【胸部】症例20
【症例】80歳代女性
【主訴】呼吸苦
【現病歴】昨日朝から労作時呼吸困難の自覚あり、症状続くため当院受診。
【既往歴】特発性血小板減少性紫斑病(ITP)にてプレドニン治療中。
【身体所見】意識清明、BT 36℃台、HR 81bpm、BP 132/63mmHg、呼吸回数 25回/分、SpO2 97%(O2 4L)、心音性、no rale、軽度下腿浮腫あり(右>左)
【データ】WBC 8600、CRP 1.16、D-Dダイマー 21.5
画像はこちら
6年前のものですが過去のレントゲンがありましたのでそちらと比較する形で見ていきましょう。
両側肺門部の血管陰影が目立つということがわかります。
また心陰影の拡大を認めています。今回の場合、
- 左3・4弓の突出→右室および右室流出路の拡大
- 左2弓の突出→主肺動脈の拡大
を示唆します。
次にCTを見てみましょう。
すると肺動脈相で両側の肺動脈に造影欠損像を認めており、肺動脈血栓塞栓症を疑う所見があります。
今回の症例では横断像で欠損像を同定することができますが、症例によっては横断像では指摘困難な場合があります。
そんなときは冠状断像(矢状断像)が非常に有用となります。
今回も冠状断像において欠損像は明瞭です。
肺動脈血栓塞栓症を認めた場合、原因としては下肢の深部静脈血栓によるものが最多です。
必ず静脈相の静脈をくまなくチェックしましょう。
今回は左小伏在静脈〜膝窩静脈に深部静脈血栓を疑う造影欠損像を認めています。
さて、急性肺動脈血栓塞栓症では、重症度分類の一つとして以下のものがあります。
- ①collapse型:心停止あるいはそれに近い状態をを呈する症例
- ②massive型:血行動態不安定症例(新たに出現した不整脈、脱水、敗血症などが原因ではなく、ショックあるいは収縮期血圧90mmHg未満あるいは40mmHg以上の血圧低下が15分以上継続する症例)
- ③submassive型:血行動態安定(上記以外)かつ心エコー上、右心負荷がある症例。
- ④non-massive型:血行動態安定(上記以外)かつ心エコー上、右心負荷がない症例。
(Circ J 75:1258-1281,2011、Eur Heart J 21:1301-1336,2000)
エコーとなっていますがCTでも右心負荷所見の有無をチェックすることができます。
ですので、CTで見るべきポイントは以下の様になります。
今回も心臓をチェックしてみましょう。
心室中隔の左室方向への偏位を認めており、右室径>左室径となっています。
右心負荷(右心不全)を疑う所見です。
ちなみに、肺動脈本幹は2.8cm程度で、3cm以上はありませんでした。
※上記の重症度分類では、③submassive型相当と言うことになります。
診断:肺動脈血栓塞栓症+深部静脈血栓症(左)
症状、画像より急性肺動脈血栓塞栓症と診断し、循環器内科入院となりました。
関連:肺動脈血栓塞栓症(肺塞栓症)のCT画像診断のポイントは?
【胸部】症例20の動画解説
下肢の動静脈の解剖についての補足動画
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
右下腿静脈の径が変化する部分に造影欠損(静脈血栓)がありそうなのですがどうでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
どうでしょうか。ちょっと微妙ですね。蛇行している部位がそう見えているようにも見えますし。
※ページ数を記載できないので伝わりにくいですね。現在ページ数を記載できるよう改良を依頼しています。
ごろ〜先生、HNさんありがとうございます。
くるっと巻いている部位より下方で深部ですが、「しっかりした血栓を見つければ、微妙な血栓が問題がない」ということでね、ありがとうございます。
右に浮腫ありということでして探していたのですがわからずでした。kenkenさんの言っているところは腓骨近位端より3スライス位遠位でしょうか?くるっと巻いていて、言われればそんな気もしますね。DVT探しは枚数多く読影の先生はすごく大変ですね。
アウトプットありがとうございます。
>くるっと巻いていて
やはりここですよね。
血管の間の低吸収を見ているようにもみえますね。
>DVT探しは枚数多く読影の先生はすごく大変ですね。
ですね。
一番大事なのはあるのかないのかなので、一つあることがわかれば、今回のように右に微妙なのがあるかどうかはあまり大きな問題ではありません。
ただ、3年目だったか、両側びまん性に血栓が鋳型状に満たされていたときにあまりに左右対称でDVTに気付かなかったことがあります。
技師さんに「あれ全部詰まっていますよ」と直後に指摘していただき、大急ぎで修正した記憶があります(^_^;
きっと重症度④のケースだと思いますが、別目的の造影検査依頼で無症候性の肺塞栓があって見逃してしまったことがあります。
Mac PCユーザーでマウスを使っていないので、スクロールはスライドバーを動かしてします。thin sliceのときはスライドバーだと勢いがつきすぎてチカチカするので矢印でスクロールしていますが、矢印をカチカチではなく押しっぱなしにしてスクロールできたらより楽だなと思いました。(個人的には矢印カチカチに慣れましたが、最近はノートPCのMacユーザーも多いので便利かなと思いました。)
アウトプットありがとうございます。
>別目的の造影検査依頼で無症候性の肺塞栓があって見逃してしまったことがあります。
たまに無症候性であったり、単純CTで肺塞栓があることがありますね。
主治医に電話してすぐに知らせることが重要ですね。
>thin sliceのときはスライドバーだと勢いがつきすぎてチカチカするので矢印でスクロールしていますが
私もmacです。thin sliceは読み込むのに時間がかかるためにチカチカすることがありますね。
現在スマホ・タブレットでの拡大機能、画像の何枚目かの表示機能を依頼していますが、これ以上の機能追加は厳しいです。
実際症候性のDVTはそこまで多いものではないですが,除外のためにPEstudyを行うことはしばしばありますね.
