【胸部】症例5
【症例】60歳代女性
【主訴】呼吸困難
【現病歴】糖尿病にて近医通院中、20日前より右顔面の麻痺が出現した。末梢性顔面神経麻痺と診断されステロイド治療が開始された。3日前より感冒様症状があり、本日より呼吸困難が出現し、救急搬送となる。
【既往歴】虫垂炎、腰椎椎間板ヘルニア、アルコール性肝障害、糖尿病、脂質異常症、脂肪肝
【内服薬】プレドニゾロン 5mg
【身体所見】SpO2 88%(10Lリザーバー)、lung: clear
【データ】WBC 7500、CRP 16.11、LDH 927、
画像はこちら
両側上葉に広範なすりガラス影を認めています。
すりガラス影と本来の肺実質の低吸収が残されている部分がモザイク状に配列している部位があり、モザイクパターンと呼ばれる陰影です。
広範なすりガラス影は上葉だけでなく、びまん性に広がっていることがわかります。
その様子は冠状断像でより明瞭で、びまん性にモザイクパターンを呈するすりガラス影が広がっていることがわかります。
このようなびまん性に広がるモザイクパターンのすりガラス影を見たときにまず考えるべきは、
- ニューモシスチス肺炎
- ウイルス肺炎
です。
入院後検査:血液検査
- βーDグルカン 60.26 pg/ml (>11)
- 血液培養検査陰性
- サイトメガロウイルスC7HRP陰性
- HIV陰性
また、BAL検体でニューモシスチスDNA PCR陽性でした。
診断:ニューモシスチス肺炎
※今回は末梢性顔面神経麻痺に対して、ステロイド投与がされており、抗PCP薬剤の予防投与は行われていませんでした。
※入院後挿管されましたが、1ヶ月後独歩にて退院となっています。
関連:ニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎、PCP)のCT画像診断のポイント!
【胸部】症例5の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
過去に数例、隠れPCPを経験したことがあり、びまん性の汎小葉性の磨りガラス影を見た時は、必ずPCPの可能性を考えるようにしています。
>隠れPCPを経験したことがあり、びまん性の汎小葉性の磨りガラス影を見た時は、必ずPCPの可能性を考えるようにしています。
ですね。若い方でも鑑別に挙げて、あとでHIV陽性が判明することもあります。
病歴や画像も典型的でしたが,実際に症例をみる機会は少なく,勉強になりました.
crazy-paving patternは聞いたことがありますが,実際にこれがそうだというのはなかなか自信が持てません.
>crazy-paving pattern
この所見自体はいろんな疾患で見られますので、それほど重要ではありません。
すりガラス影が主体かどうかに着目しましょう。
昔呼吸器専門の放射線科医にカリニ肺炎はAIDSの人とかが多く地図状に炎症像が広がると教わったことを思い出しました。カリニ=ニューモスチスとつながっておらず今回あらためて勉強になりました。ありがとうございました
>カリニ=ニューモスチスとつながっておらず今回あらためて勉強になりました。
呼び名が変わったのだと思います。最近は、ニューモスチスと呼ぶようです。
びまん性にモザイクパターンを呈するすりガラス影・・・覚えました。
モザイクパターンのすりガラス影→ウイルス肺炎、カリニ肺炎をしっかり覚えておきたいと思います。
>モザイクパターンのすりガラス影→ウイルス肺炎、カリニ肺炎
そうですね。まずは、これを鑑別に挙げられるようにしましょう。
ニューモシスチス肺炎の所見を知らず、完全にウイルス性肺炎と思いました。WBCもあまり上がらないんですね。
ウイルスと真菌で治療が異なるため鑑別の意義は大きそうです。
モザイク状の広範なすりガラス影。覚えておきます。
>ウイルスと真菌で治療が異なるため鑑別の意義は大きそうです。
そうですね。画像だけではなかなか鑑別できませんので、両者を鑑別に挙げてβ-Dグルカンの測定などが必要になります。
今日もありがとうございます。
呼吸器の知識がなさすぎて毎回内容がとても濃く勉強になります。
両側の広範なびまん性すりガラス影やステロイド内服等を見たときに鑑別にあげられるようにしたいです。
>両側の広範なびまん性すりガラス影やステロイド内服等を見たときに鑑別にあげられるようにしたいです。
そうですね。通常の肺炎じゃないぞ!と気づけるようにしたいですね。
「3日前より感冒様症状」とは、すりガラス陰影なので、乾いた咳でたん絡みではないと考えてよろしいですか?
