【胸部】症例11
【症例】20歳代 男性
【主訴】湿性咳嗽
【現病歴】2ヶ月前より湿性咳嗽と鼻汁が出現し、近医にて投薬を受けるも改善不十分であったため、当院呼吸器内科紹介受診となる。その後外来でフォローされていたが、咳症状はやや軽快したものの、喀痰の減りはなかった。2週間前からは、仕事終了後、寒気症状が続いていた。
【既往歴】小児喘息(小学生のときのみ)
【内服薬】(当院処方)フルティフォーム125エアゾール、ジェニナック、テオロング、シングレア
【生活歴】妻、娘と3人暮らし、妻は専業主婦、本人は鉄板焼き屋の自営、喫煙なし、飲酒なし、粉塵曝露なし、住居:鉄筋 築20年、ペットなし、輸血歴なし、海外渡航歴なし
【身体所見】意識清明、胸部:S1→S2→S3-S4-、Wheezeは聴取せず、両側下肺野背側にFine crackleを聴取する。腹部、四肢に異常なし。
【データ】WBC 6600、CRP 0.42、βーDグルカン<2.24
画像はこちら
両側びまん性に境界不明瞭なすりガラス影を認めています。
非常に淡い陰影で、縁取るのも難しいほどです。
胸膜直下は基本的に保たれており、小葉中心性に分布していることがわかります。
右S8の一部に相対的な吸収値低下を認めており、air trappingによるモザイクパターンが疑われる所見です。
このような非常に淡い陰影で、先の尖った鉛筆で縁取ることが難しい粒状影をびまん性に認めている場合に考えなければならないのが、(亜急性)過敏性肺臓炎です。
診断:(亜急性)過敏性肺臓炎
※入院加療となりました。その後の病歴のさらなる聴取により、住居にて加湿器を使用しており、使用開始とともに咳嗽などの症状が悪化したという生活歴が判明しました。
〜以下退院サマリーより抜粋〜
入院後、気管支鏡検査施行。
- 胸部単純CTにて肺臓炎を疑うびまん性のすりガラス陰影を認める。
- 咳・息切れ・発熱・fine crackle
- BAL中リンパ球の増加
- 有機粉塵抗原に曝露される環境での生活歴
- 肉芽腫形成
以上の所見から過敏性肺臓炎を強く疑い、プレドニン5mg×6 開始。胸部X線所見、咳嗽などの臨床症状ともに改善を認めた。
住居にて加湿器を使用しており、使用開始とともに咳嗽などの症状が悪化したという生活歴があり、加湿器についてはしばらく利用を控えるように併せて指示した後、入院後14日後に退院となった。
プレドニンについては、外来にて経過観察後、漸減予定。
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【胸部】症例11の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
小葉中心性に広く分布していますが、なんとなくウイルス性などとは違ってポツポツ感が強い?ような印象を受けました。ただリンクを見ると、過敏性肺臓炎も時期や抗原の分布によりかなり多様な画像所見を示すようなので柔軟な思考が必要そうですね。
画像の割にCRPが低いのもウイルス性に似てますね。
アウトプットありがとうございます。
>なんとなくウイルス性などとは違ってポツポツ感が強い?
そうですね。ポツポツ感は強く、ウイルス性よりも細かくびまん性に見られるのが一般的ですね。
典型的な画像ですので、この画像でインプットしておいてください。
>過敏性肺臓炎も時期や抗原の分布によりかなり多様な画像所見を示すようなので柔軟な思考が必要そうですね。
ですね。亜急性期が頻度が高いので、まずは亜急性期を押さえておいてください。
確かによく見ると胸膜直下が保たれた小葉中心性陰影ですね。そういう細かいところまで確認しなければらならないと思いました。
>胸膜直下が保たれた小葉中心性陰影ですね。そういう細かいところまで確認しなければらならない
そうですね。粒状影や結節影を認めた場合はその分布がどこにあるのかを常に意識しましょう。
典型的な画像所見で判断に迷うことはありませんでしたが、鑑別をあげるなら今回の場合、薬剤性肺障害ですか?
アウトプットありがとうございます。
メールがおかしなところに届いていたようですいません。突然こうなることもあるんですね。
おっしゃるように薬剤性肺障害や、ウイルス性肺炎、典型的ではありませんが、カリニ肺炎や結核も鑑別に挙がるかと考えます。
air trappingですが、呼気撮影で見られやすいとありますが、胸部CTを呼気で撮影するのはどのようなケースでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>胸部CTを呼気で撮影するのはどのようなケースでしょうか?