右心負荷所見にはあんまり着目していなかったので参考になりました.
アウトプットありがとうございます。
>除外のためにPEstudyを行うことはしばしばあります
おっしゃるとおり除外目的で撮影されることはしばしばありますね。
>右心負荷所見にはあんまり着目していなかったので参考になりました.
どうしてもPEやDVTに目が行くのでやや盲点かもしれませんね。ぜひ意識してみてください。
今日はありがとうございます。
重症度分類まで考えた事ありませんでした。これを機に考えながら画像を見たいです。
アウトプットありがとうございます。
細かい分類ですが、単にPE/DVTあり!で終わるのではなく、ぜひ意識してみてください。
平素より楽しく勉強させて頂いてあります。
CXrにおいて右上肺野網状影、左下肺野すりガラス影はありませんでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
どうでしょう(^_^;)
中肺野末梢の陰影は指摘できましたが、それ以外は個人的にはわかりません・・・。
この症例では元々肺野条件がなかったので今回提示していないのですが、作ってみました。
https://imaging-diagnosis.com/view/xD2KeALR
baseに気腫性変化があり、右上葉、中葉舌区に小葉中心性の粒状影があり、非結核性抗酸菌症(NTM)が背景にありそうですね。
肺梗塞などを疑う所見は認めていません。
お世話になっております。
下肢の静脈、肺動脈の解剖が苦手で別途解説して頂ければ幸いです。
アウトプットありがとうございます。
動画は見ていただきましたか?
申し訳ありませんが、現状では、今回の動画以上の解説はご用意できません。
肺動脈の解剖
http://medicalimagecafe.com/tool/chest/01.html
下肢静脈の解剖は・・・・・こちらでは大腿静脈までしかありませんね(^_^;)
http://medicalimagecafe.com/tool/lower_abdominal/01.html
下肢の動静脈の解剖について補足動画を作成しました。
いつもありがとうございます。
この方は、下行結腸が後腹膜に固定されていないように見えます。こういう人はよくいるのでしょうか?教えていただければ幸いです…!
アウトプットありがとうございます。
>下行結腸が後腹膜に固定されていないように見えます。
おっしゃるとおりですね。
たまに固定が悪い方はおられます。この方はかなり固定が悪いですね。回転異常はなさそうですね。
いつも充実したコンテンツをありがとうございます。
280~290あたりで、両側膝窩(右>左で大きい)にみられる低吸収の構造は何でしょうか?
すみません!動画で解説していただいていましたね。
見る前にコメントをしてしまいました、申し訳ないです。
いえ、大丈夫です。
膝のMRIでよく見るbaker嚢胞ですね。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/28528
本筋と離れた質問で申し訳ありません(_ _)
小伏在静脈は深部静脈ではなく表在静脈なのにこの場合も深部静脈血栓症になるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>小伏在静脈は深部静脈ではなく表在静脈なのにこの場合も深部静脈血栓症になるのでしょうか?
おっしゃるとおりですね(^_^;)
表在静脈血栓というのが正しい表現になりますね。
大動脈解離を急性ではなく陳旧性と判断できるのは、どのような所見からでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
陳旧性の解離かなあと申し上げたのですが、冠状断像などを見ると該当場所で
・大動脈が蛇行している
・大動脈径が少し狭くなっている
・動脈硬化が非常に強いのに該当部位には少なくとも石灰化を有する内膜の剥離を確認できない
・解離とするとその縦方向の長さがあまりに短い
点から、単に動脈硬化を見ているだけなのかもしれませんね。
なお、解離の急性期と慢性期の違いとしては、
・動脈の横断面は丸く、本来の動脈の形をしている→急性期
・直線化している→慢性期
という特徴があります。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/15448
今回も丁寧な解説ありがとうございました。
とても勉強になりました。たまにDVTを撮影して、肺動脈血栓があるか、下肢静脈血栓があるか、確認してましたが、右室負荷所見があるのかを気にしたことはなかったです。これからは少しは気にしていこうと思います。
ところで少し気になったのですが、この人は肺動脈相で下大静脈がよく染まってるなぁと思いました。
これは右室負荷による影響もあるのでしょうか?