アウトプットありがとうございます。
だと思いますが、感冒様症状のこの方の具体的な症状はわかりません。
本日もありがとうございます。
急激な症状の悪化もあり、ARDSもありかなと思ったのですが、鑑別点はありますでしょうか?(ARDSは病態、ニューモシスチスは病名なので、一概に区別できるものではないかもしれませんが)
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように一概に区別はできませんが、
ARDSの場合はすりガラス影だけではなく、浸潤影を背側に伴うことが多いです。
またARDSとなる原因があるはずですね。
この症例もこの画像だけで、ニューモシスチス肺炎!!!と診断できるわけではもちろんなくてβーDグルカンが高値であったことからより疑わしいとなります。
ARDSの他、
・サイトメガロウイルス肺炎
・ウイルス性肺炎
・心原性肺水腫
・慢性間質性肺炎の急性増悪
・びまん性肺胞出血
・薬剤性肺炎
などが鑑別には挙がります。
貴重な症例ありがとうございます。
ステロイドによるPCPはPSL 10mg程度から発症し、5mgであればST合剤の予防内服をtaperする水準だと理解しておりましたが、この症例のような投与量でも本来は予防内服しなければいけないということになりますでしょうか。
http://www.kameda.com/pr/pulmonary_medicine/20mg1.html
アウトプットありがとうございます。
ステロイド量とST合剤の使用の有無については専門外のところでわかりません。
今回は5mgでST合剤を使っていなかったところPCPになったという事実は確かのようです。
全く答えになっておらず、申し訳ありません。
気管枝拡張があるようように見えてARDSかと思いました
アウトプットありがとうございます。
ARDSにおける牽引性気管支拡張は発症後1週以降に生じることが多いのと今回は牽引性気管支拡張というほどまでの数珠状の拡張はないですね。
びまん性に横の広がりがあるようにみえるのですが、浸潤影がなければ肺胞性肺炎ではないんでしょうか
アウトプットありがとうございます。
この疾患については、区域性、非区域性という分け方ではちょっと説明が難しい分布ですね。
区域性なのでしょうけど、
小葉中心性陰影、気管支壁の肥厚といった経気道感染を示唆する所見の頻度はすくない。
とされています。
>浸潤影がなければ肺胞性肺炎ではないんでしょうか
そういうわけではありませんが基本的に肺胞性肺炎の場合は浸潤影を呈するのが通常です。
肺胞性肺炎と非区域性肺炎は同義ではなく、この場合は非区域性に広がっているところはあるかもしれません。
非区域性にすりガラス影(や浸潤影)が広がることがあるのが、COVID-19肺炎ですね。
両側にびまん性スリガラス影を認め、免疫低下があると考え ウイルス性およびニューモシスチス肺炎を考えたのですが、解答のモザイクパターンですが、びまん性スリガラス影でモザイクじゃなく 中抜けがなく 埋まるような場合というのはどういう疾患を考えるべきでしょうか?ウイルス性やニューモシスチスがさらに悪化した場合や 肺水腫 ARDSでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>中抜けがなく 埋まるような場合というのはどういう疾患を考えるべきでしょうか?
