【胸部】症例9
【症例】60歳代男性
【主訴】発熱・胸痛
【現病歴】2日前に発熱と右胸痛を主訴に近医受診。胸部レントゲン撮影され、肺炎疑いで抗生剤(ジェニナック処方)され、当院へCT検査依頼。異常陰影指摘されたために、当院呼吸器科紹介受診となる。
【既往歴】1ヶ月前より齲歯にて歯科治療中。胃潰瘍、十二指腸潰瘍。
【内服薬】2日前よりジェニナック
【生活歴】ペットなし、喫煙 40本/日(20-48歳)
【身体所見】意識清明、BT 36.3℃、BP 115/69mmHg、SpO2 98%(RA)
【データ】WBC 9500、CRP 10.62
画像はこちら
中葉および右下葉末梢に楔状の浸潤影を認めています。中葉の結節では内部に空洞を形成しています。
周囲にはCT halo signと呼ばれるすりガラス影を認めています。
また、その目で見ると、浸潤影(結節影)と連続する血管構造を認めていることがわかります。これはfeeding vessel signと呼ばれるもので、血管と結節が関連していることを示唆する所見です。
それ以外にも、左上葉や右肺底部にも同様の浸潤影をなす結節影を認めており、多発結節影を両側肺野末梢に認めているということができます。
このような陰影を認めた際に、考えなければならないのが、敗血症性肺塞栓症です。
つまり、血行性に細菌などが肺野に飛んできて病変を作っているということです。末梢に認めていますので一部病変が胸膜に及び胸膜炎を引き起こし、右胸痛という症状を生じていることが推測されます。
診断:敗血症性肺塞栓症疑い
※敗血症性肺塞栓症の他に、抗酸菌症、真菌症や肉芽腫性疾患を否定できないということで、精査がされましたが、
結核菌特異的IFN-γ 陰性
MAC抗体 陰性
アスペルギルス抗体 陰性
といずれも陰性でした。
※また、敗血症性肺塞栓症の原因としては、齲歯治療が考えられましたが、感染性心内膜炎除外目的で心エコー検査がなされましたが、特記すべき異常所見は認めませんでした。
※他院で抗生剤がすでに入っているためと思われますが、血液培養は提出されておらず、原因菌は同定できませんでした。
2ヶ月後のフォローのCTです。
陰影は消失〜瘢痕化していることがわかります。
左肺底部の結節は残っており、今回のエピソードとは関係ないと考えられます。
関連:
【胸部】症例9の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
胸膜直下の索状影で、周囲に磨りガラス影を認め、多発して、一部空洞を伴う、という特徴的な画像所見で、鑑別をしぼりこみました。「胸膜直下有意→特徴的な分布だな。索状影→炎症っぽい。周囲の磨りガラス影→炎症か出血っぽい。多発→ばらまかれた感がある。空洞→壊死を起こしやすい。」なんて考えながら所見を記載しました。
アウトプットありがとうございます。
>「胸膜直下有意→特徴的な分布だな。索状影→炎症っぽい。周囲の磨りガラス影→炎症か出血っぽい。多発→ばらまかれた感がある。空洞→壊死を起こしやすい。」
素晴らしい思考プロセスだと思います(^^)
コメントを頂いた後ですが…
「索状影」→「楔状影」と訂正しておきます。記載を誤りました。すいません。
(;゚ロ゚)確かにそうですね。
これといった特定ができず、散らばって、膿瘍できて、炎症起こすのなんだろうなとふわふわ考えていました。
敗血症性塞栓症という言葉は知りませんでしたが、要は血行性に菌が飛ぶということで、気道性ではなく血管性の分布というのも納得できました。
kenkenさんの思考プロセスもイメージしやすく大変勉強になりました。これもフィードバックシステムの魅力ですね。
アウトプットありがとうございます。
>要は血行性に菌が飛ぶということで、気道性ではなく血管性の分布というのも納得できました。
そうですね。ここがポイントですね。
>kenkenさんの思考プロセスもイメージしやすく大変勉強になりました。これもフィードバックシステムの魅力ですね。
共有することで得られることがたくさんありますね。
ランダムなパターンで血行性の転移はすぐに理解できました.