それとも単に造影剤を急速に入れてるからの影響なのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>これは右室負荷による影響もあるのでしょうか?それとも単に造影剤を急速に入れてるからの影響なのでしょうか?
両方影響があるのではないかと考えますが、逆流しているものなので、後者の影響が通常よりもあるのではないかと考えます。
重症度分類のmassive型の記載の「ショックあるいは収縮期血圧90mmHg未満あるいは40mmHg異常(以上?)の血圧低下」の部分なのですが、40mmHg以上の血圧低下というのは、普段の血圧から考えてそれだけ低血圧になったらということでしょうか。極端な話、普段200mmHg程度の人が150mmHgになったらあてはまるという理解で良いのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>40mmHg異常(以上?)
誤字ご指摘ありがとうございます。修正しました。(動画内はできませんが。)
>極端な話、普段200mmHg程度の人が150mmHgになったらあてはまるという理解で良いのでしょうか。
この重症度分類ではそういうことになります。
気づいた誤植の指摘です 細かいとこすいません、この質問は消してください
・左3・4弓の突出→右室および右室流出路の拡大 左室および左室流出路の拡大であると思う
・冠状断像においても欠損像は明瞭。の上の図の左図のスライス位置が多分ずれている
・①collapse型:心停止あるいはそれに使い状態をを呈する症例 使い→近い
アウトプット&誤植のご指摘ありがとうございます。
>左3・4弓の突出→右室および右室流出路の拡大 左室および左室流出路の拡大であると思う
これについてですが、今回は右室負荷がメインですので、右室および右室流出路の拡大で正しいと考えます。
右心系が拡大した結果、左心系がより左に押されているイメージです。
参考
https://www.teramoto.or.jp/teramoto_hp/kousin/sinryou/gazoushindan/case/case157/index.html
>・冠状断像においても欠損像は明瞭。の上の図の左図のスライス位置が多分ずれている
>①collapse型:心停止あるいはそれに使い状態をを呈する症例 使い→近い
ありがとうございます。修正しました。
私の病院には設備がなく、単純CTしか撮影できません…
ですが、肥満や長期臥床のPtが多いのでリスクは高いと思われます。
その場合は、右室負荷所見や深部静脈の拡張などを確認するしかないでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>その場合は、右室負荷所見や深部静脈の拡張などを確認するしかないでしょうか?
その場合はおっしゃるようにそれらの所見や単純CTでも肺動脈血栓が高吸収に見えることがありますので、慎重に観察する必要があります。
あと深部静脈血栓はエコーでも指摘可能ですので、エコーで疑わしい場合は造影CTが撮影できる施設へ転送ですかね。
症状と血液検査、心電図、胸部レントゲンでこの疾患を思い浮かべられるかがポイントでしょうね。
下肢の腫脹も大きなヒントになりそうです。
たとえCTを撮ったとしても造影をしないとわかりにくいと思われます。
walk-inの患者さんで症状が軽いと見逃してしまいそうです。
アウトプットありがとうございます。
>症状と血液検査、心電図、胸部レントゲンでこの疾患を思い浮かべられるかがポイントでしょうね。下肢の腫脹も大きなヒントになりそうです。たとえCTを撮ったとしても造影をしないとわかりにくいと思われます。
おっしゃるとおりです。
血管系の疾患は腹部でもそうですが、思い浮かべられるかがポイントですね。
>walk-inの患者さんで症状が軽いと見逃してしまいそうです。
その場合は慢性の可能性もありますね。
真面目に胸部をみることがなかったので、大まかな読みしかできていませんが、なんとかついていってます。自分で「自分の中ではこの辺まででいいかな」と自己規制してしまっているキライはありますが。
ところで、解説動画内の文字が小さくて読めないことがあります。こちらの端末の問題なのかもしれませんが、埋め込みでなくて全画面表示などできないでしょうか。ご検討宜しくお願い致します。
アウトプットありがとうございます。
>真面目に胸部をみることがなかったので、大まかな読みしかできていませんが、なんとかついていってます。自分で「自分の中ではこの辺まででいいかな」と自己規制してしまっているキライはありますが
専門でない場合、そうなってしまいがちな分野だと思います。
重要な見落としというのが、腹部や頭部よりも起こりにくいのでなおさらかも知れませんね。
>解説動画内の文字が小さくて読めないことがあります。こちらの端末の問題なのかもしれませんが、埋め込みでなくて全画面表示などできないでしょうか。
全画面表示にした場合でも、端末における動画の向きによりますね。
スマホで見られている場合はスマホの方向を変えて見ていただくと動画も大きくなります。
この症例のみで対応できることは検討させていただきますが、システム全体への要望には基本的に対応しかねますのでご了承ください。