胸部レントゲンの場合は、小児の異物誤飲や、気胸で有用とされます。
胸部CTの場合は、呼気によりair trappingがみられる疾患、すなわち気道が一部もしくは完全閉塞する疾患で見られ、
・亜急性期過敏性肺臓炎
・閉塞性細気管支炎
・気管支喘息
あたりが有名ですが、その他に、
・サルコイドーシス
・シェーグレン症候群
・気管支拡張症
・喫煙に伴う肺病変
で見られることがあり有用であると報告されています。
参考:画像診断 Vol.20 No.9 2000 P1030-1037
※air trappingとは?
→特に呼気時での肺野の過剰ガス貯留のこと
完全もしくは部分気道閉塞が起こると呼気時に吐けないので、呼気CTで周りの肺実質と比べて相対的に低吸収(ガスが残るので)になります。
見た瞬間「小葉中心性の淡く境界不明瞭な粒状影だ」って分かりました。それもごろ~隊長おすすめの勘ドコロ胸部をこの胸部救急画像診断をより学ぶ為に最近熟読したからです!素晴らしい勉強機会と素材をくださりありがとうございます!
余談ですが、読んだ時に気付いた誤植を問い合わせて著者に全て認められ本日出た正誤表がコレ↓です。隊長、褒めて褒めて(^^♪
https://www.medicalview.co.jp/corrigenda/ISBN978-4-7583-0896-0.pdf
アウトプットありがとうございます。
>余談ですが、読んだ時に気付いた誤植を問い合わせて著者に全て認められ本日出た正誤表がコレ↓
すごいですね!著者にとってはありがたいですね。
中学生のときに教科書の誤植を指摘したら、図書券がもらえるという都市伝説を聞いて、指摘したのですが、もらえませんでした(T_T)
まさに今日勉強したとこだったので、試験だったら山が大当たりといったとこでした(*^^*)
モザイクパターンの指摘し忘れは残念でした。。
ところで、過敏性肺炎と肺胞出血の所見て似ているときありませんか?過敏性肺炎と思ったら、肺胞出血だったときがありました。。
単に私のレベルが低いだけかもしれませんが
アウトプットありがとうございます。
>過敏性肺炎と肺胞出血の所見て似ているときありませんか?過敏性肺炎と思ったら、肺胞出血だったときがありました。。
肺胞出血はびまん性に来ることもありますが通常局所的にすりガラス影を認めることが多いですね。
また、小葉中心性陰影以外に小葉間隔壁の肥厚や、モザイクパターン、crazy paving patternを認めたり、陰影が過敏性肺臓炎のように均一じゃないことが多いですね。
小葉中心性分布とは?の関連サイトも読ませていただき 非常に腑に落ち勉強になりました。本症例では小葉中心性の淡い結節影がびまん性にみられますが、結節間が非常に目に飛びこんできて、敷石状にみえるのですが?この結節の間の部分は細葉の間と思うのですが、細葉の間には小葉間隔壁のような構造物があるのでしょうか?それとも結節が多数できたので間が隔壁様に抜けて見えているだけなのでしょうか?御教示いただければ幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>細葉の間には小葉間隔壁のような構造物があるのでしょうか?それとも結節が多数できたので間が隔壁様に抜けて見えているだけなのでしょうか?
細葉の間には隔壁構造はありません。
過敏性肺臓炎は今回のような小葉中心性の非常に淡い(もっさりした)すりガラス粒状影が特徴で、おっしゃるように隔壁様に見えているだけですね。
動画の5:15辺りで、画面では粒状影は1~3㎜大ですが、音声では㎝とおっしゃっていますね。細かくてすみません…
それと、これらの動画と参考書片手に勉強しているうちに、だいぶ肺区域が分かってきました!
ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
>画面では粒状影は1~3㎜大ですが、音声では㎝とおっしゃっていますね。細かくてすみません…
確かにcmといっていますね。
たまに音声誤植あります。申し訳ありません。
「次にthin sliceを見てみましょう」と言うべきところを「次にすりガラス影を見てみましょう」という訳の分からない誤植を何度かやっています。おそらく修正されていると思いますが。
>これらの動画と参考書片手に勉強しているうちに、だいぶ肺区域が分かってきました!
よかったです!
両側にびまん性に淡いすりガラス影、小葉中心性の分布、
air trapping によるモザイクパターン
という特徴ある画像所見を勉強しました。
ところどころにやや陰影の濃い粒状影も認めていますが、
これも過敏性肺臓炎に特徴的なものでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>両側にびまん性に淡いすりガラス影、小葉中心性の分布、air trapping によるモザイクパターン
今回のような両側びまん性に広がる小葉中心性の淡いすりガラス影をみたら、この疾患を思い出しましょう。
非常に特徴的といえます。
>ところどころにやや陰影の濃い粒状影も認めていますが、これも過敏性肺臓炎に特徴的なものでしょうか。
いえ、こちらは特徴的とは言えません。このような陰影がない場合もあります。