみてください。
お手数おかけしますがよろしくお願いします。
上縦隔の拡大について、左縦隔は解離した大動脈を反映していると思うのですが、右側の縦隔の拡大は解離とは関係あるものなのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
そうですね。おっしゃるように左側は解離を反映していますが、右側は今回は上行大動脈に解離はありませんので、拡大する理由がないですね(^_^;)
臥位なのでより目立つのでしょうね。
参考
https://www.teramoto.or.jp/teramoto_hp/kousin/sinryou/gazoushindan/case/case211/index.html
画像が飛んでしまい単純の肺野条件と縦隔条件の腎の高さまでしか見れず、造影は最初の一枚しか見れないので範囲は特定できない
大動脈解離上記条件での診断なのでおそらくstanfordBで少なくとも下行大動脈から腎動脈分岐部までは解離している
・・・という状況なのですが、ご対応いただけないでしょうか・・・
アウトプットありがとうございます。
画像が飛ぶということですが、確認しましたが、腎どころか膝のレベルまで今回は撮影されています。
別のところでも飛ぶとコメントいただいておりますが、ちなみに横断像の造影は358枚ありますが、何枚と表記されていますか?
大動脈解離を分類した図Figure とてもわかりやすく理解できました。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
お役に立ててよかったです(^^)
いつも勉強させていただいてます。
Adamkiewicz動脈はどの様に評価されてますか?
分岐や追うメルクマールを教えていただけましたら助かります。
アウトプットありがとうございます。
>Adamkiewicz動脈はどの様に評価されてますか?
今回は同定できませんが、Adamkiewicz動脈は、Th8~L1の間で左側から起始する頻度が高く、太さは0.8~1.3mm程度であり、前脊髄動脈と合流する際に特徴的な”ヘアピンカーブ”を形成します。
また別の症例でコメントしたものですが、描出には造影剤の注入速度に加えて、0.25mm+FIRSTが描出に重要なようです。
参考
https://www.innervision.co.jp/sp/ad/suite/canonmedical/seminarreport/190702ct
いつもお世話になってます。
右肺動脈に塞栓があるように見えるのですが、これは別物でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
確かに横断像でみるとドキッとしてしまいますが、冠状断像で確認すると血管外であり、リンパ節を見ているようです。
いつもありがとうございます。
・横断像造影CTで下行大動脈の外膜外側に染まるもの(25-29,115-118/358)は真腔と同じ染まりなので、大動脈の栄養血管なのでしょうか。
・冠状断像で、左鎖骨下動脈の分岐部を1時とすると、25-27/79の4-5時方向に小さな造影剤の突出が見えます。ULP型の可能性はありますか。
アウトプットありがとうございます。
>横断像造影CTで下行大動脈の外膜外側に染まるもの(25-29,115-118/358)は真腔と同じ染まりなので、大動脈の栄養血管なのでしょうか。
おそらくそうで肋間動脈ですかね。
その際には、Intramural blood pools(IBPs)にも注意が必要ですね。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/17627
>冠状断像で、左鎖骨下動脈の分岐部を1時とすると、25-27/79の4-5時方向に小さな造影剤の突出が見えます。ULP型の可能性はありますか。
おそらく単純CTの横断像86/204に相当する部位で大動脈壁に石灰化を認めている関係でそのように見えるのだと思います。
横断像ではULPは認めていませんし。(もちろん横断像で認めていないから認めないというわけではありません。見る方向によってはたまたまそう見えているということです)