【胸部】症例10
【症例】70歳代男性
【主訴】発熱、血痰
【現病歴】特発性間質性肺炎で外来通院中。5日前より咳嗽あり。2日前から発熱、本日血痰あり受診。
【既往歴】胆摘後
【身体所見】意識清明、BT 36.2℃、BP 117/77mmHg、P 90回/分、SpO2 93%(RA)
【データ】WBC 8300、CRP 4.97、KL-6 942、SP-D 266、SP-A 60.6
画像はこちら
今回の画像がこちら
まず1ヶ月前の症状がないときのCT画像から見ていきましょう。(レントゲンは最後に記載します。)
- 牽引性気管拡張
- 両下葉優位に胸膜直下から網状影および蜂巣肺
を認めています。
蜂巣肺は一部気管支拡張とわかりにくいものもあります(ですのですべてを蜂巣肺と取らないように注意が必要です)が、正常肺と隣接しているのも特徴です。
特発性間質肺炎と診断されていますが、それに矛盾しない所見であることがわかります。
で、今回のCT所見と比較してみましょう。
間質性肺炎(に限らずですが、間質性肺炎ではとくに)では過去画像との比較が重要となります。
1ヶ月前のCTと比較すると左下葉優位に広範なすりガラス影が出現していることがわかります。
左ほど明瞭ではないですが、右側でも若干、すりガラス影が増強している様子がわかります。
このように間質性肺炎の経過で、両側にすりガラス影が出現したときに考えなければならないのが、間質性肺炎の急性増悪です。
急性増悪は、感染を契機に発症したり、原因不明のものもあります。
今回は原因がはっきりしませんでした。
診断:(特発性)間質性肺炎の急性増悪
※入院後、プレドニン(PSL) 40mgとアベロックス400mg/日を開始されました。労作時息切れなどの自覚症状は早期に改善し、15日目からはPSL 35mg、22日目からは30mgとして、経過良好のため、入院23日後に退院となっています。
レントゲンも見ておきましょう。
まず左肺が右肺と比べて収縮していることがわかります。
ぱっと見でもわかりますし、横隔膜の高さが本来左の方が下にあるのがほぼ同じになっている点からも確認できます。
また、
- 左上肺野、両下肺野に網状線状影あり。右側では嚢胞性変化あり。
- 左第4弓、右第2弓(心膜横隔膜部)に一部が見えない。
- 大動脈の蛇行がある。
ということがわかります。
しかし、レントゲンでは間質性肺炎の急性増悪とまでわかりませんので、CTの撮影が必要ですね。
また、このうち、
- 左第4弓、右第2弓(心膜横隔膜部)に一部が見えない。
について少し見てみましょう。
特に左では第4弓がはっきりしない(シルエット陽性)ので、レントゲンだけ見ると第4弓を構成する左室に接して病変が存在している可能性があります。間質性肺炎があるからでしょうか?その正体をチェックするにはCTが有用です。
この症例は縦隔条件ではちょっと見えにくいですが、脂肪を強調させてみますと、心臓の周りの脂肪(心膜外脂肪)が浮き上がってきますね。
これが原因で心陰影が消えていたということです。
つまり、本来心臓が作っていた接線を脂肪があることで作れなくなってしまうために、シルエット陽性となり心陰影が消えて見えていたということです。(右側も同様です)
心膜外脂肪によるシルエット陽性は健診などでもよく見られる正常変異です。
関連:
【胸部】症例10の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
間質性肺炎自体はそれを示唆する所見が多く、指摘することができました。(フォローですが。)
心膜外脂肪のXpを何例か調べてみると、濃度は薄めですが浸潤影のように見えました。一度CTで確認はするのでしょうが、知っておかないと焦りますね。
アウトプットありがとうございます。
>心膜外脂肪のXpを何例か調べてみると、濃度は薄めですが浸潤影のように見えました。一度CTで確認はするのでしょうが、知っておかないと焦りますね。
ですね。
レントゲンで腫瘍のように見えてしまいます。重要なTIPSですね。
1ヶ月前の画像を基準に当てはめて、IPF/UIP(特発性肺線維症/通常型間質性肺炎)を疑いましたが…急性増悪時の画像のみでは、広範囲の磨りガラス影が見られ、「IPF/UIPpattern」から「inconsistentwithIPF/UIPpattern」になるのでしょうか? だとすると、特発性間質性肺炎の評価は、状態が落ちついているときに行わなけれがいけないということですね。
すいません。表現がわかりずらいので、訂正します。
「IPF/UIPpattern」から「inconsistentwithIPF/UIPpattern」→「IPF/UIPpattern」ではなく「inconsistentwithIPF/UIPpattern」
アウトプットありがとうございます。
>特発性間質性肺炎の評価は、状態が落ちついているときに行わなけれがいけないということですね。
おっしゃるとおりです。肺炎や急性増悪で修飾されているときには、判定しません。
間質性肺炎の画像はほんとに苦手です.間質性肺炎であることはわかってもその分類がいつもぐちゃぐちゃになります.これを機に克服したいです.