・ウイルス性やニューモシスチスがさらに悪化
・肺水腫
・ARDS
・急性間質性肺炎
・びまん性肺胞出血
・薬剤性肺炎
などいろんな疾患が挙がりますね。
少し画像診断とずれてしまい申し訳ございません。
「β-Dグルカンが上昇するのはどんなとき?」のスライドで「感度が必ずしも高くなく、偽陽性がある」との記載がありますが
①感度が低い場合に多いのは偽陰性だと思いますのですがいかがでしょうか。
②β-Dグルカンが陰性のニューモシスチス肺炎や深在性真菌症を経験されたことはございますでしょうか。
以上2点お聞きできれば幸いです。①については間違えていれば申し訳ありません。
アウトプットありがとうございます。
>①感度が低い場合に多いのは偽陰性だと思いますのですがいかがでしょうか。
感度=疾患がある人のうち検査結果が陽性となった人の割合ですので、感度が低いと言うことは、カリニ肺炎にかかっているのに陽性とできない=偽陰性が多い、ですね。
おっしゃるとおりでした。
ただ感度が低いわけでなく、感度・特異度80%前後のようです。
<β-Dグルカンの偽陽性>
・透析でのセルロース膜使用者
・アルブミン製剤やグロブリン製剤使用者
・多発性骨髄腫
・アガリクスなどのキノコ類大量摂取
・ガーゼを使用した
・溶血
と記載があります。
http://www.e-kawaguchi-hp.jp/bumon/yakuzaibu/pdf/27_2.pdf
>②β-Dグルカンが陰性のニューモシスチス肺炎や深在性真菌症を経験されたことはございますでしょうか。
ニューモシスチス肺炎自体そんなに何十例も経験はないのですが、ちょっと調べてみます。
手持ちの症例ではいずれもβーDグルカン高値でした。
古い症例はカルテを取り寄せないといけないので今回はそれはしません。
プレドニゾロン 5mgと比較的低量でもPCPを発症するのが意外でした。
モザイクパターンという言葉は知らなかったので勉強になりました!
アウトプットありがとうございます。
>プレドニゾロン 5mgと比較的低量でもPCPを発症するのが意外
これは、他の先生も記載されているようにかなり特殊なケースなのかもしれませんね(^_^;)
勉強になる症例をありがとうございます。時勢柄、コロナからARDSかと当てずっぽうで考えました。投稿時間をみると、先生も皆様も、朝早くから切磋琢磨されてらっしゃったのですね。コメント欄をみるのも、醍醐味ですね。
アウトプットありがとうございます。
>時勢柄、コロナからARDSかと当てずっぽうで考えました。
びまん性に広がるモザイク状のすりガラス影の場合、PCPも鑑別に挙げましょう。
>コメント欄をみるのも、醍醐味ですね。
ありがとうございます。是非コメント欄も含めて楽しんでいただけたらと思います(^^)
こんにちは,本日もよろしくお願いたします.
ステロイドの投与もありますが,糖尿病で細胞性免疫が落ちていることもあったのでしょうね,
(糖尿病は①好中球機能障害,②細胞性免疫不全をきたし,③液性免疫不全は腎不全で免疫グロブリンがダダ漏れでない限り,あまり考えない)
(ステロイドはPSL20m相当を3〜4週間以上内服するとPneumocystis jiroveciiのリスクが上がる)
どのような免疫が落ちているのか考えることによって,起因菌,ウイルスの想定がしやすくなると思いました.
ニューモシスチス肺炎はHIVとnon-HIVで臨床経過も大きく異なり,また画像所見も違うということも学習しました!
今回の症例はnon-HIVだったのでこのように急性の経過だったのですね!
※今日調べたこと
・HIVの場合は宿主の免疫反応が弱く、P.jiroveciiが大量に増殖し発病→免疫反応が弱いため、比較的ゆっくりと亜急性の経過で症状が進行するのが特徴。
・nonAIDS-PCPでは過剰な免疫反応が主体で、菌量が1/10程度でも、炎症は強く肺障害は急速に強く進行し、予後は極めて不良。
・胸部X線ではHIVだと典型的なすりガラス状陰影groud-glass opacity(GGO)を形成するが,一方でnon-HIVはGGOを伴うコンソリデーションを認める.
・胸部CTではHIVでは広範なGGOのみで,non-HIVでは広範なGGOは半数にとどまり,残り半数はコンソリデーションを伴うGGOである.
【参考】
1. Tasaka S, Tokuda H, Sakai F, et al. Comparison of clinical and radiological features of pneumocystis pneumonia between malignancy cases and acquired immunodeficiency syndrome cases: A multicenter study. Intern Med. 2010;49(4):273-281. doi:10.2169/internalmedicine.49.2871
2. 『免疫不全者の呼吸器感染症』
壮大なアウトプットありがとうございます。
>ステロイドの投与もありますが,糖尿病で細胞性免疫が落ちていることもあったのでしょうね,
確かに糖尿病もありましたね。なるほどです。
>ニューモシスチス肺炎はHIVとnon-HIVで臨床経過も大きく異なり,また画像所見も違うということも学習しました!