今までなんとなくだった読影が,少しづつ論理的に行えるようになってきますね.
アウトプットありがとうございます。
>今までなんとなくだった読影が,少しづつ論理的に行えるようになってきますね.
お!それはよかったです。何パターンなのかわかりにくい症例も多いですが、当てはまる分はきちんと分類していきましょう。
今日もありがとうございます。
この前の土日で症例1~8を改めてやり直しして復習したかいもあってか今回は診断に辿り着くことが出来ました。
右S4の楔状陰影と繋がる血管と併走する気管支と思われるものの末梢内部に内容物らしきものが見えるのですがこれは塞栓子でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>この前の土日で症例1~8を改めてやり直しして復習したかいもあってか今回は診断に辿り着くことが出来ました。
それはよかったです。
>右S4の楔状陰影と繋がる血管と併走する気管支と思われるものの末梢内部に内容物らしきものが見えるのですがこれは塞栓子でしょうか?
thin sliceで見ても確かにそう見えますね。粘液栓などを見ていると考えます。
血行性に散布されますので、塞栓子ではなさそうです。今は気管支内ですので。
画像所見を取って、「多発結節 空洞 画像」でググって、似た画像がないか探して、遠隔画像診断に正に今回の画像を見つけ出して正答しました。
前も書きましたが早くこれを自動でやってくれる画像診断補助アプリできないかな〜と思います。
アウトプットありがとうございます。
>画像所見を取って、「多発結節 空洞 画像」でググって、似た画像がないか探して、遠隔画像診断に正に今回の画像を見つけ出して正答しました。
orz…. でも、それ(検索してヒントを探すこと)も重要ですね!
造影なしで疑えて良かったです。
肺血栓塞栓症は急激なイメージなのですが、この症例のように数日前からというのもあるんですね。
アウトプットありがとうございます。
>肺血栓塞栓症は急激なイメージなのですが、この症例のように数日前からというのもあるんですね。
SMA塞栓や解離などとは違うので、この症例に限らずそれほど急激というわけでもないことも多いようですね。
毎日ありがとうございます。
楔状影と血管陰影との区別がはっきりつかないのですが、ポイントなどありませんでしょうか。
すいません、解決しました。
解決しましたか。
血管陰影は肺動脈や肺静脈と連続性を認めるものです。
これは、知っていないと厳しいですねorz
問題作って頑張って覚えます。
問1)敗血症性肺塞栓症とは?典型的な画像所見は?
敗血症に伴う菌塊が塞栓子となり、末梢肺動脈に塞栓をきたす疾患。
空洞形成(塞栓により血流が途絶し、無菌性壊死を生じるから。)、結節性病変に連続する血管(feeding vessel sign)、梗塞による胸膜下の楔形病変、CT halo sign
問2)CT halo signとは?原因3つ?
CT上において結節影や腫瘤影を全周性にすりガラス陰影が取り囲んでいる所見。
出血・腫瘍細胞浸潤(悪性リンパ腫)・炎症
問3)feeding vessel signとは?
結節影や腫瘤影に血管が連続している所見。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように知っていないと厳しいですが、割と典型的な画像なのでこの機会に覚えておきましょう。
>問1−3
完璧です!(^^)
こんばんは.いつもお世話になっております!
空洞性病変,結節性病変が散在しているということから,鑑別に多発血管炎製肉芽腫症や真菌症(クリプトコッカスやアスペルギルス(CPPA))などを挙ましたが,感染性塞栓を挙げることはできませんでした.
今回は数日という「急性」の経過で来院しているので,GPAや真菌症よりも感染性塞栓を第一に疑うべきでした.
経過を軽視すると足元を掬われる…と反省させられる症例でした!!
アウトプットありがとうございます。
>鑑別に多発血管炎製肉芽腫症や真菌症(クリプトコッカスやアスペルギルス(CPPA))などを挙ましたが,感染性塞栓を挙げることはできませんでした.