アウトプットありがとうございます。
>間質性肺炎であることはわかってもその分類がいつもぐちゃぐちゃになります
これは我々でもそうですので、呼吸器専門や画像専門でない場合はここまでは分からなくてもよいかと思います。
正直私も克服できていません(;゚ロ゚)
細菌性肺炎の合併なのか、急性増悪なのかは、画像上での区別は難しいのでしょうか
救急外来でkL-6は測れないので、ヒントがあれば嬉しいです
アウトプットありがとうございます。
>細菌性肺炎の合併なのか、急性増悪なのかは、画像上での区別は難しいのでしょうか
鑑別は難しいこともありますが、
急性増悪は、今回のように発症前には比較的正常であった部位に、両側性(片側性のこともありますが)のすりガラス影>コンソリデーションが出現します。
この陰影は、びまん性に斑状もしくは末梢優位分布します。
(参考:画像診断 Vol.38 No.5 2018 P436)
すりガラス影で来ることが多いので、前回正常であった部位に広範なすりガラス影が起こっているかどうかが重要です。
一方で、細菌性肺炎の場合は通常、片側性であり、区域性(〜進行すれば非区域性)のコンソリデーションとして起こります。
細菌性肺炎の場合もそうですが、急性増悪の診断には特に過去画像との比較が重要となりますね。
症状から間質性肺炎の急性増悪としましたが、初回はGGOの出現が分かりませんでした。
隣合わせて比較すると、新たなGGOの部分が理解できました。
IPの画像増悪所見=心不全や鬱血で説明できないGGOなんですね。
アウトプットありがとうございます。
>隣合わせて比較すると、新たなGGOの部分が理解できました。
過去画像と並べられない環境なので恐縮ですが、比較が非常に重要となります。
>IPの画像増悪所見=心不全や鬱血で説明できないGGOなんですね。
大まかにはその理解で良いと考えます。
急性増悪は、急性肺障害が起こっていますので、同じすりガラス影でも機序が異なりますね。
CTは言わずもがなですが,レントゲン所見の読みの深さに完敗です.勉強になります.心外膜の脂肪→シルエットサイン陽性の浸潤影,上肺野の線状網状影,肝臓の裏側の網状影,奥が深いです!
アウトプットありがとうございます。
どこかの研究会でエラい先生が前で発表してこうおっしゃっていました。
「本当にエラい先生はレントゲンだけで分かる」
「僕はエラくないからCTを見た上でレントゲンを見て後付けでレントゲンが分かる」
と。
レントゲン講座ではありませんと、講座の申し込みページに何度も記載する私はもちろん・・・・(略)
いつも勉強させて頂いております
レントゲンの濃度を変えられているのに本当にびっくりしました
その技、自分でも使ってみたいです
アウトプットありがとうございます。
胸部に限らず頭部でも腹部でも濃度を変えると見やすくなるものがありますので、適切に変更してみてください。
毎日知識吸収させていただいております。
今回の主訴の血痰はどうしておこったのでしょうか。
牽引性気管支拡張からの気管支壁損傷ですか・・・・?
アウトプットありがとうございます。
>今回の主訴の血痰はどうしておこったのでしょうか。
どうしてなのでしょうね・・・。
左心不全でピンク色の痰が見られるのと同じように毛細血管が圧の上昇により破綻した結果なのかもしれません。
呼吸器の先生に聞いてみます。新しいことがわかれば追記しますね。
ありがとうございました。
通常型間質性肺炎、胸部TIPSでやりました。
間質性肺炎の病変の主座は、肺胞隔壁(狭義の間質)だと思うのですが、急性増悪で生じるすりガラス影も肺胞隔壁の障害と考えて良いのでしょうか。
すりガラス影=肺胞隔壁の肥厚だと思うので、そうなのかなと思いました。
放射線科で実習をしましたが、先生の前で虫垂を追えたことを褒められました。
“え、なんで追えるの?“と訊かれたので、”実は、虫垂ブートキャンプっていうのがあって、、(以下略)と宣伝しました笑”
アウトプットありがとうございます。
>間質性肺炎の病変の主座は、肺胞隔壁(狭義の間質)だと思うのですが、急性増悪で生じるすりガラス影も肺胞隔壁の障害と考えて良いのでしょうか。
急性増悪の病理像は、
・肺胞壁の浮腫性肥厚
・上皮のびらんと異型再生
・気腔内滲出物の間質への組み込みなど
(特発性間質性肺炎とその周辺疾患 P163)
と記載がありますので、肺胞隔壁の肥厚は確かにありますが、気腔内浸出物もありますので、肺胞内に液貯留することによるすりガラス影(〜コンソリデーション)もあるのだと思います。
>すりガラス影=肺胞隔壁の肥厚だと思う
すりガラス影の原因の一つに肺胞隔壁の肥厚がありますが、それだけではありません。
肺胞内に液体が溜まっている場合でもすりガラス影となります。
肺胞内に充満するとコンソリデーションとなりますが。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/34930