そうですね。HIVの場合は経過も違いますし、嚢胞を上葉に伴うことが多いですね。
>※今日調べたこと
ありがとうございます。私も勉強になります(^^)
薬剤性肺炎や過敏性肺臓炎も同様の全体に広がるびまん性すりガラス陰影をきたすと思うのですが画像上の鑑別のポイントはありますか?
アウトプットありがとうございます。
過敏性肺臓炎(中でも頻度の多い亜急性期)の場合は、小葉中心性とはこういうものだという小葉中心のふんわりした陰影を示します。
薬剤性はさまざまな陰影のパターンを示しますので、常に鑑別に挙がりますね。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/6321
とても基本的なことで恐縮なのですが・・・気管支が肥厚している、というのは普段ならば見えない気管支壁が見えるという理解でいいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
中枢側の気管支壁は通常より厚くなります。
細気管支領域は正常では気管支が見えず、炎症があって初めて顕在化します。
喘息の症例がわかりやすいかもしれません。
音声はない動画ですが、参考にしてください。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/18547
モザイクパターンを伴うすりガラス影でありPcPも鑑別には上がったのですが、胸膜直下がspareされておらず、気管支牽引を伴っていると考えDADを第1鑑別にあげてしまいました
治療法が正反対であり非常に悔しく、実臨床で出会ったときに適切に鑑別に挙げれるように復習しようと思います
アウトプットありがとうございます。
>胸膜直下がspareされておらず
今回かなり陰影が広範ですが、胸膜直下は保たれているように見えます。
また難しいですが牽引性気管支拡張は認めていないように見えます。
免疫が低下している患者さんで、びまん性すりガラス影を呈するものとしてニューモシスチス肺炎とサイトメガロウィルス肺炎がありますが、画像上、どのような違いがありますか。
アウトプットありがとうございます。
ニューモシスチス肺炎は上肺優位、
サイトメガロウィルス肺炎は下肺優位
という違いのほか、サイトメガロウィルス肺炎の方が結節影、粒状影として認める傾向にあるという違いがあります。
一方でニューモシスチス肺炎の場合はそのような陰影は認めず通常すりガラス影のみです。
お世話になっております。
PCPでモザイクパターンを呈することがあるのはよく聞くのですが、その機序やどのような病態を反映してこのような画像パターンになるかは分かっているのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
機序が分かれば理解しやすいと思いますが、Tbのtree in bud appearanceのように機序はわかりません。
少し調べてみましたが記載はありません。
COVID-19肺炎においても同様です。
お疲れ様です。
最近個人的にIP急性増悪→治療中にPCPを経験したのですが
画像的に鑑別のポイントはあるのでしょうか?
ベースにIPの急性増悪像があり、それにPCPが被って難しく思うのですが。。。
(もちろん、採血などで鑑別はできるとは思います)
アウトプットありがとうございます。
>ベースにIPの急性増悪像があり、それにPCPが被って難しく思うのですが。。。
難しいと思われますが、急性増悪像が局所的ならば、両側上肺のモザイクパターンなどをとらえることができるかもしれません。
3週間のPSLでPCPを発症するとは意外でした。(VZVのウイルス性肺炎と書いてしまいました・・・)前の方が書かれているように3〜4週間でリスクが上がるので早めにST合剤は開始しないといけないですね。
アウトプットありがとうございます。
>3週間のPSLでPCPを発症するとは意外でした。
私も最初同じく意外でした。
内科専攻医2年目です。先生の講義、並びに皆様のコメントでたくさん勉強させていただいております!
non-HIV PCPは致死率が高く、ステロイド内服中に今回のような画像を見るとヒヤヒヤしますね。免疫抑制患者のすりガラス影はPCPやウイルス性肺炎を鑑別にあげること、改めて勉強させていただきました。
さて、今回とは関係ないかもしれませんが、左S1+2にある小結節陰影はリンパ節をみているのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>左S1+2にある小結節陰影はリンパ節をみているのでしょうか?
17/118あたりに小結節がありますが、非特異的ですね。肺内リンパ節の可能性はありますが、場所がやや非典型的ですね。
特にフォローする必要もないサイズではあります。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/37935