画像所見からGPAや真菌症は確かに鑑別に挙がりますね。
>今回は数日という「急性」の経過で来院しているので,GPAや真菌症よりも感染性塞栓を第一に疑うべきでした
そうですね。画像所見も経過も感染性塞栓として典型的ですね。
クリプトコッカス症は健診でたまたま肺結節で見つかることが多いですね。
いつも勉強させていただいてます。
転移性肺腫瘍も鑑別だと思われるのですが、septic emboli>転移性肺腫瘍らしいらしさ、はどのような所見から考えられますか?高齢男性の多発結節影であれば、消化管からの転移も否定したいところではあると思われます。
アウトプットありがとうございます。
>septic emboli>転移性肺腫瘍らしいらしさ、はどのような所見から考えられますか?
末梢のみに認めていること
胸膜に及ぶ楔状の陰影であること
空洞を有していること
といったところですね。
空洞を有する肺転移もありますので注意が必要ですが。
>高齢男性の多発結節影であれば、消化管からの転移も否定したいところではあると思われます。
おっしゃるとおりです。
病気の勢いも強そうなのに外来で治療できたのですね。
敗血症性肺塞栓症という名前から見て、当然入院治療と思いました。
ところでfeeding vessel signは初めて知りました。thin sliceでなくても結構見えますね。
いろんな所見を取れること、こういう病気があるという勉強の積み重ねですね。
アウトプットありがとうございます。
>病気の勢いも強そうなのに外来で治療できたのですね。
敗血症性肺塞栓症という名前から見て、当然入院治療と思いました。
確かにそうですね(^_^;)
>ところでfeeding vessel signは初めて知りました。thin sliceでなくても結構見えますね。
そうですね。連続している様子が分かります。
>いろんな所見を取れること、こういう病気があるという勉強の積み重ねですね。
所見だけで確定はできないのが胸部の難しいところですが、所見の組み合わせから優先順位を上げていくことで診断に近づけますね。
いつもありがとうございます
多発する結節で内部に空洞も有するものもあることから、クリプトコッカスは鑑別に上がると思いますが、他の真菌も鑑別にあがるのでしょうか。
空洞があれば、真菌全般が鑑別にあがるという方もおられますが、少し乱暴な気もします。しかし、空洞形成を伴った今回のような結節に対しては、特定の真菌を鑑別にあげるのではなくて、真菌全般を鑑別にあげざるをえないのでしょうか。
勉強不足で申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
クリプトコッカスは孤立性結節で認めたり、多発する場合は同一肺葉内に認めることが多いです。
空洞を有することもありますが、頻度は16-40%程度のようです。
こういった傾向から今回は積極的にクリプトコッカスを疑うものではないと考えます。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/7496
どこまで鑑別に挙げるかは難しいところですが、今回は呼吸器科にかかっておりルーチン的に上記の検査がなされたような気もします。
アスペルギルスは複数の病型があり、免疫状態や既存の肺の状態により、中でも優先度が変わってきます。
そのため空洞があればどれというわけでなく、エピソードや免疫状態などの考慮も鑑別を挙げる上で重要になります。
いつもお世話になっております
治療開始後ということもありqSOFAも1点以下で敗血症というワードが頭に上りませんでした。。。
アウトプットありがとうございます。
>qSOFA
恥ずかしながら知りませんでしたので調べてみました。
quick SOFA
・呼吸数≧22/分
・意識レベルの低下
・収縮期血圧≦100mmHg
臓器不全を呈していない患者のスクリーニングとしても適していない可能性が高いため、簡便な指標としてquick SOFA (qSOFA)を用いることが提案された。救急外来を受診した患者や一般病棟に入院している患者で、何らかの感染症が疑われたうえでqSOFAの3項目中2項目を満たすと、敗血症の可能性が高いと判断しようというものである。
引用:
https://www.bdj.co.jp/safety/articles/ignazzo/vol13/hkdqj200000uhuf3.html
なるほどです。
呼吸数については記載が今回ないのでということですね。
治療開始が既にされている影響もありそうですね。ありがとうございます。