>放射線科で実習をしましたが、先生の前で虫垂を追えたことを褒められました。
それはよかったです(^^)
>”実は、虫垂ブートキャンプっていうのがあって、、(以下略)と宣伝しました笑”
あかいろなすび先生 「実は、虫垂同定ブートキャンプというのがあって・・・・」
放射線科医 「この子は何を言っているんだ?・・・・。もう最近の若い子にはついていけない・・・・」
という状態ですね(;゚ロ゚)
リンクありがとうございます(*^^*)
謎が解けましたm(_ _)m
経験浅い放射線技師です。
これまで10例すべて勉強させていただいてます。
今回のように細かいスリガラス影を見るときなどはthin sliceを作ろうと思いますが、今までの症例や別の症例でも、こういう陰影を見たり、こういう背景があったりしたらthin sliceを作ってほしい、というのがあればご教授お願いします。
(当院では通常7mmのみ、thin sliceで2mmないしは1mmのスライスで送っています。なんでもかんでもthin sliceを作るのは先生の診る画像も増えてしまうし、2流だと思っています。)
アウトプットありがとうございます。
>こういう背景があったりしたらthin sliceを作ってほしい、というのがあればご教授お願いします。
・COVID−19肺炎除外目的←今はこれが多いですね(^_^;)
・特にすりガラス陰影を有する肺結節←フォロー期間がなどが異なるためです。
参考:
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/8038
・間質性肺炎フォロー←これは依頼医にもよって変わると思いますが
くらいですかね。
あと肺動静脈瘻といった血管奇形がある場合や、肺の間裂を細かく見たいときなどではthin sliceがあった方がいいですね。
また思い出したら追記します。
>なんでもかんでもthin sliceを作るのは先生の診る画像も増えてしまう
これはおっしゃるとおりですね。
初めてのコメント失礼致します。いつも分かりやすい解説ありがとうございます。
上記のコメント内にあるすりガラス陰影に関するリンク先
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/34930
にある、均等影の意味がよく分からずに質問させていただきました。
対比がすりガラス陰影+網状影と、すりガラス陰影+均等影なので、何となくは分かるのですが、何か定義などはありますでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
コンソリデーション(consolidation)のことを、均等影とか融合影と呼ぶことがあります。
引用元が均等影という言葉を使っていたのでそのまま引用したのですが、コンソリデーション(consolidation)と考えていただいたらOKです。
調べた限り、牽引性気管支拡張は周囲肺実質の線維化による気管支拡張と理解しています。
画像所見における気管支拡張は同定できるのですが、牽引性としての画像の特徴を理解できておりません。
気管支拡張が牽引性であると読み解く方法を知りたいです。
日本語変で申し訳ありません‥
アウトプットありがとうございます。
>牽引性気管支拡張は周囲肺実質の線維化による気管支拡張と理解しています。
おっしゃるとおりです。
周囲に線維性変化があって、蛇行して拡張している場合に牽引性気管支拡張を疑います。
単に拡張する方向に引っ張られるだけでなく、縦&横の両方向への周囲の縮みを認めるのが特徴です。
UIP型の間質性肺炎のほか、ARDSで認めるのも有名ですね。
いつも勉強させていただいています。
1つ質問させていただきます。
「繊維化」=「小葉間隔壁の肥厚」というふうに捉えて良いものでしょうか。
どうぞよろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>「繊維化」=「小葉間隔壁の肥厚」というふうに捉えて良いものでしょうか。
ではありません。よりミクロな肺胞隔壁の障害により起こります。
と言っても難しいと思いますので、胸部TIPSで作成した動画の一部を切り取ってこちらに貼っておきます。
両側の広範なすりガラス影が加わったので、ウィルス肺炎あるいはニューモシスチス肺炎が起こったのかと思いました。
他の先生も細菌性肺炎との鑑別の質問をされていました。
前回正常あった部位に広範なすりガラス影が起こっているかどうかが重要のことですので、
またひとつ診断の手がかりを手に入れた思いです。
アウトプットありがとうございます。
>前回正常あった部位に広範なすりガラス影が起こっているかどうかが重要のことですので、
またひとつ診断の手がかりを手に入れた思いです。
そうですね。間質性肺炎がベースにある場合は、明らかなコンソリデーションがあれば別ですが、わずかなすりガラス影が加わっている可能性がありますので、特に前回画像との比較が重要となります。